夜想曲集 の商品レビュー
カズオ・イシグロ氏の初短編集。「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」は、どれも夫婦や男女の微妙な関係や人生における変化を音楽をキーワードに綴られた、個性と雰囲気あふれる作品ばかり。著者の「五篇を一つのものとして味わってほしい」という言葉にも納得、シングルカットではなく、アルバムとして...
カズオ・イシグロ氏の初短編集。「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」は、どれも夫婦や男女の微妙な関係や人生における変化を音楽をキーワードに綴られた、個性と雰囲気あふれる作品ばかり。著者の「五篇を一つのものとして味わってほしい」という言葉にも納得、シングルカットではなく、アルバムとして美しく秀逸なCDを聴いたような読後感があった。それぞれに異なる都市の映像も目に浮かぶよう。個人的には冒頭の「老歌手」が印象深かった。ちなみにここに出てくる人物が他の一篇に出てきて「おっ!」と思うのも楽しかった。
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「日の名残り」「わたしを離さないで」のカズオ・イシグロによる、音楽をテーマにした5作の短編集。著者の言う通り、5作は個別の作品でありながらも根底に流れているテーマのようなものは繋がっている。 それは主人公らしき人物の描写に表れている。皆一様に招かざる人か、あるいは本人が望んでな...
「日の名残り」「わたしを離さないで」のカズオ・イシグロによる、音楽をテーマにした5作の短編集。著者の言う通り、5作は個別の作品でありながらも根底に流れているテーマのようなものは繋がっている。 それは主人公らしき人物の描写に表れている。皆一様に招かざる人か、あるいは本人が望んでないのにこの場所にいる人である。さらに独り身であり、社会的立場が不安定で自分の才能に懐疑的である。 対して彼らが出会う人々の大半は夫婦であり、野心家で社会的に成功することに価値を置いている。しかもある程度自分の才能について確信がある。しかし成功に対するアプローチはバラバラで、それが基になって人間関係が不安定になっている。夫婦という本来安定した関係性が崩れることでその悲惨さがより鮮明になる。そして物語の最後に彼らは変化の瀬戸際に立たされる。この先上手くいくのか、いかないのかは明示されない。ただ彼らが変化するために主人公たちは存在した。そう考えると、主人公たちはただのキッカケだったとも言える。 カズオ・イシグロの作品はあらゆるところに引っ掛かる部分が用意してあり、素直に読ませてはくれない。時には語り手が本当のことを語ってないんじゃないかと疑う場面もある。それは短編になっても同じで、短編だからこそ気になった箇所を何度も読み返せる面白さがあった。 作中にある音楽についてたとえ知らなくても、サブスクですぐに調べて聞ける現代って良いね。
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来年度の連載を文学談議にしようと思っている。その中の1回にカズオ・イシグロを取り上げたい。しかし、まだ2つの作品しか読んでいない。それで、古本屋で少し安くなっていた3冊を買ってきた。その1冊目。カズオ・イシグロの名前はノーベル賞をとる前から知っていた。村上春樹が新作が出れば必ず読...
来年度の連載を文学談議にしようと思っている。その中の1回にカズオ・イシグロを取り上げたい。しかし、まだ2つの作品しか読んでいない。それで、古本屋で少し安くなっていた3冊を買ってきた。その1冊目。カズオ・イシグロの名前はノーベル賞をとる前から知っていた。村上春樹が新作が出れば必ず読む作家だと言っていたから。「わたしを離さないで」は何かで話題になっていたのを見ていたので、だいたいのストーリーを知った状態で読んでしまった。その後にドラマも観た。そして、「忘れられた巨人」を読んだ。ずいぶんとテイストの違う2冊だが、どちらも徐々に徐々にひき込まれていった。本書は著者にとって初の短編集だという。しかし、それはあちこちで書きためたものを集めたというのではなく、1冊の本のために書き下ろしたのだそうだ。タイトルにもあるように「音楽」が5つの作品を通しての題材になっている。そして、「別れ」あるいはその「危機」が主題となっているようだ。唯一人2つの作品に登場するリンディという女性が言っている。「人生って、誰か一人を愛することよりずっと大きいんだと思う。」本当にそうだろうか。ちょっと気持ちが暗くなる。最も印象的なのは最初の作品。サンマルコ広場のテーブルとゴンドラの上でギターの伴奏に合わせて歌い上げる「老歌手」。2つの光景がいまも目に浮かぶ。いつかきっと行ってみたい。解説で中島京子さんが「笑い」をテーマにあげているが、僕はどうしてもどの作品にも「笑い」を見出すことができなかった。どれもこれも、深くて重いものを感じずにはいられない。
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文学ラジオ空飛び猫たち第63回。 音楽と才能、人生の夕暮れに直面した人々の姿、夫婦の危機といったことをユーモアたっぷりに描く大人な短編集です。副題は「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」。 この短編集でもカズオ・イシグロ作品に共通して言える、自分は何者かというアイデンティティの問題が...
