猫を抱いて象と泳ぐ の商品レビュー
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棋譜を詩に例える場面の文体が美しかった。心洗われるような透き通る心地がした。読み終わったあと、おもわず目を瞑って余韻に浸ってしまった。 マスターとのチェスの部分が1番好きだった。回送バスの窓からさす柔らかな日差しに照らされる小さなほこり、お菓子の甘い香り、チェステーブルに座るマスター、そのテーブルの下でポーンを抱き蹲る少年。それらが鮮明に脳裏に浮かんでくる。 「大きくなること、それは悲劇である」 少年の知る「大きくなること」はいつも少年にとって受け入れ難い悲劇をもたらしてきた。インディラしかり、マスターしかり。 リトル・アリョーヒンが最大限を発揮するチェスの盤下の世界を小さくなって見てみたい。
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博士の愛した数式でおなじみの小川さんの著作。物語の美しさだったり、現実とはちょっとかけ離れた感じが代表作と似た匂いを感じた。評価を星5にするのは迷ったが、とても面白かった、というか良い物語だった。チェスをしたいな。 祖父母と弟と暮らした男の子が太ったマスターからチェスを教わり、海底チェス倶楽部で人形の中に入ってチェスをし、チェス会員たちの老人ホームでチェスをする。 大きくなって屋上から降りれなくなったインディラ、太りすぎてバスから出られなくなったマスター、家と家の間に挟まってしまったミイラなどが出てくる。 切ないような美しいような、そんな文章で引き込まれる。 小川さんの別の話も読みたくなりました。
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そのまま身を委ねたくなるほど綺麗な文章だったなあ、というのが最初の感想。 一人ひとりがなせることはわずかでもそれが折り重なることで永遠に残るのかもしれないなとふと思った。離れていても二度と会えなくてもきっとみんなどこかで生き続けていてほしいな〜 チェスのルールさえ知らないのですが...
そのまま身を委ねたくなるほど綺麗な文章だったなあ、というのが最初の感想。 一人ひとりがなせることはわずかでもそれが折り重なることで永遠に残るのかもしれないなとふと思った。離れていても二度と会えなくてもきっとみんなどこかで生き続けていてほしいな〜 チェスのルールさえ知らないのですが、学びたい欲がもっと増した、、
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静かで優しくて、少し不思議で切なくて。 ラストシーンでさえも悲しくて温かで、良いお話でした。 リトル・アリョーヒンが盤下でじっと動かないでいる時 家族はじっと、ただただ待っていた。 子供が立ち止まってしまった時 私は不安で待てなかった。。。。 信じて待てることは強さなんですね。 チェスをもっと知っていたら さぞかし味わいが深まっただろうと思いましたが 流れるような文章の優雅さに チェスの素晴らしさも感じられたような気がします。
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小川洋子さんの物語は、読み手の心にしんしんと静かに降り積もる雪のよう‥。静謐で哀切を帯びた見事な筆致は、崇高さも同居し読み手を惹きつけ離しません。心に染みる上質の作品で、本書もまさしく傑作だと思いました。 本書は、チェスに魅せられた一人の内向的な少年の人生を描いた物語です。...
小川洋子さんの物語は、読み手の心にしんしんと静かに降り積もる雪のよう‥。静謐で哀切を帯びた見事な筆致は、崇高さも同居し読み手を惹きつけ離しません。心に染みる上質の作品で、本書もまさしく傑作だと思いました。 本書は、チェスに魅せられた一人の内向的な少年の人生を描いた物語です。閉じた世界は幻想的で、言葉一語一語が美しく滋味溢れ、ゆっくりと時間をかけて読み味わいたいと感じさせます。 少年の才能を見出し、チェスの世界に導いたマスター。その教えが、少年にとって生涯を通して警句となり灯台となり支柱となるのでした。 大切な人との出会いと別れ、才能が開花しても決して表舞台には現れない運命、けれども純粋に勝負や名声を超越した、チェスの宇宙を自由に旅する喜びを知った少年‥。時に残酷で切なく、慎ましく優しい少年の物語は、まるで詩か芸術のようです。 チェスの盤上で紡がれる世界の広大さや奥深さは、そのまま言葉の世界を探索する小川洋子さんと重なり、その著者の世界観に圧倒されました。 チェスが解らなくても十分楽しめますし、三人称で描く物語は、説明過多にならず静かに語りかけてくる感触です。 小川洋子さん作品は、『博士の愛した数式』以来2冊目の読了でしたが、いずれも素晴らしかったです。個人的には「タイトルの秀逸さも含めて本書を〝推し〟たい」と思える、充実した読書の時間がもてました。また新たな素晴らしい本との出会いに感謝したいと思います。
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大きくなる事でデパートの屋上から降りられなくなった象、壁に挟まって出られなくなったミイラ。 自ら進んでチェス盤の下に収まる主人公。 他者からは不自由で可哀想にしか見えない無口な彼らだが、静かで謙虚な立ち振る舞いの中に潜む雄弁で荘厳な価値観に心が震える。 チェスを通じて相手の深い...
