ギヴァー の商品レビュー
こうまで既成概念を打ち壊された作品に出会ったことがない。どんなファンタジー作品でも、感覚の受容器といった、生物として当たり前に備わっているものまで揺らぐ表現には出会わなかった。 何もなかったところに記憶が注がれていく様は、不思議なくらい心を揺さぶる何かがある。ギヴァーがお気に入り...
こうまで既成概念を打ち壊された作品に出会ったことがない。どんなファンタジー作品でも、感覚の受容器といった、生物として当たり前に備わっているものまで揺らぐ表現には出会わなかった。 何もなかったところに記憶が注がれていく様は、不思議なくらい心を揺さぶる何かがある。ギヴァーがお気に入りという、おそらくはクリスマスの記憶とその光景に、涙が出た。 ありそうでない、あり得なさそうなところが空想をかきたてる、近未来の姿。読み終わった後にすぐもう一度読み直したくなる一冊。キリスト教圏に生まれ育った人間ならまた別の角度から楽しめるのかもしれない。
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あらゆる危険を排除するために選択された同一化。記憶を引き継ぐ者として徐々に過去の記憶や感情、色彩を得たがゆえに生まれた孤独感や、当たり前としていた社会や家族へ懐疑を抱いていく過程は不気味でもあった。四部作ということで続きも読んでみようと思う。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
95年刊行当時に読んで、めちゃくちゃハマった1冊。 新訳が出ていることを知って購入しました。新訳は新訳で良いけれど、何度も読んだ掛川さんの訳が好き。 すべてが管理されたコミュニティ。自然現象も、人々の人生も、感情も。 最も適した職業を任命され、パートナーを申請すると最も相性の良い異性と家族ユニットを持ち、子どもを申請すると子どもを与えられる。 過去の記憶は持たない。唯一、「記憶を受け継ぐ者」が過去の世界の記憶すべてを、自らの経験として受け継ぎ伝えていく。 いわゆる「ディストピア」もの。突っ込みどころはたくさんある設定なのですがー 「記憶を受け継ぐ者」に任命されたジョナスが、愛情を知り、痛みや悲しみを知り、それらを取り戻さなきゃダメだ!と行動を起こす。その過程が好き。 しかし、とあるレビューで、この世界はこれで上手くいってるんだから、変えなくていいんじゃない?っていうのを読んで、!!?となった。 そ、そうなのか?「画一化」はもう始まっている…? 実際、始まってる感はあるなあ。 でも最近、子育て終わったら「子どものいない大人」たちのユニットに行くのもいいかも…と考えてしまう笑
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なにかの書評でこの本を知って、図書館で陳列されているのにでくわして、何の気なしに読んでみましたが、ラッキーでした。あらすじを事前に知ってたら、こんなに楽しめなかったかも。 主人公が12歳で、いわゆる思春期の少年少女をターゲットに書かれた小説だと思います。だから、ストーリーなど...
なにかの書評でこの本を知って、図書館で陳列されているのにでくわして、何の気なしに読んでみましたが、ラッキーでした。あらすじを事前に知ってたら、こんなに楽しめなかったかも。 主人公が12歳で、いわゆる思春期の少年少女をターゲットに書かれた小説だと思います。だから、ストーリーなどもシンプルにできていて平易。でも、そこにこめられたテーマやメッセージは、中年男性の私が読んでもぐっとくるものがありました。 これを他人にすすめるのに、うまい説明の仕方はわかりませんが、ちょっと他人にすすめたくなる小説ってかんじがします。あと、映像的な描写が多かったので、映画にしたらおもしろいんじゃないかなあと感じました。・・・と思ったら、2015年に映画化されてたんですね。にゃるほど。【2019年3月28日読了】
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YA向けブックガイドから、だったかな。『1984年』系のディストピア小説。平和な風景に見えるけど、どことなく不穏な雰囲気が漂う情景から書き起こされる。次第に、実は感情が欠落した色の無い世界の物語で、没個性的な管理社会の実態が姿を現してくる。感情を伴う記憶を手に入れた主人公は、解放...
