ザ・ロード の商品レビュー
大きな何か(核平気だろうか…)が起きて世界が滅んでいる世界で、父と子が生きようと足掻く話。動物も植物も殆ど死に絶えており、残った食べ物などを奪い合ったのであろう、人は互いに殺し合っている。善だ神だなんて言っている場合ではなく、なかには人肉食も行われているケースもあるのだとか。 ...
大きな何か(核平気だろうか…)が起きて世界が滅んでいる世界で、父と子が生きようと足掻く話。動物も植物も殆ど死に絶えており、残った食べ物などを奪い合ったのであろう、人は互いに殺し合っている。善だ神だなんて言っている場合ではなく、なかには人肉食も行われているケースもあるのだとか。 父はそんな世界において、自分の子どもに善を説く。子どもは世界が滅んだ後(ほぼ同時のようだ)に産み落とされ、善がまだしも意味を成していた頃のことは知らない。あくまで父から教え諭されたことにより、読者にとって違和感のない「常識」を持っていることになる。弱っている人がいたら助けてあげようとか、そういうこと。 ただし、それだけでは滅びた世界を生きていけないことも同時に知っている。子は、理想と現実の狭間で苦しむことになるのだ。もちろん、世界が滅びる前……この世界だって、理想と現実という対立は存在するのだが、それが非常に顕著な物語だといえる。 終末と家族というテーマでいうと、多和田葉子『献灯使』を思い出す。3.11を強く意識させる終末世界で、親や祖父世代が子どもに対しての懺悔の気持ちを強く抱いている世界。何か教訓を掬うとすれば、次の世代への責任からあまりにも目を背けてしまった人類への警鐘だろうか。そんな小説だった。 本作では、作者の国がキリスト教圏であることが関係しているのか知らないが、善の気持ちを受け継がせようと奮闘している父の姿が印象的だ。理由の一つとして、息子を健全に育てるという父の義務を己に課すことで、全てを諦めてしまいたい願望から自分を引きはがしているのだと思う。 しかし、善もへったくれもなくなってしまった世界において、子をこうやって育てることに本当に意味はあるのだろうかと、不安になる。生存を第一に考えなければいけない世界で、子の善意は見方によっては邪魔になる。善く生きることを志向して、善意に殺されることもあるだろう。効果的な人の殺し方でも教えておいた方が、生存率は高まるのではないか。もちろん、そうした人の心とでも美称されるような心を失うなら死んだも同然だ、という考えも分からないではないが。 だから、この小説を親子の愛の物語といった切り口では読めなかった。火を運ぶという比喩・名前の示されない父子といった独特の設定からは、物語をパーソナルなものに完結させない、人類の生きる道を描き上げようという意思があるのかなと思った。 なお、メチャクチャ読みにくかった。翻訳が悪いのか原文が悪いのか知らないが、この手の文体の本は二度と読みたくない。
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文明社会が何らかの原因(核戦争?天変地異?)で破壊され、焼き尽くされた後の荒廃した世界。名も無い父子が南へと旅をする。読み取れる情報は断片的で、なぜこうなったのか、どうして旅をしているのか、それを読者が想像する事でより一層この世界の異様さが浮かび上がってくる。希望の見えない父子の...
文明社会が何らかの原因(核戦争?天変地異?)で破壊され、焼き尽くされた後の荒廃した世界。名も無い父子が南へと旅をする。読み取れる情報は断片的で、なぜこうなったのか、どうして旅をしているのか、それを読者が想像する事でより一層この世界の異様さが浮かび上がってくる。希望の見えない父子の旅、失望、絶望を覚えながらも生きるために歩みを進める。なんとか生き延びる。一体何のために?生き延びて何になるのか。そんな中で少年の痛いまでの純真さ。父親は自分の死を悟って、どんな気持ちで息子を見ていたのだろう。ひたすらに暗く、切ない。
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恐らくは、核戦争による世界の破滅後に、僅かに生き残った人間の行動を想定した、絶望の世界の物語である。父と子(廃墟の中で生まれた少年)の儚い旅路。その苦難の果てに待ち構えていたのは、父を亡くした少年の新たな旅立ちだった。〝同じ境遇に置かれたとしたら〟などと、淡い幻想を思い巡らす暇さ...
