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夏物語 の商品レビュー

4.1

263件のお客様レビュー

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    82

  2. 4つ

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  3. 3つ

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2021/08/27

かつて住んでいた街を訪ねる夏子の描写で、夏子は、まだ大人にならないうちに死に別れた母親と祖母との温かい思い出があるから、そして大人にならないうちに死に別れてしまったから、そんな母や祖母との間にあった温もりをもう一度味わうため、自分の子供に会いたいと思ったんじゃないかと感じた。 そ...

かつて住んでいた街を訪ねる夏子の描写で、夏子は、まだ大人にならないうちに死に別れた母親と祖母との温かい思い出があるから、そして大人にならないうちに死に別れてしまったから、そんな母や祖母との間にあった温もりをもう一度味わうため、自分の子供に会いたいと思ったんじゃないかと感じた。 そして、わたしの母は健在だけど、わたしもあの幼い頃の、宝物のような、母との温かい時間の流れを追体験するために、子供が欲しいと思っているんだと気付かされた。 善百合子の言っていたことは、誰もが一度は感じたことがあることなんじゃないかと思う。わたしも自分の子供が欲しいと思う一方で、この分断が進む世界に、子供を産み落とすことの恐ろしさも感じている。

Posted byブクログ

2021/08/24

◆AID(Artificial Insemination with Donor's semen)  →非配偶者間人工授精  精液のなかに精子がほとんどない無精子症の患者を対象に,日本では慶応義塾大学病院などで約50年にわたって行われ,数万ともいわれる出産例がある。  最...

◆AID(Artificial Insemination with Donor's semen)  →非配偶者間人工授精  精液のなかに精子がほとんどない無精子症の患者を対象に,日本では慶応義塾大学病院などで約50年にわたって行われ,数万ともいわれる出産例がある。  最近では顕微受精によって,かつてはAIDに頼らざるを得なかった重症な男性不妊でも,自分の精子で子どもを持つケースも増えてきている。  米国では精子銀行や卵子銀行がビジネスとして存在し,精子・卵子の提供者の病歴をチェックしたり,容姿やIQ(知能指数)まで選べるシステムになっている。 ---  図書館で予約して数ヶ月、楽しみに待っていた本。ずいぶん期待が大きくなってしまっていたけれど、読み応えがあって大満足。景色とか、季節感とか、行き交う人々や街の様子とかを登場人物の台詞に頼らず純粋に文章だけで描写する力が本当に凄まじくて圧倒される。そんなところまで、っていう詳細まで掬い取って描き尽くす。  川上未映子さんはどうしても「わたくし率 イン歯ー、または世界」で受けた衝撃が強すぎて、普通のというか理解可能な文章が書かれているのを読むとなんだかホッとしてしまう。この本は大丈夫、ちゃんと読めた。中盤以降はかなり辛辣な川上節?が炸裂していたけれど。子どもを持つ母親の立場から共感できるような気がしたり、でもそれさすがにあたしには言えないわ…(だって相手にいろいろ言うってことは逆に相手がわたしにいろいろ言う権利を与えているも同然ってことだし…いろいろ言われたら勝ち目ないし…いろいろ言わせないように隙をなくすこととかできないし……モゴモゴ)っていう気がしたり、そんなようなことも忖度なくバシバシ言ってくれて、痛快だった。でもそもそもそこまでブチ切れるほど大変な目に合わされているわけじゃ全然ない呑気なわたしが「共感した」とか言ってること自体が大いなるお門違いではある。 --- p.386  自分の生活変わらない範囲でした家のことも子どものこともやらないくせに、外では理解のある夫だか父親だかって、でかい顔してうっとりしてんの。あほかと。んで、突っこまれるのに慣れてないから、何かひとこと言うだけで機嫌が悪くなって、そして自分の悪くなった機嫌は誰かが直すもんだと思ってる。 ---  冒頭に引用した【AID】という不妊治療法については全然知らなかったから、新しい知識を得る機会になった。私は2歳のときに両親が離婚して父親には一回も会ったことがなくて、母親が、父親の写真は一枚残らず燃やすというエキセントリックさでもってその痕跡を完全に抹消したので、どこで何をしているか果たして本当に存在していたのか全く何も知らないまま今日まで生きてきたけれど、「たぶん実在はする」「まじで本気出せばたぶん探し出せる」っていうのがまあずっとといえばずっとあって、本気出さなかったし出そうとも思わなかったしそれになんの後悔も逡巡もない。でもそういうんじゃなくて、どう頑張っても父親が誰だか知ることができない、さらに知る権利がない状態を覆せない、っていうのは本当にもどかしいし苦しいし心に引っかかり続けてしまうだろうなあと思う。  登場人物の一人、AIDで生まれた「逢沢さん」の台詞。 --- p.516 「僕がずっと思っていたのは、ずっと悔やんでいたのは、父にーーー僕を育ててくれた父に、僕の父はあなたなんだと、そう言えなかったことが」 「父が生きているあいだに本当のことを知って、そのうえで、それでも僕は父に、僕の父はあなたなんだとーーー僕は父に、そう言いたかったんです」 ---  知りたかった真実を知ることができたかどうか。この本を読んでいたら、真実がどれだけ残酷でも、それを知りたいと願ったときに隠されたり、向き合ってほしかった相手に相手に拒絶されたり、かと思えば全く予期せぬ方向から何の前触れもなくいきなり知らされたり、そういうことになったときの辛さの方がきついだろうなあと思った。

