百年の子 の商品レビュー
令和の最初の章は、読み進めず時間がかかってしまったが、昭和に入ってから、引き込まれて読了。 戦争前後の世情と出版業界の細かい描写やその時代に生きている人たちが、イキイキと動き、ドラマや映画を観た後の様な気持ちにさせる。 学年誌を通じて、知り得たこと。最終章の現代を読むときには、晴...
令和の最初の章は、読み進めず時間がかかってしまったが、昭和に入ってから、引き込まれて読了。 戦争前後の世情と出版業界の細かい描写やその時代に生きている人たちが、イキイキと動き、ドラマや映画を観た後の様な気持ちにさせる。 学年誌を通じて、知り得たこと。最終章の現代を読むときには、晴れやかな気持ちになれた。
Posted by
核となるテーマは「子どもと女性の歴史はたったの百年」。 女性誌を手がける主人公と同僚、編集長。家では仕事人間の母、認知症の祖母。女性の関係性の中で進むストーリーは語り口がとても自然体で、男性の私が読んでもなんの違和感もなかった。 女性差別の問題提起というより、こんな切り口もあるよ...
核となるテーマは「子どもと女性の歴史はたったの百年」。 女性誌を手がける主人公と同僚、編集長。家では仕事人間の母、認知症の祖母。女性の関係性の中で進むストーリーは語り口がとても自然体で、男性の私が読んでもなんの違和感もなかった。 女性差別の問題提起というより、こんな切り口もあるよとそっと置いてくれた感じ。ゆっくり心に沁みわたった。 祖母が生きた戦時と、令和のコロナ禍。100年をつなぐ雑誌『小学1年生』に臨場感が映る。9割ドキュメンタリーかと思えるほど存在感のある世界。他のインタビュー記事で見たけど、小学館100周年に合わせて執筆を依頼されたらしい。こんなにも肉厚な作品を生みだせる作者、編集者の情熱たるや。 物語のキーパーツ「花」と「文学」も見逃せない。どちらも衣食住には関係ないけど、人間はアートがないと頭の栄養が不足する、とNHK教育でデザイナーが語っていた。 戦争とコロナでその栄養が一旦は枯れかけた。 たとえ土に倒れても、どこかでまた生えてくる。大事なのは美しいままを守ろうとする人の意志だ。そんな祖母のストーリーの結びからは、謎の波動すら伝わってきて全身に鳥肌が立った。 ──怖いものは見たくないけど、教養のある大人たちの絶望的な様子はもっと怖い ─日本が戦争に負けるということがあっていいはずがない。それでは一体なんのために自分たちは、数々の美しいものや美味しいものや楽しいものを散々手放してきたのだろう 日本の開戦理由、敗戦の原因について、とりわけ女性や子どもに知らされることはなかっただろう。他人に判断を委ねることは避けられない。 現代ではペンも剣も権力者が持っている。戦争やコロナに対して自ら判断する力をつけなければ、私たちはいとも簡単に流されてしまうだろう。 百万年の人類史から計算すると、百年は生後1週間くらい。産声を上げた女性や子どもの権利について、もっともっと考え抜いていかねばと思わずにいられない。一見温かいストーリーには、地下にマグマのような突き動かすエネルギーが隠してあった。 最近ようやく外では、「主人が」なんて呼んでもらえるようになった涙ぐましい私も、百年の子が寄り添ってくれていると思うと心が温まる。男性を責めない主張。女性のプライドが凛と響く大傑作だった。
Posted by
物語は、出版社に勤務して5年目の市橋明日花が学年誌創刊百年企画チームに配属されたことから始まる。 入社当初から関わってきた『ブリリアント』編集部のカルチャーページの仕事に忙しくも愛着を感じていたのに…と不満はあったが、同僚である康介の学習雑誌は世界中探しても日本にしかないことや初...
物語は、出版社に勤務して5年目の市橋明日花が学年誌創刊百年企画チームに配属されたことから始まる。 入社当初から関わってきた『ブリリアント』編集部のカルチャーページの仕事に忙しくも愛着を感じていたのに…と不満はあったが、同僚である康介の学習雑誌は世界中探しても日本にしかないことや初代の社長の話などを聞くことで少しずつ気持ちが変わっていく。 そして、今は認知症の祖母が戦中に働いていたことを知り驚愕する。 祖母の頃の話と現在を交互しながら進んでいくのだが、過去のことを知るのも興味深い。 この作家はあの人だろうか…などと想像でき、学習雑誌の付録の苦労や児童文学など知り得なかったことも勉強になる。 戦中から令和にかけての出版業界を知り、そして祖母から母、自分と繋がる人生が壮大な物語となって一気に動き出したとき、感動ものだった。
Posted by
出版社百周年記念誌編集部に飛ばされ不満たらたらの明日花。今では認知症の祖母が実はその出版社で働いていた。 小学館の歴史を小説化してるよう。本好きにはたまらない。
Posted by
確か2022年が小学館が誕生して百周年。その名の通り小学館の始まりは「小学五年生」という学年誌とのこと。なので「百年の子」というタイトルは小学館の歩みに捧げられているような気がします。この本の出版社が小学館であることから想像するに100周年の記念事業のひとつなのでしょうか?ただ社...
