日本が誇る文豪たちの名作文学作品をまとめました。
「夏目漱石」「芥川龍之介」「太宰治」「川端康成」「宮沢賢治」「谷崎潤一郎」ほか、計23人の文豪の著書をご紹介。
夏目漱石
1867年2月9日、江戸の牛込馬場横町(現在の東京都新宿区喜久井町)で生まれる。帝国大学(のちの東京帝国大学。現代の東京大学)英文科を卒業し、松山中学、熊本の第五高等学校で英語を教えたあと、イギリスに留学。帰国後、東京帝国大学で講師として英文学を教えながら、執筆活動をおこなった。1905年に雑誌『ホトトギス』に代表作『吾輩は猫である』を発表して好評を博する。翌年には『坊っちゃん』を発表、その後『倫敦塔』や『草枕』など数々の名作を執筆した。1907年に教師を辞め、朝日新聞社に入社後、『虞美人草』の連載を開始。本格的に作家として歩き出すことになる。晩年、『明暗』の執筆中に胃潰瘍を悪化させてこの世を去った。
親譲りの無鉄砲な性格の坊ちゃん。母の死後、父に「貴様は駄目だ」と言われ、兄からは「親不孝」と言われたが、下女の清だけが坊ちゃんに優しかった。やがて父も死に、兄から渡された金で東京の物理学校に入学する。しかし無鉄砲な性格がまねいたひょんな出来事から四国の学校で教鞭を振るうことになり……。いまも多くの人に愛される大衆小説。
【夢十夜】
「こんな夢を見た。」から始まる十の不思議な夢をつづった十篇の物語。1908年に朝日新聞にて連載されていた。百年前、百年後、神代、鎌倉、明治……夢の中で時代は移り変わる。死ぬ間際の女と約束をした百年後、背負って歩いていた自分の子どもの真実が明かされる百年前……不思議な世界に迷い込んだような幻想短篇集。
「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」の書き出しで有名な夏目漱石の代表作。珍野家の雄猫「吾輩」が、家人である珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)や、苦沙弥の周辺の人間観察を猫の視点から語っていく。三毛子という猫に恋をしたり、苦沙弥の晩年を考えたり。猫から見た人間の滑稽さをユーモアたっぷりに描いている。
『それから』『門』へと続く、夏目漱石前期三部作の一作目となる作品。東京大学に合格し、九州から東京に出てきた小川三四郎。ある日大学の構内の池で、団扇を手にした里見美禰子と出会う。三四郎は一目で恋に落ち、美禰子に惹かれていく……。当時の日本の景色や、日本人の内面を描き出だした青春の物語。
「私」の語りと「先生からの手紙」で構成された漱石の長編小説。「私」は鎌倉で「先生」と出会う。先生はいつも心に何かを抱えているようであり、いつも謎めいた言葉を私に語った。ある日、私のもとに先生からぶ厚い手紙が届く。そこには先生と、亡くなった先生の親友「K」に起きたある出来事が書かれており……。
芥川龍之介
1892年(明治25年)東京市京橋区(現在の東京都中央区)に生まれる。母の病気により、幼少期に母方の実家である芥川家に預けられ、伯母に育てられた。幼い頃から成績優秀であり、第一高等学校への無試験入学が認められる。東京帝国大学(現在の東京大学)へ進み、1914年、菊池寛、久米正雄らと同人誌『新思潮』を刊行。本格的に文学活動を始めた。翌年、帝国文学会の機関誌『帝国文学』にて、代表作『羅生門』を発表。この頃より、夏目漱石の門下に入る。1921年、大阪毎日新聞社の海外視察員として中国を訪れるが、帰国後、神経衰弱などの病を悪化させていき、1972年、服薬自殺によりこの世を去った。芥川の死後、菊池寛が新人文学賞「芥川賞」を設けた。
【羅生門】
『今昔物語集』を基に書かれた教科書にも載る代表作。平安時代、仕事を解雇された若い下人が、羅生門で、死体の髪の毛を抜いてカツラを作って売る老婆と出会う。老婆は、自分は悪いことをしているとは思わない、そうしなければ餓死してしまう、と言う。それを聞いた下人は、自分も生きのびる道を選ぼうとする……。
