彼岸過迄 の商品レビュー
語り手=観察者と物語…
語り手=観察者と物語=対象の微妙な距離関係を、小説の細部に肩代わりさせた作品です。
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自意識の穴倉のなかで…
自意識の穴倉のなかで混迷する須永やそれをとりまく人々の物語が、友人敬太郎の探偵的視点によって語られる。物語は展開すれど出口はなく、緒F徊するのみ。
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内向的で思索的な須永…
内向的で思索的な須永という青年が物語としては本当の主人公なのですが、敬太郎という比較的楽天的な雰囲気の青年の視線で描かれているので、どことなく飄々とした風通しの良さを感じました。冒頭、物語に入る前に載っている「彼岸過迄に就いて」という文章もとても良いです。
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漱石の作品としては…
漱石の作品としては哲学的な示唆も極めて少ない上に、漱石の名前に期待して読む読者には内容も物足りなさがあるだろう。しかしそれでも最後まで読んでしまうのは漱石の書く技術のなせる業だと思う。いつか小説を書きたいという人や文章技術に興味のある人には、一つの完成されたパターンを覚えるとい...
漱石の作品としては哲学的な示唆も極めて少ない上に、漱石の名前に期待して読む読者には内容も物足りなさがあるだろう。しかしそれでも最後まで読んでしまうのは漱石の書く技術のなせる業だと思う。いつか小説を書きたいという人や文章技術に興味のある人には、一つの完成されたパターンを覚えるという意味で一読を薦めたい。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
夏目漱石を集中的に読みたくなり、1冊目。 特に終盤の一節、主人公須永と千代子との会話の中で、千代子が高木の話題を一切出さなかったことから、千代子の単純さの中に「技巧」を見出したシーンが印象的だった。「技巧」に気付き、その晩は全く眠れず翌朝も千代子の言葉に応対することはできなかった須永だが、自分の内面はどこまでも深める割に、千代子に対しては「単純」で「恐れない」人物であると一面的に評価している、須永の内向きに閉ざされたエゴ深さがよく表れていた一節だったと感じた。 全体を通して、日常で感じるような言語化できない感覚を(特に心理描写)、こうも巧みな言葉で表現できるんだ、と感嘆の連続でした。心理描写に関して言えば⭐️5。 ただ、扱っているテーマが難しいこと、よく理解できないシーンが度々あったこと、から若干の消化不良感があったので⭐️4にします。 夏目漱石最初の1冊目だったし、まだ節に慣れていないだけなのかも...
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巻末の解説で柄谷行人は、この作品が如何にして「写生文」たるかを論じている。なるほど確かに、漱石の作品が当時の文壇の趨向と一線を画するのは、人間の風景を無意味にみえるやり方で素朴に活写しようとするその姿勢によってだと納得した。漱石の「個々の短篇が相合して一長篇を構成するように仕組ん...
巻末の解説で柄谷行人は、この作品が如何にして「写生文」たるかを論じている。なるほど確かに、漱石の作品が当時の文壇の趨向と一線を画するのは、人間の風景を無意味にみえるやり方で素朴に活写しようとするその姿勢によってだと納得した。漱石の「個々の短篇が相合して一長篇を構成するように仕組んだら」面白かろうという意図は、結局この作品には実現していない。つまり個々の短篇はその意味においてほとんど独立していて、一長篇にまとめる意味は無いようにみえる。むしろ一長篇の緩流のなかに短篇が継起していく記録とでもいうべきであり、しかしその点においてこそ本作が写生文といわれるのだろうと思う。 私も人並み以上にはひねくれているつもりだが、須永には到底敵わない。私なら大した考えもなく千代子とくっつくに違いないと思いながら読んだ。愛の伴わない嫉妬などあるかしらと訝りながら読んだ。しかし同時に彼の「内へとぐろを捲き込む性質」にも常に共感しながら読んだ。そうして最後には、鼓膜で経験を貪ろうとする敬太郎こそがまさに小説に耽る私であることに気づき、やはり実際の経験をしないといけないと思った。 追記 須永が作の容貌を評した「一筆書きの朝貌」という表現に感動した。一生の間にどこかで使いたい。
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自分の読み方のせいかもしれませんが、自分と他人と社会と、夏目漱石の切り取り方は本当に面白いと思いました。結局こういう話!というあらすじがあるようで無いようで。結局は人生そんなもの。進んでるのか、止まっているのかわからないような、そんな時間の魔法
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
色んな人の話を聞く、短編が重なり合っていくような書かれ方。主人公自ら動くのは探偵の真似事だけで、他はずっと人の話を聞いている。 特に須永と千代子の話が読んでいて面白かった。須永の愛ではない嫉妬、言葉にならない感情の言語化が凄い。
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なんだか、どこに向かってゆくのかわからないまま、着地せずにふわふわと話が進み、結局着地しないところで終わって、ある意味、それが余韻になるのか。主人公はあくまで観察者というところは、面白いところではある。
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行動力の無い須永と従妹の千代子の煮え切らない恋愛の話。漱石自身を重ねた須永という登場人物の内的な心理描写はすごいと思う。当時の恋愛観はあっさりしたものだったのだろうか。敬太郎、田口、高木、百代子との関係がよく分からなかった。
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