私家版・ユダヤ文化論 の商品レビュー
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2010年にフォトリーディングして以来積読。思い出して読みだす。 「私家版」と断っているのでと著者は何度も書いているが、とてもしっかりした内容。でも自分の受け入れない事には、多少感情的嫌味をちらつかせているあたり、「私家版」とこだわる理由の一つなのかも。 収穫としては日ユ同祖論の系譜が分かり、その背景が(著者的な視点で)解説されていること。でも聖書からの解説ではないのでその点は注意。日ユ同祖論の背景は反ユダヤ主義的、神国日本思想があったとの事。 日本の親ユダヤ主義政策は、反ユダヤ主義論調のさなかにとられた政策。その背後には、ユダヤ人の人脈や金融支配の力を借りたい思いがあったとのこと。(これは河豚計画にも書いてあったが、ちょっと疑問。) さすが哲学の先生だけあって、ユダヤ人の定義を哲学的に述べている。 私的にまとめると、ユダヤ人とは反ユダヤ主義によってあとから定義される人々。また別の言い方では、神の呼びかけにあとから応答したという意味で、呼ばれて答えた人々。 親ユダヤ主義も反ユダヤ主義も表裏は同じ。神への信仰がある人の罠として、悪魔の存在を認めるゆえに悪魔の所業を認めて糾弾する現れとして、反ユダヤ主義に陥ることがある、と著者はいう。 著者はレビストローネというフランス人(超正統派のユダヤ教徒らしい)の言葉を引用する際に、せっかくヨブ記からの疑問への答えなのに、ヨブ記を引用せずレビストローネの言葉だけを引用しているあたり、キリスト者としては「をゐ!」と思わされたりもする。 多くの付箋を付けたが、この本についてここで全部しらべて要約は載せず、思い出すまましるしてみた。 だいぶ疲れたので、いちいち振り返るのが億劫だった故。 必要があったので読んだが、難しい内容であった。 星は三つ。
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むずかしい。著名な映画監督、音楽家、学者に経営者の名前を挙げてユダヤ的な才能とくくっている限り、それは何なのかと、真似して再生産できるカテゴリーではないことに気づくばかりです。
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ユダヤ人は「ユダヤ人を否定しようとするもの」に媒介されて存在し続けてきたということである。言い換えれば、私たちがユダヤ人と名づけるものは、「端的に私ならざるもの」に冠された名だということである。(p.36) ユダヤ人とは人々が「ユダヤ人」と思っている人間のことである。これは正しい。ただし、これはサルトルが言うように、「そこから出発すべき単純な真理」であるのではなく、むしろ。どこまで遡っても、そこから出発することのできない同語反復の始点=終点なのである。(p.52) 私たちの記憶に残るのは「納得のゆく言葉」ではなく、むしろ「片づかない言葉」である。「世界と君との闘いにおいては、世界を支援せよ」とか「私が語っているとき、私の中で語っているのは他者である」とか「私たちは欲するものを他人に与えることによってしか手に入れることができない」とか、うろ覚えではあるけれども、決して忘れることのできない種類の言葉がある。それを忘れることができなかったのは少年の日常の論理を以てしてはそれらの言葉を「吞み込む」ことができなかったからである。(pp.160-161)
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4他者論として、本書がカバーする範疇は広い。他者とは何なのか、自己とは何なのか、そのような基本的な哲学的問いが底流している。内田樹の中でも、少し異質で好きな作品。
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ユダヤの選民思想とは何か。その思想的意味を内田樹が思い入れたっぷりに語る。本当かどうかはわからないけれど、一つの考え方としておもしろく読んだ。
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これを読んで、夜と霧の著者のフランクルが言っていることやその姿勢のことが(私は大好きなのですが)、今までより少しだけ深くわかったように思いました。 このあと、フランクルを再読したいと思います。
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著者自身も言っていることですが、ユダヤ人については問題自体が入り組んでいて難しく、本書を一度読んだだけでは、結局なぜこんなことになっているのか、理解できませんでした。「夜と霧」を読んだり、「戦場のピアニスト」を観たりして、なんとなく第二次世界大戦のころユダヤ人たちにどんなことがあ...
