現代生活独習ノート の商品レビュー
偶然録画していた興味のない番組、冷蔵庫内の 陣地争い、貧弱な食事ばかりのSNS画面…。 キラキラしていなくても冴えない日常は、案外 愛おしく、悪くない。”今”が詰まった8つの物語。
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津村さんは疲れた人の疲れっぷりを表現するのが上手な作家さんだと毎回思う。 例えば第一話「レコーダー定置網漁」の冒頭。 『リフレッシュ休暇をもらったが、もはや私にはリフレッシュする気力自体が残っていなかったのだった』という一文でもう持っていかれる。 他にも「粗食インスタグラム」...
津村さんは疲れた人の疲れっぷりを表現するのが上手な作家さんだと毎回思う。 例えば第一話「レコーダー定置網漁」の冒頭。 『リフレッシュ休暇をもらったが、もはや私にはリフレッシュする気力自体が残っていなかったのだった』という一文でもう持っていかれる。 他にも「粗食インスタグラム」の主人公が仕事で『判断すること』に疲れすぎて貧弱な食事のブログに癒されるその心境を『せめて悲しい食事で生きようとしている仲間を探して安心している』と評しているのが津村さんらしくてクスっとする。 極め付きは「メダカと猫と密室」の冒頭で主人公の先輩安田さんが係長からの電話を受けている最中に『突然気力がなくなった』と言って私に受話器をよこしてそのままいなくなるというシーン。 何とも衝撃的で主人公の横井もメモの字が大きく歪むくらいなのだが、それが何ともユーモラスなのだ。 先の「レコーダー定置網漁」では仕事で予約録画した番組を長らく見られなかった間に『刑事コロンボ』シリーズが終わっていたのだが、代わりに録画されていた後番組のユルい料理番組やらワイドショーやらにいつの間にか引き込まれ元気をもらっているし、「粗食インスタグラム」では仕事と人間関係に振り回されつつも少しずつ食事がまともになっていっているし、「メダカと猫と密室」では資料室に籠ってしまった安田さんと主人公横井と中村課長との攻防が楽しい。 こんな人いるよなぁとか、こんなことあるよなぁとか、その気持ち分かるよなぁと頷きながらも予想を超えた展開と大変なのに笑えるのが津村さんらしくて楽しめた。 かと思えば、収奪され続ける人たちを描いた「牢名主」とか殺人事件を解き明かす「フェリシティの面接」というシリアスモードな作品もある。 違う作者が描けばサスペンスだったりホラーだったり嫌ミスだったりになりそうなものをギリギリのところで踏みとどまらせるのは巧みだなと思う。 他にネットや防犯については発達した未来を描いているのになぜか宅配は人とロバとを選べるという「現代生活手帖」という変わり種もある。 そして中には難しい親子関係を描いた作品が二編あるのだが、そのどちらもユーモアの一方で繊細さも見せてくれる。 祖母、母、娘の女ばかり三代で暮らしている一家の台所戦争を描いた「台所の停戦」では主人公である母の、祖母にとっては娘であり、娘にとっては母である双方の立場と出戻りであるという引け目が分かるし、双方難しい親に悩んでいる女子中学生たちの話「イン・ザ・シティ」では主人公キヨがゲームをきっかけに親しくなったアサの家庭事情を思わず知りながら、そこに踏み込んでいいのかどうか悩む心情が細かに描いてあった。 どの作品も物事が万事解決したというわけではない。だが何故かホッとするような、そんな気持ちにさせられる。 「粗食インスタグラム」の最後の方の文章を借りれば『やはり、つまらない食事だと思う』と言いつつも『でもそれでもよかった』と言えるようになったのが良かったと思う。変わらないようで何かが変わったというその微妙さ繊細さを伝えるのが上手いなと改めて思う。
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※このレビューにはネタバレを含みます
