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ブラフマンの埋葬 の商品レビュー

3.6

265件のお客様レビュー

  1. 5つ

    41

  2. 4つ

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  3. 3つ

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    19

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静かで美しい物語

夏のある日に出会った、「僕」と「ブラフマン」。人間と、小さな生き物の日常を淡々と綴りながら、ゆっくりと「終わり」へと近づいてゆく物語。著者の、優しさと毒をあわせもつ持ち味が生きた、静かで美しい物語だ。

abtm

2024/06/01

図書館にてふらりと手に取った本でしたが、その書き出しに惚れ惚れして借りて帰って即読んでしまった。 小川先生の文章は途中突然異国が舞台なのだと気づかされてもすぐにその空気感にふわりと包まれ、その異国にあるだろうにおいまで漂ってくるような静かな説得力がありますね。すてき。 まず謎の...

図書館にてふらりと手に取った本でしたが、その書き出しに惚れ惚れして借りて帰って即読んでしまった。 小川先生の文章は途中突然異国が舞台なのだと気づかされてもすぐにその空気感にふわりと包まれ、その異国にあるだろうにおいまで漂ってくるような静かな説得力がありますね。すてき。 まず謎の生き物につけられる「ブラフマン」という名前が良くて、主人公の置かれた環境も少し変わったものという設定がとても良かった。 それが読み進めていくうちに、主人公自身の異質さに変わり、変わらない日々を繰り返しているようで彼自身はとても閉じていて鬱屈した部分があり、本当の意味で自分の深いところと外界とが繋がったことがない、あるいは過去に何かあってそうなってしまったのではないかと、静謐な中に違和感と警戒と同情に似た寂しさが沸いた。 それを際立たせるのが「ブラフマン」の存在であり、だが主人公に気を許していく謎の生き物の毎日の営みがゆっくりと主人公を変化させ、それは登場人物との関わりにも表れていく。 だからこそ突き放すラストの悲しみが胸を打つ。 しかしブラフマンと共に過ごした日々が、きっと道標になるのだと思う。 それはおかしな思いかもしれないが、瀕死のブラフマンの保護から始まった奇妙な生活が彼に暖かい「生」を齎したように、またブラフマンの喪失によって彼の人生に親友の「死」というどうやっても回避も誤魔化しもできない現実が与えられ、それは「生」の中にある穏やかで暖かい部分だけではない現実を彼に齎したわけだが、あのブラフマンとのかけがえのない日々こそがそれを救うと思ったからだ。 現実の方へ身体の向きを変え、心を開き始めた途端こんな悲しい結末になってしばらく放心してしまったが、たった一人ではなく彼の現実に居る人たちと丁寧に親友を埋葬する主人公の静かな芯の強さがとても温かく、悲しく、いやいやでもブラフマン、君との生活がきっと彼の血肉となって彼を癒し、救うのだよと思うとまた泣けて、とても良い読書体験でした。 勝手な読み方だけれども、多くの説明がない、ただ事象とすこしの情景だけが描かれる本は自由で、いいなあと思うのでした。 しかしもう手元にないので買い直さねば!記憶で書いているので所々内容と違っていたらすみません…!

Posted byブクログ

2024/05/31

創作者の家の管理人は,傷を負った謎の生物と出会う。登場人物は全て名無しだが,謎の生物だけブラフマンという立派な名を貰う。ヤンチャなブラフマンの死の直後,心理描写が消え,この世の終わりのような喪失感。

Posted byブクログ

2024/05/05

この小さなブラフマンと呼ばれる生き物は結局何だったのか記されていない。穏やかに進む前半から徐々に不穏さを感じていき…。 小川さんの筆力があってこその作品で、おそらくこういった一見何も起こらない物語を描くことがとても難しいのではないだろうか。 温かな春から、急な春の嵐に巻き込まれた...

この小さなブラフマンと呼ばれる生き物は結局何だったのか記されていない。穏やかに進む前半から徐々に不穏さを感じていき…。 小川さんの筆力があってこその作品で、おそらくこういった一見何も起こらない物語を描くことがとても難しいのではないだろうか。 温かな春から、急な春の嵐に巻き込まれたような、そしてまた静寂がおとずれる、浮遊感のある作品だった。

Posted byブクログ

2024/04/21

タイトルからも、どこかでこの愛すべきブラフマンとの別れがあるのか、と推測しながら、その美しい自然に囲まれた世界の中での、ブラフマンとの愛おしい生活を、爽やかな文体と共にドキドキしながら味わった。

Posted byブクログ

2024/03/25

場所は日本なのか?登場人物は日本人なのか?それとも外国の話なのか?ブラフマンと名付けられた動物は猫なのか、野生動物なのか?最初から最後まで想像力をあちらへこちらへと働かせながら読書する絵のない絵本のような小説でした。 人生経験を総動員して小説中の情景を想像する。その情景をこれまで...