著者自身も言っていることですが、ユダヤ人については問題自体が入り組んでいて難しく、本書を一度読んだだけでは、結局なぜこんなことになっているのか、理解できませんでした。「夜と霧」を読んだり、「戦場のピアニスト」を観たりして、なんとなく第二次世界大戦のころユダヤ人たちにどんなことがあったのか、それは分かっているつもりです。しかし、なぜ・・・となると全く分からないまま。ユダヤ人のノーベル賞受賞者が多いということもなんとなく知っているけれど、なぜ・・・ということになると、これまた全くわからない。本書にそれらの答えが書かれているようなのだけれど、まだ霧がかかっていて、私にははっきり見えない。哲学の翻訳書のように難解な文章というわけではないのだけれど、一つ一つの文章は理解できるのだけれど、全体としてはうまくイメージできない。だからまだ他人には話ができない。いろいろなところで本書が紹介されていて、早く読まなければと思いつつ、なかなか読めていませんでした。読み終わって分かったことは、ユダヤ人の問題は奥が深いということだけでした。現実的な話をすると、もう25年も前のことですが、アメリカに1年間いたことがありますが、ユダヤ人がどうこう、という話は一切なかったように思います。黒人差別は大変激しい地域でしたが。いま、具体的に何らかの問題が起こっているのだろうか。
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3章、反ユダヤ主義が19世紀末に社会運動と繋がっていく集団心理の背景が、今の「日本万歳」にも繋がっているような気がします。
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ナチのホロコーストを否定した雑誌マルコポーロを廃刊に追い込んだユダヤ人人権団体(サイモン・ヴィーゼンタール・センター)や日露戦争において日本への戦費調達支援により間接的に反ユダヤ政策を取ったロシアを敗戦に追い込んだアメリカ在住のユダヤ系銀行家ジェイコブ・シェフ等に例示されるように、ユダヤ人が同胞意識に基づいて取った行動が第三国における社会情勢や戦争の行方を変えてしまうほどの力を及ぼすことがある。 この行動を支えている「ユダヤ人」という概念が何であるかを探ることで、なぜユダヤ人が二千年にも及ぶ淘汰圧を乗り越え著名な人材※を輩出しているのか、「わたし」という存在の定義はどのようになされるのか、を解き明かす。 「ユダヤ人」とは、国民国家の構成員でも、人種でも、宗教共同体でもない。サルトルいわく、「ユダヤ人を作り出したのは反ユダヤ主義者である。」(現在は、母がユダヤ人かユダヤ正教に改宗した人のことを言う) 19世紀ヨーロッパでは、産業革命によってもたらされた貨幣経済の活発化による社会の急激な変化と、革命によるユダヤ人解放と彼らの経済活動への進出が同時的に進行した。ユダヤ人は農地が与えられず、ギルド組織からも排除されていた。既存の業種につくことができない彼らは、流通、金融、運輸、通信、マスメディア、興行といった新興業界やニッチビジネスに雪崩れ込む以外に選択肢がなかった。ユダヤ人が新たな産業を興したというよりは、新たな需要を喚起する以外にユダヤ人には生計の道がなかったのだ。 産業革命によってもたらされた急激な近代化、都市化、格差の拡大に対する恐怖・嫌悪感が反体制運動を活発化させた。反体制派の指導者は、「ブルジョワジーvsプロレタリア」という近代的な階級対立図式を古典的な「アーリア人vsセム人」の人種対立図式に重ね合わせることで、すべての社会的矛盾を「反ユダヤ主義政策」に帰結しようと試みた。それゆえ、フランスでは『ユダヤ的フランス』という書籍が爆発的セールスを記録した。 ユダヤ人は、多くの領域でイノベーションを担ってきた。それは、彼らの特異な歴史・文化・民族的背景によって、ユダヤ人には「自分が現在用いている判断枠組みその者を懐疑する力と『私はついに私でしかない』という自己繁縛性を不快に感じる感受性」が育まれたからである。 これからも、そうして得られた才能を活かして多くの「ユダヤ人」が富や名声を得ることが「非ユダヤ人」の嫉妬を生み、また、彼らの社会的影響力が脅威の対象となって、新たな差別・迫害へと発展していく負の循環が構築される可能性は、十分にあり得る。 ※多分野で活躍するユダヤ人 1901年から始まるノーベル賞受賞者のうち、医学生理学48/182、物理学44/178、化学26/147とそれぞれ約20%前後を占めており、ユダヤ人の全人口比0.2%から比べるととんでもない数値。 ※著名なユダヤ人 スピノザ、カール・マルクス、フロイト、エマニュエル・レヴィナス、クロード・レヴィ=ストロース、ジャック・デリダ、アルバート・アインシュタイン、チャーリー・チャップリン、ウディ・アレン、ポール・ニューマン、カーク&マイケル・ダグラス、バーバラ・ストライサンド、ジーン・ハックマン、ダスティン・ホフマン、グスタフ・マーラー、ウラジミール・アシュケナージ、リチャード・ドレイファス、スティーブン・スピルバーグ、ロマン・ポランスキー、キャロル・キング、ビリー・ジョエル、ベット・ミドラー、ポール・サイモン、レニー・クラヴィッツ、イギー・ポップ、ルー・リード、デイヴ・リー・ロス。 ※※ユダヤ人に関するキーワード 「シオン賢者の議定書」「シンドラーのリスト」「戦場のピアニスト」「アンネの日記」ドレフュス事件、カバラー、タルムード
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文化論というタイトルですが、内容は「ユダヤ人がなぜ迫害の対象になるか」についてです。 あとがきにあるように、この本はユダヤ人が読んで分かるように書かれているそうです。 それでなのか、内田センセイの結論は頭では理解できましたが、腑に落ちるところまでは行きませんでした。 寧ろ引用され...
文化論というタイトルですが、内容は「ユダヤ人がなぜ迫害の対象になるか」についてです。 あとがきにあるように、この本はユダヤ人が読んで分かるように書かれているそうです。 それでなのか、内田センセイの結論は頭では理解できましたが、腑に落ちるところまでは行きませんでした。 寧ろ引用されているサルトルの考えの方がスッと腑に落ちます。 内田センセイの宗教観の元になっている考え方や、レヴィナスへの思いはすごくわかりました。 ユダヤ的考え方が分かるためにも、これからレヴィナス本を読もうと思いました。
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