美しい星 の商品レビュー
読了後、吉田大八監督(リリー・フランキー主演)の映画版も観た。 小説版は設定こそSF的だが内容は思想小説に他ならない。だがそのSF的な部分に「説得力」がある。空飛ぶ円盤や火星人などの用語を用いつつも「嘘くささ」「フィクションっぽさ」「荒唐無稽なところを楽しむ感覚」を感じさせない...
読了後、吉田大八監督(リリー・フランキー主演)の映画版も観た。 小説版は設定こそSF的だが内容は思想小説に他ならない。だがそのSF的な部分に「説得力」がある。空飛ぶ円盤や火星人などの用語を用いつつも「嘘くささ」「フィクションっぽさ」「荒唐無稽なところを楽しむ感覚」を感じさせないような描写に徹する。三島由紀夫の本を読んだ冊数が増えるたびに、「この人はなんて文章が上手いんだ」と感嘆し直している。 映画版との違い。登場人物たちの肩書が基本異なる。映画では妻が異星人だと気づく描写がない。小説で激しく議論を戦わせる助教授らは映画で出て来ず、政治家の黒木(と一部は息子)に役回りが変更されている。 何より、地球を滅ぼすかもしれない要因が、米ソの核開発競争や水爆実験から、地球温暖化に変わっている。
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※作品自体への評価ではなく、自分自身が楽しめたかのレビューです。 独特な思考回路と美的感覚、表現の幅。 政治的な思想や背景についてもう少し理解ができていないと、いまいち読み込めないなと。(三島先生すみません、後半訳分からずすっ飛ばしちゃいました、出直します。
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ある日突然自分たちは異星人だと気づいた家族の物語。円盤を見るために山を登ったり、人類のために活動したり。ちょっとしたことですれ違ったり。宇宙規模の人間ドラマでした。 異星人たちの理論は難解すぎて理解できなかった。
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三島由紀夫にしては珍しい作品 三島由紀夫の文学性が、近代チックなSFにどう反映されるのか気になって読みました。全体的には、家族の絆や愛がテーマにあると感じました。文の節々はやはり美しく奥ゆかしいものを感じました。 真新しさはありましたが、やはり私は近代チックなものより古典文学...
三島由紀夫にしては珍しい作品 三島由紀夫の文学性が、近代チックなSFにどう反映されるのか気になって読みました。全体的には、家族の絆や愛がテーマにあると感じました。文の節々はやはり美しく奥ゆかしいものを感じました。 真新しさはありましたが、やはり私は近代チックなものより古典文学の方が三島由紀夫の魅力は十二分に発揮されると思いました。
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5-6年前に映画化された際に、映画を見てから本を読もうと(逆だと映画に評点が辛くなるため)、買って映画を見たはいいが、そのあと本を手に取る気が起きず、眠っていた本。 今思えば眠るべくして眠ったのだなと、そのあとの数年でSFにハマるようになってからは思います。三島が絶賛していた『幼...
