午後の曳航 の商品レビュー
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小説の最後の文章がめちゃくちゃかっこよかった。意外にさらっと読めて、ちょっと高尚な昼ドラを見ている気分。鍵穴から覗いた性世界はエロ漫画よりも興奮した。活字恐るべし。子猫のシーンだけは、残酷で読むに耐えなかったが、それが竜二に置き換わると読みたくなってしまう不思議。読書って、自分の本性が剥き出しになる瞬間があるんだなぁ。三日月の眉毛、いかにも育ちがよさそうだ。美しさと残酷さ、全能感の結晶のような少年。思春期に読んでたら影響されてたかもなぁ。
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金閣寺のプロローグとも言える 現実と夢想とのパラドックスに悶えた男達の話。 この本を読んだ今なら金閣寺を燃やした理由が 見えてきた。 大義、栄光という漢としての夢想に耽る少年、登。 少年が思うそれらとは船であり、海であり、 水平線へ消えていく憧れの船乗りの背中であった。 登は少年ながらにして大人びた考えを持ちながらも 栄光を憧れ信じ続けている。 彼は世界の果てまでも知り尽くしたかのような 優越に浸っているようでいた。 しかしそれらは彼の童心がもたらす ファンタジーに過ぎないのであった。 少年達は夢の中を生きる。 しかし大人達もかつては皆、少年達であったのだ。 竜二も男に憧れ沖の彼方へ身を消していった。 しかし陸の世界からは見えない水平線の彼方にあるもの。 それは空気圧計、風速計、温度計を観測する日々、 退屈な日々なのであった。 竜二の現実への回帰は少年の夢を放棄した 堕落だったのだろうか。 栄光なぞはどこにもなかった。 船乗りたちの夢、南十字星の下でさえも。 彼らは現実世界の隅々までも知り尽くしてしまったのだ。 しかし、少年にとっての 彼の安住という大人の選択は 絶望という名の逃避でしかなかった。 絶望がもたらすものは絶望でしかない。 それは少年主観の相対的視点なのだろうか? 華々しい争いを夢見た大人が 現実との真っ向からの決闘試合の泥臭さに飽き飽きした結果、 試合放棄をしたという揺るがぬ絶対的結果。 とは言えないだろうか? 破滅という少年達の選択。 それはヤケな逃避行ではなく、 絶望から目を背けるだけの惨めな鼠に成り下がることなく 栄光への憧れの中を生き続ける為であった。 死に狂いという必然的な世界の構築は 世界に対する全面戦争なのだった。
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英雄になりたい息子の願望を抑圧するのは 母親のちらつかせる涙である そのジレンマを解消するのは、父親の与える教養だが 平和のお題目が唱えられる現代 父には、母の押し付ける偽善的世界観を論破しきれない 息子はそれに失望する 子供としての自由が失われる前に、母のつけた枷を引きちぎらな...
英雄になりたい息子の願望を抑圧するのは 母親のちらつかせる涙である そのジレンマを解消するのは、父親の与える教養だが 平和のお題目が唱えられる現代 父には、母の押し付ける偽善的世界観を論破しきれない 息子はそれに失望する 子供としての自由が失われる前に、母のつけた枷を引きちぎらなければ そう思い、焦る彼は ある極端な英雄的行為をそそのかされるのだった それは、法の守りを保険としたもので しかも相手は本当の父親ではなく そのうえ他人の思いつきに流されただけの 英雄的とはとうてい言えない行為だが
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私にとっては初・三島由紀夫だった。さすがだな~という感想。 三島氏自身はエリート育ちなのに、よくこういう小説を書けるなと思う。少ない登場人物の心理描写が鋭く光っている。 物語は、主人公の少年とその母、母の恋人で船乗りの男がメインで、少年の仲間たちも影響する。少年はある日、壁の穴か...
