ふがいない僕は空を見た の商品レビュー
ネットでの評判がすごく良かったので読んでみたら予想を超えてよかった。ままならない性を書くことが、ままならない生が現れる。連作短編の形になっているのだけど、進むに連れてどんどん上手くなっているので次回作が楽しみ。
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大絶賛する角田さんのコメントに誘われ、手にとった本書。序盤は露骨な性描写に抵抗を感じたけれど、読み進めるうちにどんどん引き込まれていった。"標準"からはみ出た僕らを、容赦なく斬りつける社会システム。「そんな趣味、俺が望んだわけじゃないのに、変なオプション付ける...
大絶賛する角田さんのコメントに誘われ、手にとった本書。序盤は露骨な性描写に抵抗を感じたけれど、読み進めるうちにどんどん引き込まれていった。"標準"からはみ出た僕らを、容赦なく斬りつける社会システム。「そんな趣味、俺が望んだわけじゃないのに、変なオプション付けるよな、神さまって」という台詞には、胸が締め付けられるような痛みをおぼえる。まったく、なんて生きづらい世の中だろうーと泣きたくなる。そして、この作品の素晴らしいところは、それでも、傷だらけの魂を携えて生きること、生まれてくることを全力で肯定していることだ。それでも生きる、生きて命をつなげてやる、と私も強く思う。
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なんか難しいというか…。 人間って難しいなぁと。 しかし、「リリカ~」のコスプレとか見たことないのでわからんのですが、そんなにみんなわかるようなコスプレなんだろうか? …年食ったのかもな。
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第一章「ミクマリ」の性描写に戸惑いながら読み進める間に、この小説の持つ独特の世界観にドップリ浸っていた。第4章「セイタカアワダチソウの空」が良かった。そっと人に薦めたくなる本。
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ほぉーーーっと思いっきりため息が零れてしまった。 例年のR-18文学賞よりずっとエロチシズムで、それが妙にすとんとくるからまた素晴らしい。 コスプレ好きの人妻あんずとのセックスに溺れた卓巳。 妊娠のできない身体で日々したくもない不妊治療を受け続けるあんず 卓巳のことが好きで卓巳と...
ほぉーーーっと思いっきりため息が零れてしまった。 例年のR-18文学賞よりずっとエロチシズムで、それが妙にすとんとくるからまた素晴らしい。 コスプレ好きの人妻あんずとのセックスに溺れた卓巳。 妊娠のできない身体で日々したくもない不妊治療を受け続けるあんず 卓巳のことが好きで卓巳とセックスがしたい七菜 認知症の進む祖母と貧乏団地でバイトをしながら暮らす福田 助産師であり、また母親でもあら卓巳の母。 愛おしいとはまた違うなにか。 救いようもないなかにある小さな抜け道の物語。
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性描写がなまなましいのだけれど、ふしぎと嫌悪感を感じないのがふしぎだった。 それぞれの人物たちの性格をきっちり描いてあるからだろう。 性は人なり、というのが伝わってきた。 途中、ありえないと思われるような設定もあったけれど(強制わいせつ男など)、全体的に、素敵だと思える作品だ...
性描写がなまなましいのだけれど、ふしぎと嫌悪感を感じないのがふしぎだった。 それぞれの人物たちの性格をきっちり描いてあるからだろう。 性は人なり、というのが伝わってきた。 途中、ありえないと思われるような設定もあったけれど(強制わいせつ男など)、全体的に、素敵だと思える作品だった。 短編集の形をとり、男子高校生から、その不倫相手、友だちかつ恋人候補、友だち、最後は最初に登場した男子高校生の母親、と物語りはあざやかにひろがりと深まりをみせながら展開していく。 生きることってかっこわるいということ。 悲しみがつきまとっていること。ただ楽しく暮らすというのは不可能で、さまざまな人やしがらみがどの人にも絡まっているということ。 みんな悩みながら、それでも生きていること。 それでも、それでいいんだよ、と、作者が言っているような気がした。 最初の数ページの予想とは違い、意外にも、全部読んだ後の、読後感はさわやかだった。
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5つの連作短編集です。高校1年生の斉藤くんをめぐる周りの人たちが次々と主人公になります。やりきれないストーリーばかりで官能小説の文学賞を受賞しているので私にはニガテなカテゴリーの小説なのですが、命の大切さを訴えているところに爽やかな力強さが見え隠れします。次回作も是非読んでみたい...