5-6年前に映画化された際に、映画を見てから本を読もうと(逆だと映画に評点が辛くなるため)、買って映画を見たはいいが、そのあと本を手に取る気が起きず、眠っていた本。 今思えば眠るべくして眠ったのだなと、そのあとの数年でSFにハマるようになってからは思います。三島が絶賛していた『幼年期の終わり』を彷彿と持させるし、そしてこのウクライナ危機の今だからこそ、数年前に読むよりは「臨場感」が残念ながらあるのだ。 SF作品といえばSFなのだけど、あくまで設定だけでしかなく、SFであることが主ともいうべき作品しか読んでなかったな(と発見)中で、新鮮にも感じた。三島がSFをたくさん読んでなかったっていうだけのことだろう笑 話は同じ理由から、人類を救いたいVS.人類を滅ぼすべきと考える一派のそれぞれの描写が主に進んでいき、最終局面では一台論争が繰り広げられる(カラマーゾフの大審問官の章の影響)、三島にしてはという意味でも、やはり現代と比べても諸々簡素な構成・キャラ付けには目をつむる。私としてはやはり「美」にまつわる記述の方に心奪われていた。 竹宮は結局どうしようもない人間の男という風に持って行きながら、私は金星人だったのではないかと思います。 「音楽に充満した彼の肉体。彼の足を縛めている清浄な足袋。たえず体の平衡を保とうとする努力から生まれる心の澄み切った空虚。彼は正しく美の中にいたのだが、突然、能面の小さな目の穴からのぞかれる世界は変貌した。…彼は少しずつ、彼の紛う方ない故郷の眺めに近づいていた。ついにそこに到達した。能面の目からのぞかれた世界は、燦然としていた。そこは金星の世界だったのである」(p84-85) ただのプロのヒモがわざわざこんな芝居まで打って、美女かも金持ちかもわからない女を呼び寄せるだろうか?そんな男がこんな情景を描写できるのだろうか?なんて思ってしまいました。 「すると暁子には、魅するような不吉な疑いが生れて来た。金沢で、二人は記憶を共有し、美しい風景を共有し、感情のおののきを共有し、ついには空飛ぶ円盤の出現を共有し、その無上の陶酔を共有した。しかし暁子がどうしても共有することができなかったものが一つある。それは竹宮が深井の面の目の穴からのぞいたという絶美の世界である。彼がとうとう言葉でさえ語ることのなかった金星の風景である。…暁子は今にして疑った。竹宮が見たのは、死の世界ではなかったろうか」(p130) 最後の問答の、虚無に関する記述も好きでした。うなりました。
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2023.1.20 2 とても良かった!いろんな解釈ができる。本当に宇宙人?今年は三島由紀夫読もう。途中で三島由紀夫出てきたのもよかった。カラマーゾフ思い出した。カラマーゾフよんどいてよかった。何回かその通りって喝采を叫んだ。難しい言葉での表現すごい。
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読書。 『美しい星』 三島由紀夫 を読んだ。 三島由紀夫が37歳の時に書き上げたSF的純文学作品。近年、現代版にアレンジされて映画化されてもいます。 東西冷戦の60年代。ソ連による大気圏での核実験で放射性物質が日本にも舞い降りる時代。自分たち家族4人が自分たちの本来の属性は宇...
読書。 『美しい星』 三島由紀夫 を読んだ。 三島由紀夫が37歳の時に書き上げたSF的純文学作品。近年、現代版にアレンジされて映画化されてもいます。 東西冷戦の60年代。ソ連による大気圏での核実験で放射性物質が日本にも舞い降りる時代。自分たち家族4人が自分たちの本来の属性は宇宙人だと気が付くのでした。父・大杉重一郎は火星人、母・伊代子は木星人、長男・一雄は水星人、長女・曉子は金星人。それぞれ、空飛ぶ円盤を見ることで覚醒するのです。重一郎はこの核の脅威によって人類が滅びてしまうことを、宇宙人として救おうとし、ソ連の書記長・フルシチョフに宛てた手紙を送付するなどの行動を起こし始めます。中盤からは、重一郎たちと対立する三人の、これまた空飛ぶ円盤との邂逅によって自分たちが宇宙人であることに目覚めた(あるいは思いだした)のですが、彼らの登場によって、一気に思想色が濃くなります。 泰然としてつよく自信をもっている書きっぷりのように感じました。そして出だしからとても「シュール」なのでした。まるで漫画家・和田ラヂヲ先生が繰り広げる世界のようです。茶化すことも、ふざけることも、笑いを取ることもなく、一家の奇妙な精神性がそのままに反映された日常が描かれます。