【蜘蛛の糸】
お釈迦様が極楽を散歩中に地獄を覗いてみると、カンダタという男が目に止まった。放火や殺人を犯した大泥棒だが、彼は生前ひとつだけ良いことをした。それは、小さな蜘蛛を踏み殺そうとしたのを思いとどまったことだ。お釈迦様はカンダタを地獄から救い出してやろうと蜘蛛の糸を垂らし、カンダタはその糸に捕まるが……。
【鼻】
僧である禅智内供(ぜんちないぐ)は、五~六寸の大きな鼻を持っていた。鼻のせいで一人では食事もできない。彼は自分の鼻が大きいことを気にしており、人に笑われ、批評をされ、自尊心が傷ついていっていた。ある日、医者から鼻を短くする方法を教わり、鼻を短くすることに成功するのだが……。夏目漱石が絶賛した傑作。
「真相は藪の中」の由来となった小説。ある男が殺された事件と、強姦事件。この二つの事件について、四人の目撃者の証言と、三人の当事者の証言(自分が男を殺したという多襄丸、巫女の口を借りた殺された男の死霊、男の妻)という形で構成されている。しかし七人の証言がまったく食い違っているのである。真相はどこにあるのか。
長崎の教会「さんた・るちや」に「ろおれんぞ」という、誰も素性を知らない美しい少年がいた。ある時、傘張の娘との不義密通の噂が流れ、娘は子を身ごもる。父親はろおれんぞであると娘が言ったため、ろおれんぞは破門され、乞食となった。ある夜、町で火事が起きる。そこにろおれんぞが現れて……。
太宰治
1909年(明治42年)青森県北津軽郡に生まれる。芥川龍之介や、菊池寛などの著書を読み、井伏鱒二の『幽閉』に感銘を受ける。1925年 『交友会誌』に、処女作「最後の太閤」を発表。友人らと同人雑誌『蜃気楼』を創刊するなど、創作活動を始めた。1929年20歳の時に、カルモチン自殺未遂を起こす。翌年、バーの女給と鎌倉でカルモチン心中を図るが、太宰ひとり助かる。その後、パビナール中毒に苦しむも『逆行』が第一回芥川賞の候補に選ばれる。しかし受賞は叶わなかった。井伏鱒二の紹介により、石原美智子と結婚式を挙げ『富獄百景』『葉桜と魔笛』などを発表。1948年『人間失格』を書き終えたのち、山崎富栄と玉川上水に入水し、この世を去った。
「メロスは激怒した。」から始まる名作。暴君ディオニス王を殺害すべく城に乗り込んだメロスだったが、捕まり死刑を言い渡された。しかし妹の結婚式があるため3日間の猶予を願い出る。友人セリヌンティウスを人質として残すが、3日後の日没までに帰ってこなければ友が処刑されてしまう。城に戻るために走るメロスに、様々な困難が待ち受ける。
人とは違う感覚に、発狂しそうになる孤独な子ども時代を送っていた葉蔵の最後の求愛行動は、「道化」になることだった。酒や煙草や女、左翼思想に浸るが、逃げたくなりやがて心中未遂を起こす。葉蔵は結婚するが、あることがきっかけで再び自殺未遂を起こし、病院に送られることになり……。太宰が死の間際に書いた代表作。
主人公の夫・大谷は、四国の大谷男爵の次男であり、有名な詩人である。ある日、大谷が常連だった中野の小料理屋から金を奪って逃げたという。妻は、金が返せそうだと嘘をつき、金がととのうまでは店を手伝うと小料理屋で働き始める。そこへ、見知らぬ女を連れた大谷が現れて……。放蕩詩人大谷と、その妻を描く。
口語体で書かれた、ある男の「訴え」である。男は、自分の師だという同じ年の男が、どれだけ酷く傲慢な男であるか、自分が彼にどんなことをしてやったのかを、どうして今に至ったのかを、まくしたてるように訴えていく。この男は何者で、誰のことを訴えているのか。最後に、その謎が明らかになる。
戦後、没落貴族であり、父を失ったかず子とその母は、家を売り払い伊豆の別荘で暮らしていた。ある日、戦地で消息不明となっていたかず子の弟、直治が帰還する。しかし彼はアヘン中毒であり、家から金を持ち出しては荒れた生活を始めた。しかしかず子にも、ある「ひめごと」があった。没落する旧家の悲劇を描いた、日本版『桜の園』。
川端康成
