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昔日の客 の商品レビュー

4.5

61件のお客様レビュー

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2024/11/16

▼つまりは、「昭和の純文学系古本屋主人のエッセイ」なんです。地味か派手かと言われれば、それはもう、かなり割りきって振り切ったレベルの地味さです。 なにしろ、2024年現在からすると、 ・1950年代60年代くらいの、 ・著者本人は何もセレブでもない人のエッセイ、日常雑記で、 ・...

▼つまりは、「昭和の純文学系古本屋主人のエッセイ」なんです。地味か派手かと言われれば、それはもう、かなり割りきって振り切ったレベルの地味さです。 なにしろ、2024年現在からすると、 ・1950年代60年代くらいの、 ・著者本人は何もセレブでもない人のエッセイ、日常雑記で、 ・古本屋のジャンルは、当時の「近代現代日本文学」で、 ・尾崎士郎・・・尾崎一雄・・・上林暁・・・という小説家たちとの交流・・・  (僕もほとんと読んでいません。令和の今、ほぼたれも読まないですよね) というだけなので。 ただ、それが文章が、語り口が、うまい。そして本への愛が溢れている。 そこが美点です。それはなかなかです。 もともと昭和50年代にひそやかーに出た本なんだそう。作者の古書店主さんが、直前に60台で亡くなられているそうで、つまりは「人生ただ1冊の本」。そして別になんとかエッセイ賞を取る訳でもベストセラーになるわけでもなく、絶版になっていた。ただ、知ってる人は「あれいい本だよね」。 それを、夏葉社さんが2010年に復刊した、という話です。 僕は夏葉社さんの本(あるいは関係する本)は、読んだ順で言うと「冬の本」「本屋図鑑」「あしたから出版社」。大まか言うとそれで夏葉社ファン(笑)になったので、それが興味の入り口で読みました。 ▼さすが夏葉社だなーーーと思うのは、装丁とかデザインとか文字の大きさとかが、スバラシイ。手に取って気持ちいい。読んで読みやすい。なんだかこれだけで褒めたくなってしまいます。  肝心の中身ですが、これがまた、地味は地味なんですけれど、たしかに素敵な日本語です。文章が良い。 どんなお話かというと、 <自分が好きな純文学作家が、数年前に店にきてくれて知人になった> <その先生のおうちで酔って歌を歌ったりしてしまった。反省> <自分の父親の思い出> <日本文学系古書店屋として思う日常のよしなしごと> <昔日の客が、その後、文学者として成功した> みたいな話なんです。それでもって、ぐぐぐっと引き付けられるもんぢゃありません。 (夏葉社の社長の島田さんのプチ半生自伝エッセイなんかは、もっと断然、多少品は薄くても、エンタメでヒキがある作りになっていました(笑)) ただ、文がこう、良き水墨画を見ているような。イケてます(笑)。 難解なわけではなく、読みやすく。 謙虚さがにじみ出ますね。 それが全体のこう、無名性というか庶民性?というか、そういうくすんだ旨味によく合っています。  さすが夏葉社、なるほど美味かったな、という(笑)。

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2024/07/12

著者である関口良雄さんが、考えたこと行動したこと記したことを読んで、なんて人間的魅力にあふれた人なんだろうと。落ち葉を集めているところなんか、風流人そのものではないですか。 西小山で暮らしていたので、馬込や洗足池のあたりの当時の様子が知れたのもうれしくて、よりその土地が好きにな...

著者である関口良雄さんが、考えたこと行動したこと記したことを読んで、なんて人間的魅力にあふれた人なんだろうと。落ち葉を集めているところなんか、風流人そのものではないですか。 西小山で暮らしていたので、馬込や洗足池のあたりの当時の様子が知れたのもうれしくて、よりその土地が好きになりました。 田舎から出てきた若者が、有名な作家は知らないけど、田舎の良さを分かって帰っていく。それに対する関口さんの思いが、私に響いた。 古本屋さんでありながら、有名な作家は知らないけれど、人として生きる道を見つけた若者を高く評価しているところは、関口さんは純粋方だと。 ここに出でくる作家さんの本はほぼ読んだことがないのですが、手に取るきっかけをいただきました。

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2023/05/08

とても大切にしたくなる本。 それはきっと、関口さんご自身が、人間であることを存分に味わい、大切にされてきたからだろうな。 「好色の戒め」「父の思い出で」「某月某日」が個人的に特に好きでした。

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2023/01/02

昔の古本屋店主のエッセイ。昔の(今も)古本屋さんは、心から本が好きなことが伝わってくる1冊。本っていいなぁ…。

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2022/09/30

Jwaveのジョン・カビラさんの番組でこの本を出版した出版社と社長さんのエピソードを取り上げていて、この本と又吉さんとの縁についてのお話がとても心に残った。 今は図書館に予約しているが、読む前からぜひ手に入れたいと思っている。 というか、近くに本屋さんがほしい。

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2022/08/21

本が好きな人の話ってなんでこんなに楽しいんだろう。 「某月某日」に登場する井上さんの話が心に残った。

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2022/04/08

書と書物、作家の織りなす世界観や人柄への愛情、思い入れを強く感じ、読みながら、自然と微笑んでしまう。 著者は朗らかな方だったのかなと、勝手に想像しながら、お酒が入った後の唄歌いや踊りを想像する。 古本を介した人との巡り合わせ、記憶の連なりが温かく、満ち足りた心持ちになる書物で...