そういった「シュール」な表現というかあり方があまりに巧み(というか、迷いのなさがあって)ですごいんです、ナンセンスな「シュール」さが大好物の僕にとってはたまらない快感を得るくらいに。とても心地の良い笑いが生じてくる。 なんというか、もはや「天然」の領域に立っているのかというくらいの出来映えなのです。三島由紀夫って、鋭さと繊細さと力強さを兼ね備えた才能だけじゃなくて「天然」も色濃く持ち合わせていて、両方が分かちがたく結びついている作家なのではないか、という考えが浮かんでくるほどなのでした。 「シュール」さでいえば、でも、とくに後半にはいってから、「真剣」さがど真ん中に打ち出されてきます。思想や哲学の部分でです。そこがこの作品の二面性になっているかといえば実はそうでもないとも言えて、大体、「シュール」な感覚というものは、「真剣」に「ナンセンス」をやることだったりするだろうものなので、やはり、両者は地続きなのだろうと思えもするのでした。 全10章のなかで、第9章の読みごたえに特に満足と興奮をおぼえました。主人公側は人類を救おうとし、悪役側は滅ぼすことこそが救いだとする。その対決の場面です。この作品はわかりやすい悪役の三人が出てきたところでこれまたわかりやすく対立が生まれたのだけれど、その対立と衝突の肉付けが最高なんです。この論争の部分は作者・三島由紀夫が血みどろになりながら、自分同士で戦っている場面なのかもしれません。重一郎と羽黒という対立する二人が論争していきますが、この論争劇って作者としては弁証法的に厚みを重ねていったのではないでしょうか。登場人物の二人が協力する場面はないのだけれど、弁証法的に得た知見を二人に割りふって論争のシーンとして作り上げた、というように僕には考えられるのでした。 部分部分では文章が冴えていますし、ストーリーのほうでは余分なたるみもないように読み受けました。くわえて構成も話の深みも、ラストの落とし方も、意気盛んかつ手練れである作家だからこそ作り上げることができたものなのだと思います。 当代一流の才能の熱と光にあふれています。毒気として受け止めるか、学びとして糧とするか、はたまた触発されるものとするか。読み手によって感じ方は異なるでしょうけれども、かなりの強い力を宿した佳作なのではないでしょうか。また別の三島作品に触れたくなりました。 最後に引用を。 __________ 人間の政治、いつも未来を女の太腿のように猥褻にちらつかせ、夢や希望や『よりよいもの』への餌を、馬の鼻面に人参をぶらさげるやり方でぶらさげておき、未来の暗黒へ向って鞭打ちながら、自分は現在の薄明の中に止まろうとするあの政治、……あれをしばらく陶酔のうちに静止させなくてはならん。(p287) __________ 慧眼ですよね。いつの時代も政治ってこうなんだなあ、と気づかされます。 また、引用はしませんが、p290では人間の中の虚無についてのとらえ方がすばらしい。人間の中の虚無こそが、支配を逃れる希望というコペルニクス的転回で論じてくるのです。電車のなかでふと虚空を眺める人などの、その瞬間は社会的支配を逃れているわけで、そこに突破口を見出しているなんて、すごい眼力をしていますよね。
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小説の体をなしてるけど三島由紀夫の思想が詰め込まれた作品 ‘偶然は最高の必然性’の一連の下りに痺れた
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
地球の未来を案ずる宇宙人のお話。 昔に書かれたものという部分を抜きにしても表現が独特で難しいなという印象。主題は文明発展の行く末、つまるところ水素爆弾と地球の存続だろうけど難し過ぎてほんとにこれであってるかは不明。 重一郎と羽黒の掛け合いはとてつもない密度でここに作者の言いたいことを詰めたのだろうと思ったけれど正直よく分からなかった。 一つしっくりくるところがあるとすれば「ああ、もう死んでしまいたい。しかし私は結局死なないだろう」という部分。 いつの時代も自分の特別性だけは損なわれないという考え方は一貫してる。
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読み終えて、巻末解説を読んでみると、懐かしい批評家奥野健男が「傑作だ」とほめていることに、心底驚きましたが、そういう時代だったのでしょうか。 それもまた懐かしい気がしました。今のぼくには、信じられないほどつまらなかったのですが(笑)
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