猫を抱いて象と泳ぐ の商品レビュー
あたたかくて心地よい。マスターとのバスのシーンは自分も入りたくなっちゃう。逆に、死とか何かを失うシーンが定期的に訪れるのも印象的。ただただ素直に、好きとか大切とか思えるものって素敵 大きくなること、それは悲劇である 今は大きくなっているのかなあ
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刷新されたカバーの文言に惹かれて購入したが、読了後に納得。 これはある青年の次への一歩を後押ししてもおかしくないな本だ。 それくらい読者の中に「何か」を残す本だと思う。 設定は少々奇天烈で、始めの方はその奇想天外ぶりに少々戸惑う。 違和感を覚える見た目に加え、内向的な少年は子...
刷新されたカバーの文言に惹かれて購入したが、読了後に納得。 これはある青年の次への一歩を後押ししてもおかしくないな本だ。 それくらい読者の中に「何か」を残す本だと思う。 設定は少々奇天烈で、始めの方はその奇想天外ぶりに少々戸惑う。 違和感を覚える見た目に加え、内向的な少年は子供たちの社会の中で孤立していた。 しかし、彼がある事件の後に訪れた廃バスの中で人生を捧げることになるものに出会う。 それが「チェス」だった。 その後、彼は廃バスの住人である「マスター」の元でチェスの修行を積み、やがてもっと広大なチェスの世界に漕ぎ出すことになる。 物語は終始淡々と進み、いわゆる大事件は起きない。 多分映画にしてもほとんど見栄えのしないものになってしまうだろう。 しかし読み進めると、彼の経験する世界から目が離せない。 最後の最後は涙があふれてきて、彼の生き様が問うたことに思いを馳せることになった。 個人的には、慎ましい事は美しい事である。 という、現在ではあまり振り向かれる事の少なった美学を思い出せてもらえた。 こんな作品を世界に残せるなら人生の意義があるだろうなと思わせるほどの本だった。
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降り積もった言葉が堆積して、あたたかく柔らかく光る琥珀となる、そんな作品。 読む側も息を潜めてしまう。それでいて浮遊感もある。 読んでいるうちになんだか溺れそうだ。 どこの国の物語か、年代はいつ頃なのか、そんな具体性はゼロのまま。そのため夢の中にいるような、おとぎ話を聞かされ...
降り積もった言葉が堆積して、あたたかく柔らかく光る琥珀となる、そんな作品。 読む側も息を潜めてしまう。それでいて浮遊感もある。 読んでいるうちになんだか溺れそうだ。 どこの国の物語か、年代はいつ頃なのか、そんな具体性はゼロのまま。そのため夢の中にいるような、おとぎ話を聞かされているような感じになる。 またそれとは矛盾するかのような閉塞感が一方にはある。囲われた世界がそこかしこに散りばめられている。物語全体がチェスボードなのかもしれない。 人形を操ってチェスを指させ、チェス盤下に身体を縮こまらせて入り、駒を采配する天才棋士リトル・アリョーヒン。 大きくなることを怖がったアリョーヒンは、11歳のまま成長が止まり、生まれつき閉じられていた唇にはうぶ毛が生えている。手術で無理矢理開けられて、足の脛の肉が移植されたからだ。 チェスを教えてくれたマスターは、250kgの巨漢で脂肪の塊。かれの遺体はその大きさゆえに住処としていた廃バスから出られず、ショベルカーで吊り上げられたほどだ。 なんという奇っ怪。ふたりの奇形は、サーカスを彷彿とさせる物悲しさと滑稽さを演出し、物語の通低音となっている。歪さを超越する人とのつながり、それがこのお話の美しさだ。 デパートの上から降りることが出来なくなったほどに大きくなった象のインディラとか、壁に挟まれて死んでミイラとなった女の子とか、不遇のまま亡くなったものを友とするアリョーヒン。かれは忘れ去られてしまったものへの優しさや愛を持ち合わせているからこそ、孤独であることを選ぶ。かれにとってはチェスも、相手を負かすための戦いではなく、相手を知るための会話のようであった。 亡くなった母をはじめ不在ではあるが愛情を注ぐ対象がたくさんあったり、育ての親の祖父母をいたわったり、アリョーヒンは出会う人のほとんどに惜しみなく愛を向けることができる。人物のあたたかさに読み手は十分に心地よくなり、降ってきた突然死に傷ついてしまう。物語はレクイエムの様相を呈して幕を閉じる。 幸福というのは、短い生に愛をどれだけ注げられるかによるのではないだろうか、そんなようなことを考えた読書だった。
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1人の人生を過ごしたような清々しさをとてつもなく感じました。 読んでよかった。また、私にとっては読書が好きになるリハビリになりました。