1899年(明治32年)、大阪で生まれる。幼くして両親、姉を亡くし、早死に対する恐れや、母性への思慕、憧憬が、その後の作品に反映されていると言われている。東京帝国大学(現在の東京大学)文学部英文科に入学。菊池寛の了承を得て、同人誌『新思潮』を発行。その後、菊池寛の「文藝春秋」に参加するなどし、長期にわたり援助をうけることになる。湯河原で生活をはじめ『伊豆の踊子』を刊行、越後に旅行をし『雪国』の連載を始める。新人の発掘・育成にも尽力し、少年少女の作品選考も手掛けた。1968年、日本人初のノーベル文学賞受賞。ストックホルムで記念講演をおこない、茨木市名誉市民となる。1971年伊豆マリーナでのガス自殺によりこの世を去る。
「私」は自分の性格が孤児根性で歪んでいると思い、伊豆へ一人旅に出る。旅の途中、旅芸人の一座と出会い、下田まで旅を共にすることになった。「私」は一座の踊子「薫」に心を惹かれていく。薫に淡い想いを抱き、一座と旅をするうちに人の温かさを感じ、歪んだ心がほぐれていくのを感じて……。伊豆を旅した実体験をもとに書かれた不朽の名作。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」の書き出しが有名な名作。主人公の島村は、自由気ままな生活を送る文筆家の端くれ。行きつけの温泉宿で芸者、駒子と出会い、毎晩共に夜を過ごす。病気の許嫁の治療費を稼ぐために芸者になったという駒子、しかし許嫁には新しい恋人がいるようで……。川端康成の美しい日本語が織りなす雪国の世界。
呉服問屋の一人娘、佐田千重子は、5月のある日、北山杉を見に行った際に、自分にそっくりな村娘を見つける。夏になり、祇園祭でもう一度その村娘、苗子と出会った。ふたりはお互いが双子の姉妹であると知るが、ふたりの身分はあまりに違っていた。ある日、苗子が西陣織屋の息子、秀男に結婚を申し込まれたが……。
太田夫人は、鎌倉の円覚寺のお茶会で、今は亡き愛人の息子、三谷菊治と出会い自然と夜を共にする。しかし夫人は、罪の意識から自殺してしまう。菊治に残されたのは、夫人の形見、志野の水差しと愛用していた志野茶碗。やがて菊治は、太田夫人の娘、文子と出会い惹かれていく。愛と死、名品の美しさと背徳を描いた、日本芸術院賞受賞作。
元舞姫である波子は、同じく舞姫を目指す娘の品子、そして波子の財産にたかる夫の元男、両親に否定的な息子高男と波子の実家の別荘で暮らしている。波子は結婚前の恋人である竹原と、今も付き合いがあり、元男はそれを黙認していた。しかしあることがきっかけで、波子と竹原の関係を元男に糾弾され……。戦後の時代、崩壊へ向かう家庭を描いた傑作。
宮沢賢治
1896年(明治29年)、岩手県花巻で生まれる。詩人であり、童話作家。盛岡高等農林学校を卒業したのち、花巻農学校の教諭を務めた。過労により病に倒れ、病床で『雨ニモマケズ』を執筆したが、1933年37歳の若さでこの世を去る。生前に出版されたのは1924年の詩集『春と修羅』と、童話『注文の多い料理店』のみであり、死後に草野心平らの尽力により数多くの作品が出版された。賢治は出身地の岩手を深く愛しており、賢治の作品中に登場する理想郷の名前「イーハトーブ」は岩手をモチーフとしている。
皆からからかわれている孤独なジョバンニと、裕福な家庭で人気者のカムパネルラが、銀河鉄道に乗り、銀河の旅に出る物語。北十字から南十字を目指して進む銀河鉄道の中で、ふたりは様々な景色を観て、様々な人に出会い、生きる意味を見つけ出す。美しい銀河の世界を描いた鮮やかな世界と、少しのもの寂しさが残る未完の傑作。
猟銃を構えた紳士が2人が、山に狩猟にやってくる。獲物も取れず猟犬も死に、道に迷っていたところ「西洋料理店 山猫軒」にたどり着いた。テーブルにつくまで様々な注文があったが、好意的な解釈をして2人は注文された通りにしていくが、しかしこの注文、何かがおかしい……。宮沢賢治生前に出版された唯一の童話。
