マイナス・ゼロ 改訂新版 の商品レビュー
伊沢啓子は学者である養父が発明したタイムマシンで戦時中の昭和20年から昭和38年に送られ戦禍を免れる。しかし、啓子の養父は空襲で亡くなり隣人の浜田俊夫に死を看取られる。浜田俊夫は自分が死を看取ることとなった隣人の学者の遺言に従い、18年後に同じ場所を訪れる。そこで、浜田は18年前...
伊沢啓子は学者である養父が発明したタイムマシンで戦時中の昭和20年から昭和38年に送られ戦禍を免れる。しかし、啓子の養父は空襲で亡くなり隣人の浜田俊夫に死を看取られる。浜田俊夫は自分が死を看取ることとなった隣人の学者の遺言に従い、18年後に同じ場所を訪れる。そこで、浜田は18年前の世界からタイムトリップしてきた啓子と出会う。ところが18年ぶりの再会も束の間、浜田俊夫は伊沢啓子の乗って来たタイムマシンで自分がこの世に生を受けたのと同じ昭和7年に送られてしまう。 このように複雑なストーリーが歴史的事実と並行して展開する。昭和初期の人々の生活の様子を再構築しつつ、論理的破綻なく驚愕のエンディングへと読者を導く。刊行された昭和52年(1977年)当時としては間違いなく斬新なSF小説と言えるだろう。元の世界に戻ることが出来なくなった伊沢啓子と浜田俊夫の反応や運命を受け入れていく過程も自然で共感できる。 作中、正岡子規に縁のある豆富料理店『笹乃雪』(台東区根岸)が登場する。「気ままに和情緒スポット」でも紹介したい老舗店である。そういえば本日9月19日は正岡子規忌でもある。
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かなり前からワタシのウィッシュリストにありながら手を出していなかった一冊が、往来堂書店「D坂文庫 2013夏」にリストアップされていたので、即買い。 SF長編の金字塔とも言われているだけあって、極上の一冊。タイムトラベルものについて回る「歴史を変えてしまうのでは?」という疑問をう...
かなり前からワタシのウィッシュリストにありながら手を出していなかった一冊が、往来堂書店「D坂文庫 2013夏」にリストアップされていたので、即買い。 SF長編の金字塔とも言われているだけあって、極上の一冊。タイムトラベルものについて回る「歴史を変えてしまうのでは?」という疑問をうまくクリアしてエンディングにつなげてゆく流れは唸るしかない。先週睡眠不足に陥り、昼間の集中力が落ちたのは他でもないこの一冊のせいだ。 この長編がこれだけ支持されるのは、単なるSFものではないからだろう。戦前の日本の様子や、そこに生きる市井の人たちの人情の厚さを描いた歴史文学作品の味付けが、この長編の価値を上げ、読者の間口を広げていると思う。
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面白かった!伏線を回収して行くのが気持ちいい。映画化するなら主人公は高橋一生、若い頃の伊沢啓子は吉岡里帆、カシラは大泉洋。
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タイムトラベル、タイムパラドックスもの。 ちょっとしたミスや小道具が、結末で色々噛み合って爽快感があった。人物が行ったり来たりでそういうことか!と思うことばかり。 17歳の少女なのに急に夫婦っぽくなってしまったりタバコ好きだったり昭和感も残っているけれど、やはりSF好きの人の中で...
タイムトラベル、タイムパラドックスもの。 ちょっとしたミスや小道具が、結末で色々噛み合って爽快感があった。人物が行ったり来たりでそういうことか!と思うことばかり。 17歳の少女なのに急に夫婦っぽくなってしまったりタバコ好きだったり昭和感も残っているけれど、やはりSF好きの人の中では名作と呼ばれるだけあります。タイムトラベルとは別の要素で、昭和初期の下町の庶民の家族の雰囲気が生き生きと伝わってくることも大きな魅力。
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単に時間ものSFの傑作というだけでなく、戦前の街の描写が素晴らしいので登場人物がリアルに感じられます。 その時代の街には行ったこともないのに、何だか住み慣れた街のように感じてくるのが不思議です(笑) 技術的な話に終始していなくて、人間模様もちゃんと描かれているので本の中の世界にど...