私にとっては初・三島由紀夫だった。さすがだな~という感想。 三島氏自身はエリート育ちなのに、よくこういう小説を書けるなと思う。少ない登場人物の心理描写が鋭く光っている。 物語は、主人公の少年とその母、母の恋人で船乗りの男がメインで、少年の仲間たちも影響する。少年はある日、壁の穴から母の新しい恋人と母との情事を覗き見てしまう。少年は船オタクで、航海に強い憧れがあった。3人の視点から次々に映し出される心もようが鮮やかである。 よくこの手の格調高い小説には、理解不能な比喩や、文字面を眺めても頭に入ってこない表現も散見されるが、三島の本にはそれがなく、美しい文章でありながら、ストレートに響く。それがまた複雑で矛盾しつつも容赦ないのに、病みつきになってしまうのである。 とても面白かった。三島の他の本もぜひ読みたい。
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少年の話である。好きな話である。大人塾で三島の話を聞いた。「金閣寺」と「春の雪」を予習で読んでいった。「豊饒の海」の残り3冊は読む時間がなかった。もう一度読んでみたいと思った。その前に、薄い本書を取り出して読んだ。少し話題に上っていたからでもある。海外で映画化されているということ...
少年の話である。好きな話である。大人塾で三島の話を聞いた。「金閣寺」と「春の雪」を予習で読んでいった。「豊饒の海」の残り3冊は読む時間がなかった。もう一度読んでみたいと思った。その前に、薄い本書を取り出して読んだ。少し話題に上っていたからでもある。海外で映画化されているということだが、日本ではちょっと無理なのかもしれない。前半はともかく、後半の猫殺しや父親殺しの残虐さをどう映像で表現するのか、難しい。父親に対する首領のことばは痛烈だ。「正しい父親なんてものはありえない。なぜって、父親という役割そのものが悪の形だからさ。」「父親というのは真実を隠蔽する機関で、子どもに噓を供給する機関で、それだけならまだしも、一番わるいことは、自分が人知れず真実を代表していると信じていることだ。」これは13歳の少年が発することばであろうか。そしてまた、登が隣室の母親を覗くシーンは、ミシマである。これが、最初の場面にあるのが、好きな話である理由の一つだ。
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遠い昭和が普段とあって、アンファンテリブルの寓話ともいうべき構造がますます強調される感。しかし男と男、父と息子の対峙にあって、女はホント小道具かきっかけ、またはそれらを生むのみの存在と描かれており、締め出されっぷりにはポカンとするしかない。さすが三島!笑笑
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何者にもなっていない自分に怖れを抱き、理想の姿と現実との狭間に、埋めようのない溝を見出し、手に入れた安寧と折り合いを付けたつもりが、ぞわぞわとした居心地の悪さを覚える。若さ故の傲慢は、時に無限の未来を妄想させ、時に破滅への道標として機能する。詩情に満ちた言葉の数々には表面に輝く美...
何者にもなっていない自分に怖れを抱き、理想の姿と現実との狭間に、埋めようのない溝を見出し、手に入れた安寧と折り合いを付けたつもりが、ぞわぞわとした居心地の悪さを覚える。若さ故の傲慢は、時に無限の未来を妄想させ、時に破滅への道標として機能する。詩情に満ちた言葉の数々には表面に輝く美しさと、奥底に潜んでいる残酷さとがあり、広がり始めようとする世界を断ち切る行為に、嫌悪し、また不思議と惹かれてしまう自分がいる。完璧とは何かを分からず、それでいて完璧を求める事で生まれる不条理さを、いつか理解してみたいと思った
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少年期の心情、残酷性、憧れなどが見事に描かれています。 文章を味わう作品でしょうか。 少年の心情の移り変わりが、見事に描かれています。 好き嫌いのわかれる作品かもしれません。
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小宮先生おススメシリーズ。 2009年に読みましたが、読み返しました。 ・・表紙が画像と違うのですが。 以前読んだときよりも、登場人物の様子をよりいきいきととらえることができたかなと思います。 自己満足でしょうか。 やはり最後は殺されてしまうのかな?
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これほど潮のかおりに満ちた本を読んだことはないです。祖父が船乗りだったので、主人公の少年と、英雄である船乗りを自分たちに重ねて読みました。 「潮騒」も名作ですが、こちらの方が現代に通ずる狂気が鮮明に描かれており、大好きな作品です。
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