現代生活独習ノート の商品レビュー
この本の登場人物たちは、他人から見れば些細なことかもしれないが、苦労、悩み、トラブル、しがらみなどを抱えながらも淡々と生活している。それでも何かのきっかけでちょっと前進できたり、気づきが得られて、今の生活も案外悪くないと思ったりする。人生を充実させろとか言われるけど、あまり自分を...
この本の登場人物たちは、他人から見れば些細なことかもしれないが、苦労、悩み、トラブル、しがらみなどを抱えながらも淡々と生活している。それでも何かのきっかけでちょっと前進できたり、気づきが得られて、今の生活も案外悪くないと思ったりする。人生を充実させろとか言われるけど、あまり自分を追い込まず、自分の心を安らかにすれば、生活の中にささやかな幸せか見つかるのだと思う。どの作品も良かったが、「台所の停戦」、「イン・ザ・シティ」(サブキャラの加藤がいい)が特に良かった。またイラストがこの作者の作風にすごく合っている。
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いつでも一定以上のクオリティの作品を読ませてくれる津村さん。 現代の会社勤めや人間関係の息苦しさを描いても、どこかに救いがある。 「台所の停戦」は、語り手の母親が娘に対してちょっと寛容でない感じがしたものの、親から何を継承し、継承しないかは選べるし、いやな親にもいいところはあるし...
いつでも一定以上のクオリティの作品を読ませてくれる津村さん。 現代の会社勤めや人間関係の息苦しさを描いても、どこかに救いがある。 「台所の停戦」は、語り手の母親が娘に対してちょっと寛容でない感じがしたものの、親から何を継承し、継承しないかは選べるし、いやな親にもいいところはあるし、堪えがたくなければ折り合いつけてやっていこうよ、というあたたかさを最後に感じた。 近未来SF的な「現代生活手帳」、読んでいてほしくなるサービスがいっぱいあった。まずロバの宅配便。自分が帰る時間帯に在宅している人が多い道を教えてくれる、というのは全女性や子どもが本当に欲しいサービスではないか。実現求む。 「牢名主」は私もB群ではないかと(きっと読んだ人のほとんどが)思う。しかし誰しもAでありBであるのかも。 「粗食インスタグラム」も良かった。海原雄山や北大路魯山人じゃないんだから、ほんと、毎食おいしいものを食べなくてもいいんだよね。コアラについて「ユーカリしか食べられないらしいけど、逆に言うとユーカリだけ食べてればいいってことでしょう」(p152)ってあったけど、本当にコアラが羨ましい。今日のユーカリは香りが高くてみずみずしくておいしかったとか、今日のは古くてカサカサしてイマイチだったとかはあるだろうけど、基本ユーカリに満足して食べてるんだもんね。 職場での付き合いについても頷けることばかりだった。 「フェリシティの面接」はミステリ風(フェリシティがかっこいい!)、「イン・ザ・シティ」はファンタジー要素が取り込まれた思春期もので、これも良かった。 フェリシティが活躍するミステリ、ファンタジーもこれから書いてほしい。 楽しかった。
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すごく不思議な短編集。 現代の生きづらさを滲ませる話もあれば、SFっぽい話もあり、途中で何読んでるんだろう…と不思議な気持ちに。元気が出る、という話でもないし、今の生活もまぁいいかなと、全力肯定とまでいかずとも、他の生き方を垣間見せてくれる。 「レコーダー定置網漁」。SNSで発信...
すごく不思議な短編集。 現代の生きづらさを滲ませる話もあれば、SFっぽい話もあり、途中で何読んでるんだろう…と不思議な気持ちに。元気が出る、という話でもないし、今の生活もまぁいいかなと、全力肯定とまでいかずとも、他の生き方を垣間見せてくれる。 「レコーダー定置網漁」。SNSで発信される情報の波に疲れた主人公が、偶然録画されていたTV番組に活力をもらう。 「粗食インスタグラム」判断することに疲れを感じる主人公が、毎日の夕ご飯写真を投稿していく。
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なんとも不思議な物語だった。8つの短編から成る物語だが、どれもが不思議な設定であったりして私には少し入りづらかった。 ただ、どれも面白くないか?と聞かれたらそれはNOで、面白いか?と聞かれても、NOだ。 もちろん人それぞれ感想が違うのは当たり前だし、好みの違いだとは思う...
なんとも不思議な物語だった。8つの短編から成る物語だが、どれもが不思議な設定であったりして私には少し入りづらかった。 ただ、どれも面白くないか?と聞かれたらそれはNOで、面白いか?と聞かれても、NOだ。 もちろん人それぞれ感想が違うのは当たり前だし、好みの違いだとは思う。 最後の章に出てくる『インザシティ』が無性に聴きたくなったし、スケボーも始めたくなった。
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今回も裏切らない作品。エヴリシングフロウズもそうだけど、イン・ザ・シティも自分が若かりし頃によく聴いていた曲。そんな曲のタイトルをこれから先たくさんの可能性を秘めた若い世代の話に用いるのが嬉しい。 どの短編も最後の方は何かしら小さく前進しているところが読後感の良さを増幅している。...