単に時間ものSFの傑作というだけでなく、戦前の街の描写が素晴らしいので登場人物がリアルに感じられます。 その時代の街には行ったこともないのに、何だか住み慣れた街のように感じてくるのが不思議です(笑) 技術的な話に終始していなくて、人間模様もちゃんと描かれているので本の中の世界にどっぷり浸かれると思います。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ママは自分の母親で、自分の娘だった。つまり結末はこれなんだが、これをタイムマシンを使ってどう合理的説明が出来たかが、この本のキモなんだが、私的には退屈で最後の落ちを結局先にみてしまった。まさに読者としては最悪な読者だが、一応結論を知ってから読んでも、いいじゃないかと思うんだよな。元々この話自体に合理性があるかどうかを調べながら読まないと、今一つ最後まで読んでも首ひねるのじゃないかと。だからネタバレでも、先に結論知っててもいいと思うよ。私的には。
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タイムトラベルものの傑作という話を聞いて読んでみたのだけれど、そう言われるだけのことはある。 初出が1965年と50年以上前に連載された小説にも関わらず、仕掛けと描写の巧さ、エンターテインメント性が全く色褪せていない。実に鮮やか。 本筋とは関係ない(むしろこっちが本筋か?)昭和...
タイムトラベルものの傑作という話を聞いて読んでみたのだけれど、そう言われるだけのことはある。 初出が1965年と50年以上前に連載された小説にも関わらず、仕掛けと描写の巧さ、エンターテインメント性が全く色褪せていない。実に鮮やか。 本筋とは関係ない(むしろこっちが本筋か?)昭和初期の描写も読んでいて面白い。 当然自分は昭和初期など経験したことなど無いはずなのに、なぜか妙にノスタルジックな気分になった。 最後の仕掛けを認められるかどうかで結構評価が変わるのかも。
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これ、50年前の本!?小説というのは時期は関係ないのだと驚かされた。途中からページが止まらなくなった。あの人がこの時代に行って、この人がああなって。。想像が止まらない。 レイコさんはなぜあんなに理解できていたのか。続編はないのか。と期待してしまったが、もう作者は故人。素晴らしい本...
これ、50年前の本!?小説というのは時期は関係ないのだと驚かされた。途中からページが止まらなくなった。あの人がこの時代に行って、この人がああなって。。想像が止まらない。 レイコさんはなぜあんなに理解できていたのか。続編はないのか。と期待してしまったが、もう作者は故人。素晴らしい本だった。娘の中学校のオススメの1つ。
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間がだいぶ空いたので途中の内容がよく思い出せないが、後半にやっと、ああこのひとがこのひとっていうことねとわかった。
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タイムスリップと言うと、私なんかが思い浮かべるのは戦国時代に飛ばされて教科書で見た大名に出会ったりとか、歴史的大事件の一幕に関わって誰かの命を救うため奔走したりだとか、そういうたぐいのものなのですが。 この作品の主人公が舞い降りるのは常に『その時代の何の変哲もない日常の間』であ...
タイムスリップと言うと、私なんかが思い浮かべるのは戦国時代に飛ばされて教科書で見た大名に出会ったりとか、歴史的大事件の一幕に関わって誰かの命を救うため奔走したりだとか、そういうたぐいのものなのですが。 この作品の主人公が舞い降りるのは常に『その時代の何の変哲もない日常の間』であり、彼が成そうとすることも「何かを変えよう、誰かを救おう、帰る方法を見つけよう」ではなく『この時代の人間として日々を暮らしていこう』ということです。 派手な事件を取り上げていない分、その時代の情報がとても細かく詳しく描写されていて、昭和好きにはたまりません。 そして、そうやって淡々と積み重ねられてたどり着く先、全ての伏線が回収されて腑に落ちるカタルシスたるや素晴らしいです。 何気なく読み飛ばしていた部分をもう一度遡って読みなおす、そんな瞬間が何回あっただろうか。 日々訪れる無数の茶飯事と時間旅行の妙を恐ろしくきっちり書き上げた読み応えたっぷりの小説です。
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