現代生活独習ノート の商品レビュー
クソみたいな日常で生き延びる術を教えてくれる。具体的に何をどうするという話ではなく、自分と重ねて読み進め(驚くほど荒み具合に共感しつつ)て行き、ラストではまあ何とかやってくか、という気持ちになれる。最後に希望を与えてくれる、それがまた良い塩梅で。 あるいは、若者の無力さと希望(無...
クソみたいな日常で生き延びる術を教えてくれる。具体的に何をどうするという話ではなく、自分と重ねて読み進め(驚くほど荒み具合に共感しつつ)て行き、ラストではまあ何とかやってくか、という気持ちになれる。最後に希望を与えてくれる、それがまた良い塩梅で。 あるいは、若者の無力さと希望(無力であるが故これから何にでもなれるというか)、澱んだ空気にスッと風が入るような。 本作もとても良かったです。
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8編の短編集。どれも楽しく読めました。 前半3遍は、作中人物がエッセイを書いているような不思議な作風。ちょっと長めのショートショート?って感じでもあります。 4編目以降は小説感が出てきます。 気に入ったのは5編目「粗食インスタグラム」と7編目「メダカと猫と密室」。どちらもお仕事...
8編の短編集。どれも楽しく読めました。 前半3遍は、作中人物がエッセイを書いているような不思議な作風。ちょっと長めのショートショート?って感じでもあります。 4編目以降は小説感が出てきます。 気に入ったのは5編目「粗食インスタグラム」と7編目「メダカと猫と密室」。どちらもお仕事小説。津村紀久子さんのお仕事小説は共感する事や気付かされる事が多く、“同志“を見つけたようで嬉しくなります。私も仕事相手については余計な情報入れたくないし、仕事がスムーズであれば善人か悪人か問わないです。でもついつい感情が働いちゃいますよね。 ラストは「イン・ザ・シティ」。The Jamの名曲ですね。読み終わった後すぐにYouTubeで再生しました。エンディングテーマのようでいい感じです。 気に入った一節 コアラとかうらやましいですよね、と言ってしまう。 「ユーカリしか食べられないらしいけど、逆に言うとユーカリだけ食べてればいいってことでしょう」 「何食べようとか思わずにすみますもんね」 (「粗食インスタグラム」)
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私の好きな津村さん(とか言ってあまり読んだことない。でも好きな作家)。 ぶっ飛びすぎず、でもなんだか不思議な空間になっている。読み終えて、心が軽くなるような、ならないような。地に足がついてるような、いや少し浮いているような。 「台所の停戦」「牢名主」「イン・ザ・シティ」など、悪...
私の好きな津村さん(とか言ってあまり読んだことない。でも好きな作家)。 ぶっ飛びすぎず、でもなんだか不思議な空間になっている。読み終えて、心が軽くなるような、ならないような。地に足がついてるような、いや少し浮いているような。 「台所の停戦」「牢名主」「イン・ザ・シティ」など、悪人とまで言えないかもしれないが確実に自分を削り取ってくる相手、の解像度が高く描かれている。けれど全編通して共通するのは優しさだった。 なんかね、ユーモアが優しい。津村さんの書く職場の話が好きだ。また、主人公たちが低体温だが人間臭くて愛しい。お友達になりたい。
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「現代生活手帖」を含めた8つの短編集。現代の日本の日常生活を舞台にしている感を出しておいて、実はSFとか、いきなり国も時代も変わるとか、そういう仕掛けがびっくりする短編集。その中でも、なんか人間のめんどくさい部分、よく言えば繊細な心の動きを、ちょっとコミカルに描くという、おれにとっては独特の短編集だった。 NHKの生活情報とかを流している朝の番組で、珍しく読書特集みたいな日があって、ちょっと気になったので録画して観た。そこで紹介されていた本。と言っても何と言って紹介されていたのか忘れてしまったけど、なんか他の本よりもこの本面白そうと思い、せっかくそう思ったからには、ということで図書館で借りて読んだ。 