かんむり の商品レビュー
境遇は違うのに、共感を超えた没入感。 一番いい時に全てを終わらせたい気持ち。 何かを抱えながら生きていくということ。 世代がどんぴしゃで読んでいて混乱。 70歳になった私はどう生きるのか。
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彩瀬さんの本は、なぜこうであってはいけないのか?と社会に浸透しているステレオタイプを痒い所に手が届くような絶妙な方法で問うてくる。 本作も主人公の光とその夫である虎治や息子の新との関係を通じて、男女の役割や身体の在り方など、様々な疑問を訥々と問うている。話の展開的に激しい起伏は...
彩瀬さんの本は、なぜこうであってはいけないのか?と社会に浸透しているステレオタイプを痒い所に手が届くような絶妙な方法で問うてくる。 本作も主人公の光とその夫である虎治や息子の新との関係を通じて、男女の役割や身体の在り方など、様々な疑問を訥々と問うている。話の展開的に激しい起伏はなく、むしろ静かなさざ波のようにこれらの疑問が浮上し、そのたびに光はその疑問を見なかったことにして諦めるため、空しさが倍増している気がした。けれど私たちは日々これらの疑問を抱えながらも、おそらく大半の場合は立ち止まって皆が納得できるような根本的な解決をしようとせず、目を逸らしていやいやながらも社会通念として受け入れているのではないかと思う。男は何かスポーツをしなければなめられる、女は結婚とともに家庭に入って家族をサポートする…徐々にこうした固定観念は崩れつつある(と願っている)が、心の奥底ではまだこのような考えが根強く生き続けており、小説後半で虎治に対する恨みを自覚した光もこの固定観念を抱いていたことに気づく場面は印象的だった。 誰しもが「こうでなければならない」という脅迫を自身に押し付け、それを達成もしくは維持するために必死にもがいている。光も、妻として、母親としてただ必死に毎日を生きており、自分がこうありたいと素直に思える感情をどこかに置いてきてしまう。一般的に求められる華奢で繊細なシルエットではない骨太で大きな体を、彼女は嫌いではないと言いながらもそれが世間的に求められていないということも自覚している。髪型をベリーショートにカットしたものの、「女性らしさ」を失った妻の姿を見た虎治は怯んでしまう。このときの光の心情を語る 「未知の私を受け入れる器が、彼の内部に見当たらなかった」 という言葉が、新しい髪型を純粋に楽しんでいた彼女の喪失感を鮮明に表しているように感じて、とても悲しくなった。私が好きな私を、誰かに受け入れてもらえない。光はその人生を通して自分の「かんむり」を見つけることができずにその問だけが宙に漂う。
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読書備忘録755号。 ★★★。 かんむり。う~ん。かんむりって何か褒められたり達成したりして他人に認められた時に頭に載せるもの? 結局それは形のないものであって、自分がこれで良いんだ!と心から思えた時に、他人の頭の上に載っていると思い込んでいるかんむりも消えるんだと思います。 光と虎治。幼馴染みで結婚した二人は自ら納得するかんむりを得ることはできたのだろうか・・・。 光はアパレルメーカーの店舗販売員。虎治は老舗時計メーカーの社員。 育った家庭も環境も違う二人の価値観は・・・、やはり違う。授かった息子の新の子育ての考え方でもずれる。 それでも二人は愛し合っていた。 身体を重ねれば、なんとなく明日に向かうことが出来た・・・。 そして二人を襲う大きな転機が訪れる。多分コロナ禍。二人は40歳。 虎治の会社は立ち行かなくなる。虎治のリストラ。 光も店舗規模縮小の中で、お世話になった店長から新しい会社の立ち上げるから店長待遇で来ないかと誘いを受ける。結局、夫の収入減の不安から、今の会社にしがみ付く道を選んだ光。誘いは危ないギャンブルと判断した訳ですね。 一方の虎治。男は、夫は、一家の大黒柱として強くあらねばならない。弱いと負ける。という固定観念に囚われた虎治は精神的に不安定となり、転職を繰り返す。 光はそんな虎治に負担を掛けまいと、育児に仕事に奮闘する。 そして二人はどうにかこうにか50代に。ひとまず虎治の転職も落ち着き、息子はいよいよ独立。一見無事子育てを終え、これからは二人で楽しく、という構図だが、光は自分のかんむりがなんなのか苦しむ。 店長待遇で誘ってくれた元上司のブランドが大成功の成長をしている現実から、選ばなかった道が正解だったと無意識に感じてしまう。その道にはかんむりがあったのではと。正解の道を無かったことにするために、そのブランドに悪意の書き込みを続ける光・・・。 そして、そもそもその原因を作ったのは虎治だと無意識に恨む・・・。 でも二人は愛し合う。 そして二人は70歳に。虎治は病でこの世を去る。 光は振り返る。どうしようも無いくらい別の個体であった二人。それでも愛さずにはいられなかった二人。その時々で後悔する二人だっと。 だから?と読後に思ってしまう。 光の物語の逆側に虎治の物語があり、どう光との一生を思っていたのかと考えてしまう。 フィクション小説でありながら、どこにでもあるリアル。やっぱりフィクション小説はサスペンス、冒険、スリラー、SFとか現実逃避感が強い方が良いなぁと感じる。
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愛するということは大変だし難しいものだなと感じました。 愛に限らず、何かを貫き通す事は何かを諦める事ではあるし(諦めた自覚がない場合もあるが)、 後悔が全くないと言い切れる人なんてごく僅かだと思います。 しかし子どもがいつのまにか自分を毛嫌いするようになって、小さい頃は一緒に遊...