恐らくは、核戦争による世界の破滅後に、僅かに生き残った人間の行動を想定した、絶望の世界の物語である。父と子(廃墟の中で生まれた少年)の儚い旅路。その苦難の果てに待ち構えていたのは、父を亡くした少年の新たな旅立ちだった。〝同じ境遇に置かれたとしたら〟などと、淡い幻想を思い巡らす暇さえ許されない、恐怖と戦慄のピュリッツア-賞受賞作。
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核戦争か環境破壊のような天変地異が起こり、文明が崩壊した終末世界を描いた作品。 主人公の父親と少年は、冬を越すために南へ向かう。わずかな食料と生活用具を乗せたショッピングカートと残り2発の弾丸が入ったリボルバーだけが父子を守る唯一の所持品。 父子は廃墟になった家屋から食べられ...
核戦争か環境破壊のような天変地異が起こり、文明が崩壊した終末世界を描いた作品。 主人公の父親と少年は、冬を越すために南へ向かう。わずかな食料と生活用具を乗せたショッピングカートと残り2発の弾丸が入ったリボルバーだけが父子を守る唯一の所持品。 父子は廃墟になった家屋から食べられそうな物を物色し、彼らと同じように生き残った者達から身を隠す。彼らに捕まれば、殺されて食われるか。 運が良ければ逃げ切れるかもしれない。 父子は何度も餓死しそうになりながらも南へ向かう。しかし、父は病を患い、長くは生きられないだろう。その時が来たら少年には手順を伝えてある。拳銃を口に咥え、思いっきり引き金を引くのだと。 動植物のほとんどは死に絶え、地上には緑はなく、灰が降り積もる色の死んだ土地が続くばかり。川は涸れ、黒く変色した液体がわずかに流れる。 わずかに残った人間は、お互いの所持品を奪い合い、負けた者は殺されその場で食べられるか、奴隷にされ、生きる食料となる。 父子は、自らを『火を運ぶ、善き者』と自認し、相手の所持品は奪っても、決して殺して人肉は食べない。しかし、父の命はまさに尽きようとしている。 まさに『マッドマックス2』や『北斗の拳』を地で行く小説である。いや、さらに悪い状況かも知れない。これほど酷い状況で生きる人間達を描いた小説は読んだことがなかった。 それでも父子は希望を捨てず、最後まで生きようとする。 自分ならば、ここまでできただろうか、たぶん一人では無理だろう。守るべき家族がいたからこそ、ここまでできるのだ。 ただ、このような世界で生きたいとは思わないし、このような世界に決してこの世界をしてはいけないのだと改めて思う。 この小説はあらゆる人に、特に世界のリーダー達に是非読んでもらいたい。自分の子供や孫にこのような経験をさせたくないのならば。 それにしても、目を覆うようなあまりにも酷い状況を美しい文体で表現するこの文章。さすがアメリカ現代文学の巨匠が、世界の終わりを放浪する父子の姿を描きあげた長篇。ピュリッツァー賞受賞作である。
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怖いです。今、世界の均衡が崩れて世界大戦が起こったら、きっとこうなるな…というリアルな予想図です。 地球環境が破壊され、太陽の光は届かず、一切の動植物が死に絶えた世界で、生き残った人間達が残された食料品や文明の遺物を漁りながらサバイバルを繰り広げている。こんな世界でのサバイバルに...
怖いです。今、世界の均衡が崩れて世界大戦が起こったら、きっとこうなるな…というリアルな予想図です。 地球環境が破壊され、太陽の光は届かず、一切の動植物が死に絶えた世界で、生き残った人間達が残された食料品や文明の遺物を漁りながらサバイバルを繰り広げている。こんな世界でのサバイバルに私は絶対耐えられない……。 多くの人間達がただ生き延びる事に汲々としているなかで、主人公の父と息子は、互いの存在によって何とか理性をつなぎ止めている。正直、未来は明るくない。それでも、地球が人間の破壊の影響から回復して元の状態に戻るまでの間(戻るのかはわからないが)、何としても人間の理性をつなぎ止め、それを継承していくのだ。がんばれ人間。おろかな人間達……。
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"本の雑誌40年の40冊”から。これは素晴らしい。のっけからただひたすら、淡々と父子2人の道中が描かれているだけだし、会話分も全部地続きだし、舞台も荒涼たる新世界だし、ともすれば地味なだけに陥ってしまうかもしれないところ。そこを表現の緻密さとかで緊張感に変換して、かつそ...
