大地の子(3) の商品レビュー
全4巻の第3巻目。 本巻は文革後の政争、宝華製鉄の建設中止、中国で離ればなれになった陸一心(日本名:松本勝男)と妹あつ子との再会と、目まぐるしく展開が移り行く激動の流れになっている。 中国側の隠蔽体質と強欲さが浮き彫りになっている印象を受ける。また、いつの時代もそうだが、政...
全4巻の第3巻目。 本巻は文革後の政争、宝華製鉄の建設中止、中国で離ればなれになった陸一心(日本名:松本勝男)と妹あつ子との再会と、目まぐるしく展開が移り行く激動の流れになっている。 中国側の隠蔽体質と強欲さが浮き彫りになっている印象を受ける。また、いつの時代もそうだが、政治の影響を受けて苦労する一般人の姿も浮き彫りになっている。民族性や政争など、現代にも通じる内容であり、考えさせられる。
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日本人の戦争孤児・松本勝男こと陸一心。 日本人という出自故に、過酷な運命を辿ってきた。 日中プロジェクト『宝華製鉄』のメンバーとして、日本の地を踏む。 しなのふじ… 長野… 少しずつ記憶が… 政争に巻き込まれ、『宝華製鉄』建設プロジェクトは中止に… 夏国峰にババをひかせた...
日本人の戦争孤児・松本勝男こと陸一心。 日本人という出自故に、過酷な運命を辿ってきた。 日中プロジェクト『宝華製鉄』のメンバーとして、日本の地を踏む。 しなのふじ… 長野… 少しずつ記憶が… 政争に巻き込まれ、『宝華製鉄』建設プロジェクトは中止に… 夏国峰にババをひかせたという、鄧平化、恐るべし。その後、あっさり再開とは… 松本耕次は、『宝華製鉄』建設プロジェクトの上海事務所長として、多忙な日々を送りながら、残留孤児となった勝男とあつ子の行方を探していた。 巡回医療を続ける妻・江月梅から張玉花というあつ子に年齢が近い、残留孤児がいることを知り、張玉花に会いに行く陸一心… そこには過労で病に倒れた張玉花が… もう少し早ければ… 同じように探されることもなく、日本人として、日本に戻れなかった人はどれだけいたんだろう。 満洲開拓団とはなんだったのだろうか⁇ 何の罪もない弱い人たちを置き去りにするなんて… 残留孤児の中には、あつ子のように極貧の生活で家族にも会えず、日本にも戻れないまま、中国で亡くなっていった人はどれだけいたのだろうか。 しかし、なんでも金、金という中国人には言葉がない…
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『大地の子(三)』 山崎豊子 (文春文庫) いよいよ一心が日本の地を踏む! 宝華製鉄建設の準備が進む中、日本への工程考察ミッションのメンバーとして、一心は日本へ行くことになった。 最新鋭の製鉄所やコンピューター制御の新幹線など日本の技術に驚く一方で、小さな田畑やなだらかな山並みなど、素朴な農家の風景が一心の心を和ませた。 富士山を見た一心の脳裡に、昔の記憶がかすかによみがえる。 「しなのふじ」という言葉。そして柏手の音。 しかし、それ以上の記憶を掘り起こすことはできなかった。 中国では大きな政変が起ころうとしていた。 (この小説では、史実が下敷きになってはいるが、実在する登場人物は名前を少し変えてある。例えば、華国鋒は夏国鋒、鄧小平は鄧平化など。) 夏国鋒を主席の座から引きずり下ろすべく、鄧平化は宝華製鉄建設プロジェクトを失敗させるように仕向ける。 政争の具にされてしまう宝華プロジェクト…… なんちゅうことするのよ! 鄧平化曰く、宝華製鉄は、夏国鋒にひかせるトランプのババなんだそうだ。 スケールの大きさに絶句してしまう。 