犬の力(上) の商品レビュー
アメリカとメキシコの混血捜査官アートは、職場での不遇を跳ね返さんと麻薬組織の殲滅に乗り出す。 されどアートが手を組んだ男は彼を手駒として敵を葬り、我こそが次代の黒幕として市場を手中におさめ悪徳の利潤を貪り始める。 自らがもたらした惨劇を購うべく麻薬カルテル撲滅に執念を燃やすアート...
アメリカとメキシコの混血捜査官アートは、職場での不遇を跳ね返さんと麻薬組織の殲滅に乗り出す。 されどアートが手を組んだ男は彼を手駒として敵を葬り、我こそが次代の黒幕として市場を手中におさめ悪徳の利潤を貪り始める。 自らがもたらした惨劇を購うべく麻薬カルテル撲滅に執念を燃やすアート。 しかしアートのよき仲間を襲った酸鼻な悲劇が、正義と神を信じる一人の男を復讐の鬼へと変えていく。 この話では十数人もの人間の人生模様が時を経て交錯する。 麻薬カルテルを独占する黒幕「叔父貴」、叔父を手伝いめきめき頭角を表わしていく知謀のアダンと暴力担当ラウルの兄弟、美貌の娼婦ノーラ、ヘルズキッチン育ちの殺し屋カラン、型破りながら真実の意味で人々を救済し続けるファン神父。 それら強烈な個性を持つ登場人物たちが好む好まざるに関わらず巻き込まれて行くのは三十年にわたる壮絶な麻薬戦争、犯罪組織の対立、政府の謀略。 プロローグから衝撃的。 作者の筆が紡ぎだすのは残虐無比、悪辣非道の極地でありながらすべてが終わってしまった後の虚無と神聖さを漂わせる虐殺の現場。 終わってしまった悲劇に立ち会うアートの悲哀、哀悼の念に隠れた身を切るような後悔が切々と伝わるだけに、どうしてこの悲劇は防げなかったのか、「不可避」で「予定調和」の悲劇のひとつとして処理されねばならなかったのかぐっと関心を引く。 ジャンルで分類するならピカレスク、ノワール、ハードボイルドとなるのだろう。上質の裏社会小説である。 同時にミステリー的な仕掛けが縦横に張り巡らされている。あの伏線がここで繋がるのか、あの人物がここで出てくるのか、まさかあの人物とこの人物が繋がってたなんてという驚きが随所にちりばめられている。 ある時は捜査官のある時は娼婦のある時は殺し屋の視点によって、場所さえ超越しさまざまな角度から語られる物語はしかしその根の部分で確かに繋がっている。 ある人物が起こした行動がどのように周囲に波及し影響をもたらすかが鮮明に描き出され、もしあの時ふたりが出会っていなかったら、あのふたりが別れてさえいなければ、無粋な邪魔が入らず結ばれていたらといくつもの「もしも」が浮かんでしまう。 犬の力。 おそらくは読者もそれに取り憑かれている。 悪意と謀略と犯罪が渦巻く地獄において、様々な人物が交錯し描き出すドラマに魅入られる。 謀略に次ぐ謀略で形勢は二転三転、誰が味方で敵か時々見失いそうになる。 ラスト、念願かなって仇敵とあいまみえたアートが怒りの拳を振るいつつ叫んだ台詞が胸に刺さる。
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恩田陸「蜜蜂と遠雷」以降なかなか長編小説に入っていけない状態が続いていた。この小説もまずメキシカンの名前になれるまでに時間がかかってしまった。ニューヨークのギャングの場面あたりでようやくエンジンがかかり何とか上巻を読み切った。でもすぐには下巻に手が伸びない。まだ恩田陸リハビリ中か...
恩田陸「蜜蜂と遠雷」以降なかなか長編小説に入っていけない状態が続いていた。この小説もまずメキシカンの名前になれるまでに時間がかかってしまった。ニューヨークのギャングの場面あたりでようやくエンジンがかかり何とか上巻を読み切った。でもすぐには下巻に手が伸びない。まだ恩田陸リハビリ中かな。
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30年に渡る麻薬戦争の話。 マフィア側にもそれぞれ綿密にストーリーが描かれており、ついつい感情移入してしまう。 そして麻薬捜査官である主人公アーサーもやはり聖人君子ではなく人間味溢れる人物。 壮大なスケールで読みごたえあり面白かった。
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メキシコを舞台とした麻薬戦争をテーマにした犯罪ミステリー、著者ドン・ウィンズロウの代表作。 メキシコの麻薬問題が米国内でも政治、社会問題として取り上げられることも多く、以前より気になっていたテーマでもあったので、興味深く読む進めることができた。 そして、この麻薬問題には、米国の政...
