美しい星 の商品レビュー
邪悪な魂を持ち、人類滅亡こそが救いだと唱える羽黒一派との対決は鬼気迫るものがあります。人類の罪を痛烈に非難しながらも、愛おしい存在であると訴えています。 重一郎の存在は日本の美徳を愛し、憂い、国民に決起を呼びかけ、遂には自害した三島自身を投影していると思います。 三島の魂も肉体...
邪悪な魂を持ち、人類滅亡こそが救いだと唱える羽黒一派との対決は鬼気迫るものがあります。人類の罪を痛烈に非難しながらも、愛おしい存在であると訴えています。 重一郎の存在は日本の美徳を愛し、憂い、国民に決起を呼びかけ、遂には自害した三島自身を投影していると思います。 三島の魂も肉体の牢獄から解放され、火星に帰っていることを祈ります。
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三島の多才な筆力に感嘆する。ただ半世紀以上もたった今は、ながながとした演説的セリフは、小説だ、という目でみているからか、どうも読みにくい。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
埼玉県飯能市に住む大杉一家は、空飛ぶ円盤を目撃したことをきっかけに自分たちが宇宙人だと気づき、使命に目覚める。しかし一家四人はそれぞれ出身の星が違い、それぞれの目的も異なっていた。 SFというより、自分の信念、空想、妄想にとりつかれた人間を諷刺した小説(見方の一つとして)。今までに読んだ新潮文庫作品(『仮面の告白』『禁色』『金閣寺』)とはテイストが違って面白い。 一家はそれぞれ個別に空飛ぶ円盤を目撃しているので、あくまで自己申告であって、本当に宇宙人であるか真偽は不明。人類の救済を目指す父・重一郎、世界支配を目論む息子・一雄、自分の純潔を信じる娘・曉子。それぞれの信念や空想を正当化し強固にするため、自分の都合のいいように「宇宙人」を解釈しているように見える。また、家族に見栄や虚勢を張るために嘘をつき、そのために皮肉な展開を見せたりもする。しだいに家族間に懐疑が広がっていく。 SF的内容を純文学のまじめな文体で書くというのもシュール。なので、それまでSF要素がほぼ皆無だったのに、急にSFっぽくなる終わり方は、読者を煙に巻くようで良い。 とはいえ、やはり三島作品で、竹宮が能面を通して金星の世界を垣間見て自分が金星人であることに目覚める(何かを媒介にして自己変容を遂げる)のは『金閣寺』に通じる。また、三島由紀夫特有の、セリフにしては不自然な長広舌で独自理論を語る場面もあり、人類救済派の重一郎と人類絶滅派の羽黒が論争を始めたときには、「また始まったか」とげんなりもした。世間的にはドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の裁判シーンを彷彿とさせるクライマックスらしいのだが。 「お母様は何も仰言る資格はありません。私だけが知っているんです、私は処女懐胎だと。……私、今になってやっと、金星の人達がどうやって子孫を殖やすかがわかったの」(p.195) 「宇宙人は真実に仮面をかぶさなければ真実の顔を怖しくて見られないほど弱い生物ではありません。私たちは人間とちがって、真実を餌にして夢を見ることもできるんだわ、そうではなくて? 私たちの夢はむしろ虚偽とは反対物なのですわ、そうではなくて? いたわりの嘘の中に一瞬でも生きることは、自分の夢を蝕むことになるんだわ。それが怖しい結果を惹き起す、怖しい結果を。私たちは人間になってしまうのです」(p.339)
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三島由紀夫さん、なんだかすごい世界を彷徨ってらっしゃった方なんだな、と感じた 私には宇宙人のことはわからないけど、家族が感じることや、地球を救おうとする人と、地球を滅ぼそうとする人との対話が強烈だった 自分も矛盾に取り組んでるから、自分のことと重ね合わせて読めた 人類にとっ...
三島由紀夫さん、なんだかすごい世界を彷徨ってらっしゃった方なんだな、と感じた 私には宇宙人のことはわからないけど、家族が感じることや、地球を救おうとする人と、地球を滅ぼそうとする人との対話が強烈だった 自分も矛盾に取り組んでるから、自分のことと重ね合わせて読めた 人類にとっての大きな矛盾が描かれた作品なのかもしれない
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三島由紀夫というと、彼の書いたものは読んだことがなく、市ヶ谷での自決事件や東大での討論など活動家的側面しか知らなかった。 今回この本を読んで、その印象が大きく塗り替えられた。 これは所謂純文学と言うのだろうか? 宇宙船や宇宙人という設定は、SFを思わせたが、それは表面的というかあ...
