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彼岸過迄 の商品レビュー

3.8

93件のお客様レビュー

  1. 5つ

    19

  2. 4つ

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  3. 3つ

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2023/03/02

冒頭に、漱石から読者へのメッセージがある。 彼岸過迄という、なんだか気になるタイトルは実は、単に正月から書き始めた連載がそれぐらいに終わるだろうと付けられた名前らしい。 そうなの、という気持ちで読み始めた。 そこには、短編を連ねて、最終的に大きな一編になる試みをすると書いてある...

冒頭に、漱石から読者へのメッセージがある。 彼岸過迄という、なんだか気になるタイトルは実は、単に正月から書き始めた連載がそれぐらいに終わるだろうと付けられた名前らしい。 そうなの、という気持ちで読み始めた。 そこには、短編を連ねて、最終的に大きな一編になる試みをすると書いてある。 話の語り手は、うまく流れにまかせて生き抜いていくタイプの青年。 探偵に憧れたり、まめまめと占いを信じたり、職探しも縁故に甘えて気楽に成功させている。 一方、真の主人公ともいえる、彼の友人はといえば、考えてばかりで、行動ができない。 その理由が最初の方から匂わされているが、そればかりが理由ではない。 自分の心とばかり向き合い、いまだ何の現実的なチャンスもつかめていない。 考えてばかりの自分がもどかしくて、気楽になりたい。 これを読んだ方は、どちらが自分に近いと思うんだろうか。 ワールドカップの時だけ、昔からファンです顔で現れる自称サッカーファンに違和感を感じてお祭りに参加できない私は、明らかに後者だろう。 そんな自分に時々しんどい人の心に優しくかたりかける漱石。 そして、能天気な青年の話も半分あるので、重さが緩和されて、前者のお気楽タイプにも読みやすい。 また、続編?の行人より、気楽な終わりなのも救われる。

Posted byブクログ

2021/09/11
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後期三部作の一つ目。主人公の敬太郎がいろんな人の話を聞いていく話。 もう面白かった‼︎ 最初のほうは「何じゃこりゃ…」といった感じで、なかなか読み進められず、夏目漱石のせっかくの作品なのに好きじゃないわと周りにも言っていたくらい、もう義務感でじりじり読み進めてたんだけど、須永くんとか千代子ちゃんとかの話が出てきたあたりで止まらなくなっちゃって、最終的には読んで大満足の作品になった。須永くんの、なんか内気な一人で考えて一人でうじうじして一人で怒って一人で完結しちゃうとこなんかは自分にもこういうとこあるよなあ…と自分を振り返らずにはいられなかったし、須永くんと千代ちゃんがまとまらないのには切なくなったし、松本のおじさんが捉えどころなさそうなのに須永くん思いですっごいいい人でかっこよかったし、須永くんの口を通して出てきた夫婦評にやられちゃって、もうどうしよう。 本ってこういう出会いがあるからいいよね。読めてほんとよかった。

Posted byブクログ

2021/07/31
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この本は1910年に大病を患った夏目漱石が、復帰後に最初に書いた長編小説であり、後期三部作の一冊と言われています。 長編小説といっても、この物語は6つの短編から成っています。短編がひとつの話にまとめ上げられ、長編小説になったものなのです。夏目漱石は当時新聞でこの作品を新聞で連載していました。毎日少しずつしか進まない物語を短編として仕上げていきながら、その短編を さらにまとめ上げたときに、長編小説が現れる。夏目漱石がかねてより思い描いていたというこの構想は、なんとも素晴らしく粋で素敵なものに思われるでしょう。 この物語は、主人公、そして聞き手に田川敬太郎がおかれ、様々な登場人物から話を聞いていきます。オムニバス形式のような形で、田中敬太朗視点で物語は進められながら、しかし様々な立場の登場人物、それぞれが語る短編からひとつの長編の話が出来ています。 登場人物は多くはありません。しかし、それぞれの関係性が複雑で、さらには語られる時系列もバラバラな為、少し話を整理しにくいように思います。一度読むだけでは所々分からなくなってしまう部分もあるかもしれません。しかし、だからこそ読み応えも十二分にあるでしょう。特に、後半になればなるほど、ややこしかった前半の内容が伏線となっている部分や、こういうことかと得心する箇所が多く出てくると思います。前半でついて行くのが大変だと思っても、後半では気付かぬうちに彼岸過迄の世界に引き込まれて読む手が止まらなくなりました。 また、前述の通り、主に主人公が聞き手となっています。そのため、物語世界に存在していない私たち読者も、主人公と同じように、語り手となる登場人物の話をダイレクトに肌に感じ、のめり込んで聞くことが出来ます。ゆえに『こころ』のように、語り手となる登場人物の胸に秘めた葛藤や、苦しみが生々しく味わうことが出来るのです。 しかし、最終章に「敬太朗の冒険は物語に始まって物語に終わった。(中略)彼の役割は絶えず受話器を耳にして、「世間」を聴く一種の探訪に過ぎなかった」という文があります。また、同じく最終章に、松本が「自分自身がひがんでいる理由がわからない」と涙するシーンがあります。 これらの文は、いずれも現代に生きる我々の胸の内に波紋を呼ぶものではないでしょうか。非現実な物語の中で、誰もが一度は思ったことのある問いに改めて立ち返ることもできる。そんな物語のように思います。 それらも踏まえ、夏目漱石の世界観を十分に感じられる作品でもあると思いました。