当初六千億円だった建設費用を、現金一括払いを盾に四千億円にまで値引きさせ、さらに資金がないから延べ払いに変更しろと言い、あげくのはてに経済調整を理由に工事は中止となり、夏国鋒失脚後、鄧平化によって工事再開が告げられる。 振り回される東洋製鉄。 でも稲村会長は、「多少のことは我慢して、やってあげなさい」と言うのだ。 周恩来がいかに仁徳あふれる人だったのかがよくわかる。 実際そういう人だったらしい。 さて、「信濃富士」という言葉を思い出した一心は、信濃が長野県であることと、そこがかつて多くの開拓団を満州に送り出したことを知る。 その後、月梅が巡回医療で訪れた河北省の貧しい農村で出会った張玉花という女性が、幼いころ生き別れた一心の妹のあつ子であることがわかり、36年ぶりの再会を果たすのだ。 でも少し遅かった。 あつ子の体はボロボロで、月梅の診察によると、長年の栄養不良と過労から結核性の脊椎炎に罹っており、もう長くないという。 月梅のことを「北京の優しい看護婦さん」というあつ子の言葉に、じんとしてしまった。 月梅さんは天使だなぁ。 一心もあつ子も月梅に救われたんだもんなぁ。 あつ子は、飼い犬の「シロ」、猫の「タマ」、一心の呼び名「カッチャン」、そしてお祖父さんがいたこと、母が「タキ」と呼ばれていたことを覚えていた。 少しずつ見えてくる真実。 しかし、二人の父松本耕次は、未だ子供たちに会えずにいた。 松本は、中国残留日本人孤児を捜すための訪中団に参加するも、目的の女性はあつ子とは別人であったのだった。 一心とあつ子の再会とともに、この松本の場面は、作者が読者に一番伝えたかったことなのではないだろうか。 「開拓団とは一体、何であったのか」 という松本の問いかけは、この作品のテーマだ。 “平和の戦士”“土の拓士”として送り出され、敗戦とともに軍に置き去りにされ、退路も断たれ、八万人もの死者、行方不明者が出た。 辛うじて生き残った子供たちは、戦争孤児として日本政府から放置されたまま。 訪中団に会える孤児はほんの一握りで、多くの孤児たちは貧しく、小学校へも行けず、読み書きもできず、自分が何者であるかもわからない。 「開拓団員とは、当時の日本国内の人口、食糧問題の解決のために満州へ送り出された貧しい小作農民とその家族たちで、国家の政策に騙されて、大陸の荒野に打ち捨てられた棄民以外の何ものでもなかった。松本耕次の眼から、憤りの涙が滴り落ちた。」 今回、私が印象に残ったのは、一心のワイシャツ論だった。 ボルトの錆を、地中に埋めてしまうから問題なし、とする松本に対して、ズボンの中にいれてしまうから構わないと、染みのついたワイシャツをあなたは買いますか?と、一心が返すのだ。 松本をはじめ、日本の技術者たちは、理論的な話し合いができる一心を認めていて、政治だとか国の面子だとかとは別の、表に出ないところでの技術者どうしの信頼関係がとてもいいなと思った。 二巻で、これでもかというほど嫌な女ぶりを発揮していた趙丹青も、父親の左遷にもビクともせず、設計図を小脇に現場に立つ姿は凛としてかっこよかったし。 適材適所だなぁと。 しかし! 丹青が意外といい人だった代わりに、夫の馮長幸が一心を陥れるために暗躍しているのだ。 さらに中国側の事故隠しも発覚し…… さあどうなる四巻!
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中国残留孤児を主人公に中国の戦後、共産党社会の有様を描いた長編小説。日中友好の証として計画された製鉄所建設プロジェクトとともに、主人公の人生は一つの転機を迎え、そして"大地の子"として決断を下す。 筆者の綿密な取材に基づき描き出された物語は、重厚かつディテー...