"本の雑誌40年の40冊”から。これは素晴らしい。のっけからただひたすら、淡々と父子2人の道中が描かれているだけだし、会話分も全部地続きだし、舞台も荒涼たる新世界だし、ともすれば地味なだけに陥ってしまうかもしれないところ。そこを表現の緻密さとかで緊張感に変換して、かつそれを終始維持することに成功している。漫画や映画と親和性の高い世界観だから、殺伐としているとはいえ、自分の中で映像化しやすいのかも。特に後半とか、結末が気になって仕方なく、途中で止められませんでした。コーマックの他作品たちにも是非触れてみたいです。
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核戦争か何かが起きた世界、灰で覆われ、無政府状態。秩序がなく、食糧や生きるための道具を奪い合う世界。こんな中父と子どもが二人でカートを引きながら、ひたすら歩き続ける物語。こんな状態になったら自分は絶望するだろうか、それとも何か希望を見つけられるだろうか。
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「バーナード嬢」で気になっていて、店頭で見つけた際に購入。 句点がない文体が読みにくかった。 世界がどの程度崩壊しているのか、どこかにまともな人間のコミュニティがあるのかどうか、最後までわからないまま。一応、最後にまともそうな人間に出会ったところで終わるが、息子があとどれくらい生き延びられるのかはわからないままで、ラストをどう受け止めていいものかわからず。 父親がギリギリまで息子のために命を削り続けた姿に静かな感動がある。 ひたすら廃墟の中を進む情景と、破滅途中の断片的なエピソードが、神話的な雰囲気で、終末ものとしてとても良かった。
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機会がなければ読了することはなかったかもしれない。しかし、物語を読み終えた時、読んでよかったと思った。破滅を迎えた世界を父と子が旅する物語。大岡昇平「野火」のシチュエーションやドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」の三男などが読んでいてよぎった。描かれているのは新しい芽生えを否定...
機会がなければ読了することはなかったかもしれない。しかし、物語を読み終えた時、読んでよかったと思った。破滅を迎えた世界を父と子が旅する物語。大岡昇平「野火」のシチュエーションやドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」の三男などが読んでいてよぎった。描かれているのは新しい芽生えを否定された希望のない世界。自然が完全に人にそっぽを向いた世界。もはや何も与えるものがない世界というのは大岡昇平の「野火」よりヒドイ感じがした。丁寧に描かれる世界にある限られたもの。色々な事を考えさせられた。又、色々なことを考えられる場面、世界をこの読書を通してひとつ得た気がする。
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核戦争か何かでの文明崩壊後、分厚い雲に覆われた世界は寒冷化が進行して冬を越せそうにない。 父親と息子は生きるために、ひたすら南を目指す。 道中では人間性を失った人工物の数々、奪い合うために殺し合った痕跡、酷いものばかりしか目に映らない。 「私たちは善い人だ」 そう諭し...
核戦争か何かでの文明崩壊後、分厚い雲に覆われた世界は寒冷化が進行して冬を越せそうにない。 父親と息子は生きるために、ひたすら南を目指す。 道中では人間性を失った人工物の数々、奪い合うために殺し合った痕跡、酷いものばかりしか目に映らない。 「私たちは善い人だ」 そう諭して、息子が目にしたことのない世界の話をして、先へと進む。 "私たちは火を運んでいる"という比喩が度々使われる。 火とはは何かの解釈が解説でも検証されているが、俺はそれを"人間性"だと考える。 幼い子供は世界を知らない。ゆえに純真無垢な存在だ。しかし、物語の世界では稀有な存在だ。 人間性を無くした悪ばかりの世界で、善たる子供は人間性という火を運ぶ。 フッと息を吹きかければ簡単に消えてしまうそれを、喪うことのないよう父親は息子に託す。 果たして父親は善なのか。息子を守るために他人が死につながる行動をすることもある。 父親が火を灯し続けていられたのは、息子に自らの火を移すため。 なれば、ラストシーンで父親はやりきったことになる。 ひたすらに陰鬱な描写が連続し、ひたすら二人が歩き続けるだけの小説だ。 緻密に嫌になるほどに文明崩壊後の世界を細かく書くことで、人間性とは何かを問いかける。
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