遮光 の商品レビュー
幼い頃に両親と死に別れ、どうしてもいつも誰かを演じてしまう男。彼には大切に持ち歩く瓶があった。どこへいくにも持ち歩き、誰にも見られてはいけないし大切なものだから部屋で保管しておかなければと思いつつも、いつもその存在を感じていたいからつい鞄へ忍ばせ、こっそりと指でその存在を確認して...
幼い頃に両親と死に別れ、どうしてもいつも誰かを演じてしまう男。彼には大切に持ち歩く瓶があった。どこへいくにも持ち歩き、誰にも見られてはいけないし大切なものだから部屋で保管しておかなければと思いつつも、いつもその存在を感じていたいからつい鞄へ忍ばせ、こっそりと指でその存在を確認してしまう。 その瓶の中身とは--。 瓶の中身については割と序盤からだいたいの予想はつく。 男が誰といてもいつも架空の存在となり、嘘をつき続ける姿にも、その瓶の中身を愛おしくもあり、決別しなければならないものだと自覚していることにもつらくて、こんなに読み進めるのがしんどいと本だとは思っていなかった。 大切な人との別れを受け入れることは多くの人にとって困難なことで、ここまでではないにしても心が一時的にではあれおかしくなるものだと思う。それにしても狂いすぎだよ……。
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「銃」に続く2作目。デビュー作の「銃」とのテーマの類似点が話題になっていたが、「銃」を読んでいないのだが、この暗い魂の異常な揺れや、執着心のありかは想像できた。 両親を失ったが裕福な家庭に引き取られ、不自由のない大学生である。だが、心の底に大きな喪失感の暗い塊がある。 その塊の...
「銃」に続く2作目。デビュー作の「銃」とのテーマの類似点が話題になっていたが、「銃」を読んでいないのだが、この暗い魂の異常な揺れや、執着心のありかは想像できた。 両親を失ったが裕福な家庭に引き取られ、不自由のない大学生である。だが、心の底に大きな喪失感の暗い塊がある。 その塊のせいか、いつも自分をしっかり掴んでいられない。日常にあわせて生活するだけの智恵はあるが、言葉がその場その場に都合よく口からでる。 そんな暮らしの中に間違って飛び込んで来た美樹という女と繋がりが出来る。 確信はないが、無邪気な彼女といると、心が落ち着く気がする。 その彼女が突然交通事故で死んだ。 警察に呼ばれて彼女と対面したが、現実感はない。小指を切り取って帰った。それからは小指が美樹の代わりになった。ホルマリン漬けにして小さいビンに入れて黒い布に包んで持ち歩いている。 常に鞄を触って美樹の存在を確認している。 友達に聴かれると、美樹はアメリカの留学しているといっておく。次第にそのウソが現実的になってくる。 自分自身の置き所が不安定で、かっとなると暴力を振るう。 美樹をなくした怒りか、自分を捕らえられない怒りか、ときに爆発して自分を見失う。 魂の暗い揺れや、喪失感や、虚言癖はますます抑えられなくなり、隠し続けた重みからか、美樹の指のことをついに叫んでしまう。 心の置き所をなくした若者の異常な日常は、悲しみと愛惜と、虚言と暴力の日々になって流れていく。 どうしようもない暗さが迫ってくる。 小さな暗さを持たないで生きることはない、しかし、ただそれだけに抵抗し、すがり暴れる、若者の姿がやりきれない。 心の鬱屈した影を書き続ける中村さんの代表作の一つになった。若くないと書けない異常な状況を描いた作品だが、この重さにどこか共鳴するところがある。
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作者にとって「陰鬱」の象徴であり、常にともにある憎くて愛らしい「指」は、まさに自分の分身を表している 「太陽」は憧れであり、畏怖するカミュとして、主人公の虚言癖(作者にとって模倣)を理解しており、そこから隠れるように主人公は生きているのではないかと思った。 大切な自分の分身を「いも虫」と拒否されることも、デビュー作「銃」の周りの反応が現れているのかなと思えるし、 もしくは、拒否されたとしても「いも虫」なことが又自己満足的な気持ち良さに繋がっているのかもしれない。 わかりやすい象徴が効果的に物語に深みを持たせていて、とても楽しめた。 合ってるかどうかは別の話。
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星2.5 何もかも憂鬱な夜に の方が好き。 うん、ストーリー的に同感できる部分が少ないからかな。 別に表現が嫌なわけでは無いんだけど。 初期の作品であるこれよりも、何もかも憂鬱〜以降の作品を今後読んでみようかと思った。
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知り合いが中村文則さんの作品の中で一番好きと言ってて、本屋さんでたまたま見つけたら思ったより厚さが薄かったので買ってみました。(教団Xの分厚いイメージがあったので。。) ある瓶を大切に持っている、虚言癖のある男。 淡々と自分を客観視しているのですが、とある事柄になるとその湧き上...
知り合いが中村文則さんの作品の中で一番好きと言ってて、本屋さんでたまたま見つけたら思ったより厚さが薄かったので買ってみました。(教団Xの分厚いイメージがあったので。。) ある瓶を大切に持っている、虚言癖のある男。 淡々と自分を客観視しているのですが、とある事柄になるとその湧き上がる感情をどう受け止めてよいのかわからない。 彼の逃避したい気持ちが、読んでいてとても辛かった。幸せな日々を想像するというのが、私もきっとそうしてしまうだろうなと思いました。
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指を切りとり、問い詰められる場面や電車の場面は緊張感があって良かった。 他の部分は暴力的で精神的に不安定なことを強調する感じがチープな印象を受けてしてしまった。
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凄く好き、だけど結ばれない人がいる。その人を欲しいという感情を通り越して、その人と溶け合ってひとつの生物になりたいと思った。その欲望を文字にしてくれたような気がする。二度と会えない相手ならば、自分がその相手になるしかないのだ。
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中村文則さんの2作目の小説。事故で死んだ恋人の小指をホルマリン漬けにして瓶に詰め、常に持ち歩いてる男の話。中村文則さんの1作目『銃』でも主人公の青年は拾った拳銃を常に持ち歩いていた。そして最終的にはどちらも、その作品の象徴たるものを自分の中に内包し狂っていく。それは幸せそうであり、恐怖でもある。自分にもあり得る、起こり得る話であると思えるから怖い。主人公の青年は虚言癖があり、既に死んでいる恋人の話を未だ彼女が生きているかのように人に話したり、人から聞いた話をさも自分の事のように喋ったり、テレビで見たドラマなどの台詞を真似たり、自分の空っぽさを埋めるように演技をしながら生きている。これは主人公程ではないにしろ多かれ少なかれ誰もがしていることじゃないだろうか。もちろん主人公の事を、彼の言動を、気持ち悪いと思う人も多いだろうけど、個人的には結構共感してしまった。『遮光』というタイトル通り光、そして影の描写が印象的。テレビで見られるような典型的な幸せに光を感じながら、そんな光を時に鬱陶しく感じて避け、時折見せる彼の影の部分には幼い頃の記憶が色濃く感じられる。ラストの血生臭さも好み。
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読み進めていくうちに違和感が少しづつなくなっていくが、その分狂気が迫ってくる感じ。 皆、どこかしら狂っているのかも知れない。
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何かを持ち歩く、という構図は、僕の内面から来ている。 彼は虚言癖の青年だが、美紀への想いだけは、嘘をつくことができなかったと言える。 これは世界の成り立ちの不条理に対して、勝てる見込みのない抵抗を試みた、一人の虚言癖の青年の記録ということである。
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