午後の曳航 の商品レビュー
主人公の登は、歳不相応に鋭く賢いが、その思想は稚拙でやっぱり子どもを思わせるへんな少年たちの一員。その登の新しい父親になろうとする竜二が自分たちの美学から外れていくことを裏切りととらえ少年たちは復讐を計画する。 こういう早熟な子どもってクラスに1人くらいはいそう。でも結局こん...
主人公の登は、歳不相応に鋭く賢いが、その思想は稚拙でやっぱり子どもを思わせるへんな少年たちの一員。その登の新しい父親になろうとする竜二が自分たちの美学から外れていくことを裏切りととらえ少年たちは復讐を計画する。 こういう早熟な子どもってクラスに1人くらいはいそう。でも結局こんな子どもたちもやがて普通の大人になっていくんだろうな。そんな過程をこの作品の続編として読んでみたい。
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自分の父親世代が耽読した三島小説。 「午後の曳航」は柔らかい自我に訴えかけてくるタイプの作品。背伸びして読むと毒がよくまわりそう。それにしても素晴らしく美しい文章。
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光栄を!光栄を!俺はそいつにだけふさわしく生まれついている。どんな種類の光栄が欲しいのか、またどんな種類の光栄が自分にふさわしいのか、彼にはまるでわかっていなかったただ世界の闇の奥底に一点の光があって、それが彼のためだけ用意されており、彼を照らすためにだけ近寄ってくることを信じて...
光栄を!光栄を!俺はそいつにだけふさわしく生まれついている。どんな種類の光栄が欲しいのか、またどんな種類の光栄が自分にふさわしいのか、彼にはまるでわかっていなかったただ世界の闇の奥底に一点の光があって、それが彼のためだけ用意されており、彼を照らすためにだけ近寄ってくることを信じていた。考えれば考えるほど、彼が光栄を獲るためには、世界のひっくりかえることが必要だった。世界の顛倒か、光栄か、二つに一つなのだ。
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緻密な構成にため息が出る。 主人公は前半で完璧なる均衡を構築し、後半でそれが崩れそうになるのを必死に防ごうとする。美や理想のための作品だ。不気味なまでに美しい。 穴を見ている時の主人公のポーズなど、至極些細なところにも意味がある。それを考えるのも楽しく、緻密さにまたため息が出る。...
緻密な構成にため息が出る。 主人公は前半で完璧なる均衡を構築し、後半でそれが崩れそうになるのを必死に防ごうとする。美や理想のための作品だ。不気味なまでに美しい。 穴を見ている時の主人公のポーズなど、至極些細なところにも意味がある。それを考えるのも楽しく、緻密さにまたため息が出る。 題にある「曳航」とは船が船をひく様子の事で、「曳航」と「栄光」をかけている。その理由は、英語での題を読むとわかりやすい。「The Sailor Who Fell From Grace with the Sea」、即ち「海と共に優雅さを失った船乗り」。一人の男が栄光を失って行く、その様子が描かれた作品、という事が題からも暗示されているのだ。
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三島由紀夫の小説には 「世間の穢れに馴染む前の しかし無知ではなく寧ろ若い清潔さでそれを嫌悪している」若い男性がしばし登場します。 代表的なものだと『豊饒の海』の清顕や勲など。 『午後の曳航』は年齢層が結構下がって10代前半の少年目線ですが、 三島の傾向がばっちり性格だとか思考に...
三島由紀夫の小説には 「世間の穢れに馴染む前の しかし無知ではなく寧ろ若い清潔さでそれを嫌悪している」若い男性がしばし登場します。 代表的なものだと『豊饒の海』の清顕や勲など。 『午後の曳航』は年齢層が結構下がって10代前半の少年目線ですが、 三島の傾向がばっちり性格だとか思考に反映されてて面白かったです。 加齢が腐敗とは思いませんが、 若さは大人にはない独特の潔癖さが許される限定の期間だとは思います。 どうしようのない感情や現実は確かに存在していて、 若い人にはまだ世間よりはるかに狭い家族が世界であるからこそ 自分の理想だとかでそれを否定することができるというか。 『午後の曳航』の登もまたそういった若さゆえの潔癖さを持っていて、 だからこそ大人でありつつも生活の臭いのしない海の男・竜二に憧れ だからこそ竜二の裏切りに対して過敏に神経質に反応したのでしょう。 そのうえ三島は登に、裏切りに報復し得る天才的な友人「首領」を与えました。 『血が必要なんだ!人間の血が!そうしなくちゃ、この空っぽの世界は蒼ざめて枯れ果ててしまうんだ。僕たちはあの男の生きのいい血を絞り取って、死にかけている宇宙、死にかけている空、死にかけている森、死にかけている大地に輸血してやらなくちゃいけないんだ。』 登の拒絶は、首領が存在することによって強烈な報復となり、 最後の面白さをあおっていてとても面白かったです。 あと登の母のささやかな幸せがちりばめられているのもまた、 残酷な若い感情をうまくひきたてていて欠かせない要素だったと思います。
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子供のいやらしい感じがこれでもかというほどによく書かれていて、不愉快になるくらいでした。それくらい子供の感情がリアル。
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鹿鳴館読もうと思ってたんだけど、借りられてたんで比較的薄いのをチョイス。 猫の解体シーンがうつくしかった。 どうでもいいけどこれを電車内で読んでたら見知らぬおじさんにすごい目で見られた。三島は電車で読んではいけない作家なのですか。
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2009/ 2009/ 澁澤龍彦はこの小説をユートピア小説だと納得している。 「海」が行為と認識の完全に一致する奇蹟の領域である。しかし、そんな領域はあり得ないから、このユートピア小説は必然に絶望小説たらざるをえない。【三島由紀夫おぼえがき/三島由紀夫 p43】
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美しき未亡人と逞しき船乗りの恋、そしてアンファン・テリブル(恐ろしき子供たち)。海の男の恋愛観、港町・横浜の風景描写の美しさもさることながら、何といってもラストシーンの潔さ。一番盛り上がる所でスパーンと切り落とす手法が三島ならでは。
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三島由紀夫といえば、最近新潮社から「文豪ナビ」と言う入門書が出ました。それによると、「時代が後から追いかけた。そうだ、早すぎたんだ」とあります。私は、三島の作品をまだ5冊ほどしか読んでいないので、その、三島の予言の詳細、全容をいまだよく理解していないのですが、この「午後の曳航」に...
三島由紀夫といえば、最近新潮社から「文豪ナビ」と言う入門書が出ました。それによると、「時代が後から追いかけた。そうだ、早すぎたんだ」とあります。私は、三島の作品をまだ5冊ほどしか読んでいないので、その、三島の予言の詳細、全容をいまだよく理解していないのですが、この「午後の曳航」に関しては、彼の「予言」のひとつが掴み取れたような気がします。 それは、以前の神戸の少年殺害事件に代表される子供の危険性の提示、予言です。 『首領』の言葉「自分たちは選ばれたものだから、自分たちが法なのだ」や、「14歳になるまでは、いかなる犯罪も許されると六法全書に書いてある。そもそも法律などと言うのは大人が自分たちの便宜で決めたことであり、我々には通用しないのだ」という言葉、そして子供と仔猫のシーン。私はまさに神戸のあの少年を連想しました。 この当時にはもちろんあの少年は登場していませんから、解説にもこのようなことは書かれてはいませんでしたが、今解説が書かれるとしたら評論家は間違いなくあの少年を言及することでしょう。三島由紀夫は、このような子供の選民思想、危険性を表し、近日の少年犯罪をを予言したのではないだろうか、そんなことを考えてしまいます。
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