大きくなる事でデパートの屋上から降りられなくなった象、壁に挟まって出られなくなったミイラ。 自ら進んでチェス盤の下に収まる主人公。 他者からは不自由で可哀想にしか見えない無口な彼らだが、静かで謙虚な立ち振る舞いの中に潜む雄弁で荘厳な価値観に心が震える。 チェスを通じて相手の深い人間性を掘り下げ、受容し、敬意を払う姿勢が美しい。
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作品に色んなキーワードや重要な要素が散りばめられているけど、それらが全て有機的につながっていて作者の緻密さや構想の綿密さに驚きます。 短編集『約束された移動』では、みんな移動する人が描かれていたけどこちらはその真逆。成長しすぎて屋上から降りられなくなった象のインディラ、肥満により...
作品に色んなキーワードや重要な要素が散りばめられているけど、それらが全て有機的につながっていて作者の緻密さや構想の綿密さに驚きます。 短編集『約束された移動』では、みんな移動する人が描かれていたけどこちらはその真逆。成長しすぎて屋上から降りられなくなった象のインディラ、肥満により廃バスから降りられなくなったマスター、壁と壁の間に入り込んで抜けられなくなった少女の亡霊ミイラ。みんな移動しない・動かないことが共通しています。 これらの出来事は、リトル・アリョーヒンに「大きくなること/成長すること」に対する絶対的恐怖を植え付けました。その一方で、インディラもマスターもミイラも、リトル・アリョーヒンを見守り助けてくれる存在でもあります。彼らは随所随所で、リトル・アリョーヒンの前に警告としてまたは守護霊として繰り返し登場します。 それゆえ、リトル・アリョーヒンの祖母が老衰によって体が浮腫んで大きくなっていき、それに対してリトル・アリョーヒンが恐怖を感じるという描写には感銘を受けました。祖母が息を引き取ると、浮腫が取れて体が小さくなっていき、この出来事はリトル・アリョーヒンの大きくなりたくないという思いをさらに強くします。 チェスに馴染みがないので楽しめるか不安だったのですが、全く問題ありませんでした。 小川洋子らしい静かで美しい世界観の作品でした。
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小川洋子さんの小説を初めて読みました。 読み始めたときから、読んでいるときも、読み終わったあとも、常にふわふわと宙に浮かんでいるような不思議な感覚でした。 哀しい予感が次々と現実になっていくのは正直辛かったですが、主人公を愛する人たちの温かさに救われました。 万人に受け入れられる...
小川洋子さんの小説を初めて読みました。 読み始めたときから、読んでいるときも、読み終わったあとも、常にふわふわと宙に浮かんでいるような不思議な感覚でした。 哀しい予感が次々と現実になっていくのは正直辛かったですが、主人公を愛する人たちの温かさに救われました。 万人に受け入れられる物語ではないかもしれませんが、最後まで引き寄せられるように読みました。
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博士の愛した数式は映画で見たことしかありませんでした。著者の作品を読むのはこれが初めてです。 博士の愛した数式は理系から見たらツッコミどころ満載だったように記憶しているので、多分チェスに詳しい人からしたら本作も色々粗はあるのでしょう。 しかし、数学やチェスは題材に過ぎず、著...
博士の愛した数式は映画で見たことしかありませんでした。著者の作品を読むのはこれが初めてです。 博士の愛した数式は理系から見たらツッコミどころ満載だったように記憶しているので、多分チェスに詳しい人からしたら本作も色々粗はあるのでしょう。 しかし、数学やチェスは題材に過ぎず、著者の本の楽しみ方はその雰囲気や静けさを感じることにあるのだと思います。 細かいことは気にせずに、たおやかな文章に身を任せることをおすすめします。読書の海に潜らせてくれる傑作だと思います。
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