YA向けブックガイドから、だったかな。『1984年』系のディストピア小説。平和な風景に見えるけど、どことなく不穏な雰囲気が漂う情景から書き起こされる。次第に、実は感情が欠落した色の無い世界の物語で、没個性的な管理社会の実態が姿を現してくる。感情を伴う記憶を手に入れた主人公は、解放の名の下に平然と殺戮が行われる異常性を認識するに至り、その師と共に、世界からの離脱を図ることとなる。逃亡が抵抗に繋がることも示唆されているから、彼らの選択に保身の様相はうかがえないし、最後に到達する色彩のある世界に安心させられる。
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映画が素晴らしかったから原作も読了。やっぱり原作も面白かったです…。痛みや人々の差異、そして感情を廃し、同一化を徹底させた近未来ディストピア。ジョナスとゲイブがたどり着いた家は幻ではないのか?って映画を見ても考えてしまったので、この謎は続編で解き明かされるのかな。続編も読みます!...
映画が素晴らしかったから原作も読了。やっぱり原作も面白かったです…。痛みや人々の差異、そして感情を廃し、同一化を徹底させた近未来ディストピア。ジョナスとゲイブがたどり着いた家は幻ではないのか?って映画を見ても考えてしまったので、この謎は続編で解き明かされるのかな。続編も読みます!!!
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幸福と自由を両立することは難しい。 この社会では、自由≠幸福である。他人からの強制を受けずに自らの意思に従う権利が自由たるには他人の自由を損なわないよう行動する責任が伴うが、それを叶えられず自由と放縦を混同してしまうことは往々にしてある。放縦は衝突に、衝突は不寛容に、不寛容は紛争...
幸福と自由を両立することは難しい。 この社会では、自由≠幸福である。他人からの強制を受けずに自らの意思に従う権利が自由たるには他人の自由を損なわないよう行動する責任が伴うが、それを叶えられず自由と放縦を混同してしまうことは往々にしてある。放縦は衝突に、衝突は不寛容に、不寛容は紛争へと形を変えてしまい、苦しみをやがてもたらしてしまう、こうした状況を避けるため、一切の自由を国民から奪う、という結論に至ったのがこのコミュニティなのだ。争いの根本的な原因を取り除くため、その発生源たるものすべてを破壊する、という状況は、極論ではあるが、その目指すゴールは人間の幸福を願うというある種優しさから出発したもので、だけれどその優しさから出発したゴールを達成するには、記憶を受け継ぐジョナスの苦しみをどうしても要するのであって、不幸が幸福の構成要素になってしまうのだな(それが不幸なのかは一言では片付けられないけれど)、とやるせなさを噛み締めながら読み進めた。ルールがきちんと規律であり、自由が放縦とならない世界は、色も感情も人間としての要素の一切合切を取り除いたシステムでしか可能たり得ないのだろうか。人の置かれた政治・経済・宗教なりなんらかの要素によって幸福の定義は変わるものだけれど、人を慈しんで、色彩豊かな世界に自らの自由を謳歌できるという状況は、やはりそれ自体幸福である。その幸福を守り、受け継いでゆくには、享受した自由を自由のまままた守ることでしか達成できない、のかもしれない。
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児童向け文学とはとても思えない、良質で重厚なディストピア小説だと感じた。映画化したら面白いと思ったが、やはりされている模様。「わたしを離さないで」に通じる、真実が隠された閉塞感と、合理化と平和を目指すための徹底的な管理社会が緻密に描かれており、設定が明らかになっていく様子は鬼気迫...
児童向け文学とはとても思えない、良質で重厚なディストピア小説だと感じた。映画化したら面白いと思ったが、やはりされている模様。「わたしを離さないで」に通じる、真実が隠された閉塞感と、合理化と平和を目指すための徹底的な管理社会が緻密に描かれており、設定が明らかになっていく様子は鬼気迫り、読んでいて惹きつけられる。 主人公である少年の住む地域では、子供達は11歳までは完全に平等な思想・教育の元で育てられ、12歳の年とともに首長達の選別した職に応じたコースへと別れていく。 しかし、その背景にある目的は我々の価値観とは大きく異なっていることが段々と明らかになる。 ディストピアには、一見するとユートピアに見えるが、その中には全く個人の自由や選択が無いタイプがあるが、本作はそちらに当てはまる。ディストピアものが好きな人には迷わずおすすめする必読の一冊。3部作となっているらしいが、残り二冊が邦訳されていないのが信じられない…。
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2017/02/26 やはり神作品だった。 一方で、コミュニティが〈解放〉をどう扱うかについての記述が矛盾している気がしなくもない。
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SF的な設定であるものの、かなりリアリティのある物語だと思いました。排他的なコミュニティは実在しますから。記憶を注ぐというとんでもない重要な役目を担った少年の葛藤。何年か前に読みましたが、もう再読した一冊。ラストのシーンが良かった。
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