玻璃の天 の商品レビュー
短編が繋がって少しずつ全体の話が進んでいく。 戦争の始まる前の不穏な雰囲気がちょっと今の時代とリンクするような感じでざわざわする。 別宮さんの背景が少し明らかになるお話。
Posted by
お嬢様と女性運転手の知的なやりとりが、事件解決になっていくのが面白い。昭和初期という時代の背景も、とても興味深かった。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
シリーズ第二作。「幻の橋」「想夫恋」「玻璃の天」の三編の連作短編。時代が昭和初期なので、後の時代を知っている者だからか、段々と不穏な空気がひたひたと迫ってくるのを感じる。 学習院(と思われる学校)に通う令嬢、花村英子と彼女の女性運転手、別宮みつ子をワトソンとホームズにしたような小説。時代背景が現代ではないので、基礎となる知識が現代とは違っていて、物語を読みながら、自分なりに調べながら読んだ。そうしたくなるような本だ。 戦争の気配が濃くなる中でも、学生が「うれー」(嬉しい)「すてー」(素敵)のような流行り言葉を使うのが、微笑ましく、可愛らしい。 「幻の橋」は英子の同級生の恋のお話。英子は満14歳ということだが、昔の女性のお輿入れは早かったのだなあ、と痛感する。シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」も10代の話だった。この短編に出てくる月岡芳年の画集を持っていたので、見てみた。芳年が好きな私は、この絵が発禁になったことがある、ということは芳年に原因があるのか(妊婦の逆さづりとか描いているし)と思っていた。しかし調べてみたら、天皇の出自に関すること(大正天皇の母になるのだが、大正天皇に疾患があることの原因を生母にもとめたらしい)で発禁になったのか、と驚いた。美人と名高い柳原白蓮の叔母にあたる方である。 「想夫恋」は英子が積極的に友人を作り、その交流を中心に描いた短編と思いきや…。これもYouTubeで「想夫恋」を聞いてみた。 この短編で心惹かれたのは「例えば、《あたし達》という存在は、小は家庭から、大は国家、そして世界に囲まれている。そこに映る自分を、どのように見つめるかは、大変に難しいことだろう。」という部分。これは現代でも同じではないだろうか。 「玻璃の天」で別宮さんの正体がわかることになる。「幻の橋」で桐原勝久様が別宮さんに「あなたに、ドアを開けさせはしませんでしたよ」と言った意味が分かる。 また与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」の歌の解釈について英子と兄で話すシーンがある。自分の解釈の仕方が全く通り一遍で別の角度から見たら、ということが想像できずにいたことが、「なんて残念な自分…」と思ってしまった。確かに軍隊にいる弟にとって、戦意高揚しようとしている国で自分の姉が上記のような歌を詠んだら、弟の軍隊での居心地が良いものになろうはずがない。 お料理の描写も多く、資生堂パーラーでのお食事の場面は、銀座に行ってしまいたくなる。 本当に北村薫は何度でも読みたくなる。次は直木賞の「鷺と雪」だ。
Posted by
なつかしき昭和」と言ってもこの本の「昭和」はわたしの生まれるちょっと前の時代。 昭和8年から11年まで。 北村薫著三部作『街の灯』『玻璃の天』『鷺と雪』 ああそうだったのね~ わたしのまわりの昭和ひとケタ生まれ人たちが懐かしがって、描写してくれる情景(もちろんひとにぎりの恵...
なつかしき昭和」と言ってもこの本の「昭和」はわたしの生まれるちょっと前の時代。 昭和8年から11年まで。 北村薫著三部作『街の灯』『玻璃の天』『鷺と雪』 ああそうだったのね~ わたしのまわりの昭和ひとケタ生まれ人たちが懐かしがって、描写してくれる情景(もちろんひとにぎりの恵まれたひとたちだと思う)が目に浮かんだ。 戦争の足音がすれどまだまだ文化もモノも乏しくなっていない時代 恵まれたヒロイン社長令嬢がお抱え運転手(主人公の友となる当時珍しい女性というのがこの本のミソ) 運転する車で通っているその学校で、お友達の華族令嬢たちと繰り広げる日常、成長していく姿。 また 関東大震災で被害を受けた銀座が復興していく様子、服部の時計台や教文館のビルが出来ていくのが描かれてあってわたしにはおもしろい。 北村氏の作品であるから、ミステリーと文学がふんだんに組み込まれ楽しませてもくれた。 わたしはちょっと僻んでいた。 戦争が終わって何もない時代に成長したので、いい時代の話は眉唾、ほんとう?と思ってもいたのだが。 つかの間でも文化があり、生活の楽しみもゆとりもあるという時代もあったのだな~、描かれてみるとノスタルジーにしてもいいものでもある。 もちろん背景には忍び寄る閉塞感、残酷な仕打ちが襲ってきて喘いでいる人々もいたわけである。 むしろ、そういう人々に乗っかって安逸に(だけ、とは思わないが)暮らしていた人々もいたのであった。
Posted by
ベッキーさんシリーズの第2弾。第1弾の『街の灯』は、2003年に本格ミステリ・マスターズの1冊として出たときに買っていた。マスターズは京極夏彦さんの装丁だが、本書はマスターズではなく、当然、装丁に連続性はない。なんだかそれが業腹で、ついつい読まずにここまできてしまった。 丁寧な筆...