文学ラジオ空飛び猫たち第63回。 音楽と才能、人生の夕暮れに直面した人々の姿、夫婦の危機といったことをユーモアたっぷりに描く大人な短編集です。副題は「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」。 この短編集でもカズオ・イシグロ作品に共通して言える、自分は何者かというアイデンティティの問題が含まれていて、短いながらも彼の作品の魅力を味わうことができます。 ラジオはこちらから→https://anchor.fm/lajv6cf1ikg/episodes/63-e1ajupc
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音楽とすれ違う男女の仲をモチーフにした短編5編。 特にオチがあるわけでなく、各主人公の人生のうちの少しを覗く。 細かく計算し尽くされた描写が続く(描写の謎解きをしているサイトもいくつも)ので、自分的には読み取るのが苦手。 解説を読んで、また今度2回目読もうかな。
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ヨーロッパ・アメリカが舞台の話。 音楽をやっているというのは自分と同じ共通点だが、あまり自分が知らない世界感を覗かせていただいた。 後書きを書かれた作家さんも言っていたが、真面目な文章の中に、ユーモアな発言や行動が沢山散りばめられていたため、こんな素敵な情景が思い浮かぶ大人な話の...
ヨーロッパ・アメリカが舞台の話。 音楽をやっているというのは自分と同じ共通点だが、あまり自分が知らない世界感を覗かせていただいた。 後書きを書かれた作家さんも言っていたが、真面目な文章の中に、ユーモアな発言や行動が沢山散りばめられていたため、こんな素敵な情景が思い浮かぶ大人な話の中なのだけど、その中に楽しさがあった。 最後の「チェリスト」は、結果どうなったとか結論とかはっきりとしたものがないんだけど、その謎めいたものに全くイライラせずむしろしっくりきた。
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全体的に充たされざる者のようなシュールな雰囲気がある不思議な短編集。やっぱりカズオイシグロの小説は結末の曖昧さが良いですね。中では老歌手が一番好き。
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なんかこう切ない雰囲気がとても好き。 イシグロさんって、淡々と進む情景描写に、綺麗な色の哀愁を乗せるのがとても上手な作家なんだと思う。たぶん、情景と感情の絵をいつも思い描いている人。うまく色が溶け合わさせて、読者を癒してくれる。 この本はそれがすごく出てる。 サンマルコでいつ...
なんかこう切ない雰囲気がとても好き。 イシグロさんって、淡々と進む情景描写に、綺麗な色の哀愁を乗せるのがとても上手な作家なんだと思う。たぶん、情景と感情の絵をいつも思い描いている人。うまく色が溶け合わさせて、読者を癒してくれる。 この本はそれがすごく出てる。 サンマルコでいつかこんな音楽家に会えますように。
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個人的には、私を離さないでに続く2作目のカズオイシグロさん。なんだか突拍子もない背景やイベントの中で人間性を描くのが上手だな、という印象を抱いた。読んでいて間違いなく面白い。
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音楽をなりわいにする人達を題材にしたちょっと切ない5篇のお話。この作者は、どこかが噛み合わない違和感にも似た不穏な感覚と人情味溢れる哀愁を同時進行で、自然な文体の中で感じさせてくれる。マイナスな感情が溢れる中でも、あくまで柔らかな表情の中でスーっと受け入れられるような、そんな作品...
音楽をなりわいにする人達を題材にしたちょっと切ない5篇のお話。この作者は、どこかが噛み合わない違和感にも似た不穏な感覚と人情味溢れる哀愁を同時進行で、自然な文体の中で感じさせてくれる。マイナスな感情が溢れる中でも、あくまで柔らかな表情の中でスーっと受け入れられるような、そんな作品です。
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