書と書物、作家の織りなす世界観や人柄への愛情、思い入れを強く感じ、読みながら、自然と微笑んでしまう。 著者は朗らかな方だったのかなと、勝手に想像しながら、お酒が入った後の唄歌いや踊りを想像する。 古本を介した人との巡り合わせ、記憶の連なりが温かく、満ち足りた心持ちになる書物であった。

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2021/07/06

本書の来歴はとても興味深い。 筆者の関口良雄さんは、東京・大森で古書店「山王書房」を営んでおられた方である。 何人かの有名な作家とも顔なじみであり、そういった作家との交流や、日常のあれやこれやを、折に触れ、随筆の形で各誌に書かれていた。本書中で最も古いものは、昭和34(1959)...

本書の来歴はとても興味深い。 筆者の関口良雄さんは、東京・大森で古書店「山王書房」を営んでおられた方である。 何人かの有名な作家とも顔なじみであり、そういった作家との交流や、日常のあれやこれやを、折に触れ、随筆の形で各誌に書かれていた。本書中で最も古いものは、昭和34(1959)年に書かれたものであり、最も新しいものでも、昭和52(1977)年に書かれたものだ。還暦の記念にという意図で、随筆集という形で本を出版する計画が持ち上がり、口絵や装丁などの詳細まで定まった時点で、筆者ご本人が癌に侵され、出版を待たずに昭和52(1977)年8月22日にご逝去。ご子息が筆者の遺志を汲んで、三茶書房より本書を発行されたのが、昭和53(1978)年10月のことである。 発行部数はわずか1,000部であったが、古書好き・読書好きの間で話題になる。入手困難で数万円の値が付き、「幻の一冊」と呼ばれるようになった。平成22年(2010)年に、夏葉社から復刊。私が読んだのは、2015年の第八刷であるので、順調に売れ続けているのではないかと推察する。 しみじみとした味わいのある随筆集だ。派手なこと、大事件は何も起こらない。 完全にネタバレになるので、詳しい内容には触れないが、本書の書名にもなっている「昔日の客」という随筆は、筆者と芥川賞作家の野呂邦暢さんの交流を描いたものである。最後まで読んでいただければ分かるが、人間の出会いというのは素晴らしいものになる可能性がある、ということをしみじみと感じさせてくれる。

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2021/02/01

関口氏の本や好きな作家に対しての偏愛と交流の記録.ユーモラスな語り口と人柄が偲ばれる逸話など,古き良き時代と言っては何だけど,そこに漂うほのぼのとした空気まで感じられる.

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2021/08/17

 夏葉社の本、1冊目(読んだのが、という意味で)。   当時の文学者たちに愛された、東京大森の古本屋「山王書房」と、その店主によるエッセイ、32年ぶりの復刊。  文学者との交流、本との出会いと別れ、東京の古本屋街を巡ったあとの若いタクシー運転手との対話、亡き父との想い出、葬儀の...

 夏葉社の本、1冊目(読んだのが、という意味で)。   当時の文学者たちに愛された、東京大森の古本屋「山王書房」と、その店主によるエッセイ、32年ぶりの復刊。  文学者との交流、本との出会いと別れ、東京の古本屋街を巡ったあとの若いタクシー運転手との対話、亡き父との想い出、葬儀のときの想い出・・・。  どれもが、古き良き時代の空気感であふれていて、滋味ある文章と相まって、ゆったりと読み進むことが出来る。    雨が降ったので買った本を喫茶店に預けるエピソード、「スワンの娘」がいいなぁ。  私も、田舎から東京に出てきた当時、授業の後でいるもので、大学に持っていくには荷物になるからと、途中の乗換駅の売店のおばちゃんに、「ちょっと預かっておいてもらえませんか?」とお願いしたことがある。まだ、そんな雰囲気が東京にも残っていると思っていたのだろうけど、けっこう意外な顔をされたなと、今でも思い出す。  この作者の時代、昭和4,50年代は、ごく普通の行為だっただろうな。  とにかく、何かの役に立つとか、なにか時代を象徴しているという内容ではない。なんてことのない日常の点描なのだが、忘れがたい風景が行間から立ち上がる。なんとも味わい深い。 作者もこう記す。 「それは私の人生には無用なものかも知れない。が無用なものの中にこそ、言い知れぬ味わいがひそんでいるものだと思う。」  無用の用、ではないが、なにかと情報過多のこの時代にこそ、見直されるべき価値観を垣間見た気がする。

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