ベッキーさんシリーズの第2弾。第1弾の『街の灯』は、2003年に本格ミステリ・マスターズの1冊として出たときに買っていた。マスターズは京極夏彦さんの装丁だが、本書はマスターズではなく、当然、装丁に連続性はない。なんだかそれが業腹で、ついつい読まずにここまできてしまった。 丁寧な筆致が見事に昭和初期の情景を浮かび上がらせる。円紫さんシリーズの「わたし」が本シリーズの「わたし」にも重なる。短編なので、独立して読めるが、所々に物語に通底する伏線が張られている。おそらく未読のシリーズ完結篇に連なるものが、この時点で北村さんの頭の中にはできていたのだろう。 「幻の橋」でベッキーさんが口にする『漢書』の一節、善く敗るる者は亡びず。昨今の情勢を見るに噛みしめたい言葉。
Posted by
「ベッキーさんシリーズ」第2弾。 「街の灯」から1年が経ち、時は昭和8年、時代はますますきな臭くなり、戦争の影がひたひたと押し寄せる。そんな暗さを通奏低音のように含みながら進む3つの中編。 「幻の橋」では、明治来犬猿の仲だった両家の手打ちの場で起きた浮世絵喪失の謎を、「想夫恋」...
「ベッキーさんシリーズ」第2弾。 「街の灯」から1年が経ち、時は昭和8年、時代はますますきな臭くなり、戦争の影がひたひたと押し寄せる。そんな暗さを通奏低音のように含みながら進む3つの中編。 「幻の橋」では、明治来犬猿の仲だった両家の手打ちの場で起きた浮世絵喪失の謎を、「想夫恋」では、残された手紙の暗号を解き失踪した学友の行方を、「玻璃の天」では、ステンドグラスの天窓から転落死した男の死の真相を英子とベッキーさんが解き明かす。その過程で明らかになるベッキーさんの正体。 前作では邪気もなく上流階級の生活を謳歌していた英子も、折あるごとに正義とは、国家とは、大義とはということを真剣に考える。 中でもパーティーで知り合った若き少尉とのバルコニーでのやり取りは圧巻。15歳の少女が軍人相手にここまで堂々と自分の考えを展開できることに驚くとともに、若い二人の今後の関係にひそかに胸がときめく。 英子と月岡少尉、ベッキーさんと思想家、終盤での英子、ベッキーさんと乾原のやり取りなど、緊張感あふれる言葉の戦いは、このあと訪れる暗い歴史を知っているからこそ、その一言一言が胸を抉る。 「金魚鉢の中にいる金魚には、鉢の水が見えないものだろう。どのような水の中にいるのか――その判断は、時か所を隔てないと、普通は出来ないし、それ以上に、することを許されない。許されないのが、我々の知る国家というものだ。 百年経ち、千年経った時、人の知恵は、そういう国家のあり方を少しは変えられるのだろうか。」 英子の質問に私たちはどう答えればいいのだろう・・・ 次はいよいよ2.26事件の年。クライマックスです。
Posted by
「ベッキーさんが何者か」明らかになってしまったことがちょっと寂しい。 前作よりも時代のうねりが現れて、お馴染みの名作文学からの引用も徐々に重厚な内容となってきた。 若月という青年将校が登場して、がぜん史上有名なあの事件の香りが漂い始めた。 三部作の二作目はややつまらなくなると...
「ベッキーさんが何者か」明らかになってしまったことがちょっと寂しい。 前作よりも時代のうねりが現れて、お馴染みの名作文学からの引用も徐々に重厚な内容となってきた。 若月という青年将校が登場して、がぜん史上有名なあの事件の香りが漂い始めた。 三部作の二作目はややつまらなくなるところ、各エピソード自体の面白さが光り、結構夢中になる。
Posted by
お嬢様と別宮(ベッキー)さん、どちらもしっかり教養と自分の考えを持っていて素敵だった。 ユーモアもあって面白かった。 ミステリーとしても面白かった
Posted by
主人公の英子も15歳になり、周りが結婚やら戦争やら社会情勢が大人な感じになってきた。平和だった一巻と比べて、だんだん暗い予感が漂ってくる。何も知らないお嬢様のままではいられないんだな ずっと謎多きベッキーさんの正体が分かった巻。 それにしても、花岡家の両親の頭が柔軟なこと、娘の...
主人公の英子も15歳になり、周りが結婚やら戦争やら社会情勢が大人な感じになってきた。平和だった一巻と比べて、だんだん暗い予感が漂ってくる。何も知らないお嬢様のままではいられないんだな ずっと謎多きベッキーさんの正体が分かった巻。 それにしても、花岡家の両親の頭が柔軟なこと、娘のことをよく思っていること、下々への心遣いができること。
Posted by
読了日2010/03 ミステリーとしては物足りないけど、現代では失われてしまったこの時代の日本の文化の描写は面白い。 昭和初期の上流階級の生活。日本語の美しさ。 子供たちに読んでほしいミステリです。
Posted by