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しん、としている。 最初から最後まで、物語は静かで、空気が冷たく澄んでいる。 当然、事件は起こるし、悲劇もある。けれど、物語はそれをすべて包み込む。 結末が気になって仕方ない、展開にドキドキする、ということはないが、読んでいてなんとなく心地が良い。そんなお話でした。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
リトルアリョーヒンが奏でる棋譜きふは、対戦相手を包み込むような優しく温かみのあるものだったことが伝わってきた。地下での人間チェスでミイラとリトルアリョーヒンに起こった悲劇がリアルだった。終盤で2人がする手紙チェスが美しい。
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文章が美しい 静かで穏やかで心の中にすっと沁み込んでくる 内容は想像していたものと違ったけど豊かな表現のおかげでスイスイ読めた 老いることへの恐怖と寡黙でいることの美しさを学んだ 最後は衝撃だった リトルアリョーヒンとミイラの手紙、泣ける ひと単語書くのに何日も費やすって愛だなあ
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この作者のことを好きだなあって思った。お話には感動させよう心温めようとする作為的ないやらしさってものが無い。主人公が行く先々でいい人と会って、その人と交流するっていうそれだけの物語なんだけれども、人々の善性というか、正の側面を素直に描いていて、読んでいても負の感情を抱かずに自然と...
この作者のことを好きだなあって思った。お話には感動させよう心温めようとする作為的ないやらしさってものが無い。主人公が行く先々でいい人と会って、その人と交流するっていうそれだけの物語なんだけれども、人々の善性というか、正の側面を素直に描いていて、読んでいても負の感情を抱かずに自然と内側からポジティブになれる気持ちのよい小説で、こういう話を書ける人はきっといい人だろうなあと感じさせる。 語はタイトルから想像していなかったのだけれども、チェスを題材にした物語。タイトルの”象”っていうのはビショップのことである。主人公は猫のポーンを胸に抱きながらチェス盤の下に潜り、音と盤上の駒のイメージを基にチェスを指す。その腕が認められて、カラクリチェス人形のゴーストプレイヤーになった主人公は、チェス倶楽部や老人ホームでチェスを打つようになる……。というお話。 チェスが題材と言っても、主人公がライバルと切磋琢磨して大会優勝を目指す!!とかそういった形式の話ではなくて、チェスは人間模様を切り取るための触媒である。あくまで主人公とその周りの人たちのお話なんだけれど、そこにチェスが要素として混じるだけで、お話が独特な形に膨らんでいって読んでいるこちらを引き込んでくる。 チェスのような,ある人にとっては他愛の無いものが、他の人にとってはその人の個性を引き立てる特別なものになりうるという発見をさせてくれた。とても良い発見だった.
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チェスをやったことがあればもっと面白く読めたかもしれない。それでも多彩な表現のおかげで、持ったこともないチェスの駒を手に握っているような感覚になった。 人それぞれの自由と人それぞれの居場所があるということを感じさせてくれた。自分自身の人生をどう捉えるかはその人次第で、世間体と...
チェスをやったことがあればもっと面白く読めたかもしれない。それでも多彩な表現のおかげで、持ったこともないチェスの駒を手に握っているような感覚になった。 人それぞれの自由と人それぞれの居場所があるということを感じさせてくれた。自分自身の人生をどう捉えるかはその人次第で、世間体とかではなく人は皆自分の価値観の中で優雅に閉じこもっていられる。決して悪い意味ではなく。言葉にするのが難しいが、とにかく良い刺激を受けたと思う。 地名や人名などが詳しく示されないので、舞台が日本なのか外国なのかは分からず、想像できる情景は明らかに現実世界の話でありながら時折不思議な空間に連れていかれる物語だった。読んでいてすごく愉快だったと思う。 読み終わった後にチェスをやってみたくなったが、手に残る感覚を消してしまいそうで怖い。こんな気持ちになるのは間違いなくこの物語を読んだ証拠だろうと思う。
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静謐で少し残酷で温かい。チェスのことがまったく分からなくても大丈夫です。 奇妙で綺麗な世界観、やっぱり唯一無二だなと思う。
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