村上春樹、河合隼雄に会いにいく の商品レビュー
説明するまでもない、まんまの対談集ですが、村上春樹さんの『走ることについて語るときに僕の語ること』(文春文庫、2010)のなかで、「精神と身体」の問題へと言及される問題の先駆的著作。 ----- 村上 若い世代の身体観について ひとつ言えるのは、身体的な感覚価値がそのまま...
説明するまでもない、まんまの対談集ですが、村上春樹さんの『走ることについて語るときに僕の語ること』(文春文庫、2010)のなかで、「精神と身体」の問題へと言及される問題の先駆的著作。 ----- 村上 若い世代の身体観について ひとつ言えるのは、身体的な感覚価値がそのまま精神的な感覚価値に結びつく傾向が、時を追うごとに強くなっているということでしょう。つまり頭でっかちから、「気持ちよければそれでいいじゃん」という考え方へのシフトですね。一九六〇年代のカウンターカルチャーとかドラッグ体験とかから一貫して続いている傾向だと思います。それはそれで間違った事じゃないというか、ひとつの精神のあり方だと僕は思う。 でも僕はそれなりの年になってからわかるんだけれど、「気持ちよくあり続ける」と一口で言っても、そんなに簡単なことじゃないんですよね。ただごろんと芝生に寝ころんでいても、なかなかリンゴは勝手に落ちてこない。気持ちよくあり続けるためには、やはりそれなりの努力を払わなくてはならない。そのへんを簡単に手軽に済ませようと思うと、結局たとえばドラッグとか、売春とか、そっちの方に流れてしまいそうな気がします。ですから、あんまり七面倒くさいことを言いたくはないけれど、新しい時代のethics(倫理性)みたいなものはどうしてもある程度必要になってくるんじゃないでしょうか。それは身体性というものを基調にした、より柔軟な哲学のようなものになるでしょうが、この場合妄想的な暴力性(たとえばオウムのような)をきっぱりと排除する力を持つことがいちばん大きな問題になるだろうという気がします。 --河合隼雄・村上春樹『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』新潮文庫、平成十一年、116-118頁。 -----
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対談内容はおおよそ人間の心について。二人の相性の良さが滲み出ている。この人らはほんまに頭いいんでしょうねえ。
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臨床心理学の立場から、村上春樹の小説の世界についても、二人の会話から様々と浮き彫りにされていく。そういう読み方をすると、さらに村上春樹の小説が面白く読める。
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生き抜く過程に個性が顕在化してくるのです。 けっこう前に読んだ本。村上春樹の文体はやはり良い。 二人の海外経験からくる人生観にはとても憧れた。海外に住むことがステータスという安直な考えではないが、やはり他の人よりもより多様な経験を積んでることから他の人とは異なる気づきのようなも...
生き抜く過程に個性が顕在化してくるのです。 けっこう前に読んだ本。村上春樹の文体はやはり良い。 二人の海外経験からくる人生観にはとても憧れた。海外に住むことがステータスという安直な考えではないが、やはり他の人よりもより多様な経験を積んでることから他の人とは異なる気づきのようなものを得ていると思う。そうした別の角度からの視点を共有できるのが興味深いのだなぁと思う。
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作品の紹介 村上春樹が語るアメリカ体験や’60年代学生紛争、オウム事件と阪神大震災の衝撃を、河合隼雄は深く受けとめ、箱庭療法の奥深さや、一人一人が独自の「物語」を生きることの重要さを訴える。「個人は日本歴史といかに結びつくか」から「結婚生活の勘どころ」まで、現場の最先端からの思索...
作品の紹介 村上春樹が語るアメリカ体験や’60年代学生紛争、オウム事件と阪神大震災の衝撃を、河合隼雄は深く受けとめ、箱庭療法の奥深さや、一人一人が独自の「物語」を生きることの重要さを訴える。「個人は日本歴史といかに結びつくか」から「結婚生活の勘どころ」まで、現場の最先端からの思索はやがて、疲弊した日本社会こそ、いまポジティブな転換点にあることを浮き彫りにする。
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村上春樹の作品を読み解くヒントと、「僕らが生きる世界」を読み解くヒントがたくさん散りばめられている。ほんとうに深い。特に村上氏の作品に現る「暴力性」への考察はとても興味深く、理解を助けられた。もう少し読み込みたい。
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読むとなんだか救われるような気持ちになる一冊。 河合隼雄が亡くなる前に、もう一回だけでもこういう機会があったらよかったのに。
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河合隼雄×村上春樹の対談に、私は猛烈な違和感を覚えた。我が思考は解答を出していないものの、「待て」と信号を放った。何なんだろう? 私が感じるざらつきや嘘は何に由来しているのだろう? ちょっとつかみどころがないので、書きながら考えることにしよう。 http://d.hatena....
河合隼雄×村上春樹の対談に、私は猛烈な違和感を覚えた。我が思考は解答を出していないものの、「待て」と信号を放った。何なんだろう? 私が感じるざらつきや嘘は何に由来しているのだろう? ちょっとつかみどころがないので、書きながら考えることにしよう。 http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20100826/p5
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日頃いろいろと考えていることが、お二人の中で考えていることを通して浮き上がったり、井戸を掘ったり ゆっくりながめながら楽しめます
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夫婦ってのは、「井戸掘り」をしていかなくちゃいけないそうだ。 井戸掘りってのは、『ねじまき鳥クロニクル』のキーワード。村上春樹と河合隼雄の対談は、『ねじまき鳥クロニクル』の第三部が刊行されてまもない頃に行われた(はず)。 僕は恋愛経験はなくもないが、結婚経験はない。だか...
夫婦ってのは、「井戸掘り」をしていかなくちゃいけないそうだ。 井戸掘りってのは、『ねじまき鳥クロニクル』のキーワード。村上春樹と河合隼雄の対談は、『ねじまき鳥クロニクル』の第三部が刊行されてまもない頃に行われた(はず)。 僕は恋愛経験はなくもないが、結婚経験はない。だから、結婚後の夫婦生活についてとやかく言える立場じゃないのだが。 井戸を掘るってのはとっても大変。 戦争映画とかで、処刑される運命にある捕虜が、自分の墓を自分で掘らされるシーンがある。それも、想像以上に大変なのだ。ちなみに僕は実家の畑に大きな穴を掘った経験がある。子供とはいえ、数時間掘ってもそんなに深く掘れない。ましてや井戸なんて。 それでも夫婦ってのは、二人寄り添いながら、一生懸命井戸を掘っていくものだという。一緒にね。 ぐだぐだ文句たれながらでもいい、ただ黙って静かにでもいい、明るく楽しく励まし合いながらでももちろんかまわない。着々と、井戸を掘り続けるものなのだ。 これは暗喩だ。もしかすると、アメリカ人には通用しないかもしれない。
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