場所は日本なのか?登場人物は日本人なのか?それとも外国の話なのか?ブラフマンと名付けられた動物は猫なのか、野生動物なのか?最初から最後まで想像力をあちらへこちらへと働かせながら読書する絵のない絵本のような小説でした。 人生経験を総動員して小説中の情景を想像する。その情景をこれまで見聞きした人物、生き物、映像に当てはめる。あまりいい読書の仕方ではないなーと思いつつ、情景にあった映像パズル探しが覚醒しました。たぶん作者の意図に沿った映像を半分も見つけられなかったと思いますが、勝手に想い描いた映像を構成すると立派な映画が自分の中で出来上がっていました! 読書をする際に自分の感性を信じて読みひたることの心地良さを教えてもらったような気がします。 中学生に読んでもらいたいな〜

Posted byブクログ

2024/03/14
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

小川洋子さんらしい、優しく流れるような文章が素敵な作品でした。丁寧に描写されるブラフマンの一挙手一投足が可愛らしく、ずっと幸せに暮らして欲しいと願って止みませんでした。 芸術家が芸術をひねり出すために、献身的に、ときには透明人間のように人に尽くす主人公。唯一心を惹かれた女性の目線の先には、別の想い人。 慢性的な酸素不足のような主人公の日常において、ブラフマンは真っ直ぐに彼のことを慕い、彼の心を癒したのだと思います。ブラフマンにとっては、主人公が世界の全部だったのでしょう。 ブラフマンを最後まで、心ある誰かに愛された命だということを認めようとしなかった娘さん。対照的に、最初は動物アレルギーだからと彼を毛嫌いしていたレース職人がブラフマンのおくるみを縫ってくれた事にはっとしました。レース職人は、主人公のブラフマンを大切に思う気持ちまでは否定していなかったということなのだと思います。 芸術家、目に見えないものも大切に掬いあげようとする類の人種には、ブラフマンはただの未知の生物ではなく、一人の男の心を癒す友達に見えるのかも知れません。

Posted byブクログ

2024/02/23
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

全体としてフワフワとした夢物語のような感覚が 解説を読んで、なるほどなとスッと入ってくるものがあった。南仏にまつわる話、主人公を含む名前のない人間たちこそ夢の中で出会う行きずりの人物のように謎めいている、互いの領域に決して入り込まない人々の世界に起こった泉泥棒の登場と「僕」の侵犯行為、その結果としての死。 犬との関わり、育つ幼きものに寄り添う子育てを振り返りたくなるようなあたたかな前半もよいが 後半の展開は深く、余韻を残す一冊。

Posted byブクログ

2024/02/17

作者の動物の描写には脱帽。ワールド全開。 章の終わりのブラフマンの取説が微笑ましい。 ラストは唐突でありながら埋葬品の中身で救われる。 いつまでも読んでいたいと思わせてくれる作品。

Posted byブクログ

2024/02/05

「謎」の生物、ブラフマンが本当に愛くるしい。⁡ ⁡⁡ ⁡この物語の、登場人物は 干渉せずただ、静かに各々の時を過ごしています。⁡ ⁡⁡しかし、干渉しない物語から足を1歩踏み出してしまった「僕」。⁡ ⁡その先に訪れるのは…。⁡ ⁡⁡ ⁡なぜ「僕」はあんな行動をしてしまったのか⁡ 好...

「謎」の生物、ブラフマンが本当に愛くるしい。⁡ ⁡⁡ ⁡この物語の、登場人物は 干渉せずただ、静かに各々の時を過ごしています。⁡ ⁡⁡しかし、干渉しない物語から足を1歩踏み出してしまった「僕」。⁡ ⁡その先に訪れるのは…。⁡ ⁡⁡ ⁡なぜ「僕」はあんな行動をしてしまったのか⁡ 好意か嫉妬か、愛すべきものを否定された仕返しなのか。⁡ ⁡⁡ 鼻の奥がツンとするような作品を読んだのは⁡ ⁡久しぶりでした。 ⁡

Posted byブクログ