なんか、結構くすぐられる面白さみたいなものが多くて、自分は全部ではないけど、気に入った。「私はおびただしい情報に自我が押し流されたことについて考えなくてすんだ。確かに、小池さんによるはさみの違いについての解説も情報ではあるけれども、その蛇口からの水流はきわめて細く、受け取ることにほとんどエネルギーを必要としないものであるように思われた。」(p.27)とか比喩も絶妙なものがあって、いい。確かに同じ情報でも水流の太い細いは明確にあって、そこに洗い流されてしまわないようにしないといけない度合いってあるよな、って思った。子供に何かしらケチをつける母親は、「それは、母親が完璧主義者だからというわけではなくて、母親が単に母親として振る舞っているからだ。子供の中に不完全な部分を見つけ出し、それを補完するのが母親の生涯の仕事だから。」(p.48)とか、母親じゃないおれには分からないけど、確かに過保護気味の母親はこう考えてるんだろうか、とも思う。補完しなければ、と思う母親。あとは、これもおせっかいを焼く男の話で、「自分が彼女に良い影響を与えたという、自分の観点こそが大事なものなのだ。それを強化するには、ちょっとした、自分のやり方とは違う方法を取る人たちへの否定が必要になる。彼にとって私たちは、サイズ比較のためのタバコやマッチ棒のようなものだ。」(p.123)も、人間の抱えるエゴの一つを表している。あと、自分が前からよく思っていることの一つで、判断するのが面倒、という心理。「私の仕事は、一言で言うと『判断をすること』だった。判断は、一見右のものを左に動かしているだけなのだが、恐ろしく疲れることでもある。あまりにも判断することを仕事の外で目にしたくないのか、サッカーやバスケットボールなど、選手がめまぐるしく判断しているスポーツを見ていると胸が悪くなってくるので、テレビを見ていてその手の映像が流れてくると必ずチャンネルを変えるかテレビを消す。」(pp.129-30)って、面白い。今も家で飯を食うのか外食するのか、という判断を迫られていて、くだらないけどこういうことの連続がストレスなんだな、と思う。この話が出てくる「粗食インスタグラム」が一番面白かったかな。会食で焼き鳥を置いてくれるお節介を「気持ち悪い」(p.143)と言い、その直後のウーロン茶の部分とか思わず笑ってしまった。あと同じ、この短編の中から、和文英訳なんて受験生に面白いんじゃないかな。「いつも思うのだが、もっとも気心の知れたたぐいの人とは、そのへんのファーストフード店に適当に入ってもそこそこ楽しくやれるのに、それほど気を許していない相手とは、それなりに話題性があったり、ちゃんとしているある程度以上のものを食べないといけないような気がすると言うのは不思議だ。なぜか、一緒にいて楽しい相手こそ、食べるものも大事にしないと、ということにはならない。完全に打ち解けていない人とは、食べ物で人間関係の距離を埋めているのかもしれない。」(p.148)なんて、和文英訳の課題に出したら面白そうだな、とか勝手に思った。あと、「夕方は人を心細くする」(p.219)とか、こういうのも分かる。 ちょうどこの本を読んでいる時に仕事で飛行機に乗っていて、隣の同僚が飲み物を聞かれてさんざん迷った挙句「水」と言って、なんで水なんすか、って聞いたら、ものすごく一生懸命他の選択肢との比較と、その時その人が重視した価値判断について語ってくれて、だいぶ楽しく時間が過ぎたが、なんかそれと似たような、微妙な人間の心理の動きを軽妙に描写している感じが楽しかった。(26/11/04)
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津村さんの粒のそろった短編集。特筆すべき事件も起こらず日々の生活の側面に若干の奇妙さを交えて淡々と進んでいく物語群。津村さんらしい文章に満ち溢れてて読んでて飽きがこない。
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短編集。好きだ、この方の、地に足のついたユーモア。淡々とした語り口のまま気づくとふわっとおかしな事が起きている。本作はいずれの話も、ものすごくニッチな設定下での人間の心理を細かく描いていて、それが面白おかしい。 レコーダー定置網漁 まず、帯の情報番組を自動録画するレコーダーを定...