短編集。 「レコーダー定置網漁」…仕事に疲れてリフレッシュ休暇をもらった私。TVでコロンボ警部を録画するはずが、地方局の情報番組を毎日録っていた。しかし出演するアナウンサーたちに励まされ?気力を取り戻していく。 「台所の停戦」 「現代生活手帖」…近未来?SF.自治体から配布される手帖。タウンワークのように、地域の便利商品も紹介されている。私が利用する配送酸はロバ。 「牢名主」…アドリアナ・スミス群。それは病的なまでに相手B群に執心してくるA群と、被害者B群のこと。B群になって逃げるために引っ越し、そこでリハビリグループに通う女性。 「粗食インスタグラム」 「フェリシティの面接」 「メダカと猫と密室」 「イン・ザ・シティ」 あらすじ、全編は書かないけど、最後の4編も好きで、ストーリー忘れないだろう。今作は地に足のついたというか、地味なSFっぽい話もあって、新たな津村作品が見られた。「フェリシティの面接」は、読んでる途中で予感がして、「もしやミスレモン?」とわくわくした。仕事で摩耗して、ボロボロになっている作品もあったけど、ほんとーにスローに回復していく様子は希望があったし、そこにもやはりユーモアがあった。この本も読んでておだやかな気持ちになった。
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最近、仕事で疲れていてあまり本を読む気分ではなかっったが、ほんわかした話ばかりで癒されたし、読んでて疲れなかった。 就活生のSNSを監視する仕事をしてる人がもらった長期休みの過ごし方がなんかすごく良かった。ローカルテレビ局のローカルな番組で、疲れた顔をした料理家と元気いっぱい...
最近、仕事で疲れていてあまり本を読む気分ではなかっったが、ほんわかした話ばかりで癒されたし、読んでて疲れなかった。 就活生のSNSを監視する仕事をしてる人がもらった長期休みの過ごし方がなんかすごく良かった。ローカルテレビ局のローカルな番組で、疲れた顔をした料理家と元気いっぱいのアナウンサーが作る超手抜きご飯の紹介番組やそのアナウンサーと別の若いアナウンサーが出る情報番組、旅番組などもあってなんかすごく良かった。そして、天気予報士の方の「明日の服装」も癒された。 学校で習ってきた料理を作りたい娘と母親の台所での争い、紅茶サーバーを買うか買わないかで散々悩む女性、支配する側とされる側の関係を書いた話、選択するのが疲れすぎていつもちゃんとしたものを食べていない人のひどい食事写真をアップする話、住んでいるマンションの上の階であった殺人事件の話、休日出勤を強いられ、その上司に振り回される社員の話、架空の世界を考える中学生の話。いろいろあって面白かった。 なんとなくどこにでもある人々の物語だけど、特別不幸でも特別幸せでもないかんじが良かったかな。 2022.3.20 読了
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「浮遊霊ブラジル」に続き 2冊目の 津村記久子作品 誰にも言えないけれど 日常の馬鹿げた生活習慣や考え、妄想などが短編になっている。 ・録画していた番組が終わって、「同じ名前の1話」としてず~っとたまっている録画リスト。興味のない番組の中で 見るとはなしに流れる画面に心地よさ...
「浮遊霊ブラジル」に続き 2冊目の 津村記久子作品 誰にも言えないけれど 日常の馬鹿げた生活習慣や考え、妄想などが短編になっている。 ・録画していた番組が終わって、「同じ名前の1話」としてず~っとたまっている録画リスト。興味のない番組の中で 見るとはなしに流れる画面に心地よさを感じる ・娘に台所を占領されて イライラしながら小言をいう母 そして 冷蔵庫の自分の場所を占領していく祖母の食べ残しの食器たち ・気の合う友達と何気に作り上げていく 妄想の世界地図 どれも ちょっと身に覚えがあったり、経験があったり。 身に覚えがあると共感出来て 読む気力が進むのだが、経験がないと(ふ~ん)とおざなりになって 頭に残らない。 まっ それも読書の楽しみですよね。 1話完結なので カフェのひと時におすすめです。 (感じ悪いわき役も出てくるから 身近にいる人に似てるかも?!)