三島由紀夫というと、彼の書いたものは読んだことがなく、市ヶ谷での自決事件や東大での討論など活動家的側面しか知らなかった。 今回この本を読んで、その印象が大きく塗り替えられた。 これは所謂純文学と言うのだろうか? 宇宙船や宇宙人という設定は、SFを思わせたが、それは表面的というかあくまでも舞台装置であって、本質は彼の思想や考察を伝えるためのギミックに思えた。 現代のエンタメ作品ばかりを読んできた私には、純文学的描写の数々に苦労したが、それでも彼の思うところの数%は受け止められたと感じる。
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宇宙人から見て、地球は美しい星なのだろうか。 人間的には間違いなく美しい。それなのに、自ら破滅へと向かう人類の愚かさ。それを助長しようとする宇宙人と救済しようとする宇宙人。彼らの討論の様子は、とても情緒的で細部の言い回しまで理解することは、1回読んだだけでは私には難しかった。 ...
宇宙人から見て、地球は美しい星なのだろうか。 人間的には間違いなく美しい。それなのに、自ら破滅へと向かう人類の愚かさ。それを助長しようとする宇宙人と救済しようとする宇宙人。彼らの討論の様子は、とても情緒的で細部の言い回しまで理解することは、1回読んだだけでは私には難しかった。 人類の未来とゆう壮大なテーマは、宇宙人の視点で語られるため、他人事である。 しかし、火星人にしても、未知の惑星から来た羽黒にしても、一個人の話なるとなんと小さくか弱い存在だろう。人間が抱えるありきたりな悩みを内包している。 人間は誰しもが自分は特別であり、個人の死が突如現れた時の世界の変容がとても印象に残る。 あとは、金星人の暁子の美しさよ。彼女の存在感は一際強い。 最後はどう終わるのかと思っていたけれど、よい結末でホッ。さて、残された地球人たちはなんとかやっていくことが出来るのだろうか。きっと彼らは遠くから様子を見ているに違いない。
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ミシマ文学、何度か挑戦して綺羅綺羅しさに3ページ進まず だった私が最後までやめられなかった作品 ご本人が変な物語、と言っていらしたのですね 夢と現実とを何が分けるのか
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米ソ対立により世界の終末が囁かれていた時代に、三島自身がUFO観測に勤しんでいた事も重なり生み出された作品であり、宇宙人である事に目覚めた日本の小さな家族が世界滅亡危機という壮大な問題の為に人知れず動き回る独特な世界観が面白い。加えて人間ドラマの側面もあり、対立する宇宙人との議論...
米ソ対立により世界の終末が囁かれていた時代に、三島自身がUFO観測に勤しんでいた事も重なり生み出された作品であり、宇宙人である事に目覚めた日本の小さな家族が世界滅亡危機という壮大な問題の為に人知れず動き回る独特な世界観が面白い。加えて人間ドラマの側面もあり、対立する宇宙人との議論には三島の思想が窺え、それらが美しい文章で紡がれている。
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1962年(s37) 刊行埼玉飯能に住む旧家大杉家一家はある日宇宙船を目撃し父火星人、母木星人、息子水星人、娘金星人と確信。米ソの核開発激化により地球滅亡を予見する。この頃三島は日本空飛ぶ円盤研究会(JFSA)に入会し観測に夢中。本人も実にヘンテコな小説と語っていたよう。
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いま読んでる 「人間の存在の条件の同一性の確認にはじまった以上、その共同意識は、だんだん痛みや痒みや空腹の孤立状態に耐えられなくなる」 「目的も持ち、意志から発した行為が、行為のはじまった瞬間に、意志は裏切られ、目的は乗り超えられて、際限なく無意味なもののなかへ顚落すること。...
いま読んでる 「人間の存在の条件の同一性の確認にはじまった以上、その共同意識は、だんだん痛みや痒みや空腹の孤立状態に耐えられなくなる」 「目的も持ち、意志から発した行為が、行為のはじまった瞬間に、意志は裏切られ、目的は乗り超えられて、際限なく無意味なもののなかへ顚落すること。」 「しかし釦を押す直前に、気まぐれが微笑みかけることだってある。それが人間というものだ」 「私は人間が現在を拒否し、人間の時を自ら軽視し、この貴重な宝をいつもどこかへ置き忘れ、人間の時ならぬ他の時、過去や未来へ気をとられがちなのを戒めるために、地球へやって来たようなものだ」 「どこかで彼の望みの糸がほつれて、こんがらかって、思いもかけない局面へ彼を連れ出したのだ」
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