Posted byブクログ

2021/08/23

小説を書く仕事をしている夏目夏子さんという女性の物語です。 上京してからのお話がメインですが、母、祖母、姉と過ごした大阪での幼少時代のことも彼女の視点から描かれており、どんなことを考えながら歳を重ねてきたのかがよく分かります。 どこに住むか、誰と暮らすか、何の仕事をするか、結婚...

小説を書く仕事をしている夏目夏子さんという女性の物語です。 上京してからのお話がメインですが、母、祖母、姉と過ごした大阪での幼少時代のことも彼女の視点から描かれており、どんなことを考えながら歳を重ねてきたのかがよく分かります。 どこに住むか、誰と暮らすか、何の仕事をするか、結婚するのか、子供を産むのか、、、 生きていく上で人は、たくさんの選択をしなければなりません。 本作では、自分の子供に会いたいという気持ちを抑えられなくなった主人公が、「子供を産む」ことについて深く思案し、未婚のままひとりで子供を授かるためのある決断をします。 この決断が良かったのか悪かったのか、どんな未来に繋がるのか、現時点では誰にも分かりません。 それでも、一人の女性が人生を懸けて選んだ道が、希望あふれる明るいものであることを信じたいです。

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2021/08/22

【大切にしたいものは何か】 子どもが欲しい。 女性が一人で願っても、叶えることはできない。 でも、どうしても無理なのだろうか。 自分が大切にしたいものは何か。 譲れないものは何か。 自分ととことんまで向き合って、大切なものを守り抜く物語。

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2021/08/15

重いテーマだけど読みやすい! 夏子の気持ちも痛いくらいわかるし周りの人の気持ちもわかるし、何回か本を置いて考えさせられた。

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2021/08/15

私の記憶違いでなければ、結婚前の川上さんは、「産んだ瞬間から『その子供の人生』が始まってしまうわけで、そんな壮大なこと、自分の願望やら何やらで『できちゃった』というふうに私はできない」というようなことを言っていたと思うのですが(子供を持つことを諦めていた私は、その姿勢にひっそりと...