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8編の作品で構成された短編集。 それぞれの作品の主人公は年齢もまちまちだが、なんとなく自分の現状に満足していない。 どの作品も淡々とある状況を著し、はっきりしたストーリー展開があるのでもなく、結論を提示した終り方もしていないが、今を生きる人々の姿が垣間見れる作品だ。
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表題作『現代生活独習ノート』、この世界観がとても好きだ。 私もロバに郵便物もってきてもらいたいし水道からミカンジュース出したいです。 テーブルもさすりたい。あのテーブル便利すぎやしないか…? SFと言えばSFかも知れないけど、そのちょっと便利なところの「ちょっと」具合が絶妙すぎ...
表題作『現代生活独習ノート』、この世界観がとても好きだ。 私もロバに郵便物もってきてもらいたいし水道からミカンジュース出したいです。 テーブルもさすりたい。あのテーブル便利すぎやしないか…? SFと言えばSFかも知れないけど、そのちょっと便利なところの「ちょっと」具合が絶妙すぎる。 かゆいところに全然手が届いてないけど、一般市民がここ「ちょっと」ってところの感覚が、価格設定も含めたまらなかった。どれもこれもが魅力的で、あと少しの豊かさをくれr…いやそれは豊かなのか?という一抹の疑問も含めて、完璧。 朝一で紅茶を入れる作業を「めんどくさい」「かなりの手間」と切り捨ててくれた津村さんにはもう、信頼しかない。 (だって私なんて白湯すら飲めない) 特にあの、知らないうちに不用品を判断して勝手に捨てておいてくれるというサービスが素晴らしい。 私もすてたいんよね。私が知らないうちに(重要)なんか(重要)なくなっててほしい。あれ一万円なら全然いける。 あの小説を読んでいると、「あぁ、私って意外とがんばってるじゃないか」って思えてくるのが一番すごいところだと思う。一人じゃない感がすごいのよね。 現実って糞だな、の先の、現実って糞だけど笑えるな、愛おしいな、まで見せてくれる作品なのが、読んで良かった~明日もいきてこ~って眠れる。 表題作のみに言及しましたが、どれもこれも独特の世界観があって、まるっと大好きでした。祝・第三回飯田賞!
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どれもシュールでうんうんとうなずいたり、クスッと笑えたり、楽しいひと時が過ごせる短編集。 特に メダカと猫と密室 粗食インスタグラム がお気に入り タイトル通り、現代生活にあるあるネタを少し斜めからみた視点で鋭く?切り出す(笑) 装画もアンニュイでマッチする。
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津村さんの書く小説は、働いている女性が出てくるものが多い。バリバリのキャリアウーマンというわけではなく、働いてはいて、それなりに会社に貢献もしているものの、どこかしらその職場に違和感を抱いていたり、働くのが嫌にならないほどの適度な邪魔物と対峙せざるを得ないような、そんな軟らかい硬...
津村さんの書く小説は、働いている女性が出てくるものが多い。バリバリのキャリアウーマンというわけではなく、働いてはいて、それなりに会社に貢献もしているものの、どこかしらその職場に違和感を抱いていたり、働くのが嫌にならないほどの適度な邪魔物と対峙せざるを得ないような、そんな軟らかい硬直を抱えた女性の話が多い。また、大抵の場合その女性は人から咎められない程度に怠惰だったりもする。 その緩さというか、発展も急な堕落もしないが、果てしなく緩やかな下り坂をノロノロと降っていくだけのような労働という名の日常の中に、ちょっとけつまずく様な小石を見つけたり、立ち止まりたくなる様な路傍の花を見つけたりする話が展開する。 小石と言ってもけつまずくと痛いから、登場人物は時に激しく憤ったり、鬱憤を吐き出すために他人の悪口をノートに書きつけたりする、、、 そういう話が読んでいて楽しい。 と思っていたら、最後の一遍「イン・ザ・シティ」は女子中学生のちょっとキュンとする話だった。 こういう意外性もまた面白いんだよね。
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