短編集。好きだ、この方の、地に足のついたユーモア。淡々とした語り口のまま気づくとふわっとおかしな事が起きている。本作はいずれの話も、ものすごくニッチな設定下での人間の心理を細かく描いていて、それが面白おかしい。 レコーダー定置網漁 まず、帯の情報番組を自動録画するレコーダーを定置網になぞらえて、録画される番組の情報を魚にとらえるところがユニーク。メンタルをやられて家で何をする気も起きない主人公が、毎日ひとつだけ定置網漁にかかる情報を摂取し、やがてその情報に誘発されるように日常の活動ができるようになる話。 台所の停戦 女3代の家の、冷蔵庫でのテリトリー争い。親の悪いところを引き継ぎたくないと、娘だった時分を思い返しながら決心する母親。娘にイライラを小出しにしちゃう母親の心の描写がリアルで面白い。 現代生活手帖 近未来のパラレルワールド的な世界観。星新一のショートショートを彷彿とさせる内容。くすっと面白いし、クリエイティブ。 牢名主 モラハラ・メンヘラ、洗脳者のような人(A群)に付け込まれつきまとわれる関係性にある人(B群)たちのコミュニティ。脱A群を目指すも、A群のつきまといを「ソフトランディング」するすべを教えると言っているリーダーがなんだか胡散臭い。架空の現象?症状?なのだろうけれども人間関係や会話が現実にありえそう。 粗食インスタグラム 全く映えない食事写真をインスタで見ると癒されるという主人公の女。自らの粗食もアップするようになる。発想が面白い。 フェリシティの面接 急にアガサ・クリスティみたいな短編。 メダカと猫と密室 休日出勤したのに身勝手な同僚のせいで3時間の待ち時間が発生した、というシチュエーションで始まる人間ドラマ(?)。シチュエーションコメディとか、コントドラマみたい。登場人物たちの駆け引きが面白い。 イン・ザ・シティ 中学生たちの終わらない日々。どんな青春小説よりも青春ぽい鈍い輝き。けだるさと無気力さ、妙なことにハマってこだわるところ、家族について薄っすら居心地の悪さや許せなさを抱えているところ、近くにいる同級生の大人な面を発見してドッキリするところ、素直な感想を持つところ。中学生だなぁ。「自分たちにはいくらでも時間がある。だからきっと通り過ぎていくものたちのどれかは、手になじんで輝いてくれるだろう」。永遠の未来が目の前にある。 あとがきも解説もなくスパッと終わる気持ちが良い短編集だった。
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仕事が立て込んできたり、なんとなく人間関係に疲れたときに、つい手に取りたくなってしまう津村記久子。もはや、自分にとっての漢方薬のようなものだと思っている。 本作に収録されている8つの短編はいずれも、疲弊感や閉塞感を抱えた登場人物がメインで描かれている。情報社会に、家族関係に、職場に、それぞれがそれぞれの人生で一様に疲れている。そしてもちろん、それを読んでいる僕も疲れている。「エモい」よりはもっと低温でやさぐれ気味な、でもどこか心地よい“負の共感”を求めて読み進めた。 『レコーダー定置網漁』『粗食インスタグラム』『メダカと猫と密室』は、それぞれ津村らしさ溢れる、気だるいユーモアに安定感がある。テレビのレコーダーにたまたま録画された番組にハマり、靴下の毛玉取りに夢中になり、粗食ばかりの哀愁漂うインスタを投稿し続け、会社の資料室でメダカをこっそりと飼う主人公たち。それぞれが見出した小さな楽しみは、いつの間にか疲弊した自分へのケアと化していく。 そんないつもの津村節に加え、『現代生活手帖』にはやや突飛なSF的な面白さが、『イン・ザ・シティ』では青春小説のような甘酸っぱい爽快感が盛り込まれていて、これまでとはまた違う読後感が新鮮だった。 一方で、『台所の停戦』『牢名主』『フェリシティの面接』は、やや陰りのあるテーマを扱いながら、背中に氷を当てられるような不穏なユーモアが描かれている。暗いながらも闇に沈むわけではなく、病んでいるわけでもない。重いテーマでありながら暗くなりすぎずに、希望を仄めかしながら書き通す筆致はさすがだなと思う。 