私の記憶違いでなければ、結婚前の川上さんは、「産んだ瞬間から『その子供の人生』が始まってしまうわけで、そんな壮大なこと、自分の願望やら何やらで『できちゃった』というふうに私はできない」というようなことを言っていたと思うのですが(子供を持つことを諦めていた私は、その姿勢にひっそりと励まされていました)、結婚発表時にはすでに妊娠していて、子供を持つに至った理由をパートナーに子供を持つことの素晴らしさを説かれたからだと答えており、その当時何となく鼻白んだ気持ちになったのを覚えています。裏切られたような、なぜか傷ついた気持ちになったのです。本当に勝手ですよね。けれど、あんなに「一人の人間の人生をスタートさせてしまうことに慎重であるべき」と言っていた人に、どういった心境の変化があったのだろうとずっと心に引っかかっていました。この夏物語はそれに対するアンサーとなる内容だと(これまた勝手に)感じました。 巻子と緑子にまた会えたことが嬉しかったなぁ。そして12歳の緑子の巻子に対する切ない気持ちに、自分の思春期を思い出して、やっぱり胸がギューッとなりました。 そのほかにも、ぶどう狩りのエピソードとか、九ちゃんの思い出とか、ぼこされた女の子の話とか、コミばあとのやりとりとか……ちょっと涙なしには読めなかったです。 また、この作品は、産むを肯定するだけでなく、「生まれなければ味わわなかった苦痛」に直面せざるを得なかった善百合子のような人を、どう私たちが、社会が包み込めるだろうかということも合わせて考え続けなければいけないと伝えていると思いました。少なくとも私はそういうふうに受け止めました。

Posted byブクログ

2021/08/14

いろいろを経て、子どもをもつということ。エゴだとしても、会いたいと思う自分。 巻子と緑子がなぜか気になって仕方なかった〜。読み終わってからその理由に気付きました。

Posted byブクログ

2021/08/24

世界が絶賛したこの小説で著者が読者に問いかけるテーマは“産まれること、そして産むこととは何か”である。ときにこのような大きな問いはわかりにくく、自己中心的になりがちだが、この作品の凄いところはそれらを軽く飛び越え、女性ならではの大きく包み込むような物語に仕立て上げたとこである。文...

世界が絶賛したこの小説で著者が読者に問いかけるテーマは“産まれること、そして産むこととは何か”である。ときにこのような大きな問いはわかりにくく、自己中心的になりがちだが、この作品の凄いところはそれらを軽く飛び越え、女性ならではの大きく包み込むような物語に仕立て上げたとこである。文庫で600ページ以上の大作だが、長さを一切感じない。世界が絶賛するのはこの小説家としての技量なんだと思う。

Posted byブクログ

2021/08/13

面白いし、「小説を読む愉しさ」を手軽にもたらしてくれる。 でも、なぜだかわからないがカズオイシグロや村上春樹や『百年の孤独』のような、「圧倒的物語」感はなくて、それは何故なのかずっと考えてる。 物語に圧倒されて読み終えたあとにしばし呆然とするような、胸が震えて頭がぼうっとするよ...

面白いし、「小説を読む愉しさ」を手軽にもたらしてくれる。 でも、なぜだかわからないがカズオイシグロや村上春樹や『百年の孤独』のような、「圧倒的物語」感はなくて、それは何故なのかずっと考えてる。 物語に圧倒されて読み終えたあとにしばし呆然とするような、胸が震えて頭がぼうっとするような、ああいう偉大な物語との違いは、どこにあるのだろう。 反出生主義の考え方もしっかり描かれてて読み応えはある。私的には主人公より善百合子の考え方の方がしっくりくる。私は結局、「産みたい」という欲求を持ったことのない人間なので、主人公がなんでそんなに生みたいのかピンとこなかった。 でも例えば百年の孤独は100年間連綿と続く一族の命のつながりをすさまじく書いていて、「産みたい」なんて話に主眼が置かれていないにもかかわらず、「あぁ私も生き物である以上この命の連環に参加さなくてはならないのでは」という壮大な気持ちにさせられた。「命の讃歌」みたいなものを感じた。 たぶん優れた文学は、自分とは全く異なる感情をも体感させるものすごいパワーがある。有無を言わさずねじ伏せられ、打ちのめされる。つまりこの物語にはそのパワーが足りなかったということなんだろうか。 そのパワーがどこからやってくるのかは、今の私にはちょっとまだよくわからない。

Posted byブクログ

2021/08/10

まさに超超超大作!! この一言に尽きます。 パートナーがいない妊娠を求めて、「精子提供」 「不妊治療」様々な問題を抱えて夏子は歩きだす。賛否両論あると思うが、この重いテーマをどう捉えるか、読んだ人の意見も分かれると思いますが、ぜひ女性に読んでもらいたいです。

Posted byブクログ