確か2022年が小学館が誕生して百周年。その名の通り小学館の始まりは「小学五年生」という学年誌とのこと。なので「百年の子」というタイトルは小学館の歩みに捧げられているような気がします。この本の出版社が小学館であることから想像するに100周年の記念事業のひとつなのでしょうか?ただ社史という記録ではなく、小説というエンターテインメントなのです。ほぼ基本は小学館の歴史のノベライズに感じました。だからこそ「少年サンデーの懸賞のナチスグッズ」とか「怪獣図鑑のスペル星人」とか負の出来事もストーリーに取り入れられています。逆に小説という形式でなければ、取り合え扱えなかったのかもしれません。でもきっとこの出版社の一番のトラウマは太平洋戦争で少国民の気持ちを戦争に駆り立てた事にあるように思います。それを忘れないための創作物がこの小説だとしたら、ますます100年記念の本に思えてきました。記念事業は日比谷図書館でやった「特別展「学年誌100年と玉井力三 ―描かれた昭和の子ども―」だけではないのかも。そういえば本書で主人公が頑張ったイベントのモデルが玉井力三展だったのかも…この出版社の物語に女性を軸に据えたのは著者のヒットだったような気がします。本を開いてすぐの「人類の歴史は百万年。だが、子どもと女性の人権の歴史は、まだ百年に満たない。」という言葉に掴まれてしまいました。どうでもいい話ですが、神回と言われるNHKファミリーヒストリー草刈正雄の回で、彼の母親の名前がスエ子と知り、本書の主人公の祖母(もうひとりの主人公)の名前との共通性に、勝手に時代における女子の存在感を感じてしまいました。
Posted by
小学1年生といった小学生向けの雑誌の編集発行に情熱を傾ける人々の姿を昭和の祖母と令和の孫視点で描く。女性の働き方や戦争時の出版界の在り方に厳しい目を向け、その反省とともに児童文学に光を当てている。創業者が子供の学ぶ力を後押しするそんな雑誌を作る情熱は本当に素敵だった。 また、付録...
小学1年生といった小学生向けの雑誌の編集発行に情熱を傾ける人々の姿を昭和の祖母と令和の孫視点で描く。女性の働き方や戦争時の出版界の在り方に厳しい目を向け、その反省とともに児童文学に光を当てている。創業者が子供の学ぶ力を後押しするそんな雑誌を作る情熱は本当に素敵だった。 また、付録に力を入れて編集長自ら組み立てるところなど微笑ましかった。
Posted by
出版社の話はおもしろい。身近かだからか。おばあちゃんと孫。なんで途中から男性の話に?と思ったが。なるほど。
Posted by
お仕事小説かと思いきや、 生き方小説でした。 学年別雑誌、お世話になってたなあ。 読み込んでたの、思い出しました。 子どもや女性にも人権があるという認識の 歴史はまだまだ短い。 そのことを時々意識しないと、 その重要性を見失うかも。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
迸る熱量のためか、言葉が多いな、という印象 なぜ言わなかったのか ずっと考えてる いい思い出もあれば、悪い思い出もあるが、辛くて思い出したくないこともある
Posted by
国策と教育のハザマに立たされた当時の編集者たちの苦心。懐かしい雑誌「小学一年生」漫画から童話まで、読み耽った幼い日を思い出す。「耐えていたこと、目を逸らしていたこと、認めたくなかったこと、信じたくなかったこと。本当は知っていた。大きなうねりに個人は逆らえない。しかし、そのうねりを...
国策と教育のハザマに立たされた当時の編集者たちの苦心。懐かしい雑誌「小学一年生」漫画から童話まで、読み耽った幼い日を思い出す。「耐えていたこと、目を逸らしていたこと、認めたくなかったこと、信じたくなかったこと。本当は知っていた。大きなうねりに個人は逆らえない。しかし、そのうねりを生んだのは誰だろう」「時代の纒う風潮の不確かさ」ちゃっかり“鐘を鳴らす子供たち”も。古内さんの終戦シリーズ読み応えある。「もしかすると、人は生まれたときからすべてを持って、それをなに一つ損なうことなく老いていくことこそが自然なのかもしれない。何も変わらない。何も失われない。たとえ認知症になったとしても、その心はずっとある」
Posted by