虚夢 の商品レビュー

薬丸岳【著】

2010/04/26

単純に話の内容の出来具合は天使のナイフの方が面白かったと思うけどこちらもなかなかの作品だと思う。
最後のキャバクラ嬢、ユキの過去はあまりいらなかった気もしたけど。

以下ネタバレ

ユキが障害児の弟のことでつらい日々を送っていて手にかけてしまったことは分かる気はするけれど、そういった事情があれば精神疾患を患っていたし同情できる。
そんな思いを抱かせてしまいそう。
起こった事件の背景ももちろん重要ではあるけれどユキの事件を読者にどうとらえて欲しかったのか分からないなぁ。

ラストはちょっと先が見えた気もしたけど、『やっぱり！』と言うより、『やっぱり…』という感じ（分かりにくいですね～/苦笑）
佐和子に同情（共感）してしうからこそ佐和子の気持ちが分かり、切ない…
もし佐和子の計画が上手くいったら世の中の法律は変わるのだろうか？

罪を憎んで人を憎まず
…けれどもし自分の子どもが殺されてしまったら病気が起こしたことと分かってても許せないんではないかと思う…。

法が守ってくれるのはいったい何なんなのか前作の少年法同様深く考えさせられる作品だと思う。
裁判員制度でたぶん出会う問題であり、けっして他人事ではないのではないかと思ったわ…

2011/09/28

通り魔事件で娘を失った。犯人は精神を患っており、心神喪失という事で罪に問われる事は無かった。４年後、犯人と同じ病気の元妻がその男を見たという。それは幻か、現か。主人公の思いをどのように昇華させるのかというのも見所。このテーマを描く事で池に石が投げ込まれた。そして著者は、読者に消えないシミの様なものを残していく。この表紙よく見ると雪です。

2010/02/09

「総合失調症」という精神の病が軸となった事件に、少しのミステリ要素を足した物語は、著者の読みやすい文章も手伝って、一気読み。

やり場の無い怒りの矛先を、どこへ、誰へと向ければ良いのか。加害者は「総合失調症」だったという理由ひとつで、裁判にさえかけられない。被害者側の苦悩がひしひしと伝わって来ます。それと同時に「総合失調症」という病についても知ることが出来、読んでいる間中、ずっと胸がモヤモヤとしていました。

それぞれの精神科医によって意見が食い違うのは何故か。「総合失調症」と判断する基準は何なのか。薬丸氏の著書を読み終わった後には必ず、たくさんの疑問が残ります。そして、いつまで経ってもその答えが明確に出ることは無いのだけれど、それでも読んで良かったと思えるのです。

2010/01/29

刑法39条問題というのはよく話題になります。被害者の側からすると怒りのやり場すらなく、やりきれないことでしょう。……というのは想像がつきましたが。
これを読むと、心神喪失が詐病ではなかった場合、加害者側もかなりつらいんじゃないかと。加害者側の心理が描かれていると、そうも思わされてしまいました。もちろんそれで良いわけじゃないけれど、誰が悪いと言うのも一概に言えないのかなあ、と。あの人が病んでいた、というのも意外でしたしね。精神的な問題が原因で裁かれずに放置されることって、実は本人のためにもよくないのかもしれません。
現代の世の中、病んでいる人は非常に多いのだと思いますが。願わくはこんな事件があまり起こってほしくはないものです……。被害者も犯人も、誰も救われませんよね。

2010/01/26

この人の作品はどれも犯罪被害者遺族の辛くやるせない思いが詰まっていて、考えさせられることが多いですが、最初の「天使のナイフ」が一番良かったように思います。較べてこれはちょっと弱いかな、という感じです。
心神喪失者の犯罪を扱ったものでは、永井泰宇さんの「３９」が印象に強く残っていて、これを読んでいてもつい連想してしまいました。

2009/11/26

統合失調症、という病気の深さが現れている作品。
兄が同じ病気な為、決して他人事ではない。
やはり理解されにくい病なのだ、と感じる。途中で涙が零れてきた。
当たり前だけどこの病気の人が全員犯罪者になるわけじゃない。
だって現に兄はとても優しい。

2009/11/11

子を持つ親にとって、この小説の序章は痛ましくて読み進めるのが辛かった。通り魔殺人犯が統合失調症であり、犯行当時責任能力なし。そして不起訴となる。現実にもよく聞かれ、聞くたびにやりきれなさを感じることだが、当事者となってみたら佐和子のような道を辿るかもしれない。佐和子は一度殺されたも同然なのだ。もう何だって出来るだろう。そしてゆきは、藤崎とはまた別の意味でこの問題の根深さを象徴する存在だと思った。

2009/10/04

愛娘を奪い去った通り魔事件の犯人は「心神喪失」で罪に問われなかった。運命を大きく狂わされた夫婦はついに離婚するが、事件から4年後、元妻が街で偶然すれ違ったのは、忘れもしない「あの男」だった。

2010/08/16

「天使のナイフ」の少年犯罪に対し、こちらは精神病犯罪者。誰がどこまで病であるのかわからなくて、途中ぞわりとしたものすら感じた。誰も悪くないとかそんな言葉で片付けられないあたりに、とにかく悲しくなった

2009/10/04

通り魔事件の犯人に娘を殺された親・・
フィクションの小説ではあるが、この世の中いつ現実になるかわからない危うさを含んでいる。
犯人が「心神喪失」で罪を問われないなんて・・。

物語の後半には、娘を殺された母親の、犯人に対する強い憎悪が一つのトリックになってます。
最後まで退屈させない内容ではあったが、ずっと本棚に置いておくべき小説でもないな・・。