ゴーシュは楽団のセロ弾きで、音楽会へ出るため第六交響曲を練習していた。しかしゴーシュはセロが下手でいつも楽長に叱られてばかり。そんなゴーシュのもとに、夜ごとあらゆる動物が訪ねてくるようになる。ゴーシュは毎晩動物のためにセロを弾き、やがて音楽会は本番を迎え、アンコールをゴーシュが弾くことになったが……。
よだかは醜い鳥だった。よだかは鳥の仲間の面汚しだとか、名前に鷹がつくというだけで鷹には名前を変えろと言われてしまうほど。よだかは、自分が羽虫を食べるせいで毎日たくさんの虫が死んでいることに気づき、もう食べることもやめて遠くへ行こうと決意する。そして太陽に、灼け死んでもいいから太陽のもとに連れて行ってほしいと頼み……。
フランドンでは家畜を屠殺する時に、家畜から承諾書を取らねばならないという取り決めがされた。フランドン農学校の豚は、知能があり、自分の体が生きた触媒で白金と並べられる価値があると知り喜んでいた。しかしある時、豚は泣く泣く承諾書に印をさせられてしまい、殺される日を待つことに……。「命を食べる」ことを考えさせられる作品。
谷崎潤一郎
1886年(明治19年)東京日本橋に生まれる。東京帝国大学(現在の東京大学)国文科に進み、1910年、小山内薫らと第二次『新思潮』を創刊、『刺青』『麒麟』を発表する。しかし翌年『新思潮』は廃刊となり、授業料未納により退学。1915年、石川千代子と結婚するが、友人、佐藤春夫に千代子を譲った「細君譲渡事件」で離婚、その後、違う相手と2度の結婚をする。太平洋戦争中に、三人目の妻、森田松子姉妹をモデルに『細雪』を執筆。耽美主義の作家とも呼ばれ、早くから永井荷風により高い評価を得ていた。『源氏物語』の現代語訳も手掛けるなど活動の幅は広い。1949年には、文化勲章受章。ノーベル文学賞の候補に何度もあがり、現代でも海外での評価も高い。
【刺青】
元浮世絵師の刺青師、清彦は、美女の肌に刺青を彫ることを願っていたが、なかなか満足する肌を持つ女が見つからないでいた。ある夏の夕べに、簾の影から女の美しい素足が見え、長年求めてきた女だと確信する。一度は姿を見失ったが、ある日その女が、使いで清彦を訪ねてきた。フェティシズムを描いた谷崎潤一郎の処女作。
【春琴抄】
幼い頃の病により失明した春琴は、音曲を学び始める。丁稚の佐助も三味線を学ぶようになり、春琴は佐助に厳しい稽古をつけていた。春琴は独立し、佐助も同行する。しかし弟子から恨みを買ったのか、春琴は顔に熱湯を浴びさせられ大火傷を負ってしまう。顔を見られたくないと佐助を遠ざける春琴のため、佐助はある行動に出る……。
質素で真面目な模範的サラリーマンの河合譲治は、カフェ・ダイヤモンドで給仕をしていた、ナオミという15歳の美少女に出会う。河合は、いつかナオミを妻にしたいと考え、ナオミを引き取って英語と歌を習わせる。やがて二人は入籍するが、ナオミの魅力は増していき、やがて何人もの男と親しい関係になり……。人間のマゾヒズムを描いた作品。
大阪船場で古い暖簾を誇る蒔岡家の四姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子。三女の雪子は美人だが引っ込み思案で縁談がまとまらない。四女の妙子は恋多き女で、姉たちを悩ませる。全編が美しい船場言葉で綴られた長編小説。太平洋戦争中に書かれていながら、四季折々の鮮やかな色彩を描きだす、谷崎潤一郎の最高傑作。
【秘密】
「私」は今の環境から逃れようと、ある寺に住み着いた。刺激を求めていた「私」は「秘密」に好奇心を誘われていく。女装をして出かけるようになるが、怪しまれることもなく、女性から羨ましがられることもある風貌だった。ある晩、女装をした「私」は、以前関係を持ったT女と再会する。「私」はT女に目隠しをされたまま、彼女の家に向かうことに……。
その他の文豪たち
泉鏡花、尾崎紅葉、江戸川乱歩、織田作之助、梶井基次郎、国木田独歩、坂口安吾、立原道造、種田山頭火、田山花袋、中島敦、中原中也、樋口一葉、福沢諭吉、森鴎外、夢野久作、与謝野晶子(※50音順)