小僧の神様・城の崎にて の商品レビュー
志賀直哉には暗くて重いイメージがあった。 ところが、読んでみてそれは180度変わった。 こんなことを言うと、志賀直哉の研究者には怒られるのかもしれないけど、 僕にはこの作品たちが、現代風の、ちょっと皮肉の聞いたヒューマンドラマのように感じられた。 文学者は往々にして性格のきつそう...
志賀直哉には暗くて重いイメージがあった。 ところが、読んでみてそれは180度変わった。 こんなことを言うと、志賀直哉の研究者には怒られるのかもしれないけど、 僕にはこの作品たちが、現代風の、ちょっと皮肉の聞いたヒューマンドラマのように感じられた。 文学者は往々にして性格のきつそうな人が多いけれど、志賀さんとなら友達になれそう。 なんちゃってね。 以下、印象に残った作品をピックアップして感想を。 「城の崎にて」 「最高の短編」と名高い作品をようやく読んでみた。 一般的な評価はどうでもいいが、この作品の心象風景の繊細さ、 微妙さは確かに一見の価値があると感じた。 ストーリーはなんと言うこともない、穏やかに流れる日常だが、 交通事故にあって死に掛けた主人公には何もかもが違って見える。 死というものが日常のすぐ隣に何の激しさもなく寄り添っているのだ ということを、改めて思い出させる。 「生きている事と死んで了っている事と、それは両極ではなかった。 それ程に差はないような気がした」 そのことを思い出すためだけの、小さくて静かな作品。 「好人物の夫婦」 この作品、かなり好きだ。 志賀直哉という作家はどことなくくらいイメージだと思っていたのだが、 この作品はとても暖かい。そしてコミカルで微笑ましい。 主人公は夫婦の、夫のほう。 ちょっと浮気癖があるが、妻を愛している。 妻の親の具合が悪くて、妻が家を空けていた後、 絶妙のタイミングで夫婦の家の女中が妊娠してしまった。 はたとあわてる夫。やれ困った。 今回に関してはなんらやましいところはないんだけど、 普段のことを考えると疑われてもしょうがない。 さてどうしよう、という話。 こんな志賀直哉の作品があるなんて、意外でしょう? 驚くほど読みやすいので、ぜひ読んでみて。 「小僧の神様」 これまた非常に有名な作品。 でもこっちはそれほど印象に残らなかったな。 でも、考えさせられるところはある。 結局のところ世界はどうしようもないほどに相対的で、 目に見えていない世界は、当人にとってはないのと変わらないのかもしれない。 自分とまったく関係ないところから急にふってきた出来事は、 まるで「神の仕業」のように見えるのかもしれない。 志賀直哉は、そういう狭い世界に住む「小僧」をかわいそうだ、 という目で見ているようだけど、それが不幸なのかどうか、 僕にはよく分からない。 情報化された今の社会では、自分と関わらないような外の世界について、 「知ること」だけが、容易にできるようになってしまった。 自分が手の届くはずのない極上の寿司を食べることができたのは、 神様の仕業に違いない、と考えて、 悲しい時苦しい時にその事を思うだけで慰めになったという小僧と、 神などとはまったく関係なく、社会の枠組みによって、 自分には決して手の届かないところがある、と知ってしまっている現代人と。 はたして、どちらが「かわいそう」なのだろうか。
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おもしろかった! 短編集は読みやすくていいですね。 『小僧の神様』・・・お寿司が食べたくなったのは私だけではないはず! 後半はなんだか不倫だの浮気だのの話だらけしたが、やはり実話をもとに書いてあるのですね。 芸者に入れ込みながら、妻への愛情は変わらないらしいですよ。 男っ...
おもしろかった! 短編集は読みやすくていいですね。 『小僧の神様』・・・お寿司が食べたくなったのは私だけではないはず! 後半はなんだか不倫だの浮気だのの話だらけしたが、やはり実話をもとに書いてあるのですね。 芸者に入れ込みながら、妻への愛情は変わらないらしいですよ。 男って嫌ですね。
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やっぱり、死について考える機会なんて 自分が臨死体験をするか、近親者が死ぬことくらいしかきっかけがないよなー はちと鼠といもりの死を目の当たりにして、 作者の死についての見方が二転三転する。 「死は静かだ」→「自分の憧れている静かさの前には動騒がある」→「生と死は両極ではない」...
やっぱり、死について考える機会なんて 自分が臨死体験をするか、近親者が死ぬことくらいしかきっかけがないよなー はちと鼠といもりの死を目の当たりにして、 作者の死についての見方が二転三転する。 「死は静かだ」→「自分の憧れている静かさの前には動騒がある」→「生と死は両極ではない」 どうでもいいけど、私は葉っぱのくだりに気をとられすぎた 笑
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「小僧の神様」 完璧な文章。 過不足のない文章ってこういうものだと思う。 読み進めるのが、快感である。 いわずと知れた名作で、昔も読んだけれど、 今あらためて読んでそういう事を思い出した。
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小学校や中学校で作品を読まされた文豪というと、なんだか大人になってから手に取るのが気恥ずかしくて、ついつい敬遠してしまう傾向がある。私にとって、志賀直哉もそんな一人だった。 けれど、改めて読み直してみると、やっぱり教科書に載る人は教科書に載るだけのモノを持っている。志賀直哉の短編...
