破船 の商品レビュー
暗い。ものすごく暗い。でも、どんどん引き込まれる。 人々の暮らし、村のおきて、自然の情景を、感情を差し挟むことなしにひたすら淡々と描写し、その中から過酷な運命に翻弄される人々の姿を浮かびあがらせていく。登場人物のひとりひとりに感情移入させられるということではないのだけれど、...
暗い。ものすごく暗い。でも、どんどん引き込まれる。 人々の暮らし、村のおきて、自然の情景を、感情を差し挟むことなしにひたすら淡々と描写し、その中から過酷な運命に翻弄される人々の姿を浮かびあがらせていく。登場人物のひとりひとりに感情移入させられるということではないのだけれど、物語全体がしっかりと心に訴えてくる。何だかチヌア・アチェベの「崩れゆく絆」を読んだときの感じに似ている。舞台設定は全く違うのだけれど…… 苦しみながら生きていくこと自体が目的のような人生にどんな意味があるのだろう。共同体(あるいは人間という存在自体)が業のようなものを背負っていて、それでもそれを絶やしてはいけないのは何故なのか…… 結末には、暗澹たる気持ちにさせられた。
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世の中と隔絶した名も無き漁村を舞台に描かれる、江戸時代の極貧生活。わずか17戸の小さな貧村では、夜の岬で塩焼きという風習が行われていた。しかしその本当の目的は、遭難した船をおびき寄せ座礁させるためものであった。 口減らし、年季奉公という名の身売り、死を意味する山追いなど、一般庶民...
世の中と隔絶した名も無き漁村を舞台に描かれる、江戸時代の極貧生活。わずか17戸の小さな貧村では、夜の岬で塩焼きという風習が行われていた。しかしその本当の目的は、遭難した船をおびき寄せ座礁させるためものであった。 口減らし、年季奉公という名の身売り、死を意味する山追いなど、一般庶民がまともに食えない時代である。遭難船は「お舟様」と呼ばれ、村にとって恵みをもたらす一大慶事であった。前年に、大量のコメを積んだ「お舟様」によって潤った村が、2年連続で新たな「お舟様」を迎えた。しかし、船には積荷はなく、20数名の乗船者は皆一様に、謎の赤い布を身に付けて死に絶えていた。村長はその着衣を村民に分配する。しかし「お舟様」は村に絶望的な厄いをもたらす事となる。
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二冬続きの船の訪れに、村じゅうが沸いた。しかし、積荷はほとんどなく、中の者たちはすべて死に絶えていた。骸が着けていた揃いの赤い服を分配後まもなく、村を恐ろしい出来事が襲う……。嵐の夜、浜で火を焚き、近づく船を坐礁させ、その積荷を奪い取る――僻地の貧しい漁村に伝わる、サバイバルのた...
二冬続きの船の訪れに、村じゅうが沸いた。しかし、積荷はほとんどなく、中の者たちはすべて死に絶えていた。骸が着けていた揃いの赤い服を分配後まもなく、村を恐ろしい出来事が襲う……。嵐の夜、浜で火を焚き、近づく船を坐礁させ、その積荷を奪い取る――僻地の貧しい漁村に伝わる、サバイバルのための異様な風習“お船様"が招いた、悪夢のような災厄を描く、異色の長編小説。(裏表紙) 災厄は、約束されていたようにも思います。 超常現象や過剰な描写はないにもかかわらず、やはり、怖い。 …本文には全く文句なく素晴らしいのですが、解説がストレートにネタばらしをされているので、少し注意が必要です。
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生死を天命に委ねるしかなかった時代。あまりにも過酷な世界を、それでも懸命に生きる人々の姿に心を揺さぶられる。
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これは、フィクションのようだけど、過去、日本の各所の貧村で本当に起きていた話だと思わずにはいられなかった。今見ると変てこに見える風習が、伊作の村では日常生活の中に必然として行われていて違和感を持たせない。つながってない共同体で生きるのが昔は普通だった。死後、村の者として再び生まれ...
これは、フィクションのようだけど、過去、日本の各所の貧村で本当に起きていた話だと思わずにはいられなかった。今見ると変てこに見える風習が、伊作の村では日常生活の中に必然として行われていて違和感を持たせない。つながってない共同体で生きるのが昔は普通だった。死後、村の者として再び生まれ変わることを望む伊作を、今の我々がこの広大な空間をもてあましていることを考えると、視野が狭いとは言えない。3年間同じ繰り返しの中で人は少しずつ成長し、変化が生まれる。これが伊作の成長物語だったら良かったのに。母と弟と2人の妹を失っても、日々は繰り返されるのだろうか。父と伊作はどうなるのだろうか。
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貧しい雪国の漁村。苦しい生活の中、村民たちは難破した船から積み荷をかすめ取ることを生活の糧としていた。10歳の少年の伊作は、奉公に出た父の帰りを待ちつつ、母や幼い兄弟たちのため漁に励むが… 吉村さんの作品は、派手さはなくとも引き込まれます。貧困にあえぐ村の描写、日々の生活、...