中国残留孤児を主人公に中国の戦後、共産党社会の有様を描いた長編小説。日中友好の証として計画された製鉄所建設プロジェクトとともに、主人公の人生は一つの転機を迎え、そして"大地の子"として決断を下す。 筆者の綿密な取材に基づき描き出された物語は、重厚かつディテールもしっかりしている。 主人公の養父の気高さには感動するが、それ以外の筆者が描く中国の姿は正直好きになれなかった。大元は日本の戦争のためとはいえ、作中主人公は散々苦杯をなめ、また生き別れた妹の末路はあまりに哀れ。技術協力も結局は同床異夢だったのだろう。
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宝華製鉄所の建設に精を出す中で、ついに妹の消息をつかみ三十数年振りの再会を果たしたものの、養母にトンヤンシーとして馬車馬のようにこき使わらてきたために体がボロボロになっており、陸一心の様々な図らいも虚しく、息を引きとった時には無情さを痛感した。実父との運命の再会を果たしたものの、またも日本人という出自により一波乱巻き起こす要因になってしまうことに、むずがゆさを感じた。 宝華製鉄所の建設で仕事をともにするうちに、丹青の陸一心に対する差別的感情が薄れてきて徐々に慕うようになっていく様は、ストーリー的には予測できたが、3巻におけるヒロイン的な役割を果たしていて、ロマンス要素として物語をより充実させてくれた。
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圧倒的な取材量に基づいた叙事詩的な大河作品 日本人の立場としては中国に対して嫌気がさすシーンも多く、ムカムカとすることも多かったが、それよりも戦争孤児の描写のリアリティが凄い
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日本の至らぬ点が多々あるにせよ、あの国のひどさが際立っていて、何度も読むのに嫌気が差してしまった。 時代により、国により、政治により、正義も常識も変わる。そんな中、どうにかして進んでいこうとする一心。
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あらすじ 太平洋戦争の敗戦によって、満州で残留孤児となった主人公・陸一心(中国名)が、中国人養父母への愛情と日本の実父との愛憎に揺れながらも、文化大革命の荒波を越え、日中共同の製鉄プラント事業を完成させるまでの物語。 感想 これが山崎豊子かって感じがした。
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あつ子をはじめとした残留孤児の人生ってなんだったのか。日本政府は戦争責任として真っ先に解決に取り組まなくてはならないし、世界中の誰一人取り残してはならないという人権を尊重するために中国政府も尽力しなくてはならない。こんな事が戦後の昭和時代に起こっており、ある意味明治、江戸時代に遡...
あつ子をはじめとした残留孤児の人生ってなんだったのか。日本政府は戦争責任として真っ先に解決に取り組まなくてはならないし、世界中の誰一人取り残してはならないという人権を尊重するために中国政府も尽力しなくてはならない。こんな事が戦後の昭和時代に起こっており、ある意味明治、江戸時代に遡って後退していた時代だ。これと似たようなケースが今でも世界中で起こっていて私たちは目を背けているのだろう。
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3/4が終わり、いよいよクライマックスへ! 高炉建設計画の話になると、日中の民族性の違いがかなり露わになっているなと感じた。中国駐在の日本メンバーは郷に従うの大変そう笑 丹青の株がここに来て上がってきた。 元夫を父の権力により左遷させるなど勝手なところもあるけれど、仕事への熱...
3/4が終わり、いよいよクライマックスへ! 高炉建設計画の話になると、日中の民族性の違いがかなり露わになっているなと感じた。中国駐在の日本メンバーは郷に従うの大変そう笑 丹青の株がここに来て上がってきた。 元夫を父の権力により左遷させるなど勝手なところもあるけれど、仕事への熱量は人一倍。最終巻、一心が仕事で壁にぶつかった時のキーマンか。その壁を丹青の夫が作りそうだが笑 鄧平化政権指導。高炉の完成はいかに、一心の日本との関わりなどまだまだ見逃せない。
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