今回も裏切らない作品。エヴリシングフロウズもそうだけど、イン・ザ・シティも自分が若かりし頃によく聴いていた曲。そんな曲のタイトルをこれから先たくさんの可能性を秘めた若い世代の話に用いるのが嬉しい。 どの短編も最後の方は何かしら小さく前進しているところが読後感の良さを増幅している。何か他人の日記を読んでいるかのようなレコーダー定置網漁やら粗食インスタグラム、この辺がお気に入り。
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※このレビューにはネタバレを含みます
津村さんの本が出たら全部読んでる(多分)。好きな作家は誰ですか、って聞かれたら絶対挙げる一人。これもやっぱり好きだった。 短編集で、いろんなシチュエーションが楽しめてホクホク。 「レコーダー定置網漁」とか「粗食インスタグラム」「メダカと猫と密室」とかはこれぞ津村さん。働く女子を書かせたら最高。いわゆる「オシゴト小説」ではなく、お給料のために真面目に地味に働いて、自分で自分を養ってる人たちの話。 きらきらした社内恋愛も、仕事での華々しい活躍もない。しょぼくれた上司の言うことを聞き、コンビニのサラダをもそもそ食べる。それが日常ってもんだ。労働にすり減って、疲れて、それでもささやかな楽しみは見つけられる。そういうところに共感する。たくましさを感じる。 描かれる生活のディテイルもすごく正確なんだよな。レコーダーの機能のこととかSNSの雰囲気とか。これだけリアルに書くのって意外と難しいと思うんだよな。すごいと思うの。他にここまで正確に日常のディテイルを書ける作家さん、思いつかないもん。 「現代生活手帖」は近未来SF風味。なのに中身はやっぱりダラダラした(褒め言葉!)日常なのが面白い。この金銭感覚の手堅さときたら。執事ほしい。ロバかわいい。 「台所の停戦」「牢名主」あたりは、そうだこの人は芥川賞作家だった、と改めて思い出すような。人間同士の微妙な心理をすくい取る。 「フェリシティの面接」は、おおこういうミステリーも書けるんだ!と嬉しい発見。シリーズにならないかなあ。素敵。 「イン・ザ・シティ」も良かった。地味中学生書くのも上手い。最後は未来に向けられる視線。 津村さんの作品読むと、なんというか押しつけがましくないのに、明るさが見えるんだよなあ。希望、とかいうほどの大げさなものじゃないけど。 元気がもらえる、ってのとも違うんだけど。 でもまあ、せっせと生きてりゃ楽しいことも色々あるし、世の中面倒くさい奴も多いけど、気の合ういい人もいるしね、みたいな。 読み終わったら、ですよね、って、いいねボタンだけ押したい。そんなテンションで、やっぱり好き。
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今の人に刺さる内容ばかり。少々極端だとは思いつつも、共感してしまいました。ダークではありますが、誰もがどこかでそんな暮らしをし、そんな事を考えつつ生活してる人が存在しているのではないのか、とそんなふうな事を思いました。
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2012年から 2021年まで文芸誌『群像』に単発で掲載された短編作品8編をまとめたもの。 * * * * * 何やら風変わりな作品ばかり並んでいましたが、「フェリシティの面接」はホームズばりのミステリー掌編で、小気味よく無駄のないフェリシティの推理が見...
2012年から 2021年まで文芸誌『群像』に単発で掲載された短編作品8編をまとめたもの。 * * * * * 何やら風変わりな作品ばかり並んでいましたが、「フェリシティの面接」はホームズばりのミステリー掌編で、小気味よく無駄のないフェリシティの推理が見せ場となっています。 津村氏がわかりやすい見せ場を用意するのは珍しく印象に残る作品でした。 個人的に気に入ったのは「粗食インスタグラム」で、疲労が抜けない日々のなか自分1人の食事の面倒さや鬱陶しさがよくわかるものでした。そして一度、自分の中で食事の優先順位を下げてしまうと、食べることなど本当にどうでもよくなるということもわかる気がしました。 いいかげんな食生活。でも、まあいっかー。調子が上向くまではそんなもので。あくまで一時的逃避ということで。 ともあれ津村記久子さんを満喫できる一冊でしたが、作品を通して描かれる、人間の持つ「緩やかな狂気や退廃」は、鏡の中の自分を見せられているようで、少しまいってしまいました。 ( ところで津村さんは「プリン」が好物なのだろうか? 他の作品でもよく登場するような気が……。 )
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少しだけ現実とは離れていたりした不思議な世界。でも、じんわりとする。短編集だったので、読みやすかった。
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台所の停戦 母の立場も娘の立場も経験している私は、 自分も同じような事があり、みんなそうなのか、と驚きました。 子供の頃、母がしている家事をほんの少し手伝ったら激怒された記憶。理解不能だったけれど、手伝われることは母の領分を犯し、家事が出来ていないと同義なのだと分かりました。 娘が料理をする時には、私が食事の用意をする時間と被らないように指示していたし、冷蔵庫内の娘が購入した食材は、自分の領地を犯されたような気分になります。 現代生活手帖 両手が不自由な人なら、テーブルをなめるなと思いました。 イン・ザ・シティ マインクラフトがきっかけで友達になる2人は、共に男兄弟がいて、母親は自分よりも男兄弟を贔屓している点も共感できました。
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