愛するということは大変だし難しいものだなと感じました。 愛に限らず、何かを貫き通す事は何かを諦める事ではあるし(諦めた自覚がない場合もあるが)、 後悔が全くないと言い切れる人なんてごく僅かだと思います。 しかし子どもがいつのまにか自分を毛嫌いするようになって、小さい頃は一緒に遊んで楽しかったと思う日が来る可能性もあると思うと切ない… せめて大切に日々を過ごそうとも思えました。 官能的な部分も含めて、愛することに関しての主人公の考えが見えやすかったです。
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ほんと愛するって強さと覚悟がいる 極論、相手の死を看取ることだと、思う。 いろんな選択肢を自由に決めることができるようになったいま 幸せの形も多様化している。 自分の幸せを優先して、家族を壊しても 幸せになるためには仕方なかった、と言われたら、返す言葉なんてあるんだろうか? ...
ほんと愛するって強さと覚悟がいる 極論、相手の死を看取ることだと、思う。 いろんな選択肢を自由に決めることができるようになったいま 幸せの形も多様化している。 自分の幸せを優先して、家族を壊しても 幸せになるためには仕方なかった、と言われたら、返す言葉なんてあるんだろうか? 自分は 結婚が空虚なものに成り果てたとしても その脆いハリボテの愛を2人で必死に 落とさないように壊さないように たまに目が合ったら、お互いに諦めにも似た苦笑いを浮かべながら 生きていく人生も、すごく魅力的に思える。
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前半は官能的な描写が多くて窪美澄さんっぽいなと思っていた。 「裸よりは服を着ている方が男性の身体は好きなくらいだ」とか「女性は男性の身体に対して男性みたいにここに触ると気持ちがよくなる部位(胸やお尻など)がない」、「男性の身体に対して最後まで導かなければいけない義務のようなものがある」など、うっすら感じていた異性の身体に対する後ろめたい部分をしっかり言語化してくれていてびっくりした。 『こんなことを思っていいのか』そんなふうに思うなんて改めて、わたしは女として知らないうちにいろいろな役割を押し付けられていたんだなと感じた。 晩年の仲のいい老夫婦の感じはいい。 そっけなく親元から離れていった息子の新が、疎遠になっていた父方の祖母になんのてらいもなく連絡先を聞きに行くところも、新しい風や今までとは違う温かさ、頼もしさを感じてよかった。 最後に光さんは一人ぼっちになってしまうけど、好きな装いをして、好きな仕事をして、自由に、優しく生きて行けたら素敵だなとおもった。
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中学の同級生であった虎治と光。大学生の時に再会し夫婦となりやがて息子を授かる。夫婦になった時は同じ方向を向いていたはずなのに、次第に考え方が違うかも?と思う光。特に子育ての考え方の違いは生まれ育った環境による物が大きい。 ちょっとした違和感が次第に大きくなる光。 どこの夫婦でも考え方の違いは大なり小なりあるけれど、そこで離れる決断をするか、諸々飲み込んで一緒にいる事を選ぶかは人それぞれ。 子供がいても子供は子供の人生があるわけで結局最後は夫婦2人。そう思うと自分がどちらを選択すべきか自ずとわかるのかもしれない。 光は結局自分のかんむりを見つけられたのか?もう無理…と思ったのに結局最後まで添い遂げられた理由は何だったのかな?時代が急に飛んでいくのでそのあたりをもう少し丁寧に描いてくれたら良かったと思う。
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うわぁ…これ、すごいなぁ。 とにかくすごい、それが読後真っ先に思ったこと。 誰が読んでも「私がいる」って思えるんじゃないかと思ってしまう。 たくさんの「私」の代表みたいなそんなお話。 中学校の同級生だった虎治と結婚して、生まれた子どもと3人で暮らしている光。彼女の目線でその人生...
うわぁ…これ、すごいなぁ。 とにかくすごい、それが読後真っ先に思ったこと。 誰が読んでも「私がいる」って思えるんじゃないかと思ってしまう。 たくさんの「私」の代表みたいなそんなお話。 中学校の同級生だった虎治と結婚して、生まれた子どもと3人で暮らしている光。彼女の目線でその人生が綴られていく。 虎治とのすれ違いや、なんとなく我慢して合わせてしまうこと、小さな小さな我慢が時間とともに膨れ上がってしまうこと。 そんな複雑な人生を必死で生きている光の人生の中にも、そして、頑張って強いフリをしている虎治の人生の中にも、「私」が存在しているのを感じた。
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著者の文章は、「読んでいる」はずなのに「語り合っている」気分になる。意見の交換をしているような感覚。 これだけ言葉を尽くしてくれたら、私でもさすがに分かる。何を考えているのか分からない相手の気持ちも、次第に理解できるようになる。 色んな形やサイズの体を持つ人がいる一連の話は、自分に当てはめて考える点も多かった。 体というのは千差万別なのであって、ひとつの規格から外れたらまるで圏外のようにすべてを諦めるような人生は嫌だなと思う。こういう人がいるしああいう人もいる、そして自分のことも人と比べずにそのままを愛したい。 著者はこの本の中で一人の女性の一生を書こうとしているのだ、と気づいた瞬間に涙が出そうになった。ありふれている日常の中にこそ愛と憎しみがある。老いたその先まで、良いことも悪いことも引っくるめて全部持って行くという気概を感じるのだ。 正解が分からないまま生きる、これが人生だよなぁと思う。
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なにか、とてもいいものを読んでしまった。 相容れない部分と、一緒にいるからこそ理解してしまう部分。それらをうまく噛み砕いて、生活に落とし込んで夫婦を続けていく2人の姿が尊いものに感じた。
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