国家の罠 の商品レビュー
今や売れっ子作家となった佐藤優氏の最初の著書。 今更ながらという感じではあるが読んでみた。 もともと著者には関心があったがきちんと著書を読む機会がなく、シンガポールにいたときに某日系書店で一部立ち読みをしたことをきっかけに強い興味を持って読むようになった。 この著者は右から左ま...
今や売れっ子作家となった佐藤優氏の最初の著書。 今更ながらという感じではあるが読んでみた。 もともと著者には関心があったがきちんと著書を読む機会がなく、シンガポールにいたときに某日系書店で一部立ち読みをしたことをきっかけに強い興味を持って読むようになった。 この著者は右から左まであらゆるジャンルの雑誌に連載を持っていて、その主張から政治的ポジションも単純ではないため、毀誉褒貶が激しいようだ。ただ、保守的だとか進歩的だとかというような単純な思想的枠組みで外交というものが成り立たないことは読んでいてわかる。そういうものを超越したところに外交があるのだと思う。 しかし一方で、取り調べについての記述で語られるが、ワイドショー的な議論で国策捜査が進められてしまう現実がある。特にネット上などでは好き嫌いで外交が語られてしまうことが多いが、その危険性は指摘してしすぎることはないだろう。 著者はこの国策捜査が「ケインズ型福祉国家」から「ハイエク型新自由主義」へと移行する「時代のけじめ」として行われたと指摘しているが、これを與那覇潤式に言えば(『中国化する日本』)「江戸」から「中国」へと日本社会が移行する「時代のけじめ」であるとも言える。為政者や官僚を延々道徳的に叩くのは儒教的とも言えるし。この著者が與那覇氏の枠組みをどのように評価するのか知りたい気がする。 ついでにもう一つ希望を言うと、これってTVドラマにしたら面白いと思う。こう思うのは一人だけじゃないだろう。
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鈴木宗男氏が収監・仮釈放されたことで話題になっているかもしれないが、鈴木氏に関連して逮捕・起訴された外務省職員である著者が事件について語った本。その後、佐藤氏は、数々の著作をものにし、テレビのコメンテーターなどでも活躍している。 これまた流行の国策捜査という単語の意味を知りたいなら、ぜひこれを読んで見るとよいと思います。 自らにかけられた容疑とその裁判の記録にもかかわらず、ドロドロした部分がない。論理は明快で読後感はさわやか。不思議なものを読んだ気分だ。外務省主任分析官にして鈴木宗男衆議院議員の腰巾着。逮捕当時、そのような論調で報道された著者による自らの事件の分析記録が本書である。 「国策捜査」。本書のキーワードとして出てくるのがその言葉である。これは、国民が感じる社会に対する不満を解消するため悪役を作り出し、それを代理で裁くことによって、不満を感じる原因となっている社会構造の不備などを解消しようとする働き(政治的思惑も含まれるだろうが)のことである。 なぜ鈴木宗男氏と著者はこの「国策捜査」の対象にされたのか。それに対する著者の分析が興味深い。これには、日本社会および国民性の変化の兆しが関係しているという。一つは、日本の社会主義的な利益の平等配分から傾斜配分への移行。もう一つは、協調主義的外交からナショナリズム優先の外交への移行である。 この時代変化の潮目にいたのが、旧来の地域利益誘導型(正しい表現かは分からないが)の政治家であり、協調主義的なロシア外交を展開していた同氏だというのだ。そして、この2つの潮流は異なるベクトルを持っており、容易に両立しうるものではなく、いずれ揺り戻しが起こる可能性があると看破している。そして、実際にそれは起こりつつあるのではないだろうか。 ボクは本作を著者が登場する別の対談集で知った。そちらの対談集で感じる著者の印象は、自らの業績に酔いしれるエリートというもので、若干、鼻持ちならなく感じた。しかし、本作から感じる印象は、冷静な分析者のそれである。一体どちらが本当の姿なのだろうか。
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佐藤優さんの独特さはさておき、鈴木宗雄の絡んだ事件の裏側を知ることができた。 それと同時に、人間どん底に落ちた時にこそ信頼できる人間がだれか分かるのだと感じた。自分も親しい人に対しては、その人が世間で何を言われようとも理解者であろうと思った。
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「鈴木宗男事件」。その“断罪”の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた―。『国策捜査』とは歴史の転換点なんだ。という事がすごくよく分かりました。 筆者と検事との攻防も見所です。 先日この本を読み返していました。あまりの面白さにしばらくこの本に没頭してし...