津村作品に通底してあるのは、「働きたくない、非課税で5億円欲しい」というような気だるさと脱力感。本気じゃないけど、ちょっと本気で、馬鹿馬鹿しいけど、ワンチャンそうあってほしいーーそんな自虐のようなユーモアを武器に、生きづらい社会と対峙していく主人公たち。効能はよくわからないが、なんとなく彼女たちに気力を分けてもらえたような気がするところが、僕がこの本を「漢方薬」だと感じる所以だ。西洋医学では解明されない滋養がここにある。 疲れがちな社会において、心を守る方法は人によって異なる。本書でも、登場人物がそれぞれのやり方で、ストレスばかりの社会に対処しながら生きている。まるでコーピング事例集のような短編集だとすら言えると思う。 コーピングリストは人によって様々だ。上司からの電話を投げ出して資料室に閉じこもってもいいし、妄想上の街づくりやスケートボードに興じるのもいい。『現代生活手帖』なんてカタログを枕元に置いて毎晩読み耽るのも、立派なコーピング足り得る。 そんな物語の端々から、僕も心の守り方や肩の力の抜き方を「独習」していけたらいいなと思う。漫然とした抑圧への対処方法は、誰かに教えてもらうものでも、誰かのコピーで済むものでもない。自分に合ったやり方を模索し、自分の機嫌をとりながら、自分を上手にあやして生きていく。そんな「独り」の生き方を、押し付けがましくなく学ばせてくれる良書だと感じた。
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人生は選択の連続だ。しかも、今の世では選択しなかった人生を、簡単に覗き見ることができるのである。比べていいことも、ほとんどない。サンプルは上から下まで幾らでもあるのだから。とても疲れる。 では、良いとされていることをすればよいのかというと、これまた大変である。憧れの生活スタイルも...
人生は選択の連続だ。しかも、今の世では選択しなかった人生を、簡単に覗き見ることができるのである。比べていいことも、ほとんどない。サンプルは上から下まで幾らでもあるのだから。とても疲れる。 では、良いとされていることをすればよいのかというと、これまた大変である。憧れの生活スタイルもたくさん明示される。しかし、正しいことをし続けるのは、とてもエネルギーが必要になる。 そうなると正しい方を選び、行い続ける、というのはとてもとても疲れるということになる。だから、しょぼくてもしけててもつまらなくても、これでいいというのはひとつの解決法だろう。「台所の停戦」の私や、「牢名主」の鶴丸が心に決めたように、他人に何かを押し付けて自我を保つよりはずっといいと、私も思うのだった。 それにしても、ロバの配達さんはいいですね。配送の利用者が増えると思う。日本郵便、起死回生のアイデアとなりうるんじゃないのかしら。
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『群像』に掲載された8短編集。レコーダー定置網漁、台所の停戦、現代生活手帖、牢名主、粗食インスタグラム、フェリシティの面接、メダカと猫と密室、イン・ザ・シティ。 普通に仕事があって、仕事や対人関係やSNSに疲れて、料理の気力もない、でもそれなりに頑張る姿に共感します。端々に、な...
『群像』に掲載された8短編集。レコーダー定置網漁、台所の停戦、現代生活手帖、牢名主、粗食インスタグラム、フェリシティの面接、メダカと猫と密室、イン・ザ・シティ。 普通に仕事があって、仕事や対人関係やSNSに疲れて、料理の気力もない、でもそれなりに頑張る姿に共感します。端々に、なるほど、そう考えてもいいんですかという応援。
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ほとんど面白いと思えるものがなかった。 世界観が自分にはよくわからなくて、頭に全然入って来なかったし、読み進めることができなかった。 今まで読んだ中で1番つまらなかった。
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