貧しい雪国の漁村。苦しい生活の中、村民たちは難破した船から積み荷をかすめ取ることを生活の糧としていた。10歳の少年の伊作は、奉公に出た父の帰りを待ちつつ、母や幼い兄弟たちのため漁に励むが… 吉村さんの作品は、派手さはなくとも引き込まれます。貧困にあえぐ村の描写、日々の生活、漁師として成長していく伊作、いずれの描写もしっかりできています。こうした確かな描写が積み重なっていくからこそ、自然と読者は作品の情景を想像し引き込まれていくのでしょう。 村では難破した船を座礁させるため、岸で火を焚いています。この火に誘われた船が沈んだところを村民たちは、狙っているのです。今の時代から考えるとひどい話ですが、それまでの村の描写を読んでいると、生きるためには致し方ないとも思わされます。そうした風習や民俗の異様さも、面白く読めました。船から奪った積み荷で村人たちが喜びに沸く場面も、そうした当時の生活の厳しさを感じさせられます。 三人称で描かれる吉村さんの感情を挟まない抑制された筆勢は、村の行く末を厳しく描きます。自業自得といえばそうかもしれないのですが、でも単にそれで片づけられない悲しさも感じさせる結末です。なぜなら彼らの生活が一時でも貧困から逃れるためには、船から荷物を奪うからしかないのです。生きるためにはそうせざるを得ないのです。 船が流れ着いたとき伊作は、これで奉公から帰ってきた父に米を食べさせることができる、と喜んでいました。そうした感情を読者は否定しきれないからこそ、厳しい結末は読者の胸をより深く強く打つと思います。
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秀作。吉村昭の著作の中は、さらっと読めなくて、時間のかかるのがあるが、これもその一つで、描かれた情景を噛みしめて読ませるものがある。本作品は、ある島の孤立した貧しい村の話。小さな共同体が、「お船様」を含めて、定められた秩序を守って生活を送る。「霊帰り」などは、豊かさよりも世代を途...
秀作。吉村昭の著作の中は、さらっと読めなくて、時間のかかるのがあるが、これもその一つで、描かれた情景を噛みしめて読ませるものがある。本作品は、ある島の孤立した貧しい村の話。小さな共同体が、「お船様」を含めて、定められた秩序を守って生活を送る。「霊帰り」などは、豊かさよりも世代を途切れさせない、人間の本能に従う営みを感じさせる。2016.7.9
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羆嵐で吉村さんにはまり二冊目です。 引き込まれてぐいぐい読んでしまって想像もしてなかった結末に呆然。 お話は★4.5という感じなのだけど救いがなさ過ぎて圧倒されすぎて★3つ。 すごいお話でした。私には辛かった。
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閉鎖的で孤立した貧しい漁村が舞台。 毎日が餓死との背中合わせで皆は生きていく。そして奇妙な風習だらけ。嘗て日本の村ではこういう事が普通にあった事を考えるととてもやるせない気持ちになる。可哀想の一言で片付けるには余りにも申し訳ない気持ちだ。裕福な現代人として生まれてきた今、改めて感...
閉鎖的で孤立した貧しい漁村が舞台。 毎日が餓死との背中合わせで皆は生きていく。そして奇妙な風習だらけ。嘗て日本の村ではこういう事が普通にあった事を考えるととてもやるせない気持ちになる。可哀想の一言で片付けるには余りにも申し訳ない気持ちだ。裕福な現代人として生まれてきた今、改めて感謝の気持ちを持って必死に生きなければと痛感した。しかし切なくて悲しいなぁ。。。この作品。
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以前吉村昭の「三陸海岸大津波」を読んだが、その前にも「漂流」を読んでいたので、この「破船」というタイトルから難破した船を主題にしたストーリーかと思ったら全く違った。 ある陸の孤島のような貧しい漁村の民が、近海で難破した船の積み荷をあてにして、奪った荷や船の建材で暮らしをつな...
以前吉村昭の「三陸海岸大津波」を読んだが、その前にも「漂流」を読んでいたので、この「破船」というタイトルから難破した船を主題にしたストーリーかと思ったら全く違った。 ある陸の孤島のような貧しい漁村の民が、近海で難破した船の積み荷をあてにして、奪った荷や船の建材で暮らしをつないでいく。それを「お船様」と呼ぶ。しかしいつも難破船があるわけではない。何年もお船様が来ないこともある。 ある年「お船様」が来て、村に多くの米や木材などをもたらした。村は潤い、人々は満たされた。そして次の年も「お船様」が来た。ただ普通ではなかった。難破船ではなかったが、乗組員たちは皆赤い衣を着て死んでいた。村人たちは死人から珍しい赤い衣を奪い、舟を沖へと返した。衣は女子供に与えられた。 半月もして異変が起き始めた。高熱を出す者が出始めたのだ。その後吹き出物が出てきた。天然痘だった。あのような船は、どこかの村で発生した天然痘患者を、まとめて海に捨てた船だったのだ。村での罹患者は治っても山に捨てられ、村は廃墟のようになった。 実在の話なのだろうか。吉村は三陸に詳しいので、この話の題材を三陸沿岸で得たのかもしれない。あるいは柳田国男の遠野物語などから着想したのか。貧困のために「身売り」をする話や「夜這い」「山追い」など出てくるが、昔は貧しい地域に実在した風習だ。解説にもあるが、そのあたりを上手く織り交ぜ、緊張感を失わずに展開するストーリーは吉村の真骨頂なのだろう。「因果応報」とも言える結末に驚愕し、妙に納得もした。
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