Posted byブクログ

2021/04/14
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主人公敬太郎は、大学を出ても定職に就かず、ふらふらしている。 しかし人生にどこか浪漫を求めており、波乱万丈な生活を送る友人森本の昔話に憧れている。 いくつかの章に分かれているこの作品は、主に敬太郎の周りの人の語りによって進んでいる。 特に市蔵と千代子の幼なじみ同士の恋愛話はかなり現代っぽいのめり込める内容だった。 お互い素直になれない、少しひねくれた性格で、でもあえて素直になるのも今更何か違う…というもどかしい気持ちになる。 市蔵の、自分自身のことについて考えすぎてしまう性格はその出生の秘密からきている、という展開はかなり気の毒で苦しい気持ちになった。

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2021/02/21
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後期三部作の1作目。 短編が集まって長編の形式を取っているし、序盤は割とお気楽な感じだから読みやすい。 中盤からとても濃ゆい。前期三部作とは全然違う。 あれも恋愛の話には違いないが、こちらの方がズドンと迫ってくる。 男の嫉妬心と猜疑心がとても良く描かれている。 私個人としては、須永の気持ちも分からんでもないけれど、千代子とくっついた方が幸せになれると思う。 ただ、千代子の気持ちに応えられるか分かんないんだよね須永は。 何だか二人の関係がもどかしくてもどかしくて。 これは、現代人が読んでも十分に楽しめる。 印象的なシーンも多々。 楽しかったり、悲しかったり、物寂しかったりもするけれど、漱石の書く日本語は美しい。

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2021/01/31

いわゆる「後期」の、最初の作品です。 以前の新潮文庫(だったかな?)の裏表紙の紹介に、「漱石の自己との血みどろの戦いは、ここから始まった」みたいに書かれていましたが…日本文学における「巨星」漱石の、絶対に揺るがない、その「美しさ」、「深さ」みたいなものに、打ちのめされたのを、記...

いわゆる「後期」の、最初の作品です。 以前の新潮文庫(だったかな?)の裏表紙の紹介に、「漱石の自己との血みどろの戦いは、ここから始まった」みたいに書かれていましたが…日本文学における「巨星」漱石の、絶対に揺るがない、その「美しさ」、「深さ」みたいなものに、打ちのめされたのを、記憶してます。若い頃の、幸せな、記憶です。

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2021/01/08

心の内側を描いた傑作 三四郎達より須永はだいぶ自分のことをわかっているし、敬太郎としての読者にそれを話してくれる。

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2020/11/09

高等遊民とか言ってみたい。 死と恋愛も非常に重い。 読むのにも非常に時間がかかった。 語り手が代わる代わるでてくるから感情移入するのに時間がかかるが、それだけに、斬新かつ新鮮。誰に対しても特別扱いではないんだなと知らしめてくれる感じが、非常に文豪の凄みを一層感じさせてくれる。誰に...

高等遊民とか言ってみたい。 死と恋愛も非常に重い。 読むのにも非常に時間がかかった。 語り手が代わる代わるでてくるから感情移入するのに時間がかかるが、それだけに、斬新かつ新鮮。誰に対しても特別扱いではないんだなと知らしめてくれる感じが、非常に文豪の凄みを一層感じさせてくれる。誰にも媚びてないだなと。

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2020/08/16

夏目漱石の前期三部作を読み終わったので、後期三部作へ。前期のモラトリアムな高等遊民の話から一歩進んでいる気がする(それでも臆病な自意識が邪魔をして、女の子と上手くいかないのですが)。 話も工夫していると漱石が言うだけあって、蛇のステッキの話から探偵まがいの話など興味を引く小話がう...

夏目漱石の前期三部作を読み終わったので、後期三部作へ。前期のモラトリアムな高等遊民の話から一歩進んでいる気がする(それでも臆病な自意識が邪魔をして、女の子と上手くいかないのですが)。 話も工夫していると漱石が言うだけあって、蛇のステッキの話から探偵まがいの話など興味を引く小話がうまくつなぎ合わされて千代子との話に流れていき、飽きずに読めた。

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2020/07/31

胃潰瘍による大出血で死の淵をさまよった「修善寺の大患」後の初の作品。 「行人」「こころ」と続く後期の三部作の最初の作品だが、正直いって、あまりよくわからない。 なにを書けばいいのか、試行錯誤中の作品のように見える。 漱石の職業作家としての第一作は「虞美人草」で、第二作目が「坑夫...

胃潰瘍による大出血で死の淵をさまよった「修善寺の大患」後の初の作品。 「行人」「こころ」と続く後期の三部作の最初の作品だが、正直いって、あまりよくわからない。 なにを書けばいいのか、試行錯誤中の作品のように見える。 漱石の職業作家としての第一作は「虞美人草」で、第二作目が「坑夫」だった。 「坑夫」はルポルタージュ風の作品で、いろいろな題材を模索しているふうだったが、その時受けた感じに近い。 「坑夫」のあと、「三四郎」「それから」「門」と続く、前期の三部作が始まるわけだ。 「彼岸過迄」は後期三部作の第一作とはいえ、ここからどこに向かおうとしているのか、まだその先が見えない。

Posted byブクログ