小学校や中学校で作品を読まされた文豪というと、なんだか大人になってから手に取るのが気恥ずかしくて、ついつい敬遠してしまう傾向がある。私にとって、志賀直哉もそんな一人だった。 けれど、改めて読み直してみると、やっぱり教科書に載る人は教科書に載るだけのモノを持っている。志賀直哉の短編も、平凡な私小説のようでいて、何か違うのである。この人の文章は、なんだか眩しい。土曜の午前の陽光を浴びているような気分になる。
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志賀直哉で、初めて読んだ本。 城の崎にて、のゆるやかに流れ込んでくる文章と情景が すごい好き
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濠端の住まいを高3の現代文で読んだ。 ----- 神でもない人間−−自由意思を持った人間が神のように無慈悲にそれを傍観していたという点で或いは非難されれば非難されるのだが、 私としてはその成行きが不可抗な運命のように感ぜられ、一指を加える気もしなかった。
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志賀直哉が、生涯で長編を一本しか書いていないというのは知らなかった。「暗夜行路」以外はすべて短編ばかりであり、それも、数年間筆をとらなかった時期も何度かある、寡作の人なのだという。 短編を読むと、気性として、長編よりも短編向きの作家なのだろうという気がする。全体の構成をしっかり...
志賀直哉が、生涯で長編を一本しか書いていないというのは知らなかった。「暗夜行路」以外はすべて短編ばかりであり、それも、数年間筆をとらなかった時期も何度かある、寡作の人なのだという。 短編を読むと、気性として、長編よりも短編向きの作家なのだろうという気がする。全体の構成をしっかりと組み立てて、登場人物の設定を綿密に考えて書いているような感じはまったくなくて、いきなり前触れなく、日常生活のど真ん中の一場面から始まったりする。 その中の些細な出来事に注目をして、そこからとてもシンプルで本質的な出来事を取り出して、さらっとまとめて終了になる。もし、現代に志賀直哉が生きていれば、ブログとの出会いは、とても相性のいい組み合わせになったに違いないだろうと思う。 表題作の「城の崎にて」と「小僧の神様」も良かったけれど、それ以上に良いと思ったのは、「雨蛙」と「冬の往来」だった。この二つの短編は、高尚な理性から発する思考実験のようなものではなく、もっとドロドロとした、感情的な部分から湧き上がる、どうしようもない遣る瀬なさが、その短い話しの中に表れていると思った。 自分は飛んだ事をしたと思った。虫を殺す事をよくする自分であるが、その気が全くないのに殺して了ったのは自分に妙な嫌な気をさした。素より自分の仕た事ではあったが如何にも偶然だった。イモリにとっては全く不意な死であった。自分は暫く其処に踞んでいた。イモリと自分だけになったような心持がしてイモリの身に自分がなってその心持を感じた。可哀想に想うと同時に、生き物の淋しさを一緒に感じた。自分は偶然に死ななかった。イモリは偶然に死んだ。自分は淋しい気持ちになって、漸く足元の見える路を温泉宿の方に帰って来た。(p.36)「城の崎にて」 「あの時帰して了えば石は仕舞まで、厭な女中で俺達の頭に残るところだったし、先方でも同様、厭な主人だと生涯想うところだった。両方とも今とその時と人間は別に変わりはしないが、何しろ関係が充分でないと、いい人同士でもお互いに悪く思うし、それが充分だといい加減悪い人間でも憎めなくなる」(p.129)「流行感冒」 間もなく二人は自分達の町へ帰って来た。それは昨日のままの静かな、つつましやかな町だった。いや、賛次郎には僅数時間前に出たばかりの町だったが、それが如何にも久しく見ない所だったように彼には思われた。(p.203)「雨蛙」 「これが僕に何を意味するか−−万事休す。今更母親の方と結婚したいとは云い出せないじゃあないか。僕は姉のこの一言で見事崖から突き落とされた。岸本が妊娠を聴いて突き落とされたように一ト思いに突き落とされた。しかも前は胎児、今度は同じ人が雪子さんとなって僕を突き落とした。先ず因縁とでも云いたいところだ」(p.244)「冬の往来」 女には彼の妻では疾の昔失われた新鮮な果物の味があった。それから子供の息吹と同じ匂いのする息吹があった。北国の海で捕れる蟹の鋏の中の肉があった。これらが総て官能的な魅力だけだという点、下等な感じもするが、所謂放蕩を超え、絶えず惹かれる気持を感じている以上、彼は猶且つ恋愛と思うより仕方なかった。そして彼はその内に美しさを感じ、醜い事をも醜いとは感じなかった。(p.272)「痴情」
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図書館で借りました。 城の崎にては教科書で少しだけ読んだ覚えがあります。 やはり表題作が心にひかれました。
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あえてこのカテゴリで。転生が一番好きだから。 初めて読んだ。ずっと食わず嫌いだった。何でこんなにすらすら読めるんだろうと自分でも不思議だった。どこにでもあるような題材だとか、会話が、飽きることなくあっという間に吸収され、酷いことが書いてあっても受け入れてしまえた。読み終えてすぐに...
あえてこのカテゴリで。転生が一番好きだから。 初めて読んだ。ずっと食わず嫌いだった。何でこんなにすらすら読めるんだろうと自分でも不思議だった。どこにでもあるような題材だとか、会話が、飽きることなくあっという間に吸収され、酷いことが書いてあっても受け入れてしまえた。読み終えてすぐに本屋に他の作品を買いに出かけた。
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