死にがいを求めて生きているの の商品レビュー
この作品のテーマは「生きがい」であり「死にがい」。 要はどれだけ注目されてきて、社会のために何をしてきて、価値のある人間なのかっていうこと。 自分のなかにもある働きがいや生きがいなんか考えないように生きてきたから、読んでいて辛くなってきた部分が多かった。 志を持って取り組むことが...
この作品のテーマは「生きがい」であり「死にがい」。 要はどれだけ注目されてきて、社会のために何をしてきて、価値のある人間なのかっていうこと。 自分のなかにもある働きがいや生きがいなんか考えないように生きてきたから、読んでいて辛くなってきた部分が多かった。 志を持って取り組むことが正義であり、なんとなく現状維持しているのは悪のようなことが会社や学校でも言われているけど、この作品の雄介に言われているような気がしてきて。 でもそんなの窮屈で生き辛すぎるから自分は自分のことを許せる人間でいいなとも思う。
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6人の人物が語り手となり、それぞれの人生の中での堀北雄介との関わりを語る。 堀北雄介は、「イタイ」人物である。誰の視点から見ても、意識的/無意識的に関わらず「イタイ」と語られてしまう。それは読者も例外ではない。 しかし、唯一心情が語られていないのは(焦点化されていないのは)堀北雄...
6人の人物が語り手となり、それぞれの人生の中での堀北雄介との関わりを語る。 堀北雄介は、「イタイ」人物である。誰の視点から見ても、意識的/無意識的に関わらず「イタイ」と語られてしまう。それは読者も例外ではない。 しかし、唯一心情が語られていないのは(焦点化されていないのは)堀北雄介その人である。堀北雄介の苦しみや葛藤は、(一部自身で語る場面があるが)誰にもわからない。 それなのに、その苦しみや葛藤は無視して、彼を悪として摘発してしまう。 自分自身も、読書中には彼への配慮を忘れ、内心では軽蔑してしまっていた。これも、一つの対立の根源ではないか。あるいは、差別の。 「対立」を作って「生きる」ことは、まだ健全なのかもしれない。「対立」を避け、それでも相手を蔑むことによって自身が上にいる実感を得る。 「生きがい」や「死にがい」をもたずにやり過ごす僕たちは、何のために生きているのだろうか。
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「ありのままのあなたでいい」「人の目なんて気にしなくていい」「周りと比べる必要ない」 そんなきれいごとがうたわれる世の中でさえ、いやだからこそ、どうしても存在し続ける、人間のドロドロ心理を極限まですくいとった物語。 自分とどんなに無関係な問題であっても、次から次へと手当り次第に、あたかも「昔から弊害を受けてきました」 「問題意識を持っていました」 という体で、熱心に命を注ぎ込もうと躍起になる雄介。 何でそこまで…と傍観者目線で見ていたけれど、詐欺師の家で智也と言い争いをしている場面で、 雄介の切実な思いがひしひしと伝わってきて胸打たれた。 守りたいと思う家族がいる、任されている仕事がある、テストで高い点を取ったら褒めてくれる人がいる、自分に用意されている席がある、「生きていていいんだ」と認めてくれるような足元を固定してくれる何かがないと、やっぱり人は生きていけない。 ありのままでいいんだよと言ってくる人も、そう言えるのは社会的にまともだと評価されるアイデンティティを持っているからこそだ。 雄介の、人間を3種類に分けて話す場面が印象的。 1つ目が、家族や仕事に生きがいを見つけられて、かつ周りからもその努力や労働を認めてもらえるような人。 他者貢献。 自分に対して生きる意味とは何かと問う必要がない、最も生きやすい人。 2つ目が、家族や仕事に満足できずとも、打ち込める趣味や好きなことがある人。 自己実現。 周りの役に立てているのか不安になることもあるが、社会とのつながりを実感できる瞬間もある。 3つ目が、生きがいのない人。 大切にしたいと思える存在もいない、没入できる仕事・趣味もない ただただ自分のためだけに毎日を過ごさなければならない人。 『つらくても愚痴ばっかりでも皆とりあえず働くのは、金や生活のためっていうよりも、三つ目の人間に堕ちたくないからなんだろうなって。 自分のためだけに食べて、うんこして、寝て、自分が自分のためだけに存在し続けるほうが嫌な仕事するより気が狂いそうになること、どこかで気づいてんだろうなって』 自分も学校や本がなかったら、生きる意味をどこに託していたのか、全く予想もできない。 自滅か爆発か、どちらかに手を出さざるを得ない状況にいつ誰がどこで陥るかわからない。 特別付録の著者インタビューで引用されていた受刑者たちのやりとりを読んで、自分も他人事じゃないなと痛感した。 誰かを傷つけるためじゃなく、自分が生きるために、どうにかして社会とのつながりを感じようと犯罪に手を染める人もいる…。