メキシコを舞台とした麻薬戦争をテーマにした犯罪ミステリー、著者ドン・ウィンズロウの代表作。 メキシコの麻薬問題が米国内でも政治、社会問題として取り上げられることも多く、以前より気になっていたテーマでもあったので、興味深く読む進めることができた。 そして、この麻薬問題には、米国の政治的介入、左翼運動、宗教問題(含むバチカン)、マネーロンダリング等々、様々な背景が絡み合っていて、麻薬問題はまさに氷山の一角なのだ。 ストーリーの構成、詳細な描写等、実話に沿った内容であることは間違いなさそう。 ストーリーの根幹は、麻薬撲滅に使命を燃やす捜査官(主人公)と麻薬王との麻薬戦争であり、勧善懲悪的な要素も入っている。 舞台はメキシコだけでなく、ニューヨークのマフィア等も登場し、登場人物も多いのだが、その人間関係が思わぬところで繋がり、ストーリーの展開を豊かにしている。 凄惨なシーンの描写もあり、拒絶反応を起こす読者もいるのだろうが、それも裏社会の生々しさを醸し出す効果を出している。 ストーリーが劇的で登場人物の人間味溢れる部分も巧く出しているので、映画向きだと思っていたら、実際、監督にリドリー・スコット、主演にレオナルド・ディカプリオでの映画化が進んでいるらしい。 下巻も期待。
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12月-11。3.5点。 メキシコの麻薬戦争。刑事と、密売組織のドンを中心に。 20年にわたる物語。あっという間に読める。 下巻も期待。
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南米に(限らずですが)蔓延る麻薬の問題というものはニュースで聞く事はあってもあまり現実感はありませんでした。 この作品には麻薬の温床とその根源、それに関わる人々のドラマが描かれていますが、その圧倒的なリアリティに戦慄してしまいます。 凄惨な抗争や拷問のシーンは思わずページから目...
南米に(限らずですが)蔓延る麻薬の問題というものはニュースで聞く事はあってもあまり現実感はありませんでした。 この作品には麻薬の温床とその根源、それに関わる人々のドラマが描かれていますが、その圧倒的なリアリティに戦慄してしまいます。 凄惨な抗争や拷問のシーンは思わずページから目を逸らしたくなるほどですが、作品を通して麻薬問題の根治の難しさを思い知らされました。南米各国の指導者の多くは常にこうした問題と向き合っていかなければならないのでしょう。 長編ながら緊張感が途切れることなく続くので、読者には相応のスタミナが求められると思います。
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※このレビューにはネタバレを含みます
麻薬、暴力、金、娼婦、尋問、銃殺、復讐、謀略、騙し合い、裏切り。。。 一瞬たりとも気を抜けない緊張感に満ちた 映画ゴッドファーザー的な猛り狂った荒々しい展開に、ひりつく恐怖を存分に味わえる。 「叔父貴(テイオ)」ことミゲル・バレーラの甥アダンが尋問されるシーンでぞっとしていたら、アート部下の尋問シーンはすさまじく、読み手のこちらが気絶しそうな壮絶さ。 メキシコ地震で被災したノーラがパラーダ神父と出会う話でほっとできたのもつかの間で、良家の子息から殺人者に変貌したファビアンの残虐さに背筋が凍った。 主要人物が多く、その主要人物に応じた脇役も多い上、通称もあるので誰のことだか読み分けるのが大変、かつ、メキシコや南米の地名になじみがなかったので地図を片手に位置関係を確認しながら紐解く。 飛ばし読みを許さない、ぎっしりと中身が詰まった作品で、上巻は読破するのに3日もかかってしまった。 久々に読みごたえがある作品に出会え、読書好きにはたまらないが、軽い気持ちでは読破できない長篇大作なので、下巻を開く前に精読に足る時間とエネルギーを確保し、覚悟がもって挑まねば!
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※このレビューにはネタバレを含みます
以前、この作品は読んでいてあまりにも面白かったから以後、ウィンズロウの作品はかなり読んで、その中では「フランキーマシーン~」の出来が良いが、それでもこの作品はしのげない。 麻薬カルテルでのし上がる兄弟、殺し屋、捜査官、高級コールガール、清濁を併せ呑む司教、その他あまたの登場人物が蜘蛛の巣の様に複雑な人間関係を描きながら物語が進む。 しかもそれが数十年にわたる物語であると同時に、麻薬戦争、そしてそれと切っても切れない反共の戦いまでもが精緻に描きこまれて、さながらドラッグ全史の様相もある。 通常、まったくうかがい知れない世界で、その闇の深さは想像を絶する。しかもここに描かれた多くの事は絵空事ではなく、今もなお起きつつある話であるだけに恐ろしい。 重厚なストーリーに史実が幾重にも描きこまれ、陰影豊かなキャラが生死をかけたアンサンブルを奏で、残酷なラストで1巻は終わる。
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DEA捜査官のアートは派遣先のメキシコで干されたような存在だった。たまたま知り合ったアダンとラウル兄弟に地元の実力者叔父貴ミゲルを紹介され、次々と手柄を上げる。そしてその情報で大規模な麻薬農場壊滅作戦を繰り広げた時、アートは自分が利用され、結果的に新たな麻薬カルテルを作ることに手...
DEA捜査官のアートは派遣先のメキシコで干されたような存在だった。たまたま知り合ったアダンとラウル兄弟に地元の実力者叔父貴ミゲルを紹介され、次々と手柄を上げる。そしてその情報で大規模な麻薬農場壊滅作戦を繰り広げた時、アートは自分が利用され、結果的に新たな麻薬カルテルを作ることに手を貸したことを知る。ミゲルと手を切ったアートは政府の意向も無視して孤独な戦いを続ける。そんな中部下を誘拐、殺害され家族も捨て復讐に走るアートは組織の中に内部抗争を起こすことに成功する。
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ミステリーというよりは政治がらみのバイオレンス。 メキシコを舞台とした麻薬戦争のことなのだけど、20年間にも渡る人間ドラマ。上はあっという間。
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