猫を抱いて象と泳ぐ の商品レビュー
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小川さんの作品には、いつも「静謐」さを感じます。 今回もとてもしっとりした、そして味わいのある「静謐」でした。 ・・・ 話は、唇の上下が繋がって出生した少年の数奇な人生についてです。 出生の事実に呼応するかのように寡黙な少年はふとしたことからチェスにのめり込み、やがて裏チェスクラブで「リトル・アリョーヒン」として働くことになります。 ・・・ で、何が良いかというとやはり小川さんの筆致が素敵です。 チェスにのめり込む「リトル・アリョーヒン」。デパートの屋上から降りられなくなった「インディラ」に思いを致し、自室の壁の隙間に入り込んだ「ミイラ」と会話をして、落ち着いたところで眠りに落ちる。 素人の私がさらっと書くと実につかみどころのない表現になりますが、ちょっと変わった少年を優しく、静かに、幻想的に描くのです。 ・・・ また、それ以外の周囲のキャラクターもいいですね。 寡黙な家具職人のおじいさん、無条件の愛で少年を包むおばあさん、廃バスで少年にチェスをじっくり教えるマスター、長じておじいさんとともに家具職人となる弟、闇チェスクラブのパトロンの老婆令嬢、現実の世界に現れた少年のヒロイン的な「ミイラ」、養老院で年中白衣で仕事をする総婦長。 全員が全員、ちょっと優しすぎる気もしますが、セリフ繰りがどれも巧みで、また愛のある格言のようなセリフが随所に潜みます。 まあチェックするわりにはそのまんまですが笑 ・・・ ということで、久々の小川作品でした。相変わらず素晴らしい。 この静かで愛すべき作品、どう表現すればよいのでしょうか。雪のふる寒くて静かな日、外を眺めながら、ホッと一息お茶を飲むかのような気持ち?余計分かりませんね笑 暖かく、優しい、そしてちょっぴり悲しい作品でした。
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この本は、前からタイトルが気になっていたのですが、やっと読むことが出来ました! めちゃくちゃ良かったです。 チェスの名人リトル・アリョーヒンの生涯を描いたものです。 チェスを知らない私が読んでも、盤上の美しさが想像出来るような詩的な表現で駒の動きを描いており、とても良かっ...
この本は、前からタイトルが気になっていたのですが、やっと読むことが出来ました! めちゃくちゃ良かったです。 チェスの名人リトル・アリョーヒンの生涯を描いたものです。 チェスを知らない私が読んでも、盤上の美しさが想像出来るような詩的な表現で駒の動きを描いており、とても良かったです! 読んで良かった一冊でした!
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静かで優しい物語。 リトルアヒョーリンが主人公で、はじめ読み進めた時、なんとなく外国の本?と思ってつい作者の名前を見返してしまった、 チェスは分からず、正直描写のイメージが湧かない不足な私だったけど、この、社会の中で目立たずひっそりと生きている人たち 大きくなってしまって一生を屋上で過ごしたゾウ、大きくなってしまって廃車のバスから出られなくなってしまったマスター、そのマスターと少年が愛したポーンの猫、消えそうな透明無垢なミイラと肩に乗る鳩、 こんなキャラクターが存在している書籍に、価値があると思った。 ラストは悲しかったし衝撃だったが、きっとこれからも少年を取り囲んだ人たちがいつまでも彼を想い、一緒に生きていくんだろう。
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相変わらず小川洋子さんの文章が美しい。 ちょっとした仕草や情景も、言葉のチョイスでキラキラした美しさを現してくれる。 少年とチェスについてのお話。 彼の人生は複雑で、一生懸命もがいている。 夢中になれる世界を知れてどっぷり潜り込んで、居場所を変えてもなお駒を指し続ける彼の貪欲...
相変わらず小川洋子さんの文章が美しい。 ちょっとした仕草や情景も、言葉のチョイスでキラキラした美しさを現してくれる。 少年とチェスについてのお話。 彼の人生は複雑で、一生懸命もがいている。 夢中になれる世界を知れてどっぷり潜り込んで、居場所を変えてもなお駒を指し続ける彼の貪欲さ。 最初から最後まで静かに厳かに悲劇も交え成長していく彼に寄り添いながら読み進められた。 チェスのプレイの仕方でもこんなに個性のある物語になるんだなって、小川洋子さんの唯一無二な文章力に感服。
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映像的な書き口なんだけど、 言葉を深く理解していて、その効果を計算できるところは小川洋子の作品だな、と思う。 そういった意味でこれはすごく詩的だった。 最後のゴンドラのシーン。 リトルアリョーヒンと総婦長とミイラ。 キングとクイーンとポールに重なって美しく残酷な終わり。
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安定の小川洋子さん。読み終わったあとでも、印象に残ったシーンが絵画のように残る感じがすごく好き! 物語全体は切ない、重い雰囲気だが不思議と嫌な気持ちにはならずに最後まで読める。
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リトル・アリョーヒンと呼ばれる小さな男の子が、バスに住む運転手にチェスを教えてもらい、人生をチェスで過ごしていくお話。 出会いと別れがあり、場所に思い出があり、出生時の出来事がある。 彼の周りで起こる出来事はどこか悲しさの多いことばかり。 彼は人生を、リトル・アリョーヒンと名付け...
リトル・アリョーヒンと呼ばれる小さな男の子が、バスに住む運転手にチェスを教えてもらい、人生をチェスで過ごしていくお話。 出会いと別れがあり、場所に思い出があり、出生時の出来事がある。 彼の周りで起こる出来事はどこか悲しさの多いことばかり。 彼は人生を、リトル・アリョーヒンと名付けられた人形の中で、チェスを指して生きた。
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すごく引き込まれる魅力的な作品だった。文章は淡々としてるのに頭の中で情景が浮かんできて、気づいたらこの世界観にどっぷり浸かってた(私の語彙力ではこの作品の良さをうまく表現できない泣)リトルアリョーヒンの人生、きっと幸せだったと思いたい...
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久しぶりに心に染み渡る小説 チェスの世界の深くて広い海に浸る心地よい余韻を大切にしたいと思える物語だった 年の瀬に読めて良かった
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とてもとても好きな書。 主人公の生まれながらの事情、家族との関係、屋上から大きくなりすぎて降りられなくなった象のインディラ、壁の間の女の子ミイラ…と静かに紡ぐ序章をへて、マスターとの出会いがある。マスターと主人公の関係、その後のチェスの世界で出会う少女や老婦人との関係、また老人マンションでの人々との関係は、独特でありながら、忘れ難い名シーンが散りばめられた珠玉の名作映画のよう。 チェスが全くわからなくても、途中の駒の運びの意味がわからなくても、大切な盤で詩を奏で、盤下にいながら宇宙を泳ぐスケールに身を置いたような気持ちになる。また次々とチェスをさしていく場面では”星雲”をみる。 私が1番好きな場面は、老婦人と工房で祖父母に見守られながらチェスをするところ。そして施設で再会してチェスをするところ。 老人マンションの章は、認知症病棟や老健施設などを回想しながら、ここは天国のような場所に思え、1人1人にとってチェスに変わる人生の大切なことを結集したこんな場所があればいいのにと思った。 これほど静かで美しい、独特でありながら波風がまるでないように思わせる物語の結末が、これかと、これ以上ない、参りましたという大波風。それでも美しい。 誰にでも、勧めたくなる一冊。
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