サービス労働論のゆくえ

渡辺雅男(著者)

• 販売会社／発売会社: 現代思潮新社
• 発売年月日: 2024/10/25
• JAN: 9784329100238

商品レビュー

2025/05/18

サービス労働研究の集大成：マルクス経済学からの現代経済分析
本書は、著者が長年取り組んできたサービス労働研究の到達点を示すものであり、マルクス経済学の視点から現代経済における「経済のサービス化」をはじめとする様々な現象を分析しています。サービス労働の概念を明確に捉え直し、資本、価値といった関連概念との関係性を考察することで、現代社会の経済構造を深く理解するための理論的枠組みを提供します。

自然の復讐と人類史の課題：人間と自然の弁証法的関係
第一章では、マルクスとエンゲルスの思想を基に、人間と自然の関係、特に人間の能動的な自然への働きかけが生み出す生態学的リスクについて考察しています。人間と動物の目的合理性の違いを強調し、自然支配の幻想を批判しながら、エンゲルスの警告を紹介し、自然との一体性を認識し、既存の生産様式と社会秩序全体の変革の必要性を訴えています。

経済の金融化と資本の神秘化：現代資本主義の変容
第二章では、現代経済で頻発する金融危機や信用取引の拡大といった現象を、マルクスの『資本論』を参照しつつ分析しています。信用制度の発展と資本主義の関係性を指摘し、労働者階級の生活向上は資本増大の下での一時的な妥協に過ぎないとし、現代資本主義の表面的な変化と、その根底にある変わらない構造、そして新たな危機形態について論じています。

消費を生産と読み替えることの不合理：サービス労働の価値創造論批判
第三章では、近年提唱されているサービス労働に関する議論、特に消費労働を生産と見なす説を批判的に検討しています。「共同生産過程」や「能力形成」といった概念を、マルクス経済学の視点から不合理であると指摘し、消費と生産の機能を混同することの誤りや、社会的総生産物における対人労働部門の役割を明確に示しています。

労働価値論と研究開発：科学労働と資本主義の論理
第四章では、現代経済における研究開発部門の肥大化という現象を労働価値論の視点から分析し、科学、科学労働、そして資本の関係を探っています。資本間競争における技術革新の重要性を指摘しつつ、研究開発の効率性の問題や、科学労働の成果の市場評価と特許の関係について考察し、現代日本の科学技術の危機的状況にも言及しています。

情報革命と補助資本：情報財の特質と資本主義における位置づけ
第五章では、情報化時代における様々な「情報財」を、マルクスの使用価値、固有価値、そして補助資本の概念を用いて分析しています。情報財の二面性を批判し、それらが資本主義において補助資本として位置づけられることを論じ、不生産的労働と社会活動の区別、そしてマルクスの労働能力に関する見解を紹介しています。

空費概念の現代化：「経済のサービス化」論への批判的考察
第六章では、マルクスが定義した「空費」概念を現代的な視点から考察し、「経済のサービス化」論を批判的に検討しています。空費の機能と分類を示し、不生産的賃労働と利潤の関係性を分析しながら、特殊資本の出現とその評価について論じ、「経済のサービス化」が空費由来の資本と機能由来の不生産的な賃労働によって説明されると結論づけています。また、資本の二重化や「サービス」概念の虚構性についても言及し、本書全体の議論を締めくくっています。