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1分前に読み終わりました。普段他人が考えてることが目に見えないからこそ、自分の中だけで戦ってきた感情を全登場人物が少しずつ代弁してくれているみたいで、すごい共感したり、うまくいきすぎてる人生って誰かの悲鳴の上に成り立ってるのかって思ってしまったり、1日数ページで終わらないと感情の波が大きくなりすぎて、センシティブながら怖くなってしまいました、、 存在価値とか生きがいに対してここまで考えを巡らせないと不都合を感じ続ける時代(平成)に生まれてきてしまったのか私は、、と思ったのも、最後の「お前も、お前にとって不都合なものだらけのこの世界に参加するしか選択肢はないんだよ」って智也が代弁してくれた感じで、結果打ちのめされた本でした。
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人間の内面や社会に対しての解像度が高くてスーっと入ってくる語彙力。心の中でいつしかどこかで感じていたものが、こうもはっきり言語化されると腑に落ちるしかない。この小説は各人物を通して私の生き方を見つけ出すその材料になったと思う。目に見える順位、それは自分を奮起させるストレスだった。大抵の人は一定のストレスがないと怠けてしまうと思っている。ありのまま何もしない人も受け入れられていく中で、なんの物差しもなく目標を立て忍耐強く挑戦し続けるのは難しい。そして何かやらねばという焦燥感だけが募る。そんな多様性の時代ではまた、競うこと時代馬鹿げている、ダサいとされることもある。はっきりと"悔しい"と口に出来ること、競い合う仲間がいること。それは自分のさらなる成長のためにもとても幸運なことかもしれない。目に見えないものにとらわれて攻撃する方向を間違ってしまうのも現代の問題である。ものすごく考えさせられた。
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「二項対立」や「人生の生きがい」などの単純でわかりやすい在り方を求める雄介。 それらを否定し一人一人の差異によるグラデーションを大事にすべきという智也。 この二人を対比させる形で物語が進行する。 わかりやすさを求める姿勢は、SNSの普及によって一気に加速したと思う。 いろんな対...
「二項対立」や「人生の生きがい」などの単純でわかりやすい在り方を求める雄介。 それらを否定し一人一人の差異によるグラデーションを大事にすべきという智也。 この二人を対比させる形で物語が進行する。 わかりやすさを求める姿勢は、SNSの普及によって一気に加速したと思う。 いろんな対立が増えたと感じる人も多いのでは。 この作品は「螺旋プロジェクト」という、共通のテーマで8人の作家が作品を書くという企画の一冊だそうで、それを知らずに手に取った。 他の作品も読んでみたくなる。
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描かれている登場人物はだいぶ極端だが、何となくみんなが普遍的に持っている違和感とも呼ぶべき特徴を抽出するのが上手い人だなぁと思った。 個人的には、「たいして興味もないくせに」という言葉が刺さった。近年学校教育に取り入れられている「研究っぽい」活動。生徒たちは、無から必死に立ち向...
描かれている登場人物はだいぶ極端だが、何となくみんなが普遍的に持っている違和感とも呼ぶべき特徴を抽出するのが上手い人だなぁと思った。 個人的には、「たいして興味もないくせに」という言葉が刺さった。近年学校教育に取り入れられている「研究っぽい」活動。生徒たちは、無から必死に立ち向かうべき課題を探す。そして、それっぽい動機を上げそれっぽい成果を発表する。たいして興味もないくせに。
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まさに私も、順位づけ、他人との対立を避けて生きるように仕向けられて来た世代です。 でも結局テストの点数聞き合ったり、そうやって他人と比べて自分の立ち位置決めてしか生きてこれなかった気がする。 雄介の気持ちわかっちゃうなと思ったら、ああ、一生こうなんだろうなって落ち込んだ。
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「そう決めたときから、めぐみの目の下のクマは、少しずつ薄くなっていった。自分の存在価値を誰かに見せびらかすでもなく、誰かから愛されるでもなく、自分で自分を否定しなくてもいい状況に身を置くことが大切なのだと気づいたとき、めぐみの目の下に広がる肌の色は、日に焼けていないふっくらとした頬のそれと、なめらかにつながった」
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大抵の人が雄介なんじゃないかな 順番が逆、そうなんだよなあ そうやって何とか自分を保ってるんだよなあ 最後にあぁ…と、どうしようもない性のような 抗えないものを感じて だけど、決して絶望でも諦めでもない受容できるような やっぱり朝井さんの書くものは簡単ではない、綺麗事ではない、...
大抵の人が雄介なんじゃないかな 順番が逆、そうなんだよなあ そうやって何とか自分を保ってるんだよなあ 最後にあぁ…と、どうしようもない性のような 抗えないものを感じて だけど、決して絶望でも諦めでもない受容できるような やっぱり朝井さんの書くものは簡単ではない、綺麗事ではない、常に葛藤する現実が丁寧に表現されていると思った
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