「鈴木宗男事件」。その“断罪”の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた―。『国策捜査』とは歴史の転換点なんだ。という事がすごくよく分かりました。 筆者と検事との攻防も見所です。 先日この本を読み返していました。あまりの面白さにしばらくこの本に没頭してしまいました。この本を読むとなぜ堀江貴文が現在『別荘』の中にいる理由が少しだけ分かったような気がいたしました。内容は大きく分けて2つに分けられると思います。前半部は筆者が外交官として外務省に勤務し、鈴木宗男さんとともに北方領土を日本に返還されるために文字通り東奔西走していた時期。 後半に入る前に田中眞紀子さんとの一悶着を経て筆者が小菅の東京拘置所に収監され延べ512日間に及ぶ拘置、独房生活の末、第1審で下された判決は「懲役2年6カ月、執行猶予4年」。著者は即日控訴の手続きを取った。と言うまで。そして保釈後。と言う構成になっています。僕は前半部を読んで政治家としての鈴木宗男という人間が僕の中で変わっていくのを感じました。この記事を書いている現在、彼もまた『お勤め』の最中ですが、必ずまた表舞台に帰ってきていただけることを心から願っています。 僕がもっともこの本の中で引き込まれたのが拘置所の中で筆者と担当検察官である西村尚芳氏との息も詰まるような攻防の場面で、筆者をして『尊敬すべき敵』と言わしめるように、怒鳴ったり、ゆすったりしないで、あくまで誠実な態度で筆者に接し、なおかつ全人格、全存在をかけて筆者と『知恵比べ』の静かな戦いを繰り広げる姿にはサスペンス小説をワンシーンを見ているかのようでした。 詳しいことはここでは一切省きますが、それと同時に『検察官』と言う人間がどのような思考パターンを持っていて、なおかつ事件の組み立て方、そして、落としどころに持っていくまでのプロセス、と言うものがまことに詳細なまでにつづられていて、これを読んでいると、『国策操作』と言うもので個人が組織にかなわない、と言うことを知りつつ、検察に徹底的に最後まで争った堀江貴文氏が本来執行猶予付の判決になるにもかかわらず、ああして長い裁判を経て『お勤め』にはいるに至った経緯、もしくは裏の事情、と言うものが分かっただけでも、この本を読んだ価値がありました。 今後、僕らも『もしかすると』こういったものにかからない、とは限りませんので、もしそうなったときのため、そして純粋に国家と組織と個人。その関係を見つめる、と言う点でも、きっとこの本は役に立つと確信しております。
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良書。 一つ思ったのが、国策捜査を「時代のけじめ」としているが、この論で行くと、堀江氏の件では一体何にけじめをつけたのかな、と。
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専門的過ぎて、私の貧しき理解能力を越える点はあったけれど、メディアの怖さ、疑うことの大切さを感じさせる本だった。何も考えずに見ている新聞やニュース、その裏にある真実をすべて掴むことは出来ないけれど、流れてきた情報がすべて本当だと思ってはいけないと思わされた。 独房で怒り心頭でう...
専門的過ぎて、私の貧しき理解能力を越える点はあったけれど、メディアの怖さ、疑うことの大切さを感じさせる本だった。何も考えずに見ている新聞やニュース、その裏にある真実をすべて掴むことは出来ないけれど、流れてきた情報がすべて本当だと思ってはいけないと思わされた。 独房で怒り心頭でうんこを全身に塗りたくってやろうとまで考えるのに、翌日の朝食の焼きたてコッペパンやシチューが美味しくてご機嫌になって考えを改めるシーンで、急速に私も作者が好きになった。 今は理解仕切れないが、再度チャレンジして読めるようになりたい。
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嘘ではないだろうが、だからといって真実でもないだろう。 そのためそういった判断は保留、というか、特にする気もない。 興味としては獄中記ではあまり語られなかった事件の背景と、取り調べの詳細。それがある程度知ることができただけでもよかった。 取り調べは基本的に拘留期間の前半でほとんど...
嘘ではないだろうが、だからといって真実でもないだろう。 そのためそういった判断は保留、というか、特にする気もない。 興味としては獄中記ではあまり語られなかった事件の背景と、取り調べの詳細。それがある程度知ることができただけでもよかった。 取り調べは基本的に拘留期間の前半でほとんど終わってたのね。ずっとやってたような印象があったので意外。 とまあ、そんなカンジに読んでたんだけど最後らへんのエピソードで持っていかれる。母親が面会に来たと告げられ、「おふくろ。すぐに行きます」とうれしそうに小走りで面会場へと向かっていく確定死刑囚のエピソードで。しばし悲劇について考える。構造と有責性、というか自業自得性。
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著者の感情に支配されない冷静な判断力、明晰な思考力に舌を巻いた。 淡々と事実や考えが叙述される文章であるのに、読んでいる自分が怒りや悲しみ、驚きなどの感情を味わうのは不思議だと思った。 拘置所の中はどうなっているのか。私が全く知らないことも沢山散りばめられており、非常に興味深...
著者の感情に支配されない冷静な判断力、明晰な思考力に舌を巻いた。 淡々と事実や考えが叙述される文章であるのに、読んでいる自分が怒りや悲しみ、驚きなどの感情を味わうのは不思議だと思った。 拘置所の中はどうなっているのか。私が全く知らないことも沢山散りばめられており、非常に興味深く読んだ。
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この国を支える人の中には、こんなすごい人がいるということに気付かされた。自分もうかうかしていられない。
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外務省における佐藤優さんの仕事、鈴木宗男さんとの関係、鈴木宗男さんと田中眞紀子さんの闘いは何だったのか、そして外務省の内幕、これらを伏線として512日に及ぶ国策捜査に対する検察との闘いが抜群の記憶力で語られています。 佐藤優さんはその512日間に及ぶ独房拘留中に、学術書や哲学・宗教書を中心に220冊に及ぶ書籍を読破している。その並はずれた知識欲・胆力にはただただ驚嘆するのみです。
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