遮光 の商品レビュー
久しぶりに純文学を読んだ。 恋人を事故で失い、彼女の遺体から小指を切り取って盗み、それを瓶に入れて持ち歩く。周りには彼女は留学していると嘘をつき、楽し気なやり取りを披露したりしている。その妄想が思い込みとなり、やがて自身も真実かのように感じられ、現実との境界線が狂気に揺さぶられな...
久しぶりに純文学を読んだ。 恋人を事故で失い、彼女の遺体から小指を切り取って盗み、それを瓶に入れて持ち歩く。周りには彼女は留学していると嘘をつき、楽し気なやり取りを披露したりしている。その妄想が思い込みとなり、やがて自身も真実かのように感じられ、現実との境界線が狂気に揺さぶられながら曖昧な曲線を描く。 「本心がどうであったとしても、時折、殆ど発作的に何かの振りをしたくなることがあった。その演技が自分にとって意味のないものであったとしても、何かに駆られるように、私はそれを始めた。」 (本文引用) 主人公は幼いときに両親を亡くし、(おそらく)養子に出された。最初の家では上手くいかずに別のところに行かされた。無口で暗かったのだろう。扱いづらいと思われたのかもしれない。次のところでは、明るく活発ではあるものの、時折胸の奥に哀しみがよぎるような仕草をする子どもを演じることで、大層気に入られたと彼自身は語っている。 この経験が今の彼を作り出したのは間違いないだろう。 彼は自分の言動に関して、本当はこんなこと言うつもりじゃないとか、あんな風に振る舞うつもりではなかったと心の中で何度も弁解を繰り返す。周りの人が望んでいるように思えたからであり、話の流れ的にそれがベストだと思うからそう振る舞ったのだと。 見たくないことから目をそらし続けたとしても、ソレは目の右端に常に見えている。やがてソレはだんだん大きくなって右目の視野を占領し、左目の領域さえも侵し始めてしまう。 それでも見て見ぬ振りをし続けるのか。 そんなことできるわけがない。 できるわけない。
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死んでしまった恋人の指を瓶に入れて 持ち歩く青年の話。 若干、演技性パーソナリティ障害っぽくも思える。 主人公は幼少期の経験云々から そもそも狂っていたと思うけれど 愛する恋人の死によって 狂気に一層の拍車がかかってしまったのかな…と。 数々の妄言を吐く言動だけを見ると 「ヤバい奴」で終わってしまいそうだけれど 「自分が最も幸福に感じられる唯一の相手を 不慮の事故で失ってしまった」点を注視したら 狂人になってしまってもおかしくないような… 少なくとも、主人公が行ったような 「遺体の1部を所持する」という行動は 現実でも渇望してる人は居そう… 遺骨を大切に取っておくのとどの辺りが違うんだ、 と問われたら変わらないような気もする…難しい。 実は今作は中村文則さんの「土の中の子供たち」を 借りようと思っていた最中、間違えて借りた本。 高い位置の棚の中に背表紙を見つけて 顔を逸らしながら手を伸ばして取って よく見もせずに借りたらこの本だった。 (恐らく隣に並んでいたものを間違えて取った…?) 自宅で見返して「え!何この本!」と 落胆していたけれど、失敗が大正解に。 運良く、性癖に刺さる本に出会えた。
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事故で亡くした恋人の指を切り取って、瓶に入れて持ち歩く青年の話。周りの友人(?)には恋人の死を隠している。作者の後書きには虚言癖であると書かれている。嘘をつくというよりは、自分が世界の一部になれていないと感じている青年が、適応するために言葉を使ったり、適応できない自分を認めるために突発的な行動をとっているように感じる。 傑作だと思える器量は自分にないが、いつか誰かに話したくなる小説だった。
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大切な人の死に対する絶望感や悲しみを受け入れられず、昇華出来なかった青年の話。 中々気持ち悪い部分もあるけど、こういった感情や行動をしたくなるのも一部ではあるが理解出来てしまう。 大切な人の死を受け入れ、正しく認識をすることも自分自身の暗い部分の中に落ちてしまわない為の対処とし...
大切な人の死に対する絶望感や悲しみを受け入れられず、昇華出来なかった青年の話。 中々気持ち悪い部分もあるけど、こういった感情や行動をしたくなるのも一部ではあるが理解出来てしまう。 大切な人の死を受け入れ、正しく認識をすることも自分自身の暗い部分の中に落ちてしまわない為の対処として必要なんだなと思ったと同時に、どうすれば正しく認識し、気持ちを昇華できるんだろうとも思った。 自分の暗い部分や負の感情を馳せるためにも中村さんの作品はやっぱり必要だなと改めて思う。
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すごくインパクトがあった。 中村さんの作品は、衝撃的なのが多いが、その中でも特に!という感じだった。 恋人の死から始まる嘘。その嘘により自分の感情が分からなくなる。周りにはいない(と思っているが)人物の心情まで見るのは、怖いのも反面、面白かった。
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恋人の死を隠すための狂言癖は自分を守るために、子供心についた事から始まり、嘘に嘘を重ねる彼の行動に心臓が鼓動を立てる。最後は受け入れ難いが、陰鬱なものは誰もが持っているし、隠し通したい気持ちも分からないでもない。
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電車で瓶転がすところ、主人公の心臓と自分の心臓が同じになったみたいに鼓動がはやくなった。 自分の陰鬱な部分が転がりでてしまったとき、だれかに気づかれたかもしれない。そんなとき。 悲しむフリ、楽しいフリ、典型的な人間。 その反面訪れる、狂気的な人間の持つ幸福。 我に帰る、の我はどっち? どうしようもないことを受け入れるのをやめることは、 いけないことなのか。
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主人公は気が狂っており異常であるが、指の瓶が見つかりそうになった時の怯え具合は尋常じゃなく、可愛らしいとさえ感じた。幼い頃から自分の感情を抑圧し続けるとこのように気が狂ってしまうのかもしれない。非常に引き込まれる小説で、あっという間に読み終えてしまった。
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心のダークサイドというか、そもそも心のスイッチがおかしなことになっている人間が主人公の話。 虚言癖が主人公のこの話、野間文芸新人受賞作。帯にあるピース又吉の推薦文は「もし、世界に明るい物語しか存在しなかったら、僕の人生は今より悲惨なものになっていたでしょう」と。 暗い。息子に...
心のダークサイドというか、そもそも心のスイッチがおかしなことになっている人間が主人公の話。 虚言癖が主人公のこの話、野間文芸新人受賞作。帯にあるピース又吉の推薦文は「もし、世界に明るい物語しか存在しなかったら、僕の人生は今より悲惨なものになっていたでしょう」と。 暗い。息子に勧められて読んだが、好みの真ん中ではない。
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恋人が死んだことを周囲に隠し、あたかも彼女が生きているかの様に振る舞う青年の話。 ただ、青年は虚言癖があって、常に何かを演じている様な生き方をしていて…急に暴力的になったり、笑い出したりなど、狂人みたいな感じなんだけど… でもこれ、ただの虚言癖って言うのはちょっと違う気がする。 彼は彼なりに恋人を大事にしていただろうし、もっとやりたいこともあっただろう。 終盤、女友達?に、恋人が死んでいることと、自分の想いを喋るところは、胸がギューッとなった。 明るい場面とかは全然ないし、寧ろ全体的に暗いと思う。 でも、もう一度読みたくなる、不思議な話だった。
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