5つの連作短編集です。高校1年生の斉藤くんをめぐる周りの人たちが次々と主人公になります。やりきれないストーリーばかりで官能小説の文学賞を受賞しているので私にはニガテなカテゴリーの小説なのですが、命の大切さを訴えているところに爽やかな力強さが見え隠れします。次回作も是非読んでみたいと思いました。「セイタカアワダチソウの空」が好きでした。
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『自然という言葉を聞くたびに、私はたくさんの言葉を空気とともにのみこむ。彼女たちの口にする自然、という言葉の軽さや弱さに、どうしようもない違和感を抱きながら、私はその気持ちを言葉に表すことができない。乱暴に言うなら、自然に産む覚悟をすることは、自然淘汰されてしまう命の存在をも認め...
『自然という言葉を聞くたびに、私はたくさんの言葉を空気とともにのみこむ。彼女たちの口にする自然、という言葉の軽さや弱さに、どうしようもない違和感を抱きながら、私はその気持ちを言葉に表すことができない。乱暴に言うなら、自然に産む覚悟をすることは、自然淘汰されてしまう命の存在をも認めることだ』-『花粉・受粉』 起こしてしまったことにけりをつける大変さ、連作短編集を読むと、時々そんなことに思いが至る。一つの出来事の中には一つの物語がある。そこには固定された視点があって、ということは、ほぼ固定したセイロンがあって、読む者を自然に導いてしまう善がある。いくつもの出来事が重なり合っても一つ一つの物語は独立して存在し得る。個々の善は揺るがない。しかし一つの出来事が他者の視点から描かれると、当たり前に見えていた行動はひどく許し難いものにも思えてくるし、善の所在は不確かとなる。連作短編集にはそんな不確かさを乗り越えて行かなければならない困難さがあるように思えるのだ。 それをリアリティと呼ぶこともできるかもしれない。世の中は多義的な物語で満ちているのだから。でもそれをそのままに放置しておくのは実に居心地の悪いことでもある。それは耐えなければならないことであるようにも思うけれども。 この「ふがいない僕は空を見た」は、だから、とてもリアリティに溢れているともいえる。そんな多義的な物語を、上手く縫い合わせて大団円に持ち込まないところもよい。一義的な物語を振りだしに、善の在り処を不確かにするように話を進めること、それは喩えて言えば大車輪で回っていた鉄棒から急に手を放すような物語。 もちろん、話を作ることに巧みな作家なら月面宙返りでぴたりと着地してみせるような物語にすることもできるだろうけれど、それでは余りに嘘っぽい。この作家は、そんなことをしたらしこたま地面に叩きつけれられて痛い目に会うという物語を描く。きちんとしている感じがある。多少はご都合主義的な部分もあるけれど、安直な魔法使いのような人物が登場して全てを解決したりしないし、白馬の王子も登場しない。もちろん、キャラクターは感情移入し易いように描かれてはいるけれど。 誰もが答えの見えない人生の中で必死になっている。究極的にはそれだけの物語である。でも、それが心地よい。そして、現実の人生が、如何に無防備な者たちに暴力的であるかということが描かれる。そこには単純な救いはない。 生殖もまた人生の一部である限り、その行為もまた救いではあり得ない。しかし、生殖が生み出し得るもの、生誕、の持つエネルギーの大きさは、迷いを無意味にしてしまう力がある。そのことが説得力を持って描かれる。人生は、迷いとセックスと誕生で成り立っている。
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偏差値のあまり高くない三流公立高校に通う一年生の男子・斉藤卓巳とその同級生や家族の姿を通して、現代の少し狂った世相を描く、5編の読み切り連作短編集だ。 まるでポルノ小説かと見間違うようなエロい描写続きの1作目「ミクマリ」。読み進めるうちに、これは単なるセックス話を主題に掲げた俗っ...
偏差値のあまり高くない三流公立高校に通う一年生の男子・斉藤卓巳とその同級生や家族の姿を通して、現代の少し狂った世相を描く、5編の読み切り連作短編集だ。 まるでポルノ小説かと見間違うようなエロい描写続きの1作目「ミクマリ」。読み進めるうちに、これは単なるセックス話を主題に掲げた俗っぽい小説群ではないと気がついた。特に後半の4作目「セイタカアワダチソウの空」と最後の作品「花粉・受粉」だけならば、間違いなく◎をつけたい作品集だ。(もちろん、連作の短編集だからそんなわけにはいかないのだが、、、) 「ミクマリ」で描かれる高一男子・卓巳と人妻・あんずの変態コスプレ・セックスシーンは衝撃的だ。これが第8回「女による女のためのR-18文学賞」を受賞したというのもうなずける内容。この破綻が約束されたような関係が、その後の作品に効果的に生かされている。
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