夏物語 の商品レビュー
新しい生命の誕生ということの意味を徹底的に追及して小説として結実させた傑作。デビュー以来、著者が追及するテーマが、関西弁を主軸に据えた語り口の面白さと結実し、本当に素晴らしく心にずしっとくる重みを与えてくれる。 主人公である大阪出身、独身の女性作家は自ら子どもに会いたいという思...
新しい生命の誕生ということの意味を徹底的に追及して小説として結実させた傑作。デビュー以来、著者が追及するテーマが、関西弁を主軸に据えた語り口の面白さと結実し、本当に素晴らしく心にずしっとくる重みを与えてくれる。 主人公である大阪出身、独身の女性作家は自ら子どもに会いたいという思いから、結婚せず、自身がどうしても生理的な嫌悪感を拭いきれないセックスを行うことなく、男性の精子提供を受ける形での出産を望む。一方、その対立軸として、精子提供を受ける形でこの世に生を受けた子どもが経験せざるを得ない辛苦が描かれる。この両者の対話や思弁を通して、我々がごくごく当たり前に思っている生命が生まれるということの意味が問い直されていく。 実際に、精子提供で生まれた女性が語るこのセリフがひたすらに重い。 「どうしてみんな子どもを産むことができるんだろうって考えているだけなの。どうしてこんな暴力的なことを、みんな笑顔でつづけることができるんだろうって。生まれてきたいなんて一度も思ったこともない存在を、こんな途方もないことに、自分の思いだけで引きずりこむことができるのか、わたしはそれがわからないだけなんだよ」(本書p523より引用) 読んでいて面白いと思う小説は多数あるが、作品が触媒となってそこから何かを考えさせられてしまう、というような磁力を持つ小説はそうそう多くはない。本書はそうした磁力を持ち、小説としても当然に面白い傑作。
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子どもを持つということについて。 命の在り方について。 壮大で難しく答えが無いことは分かっているこのテーマで、読了後、こんなにも自分の中で納得し、どこか爽やかで清々しい気持ちになれるなんて思ってもいなかった。 ”子どもをつくる権利は誰にある?” 読みながら、もしかしたら、この世のだれもが、 その問いかけに気づきながらも気づかないふりをしているのかもしれない、などと思う。 気づいたところでどこにも正解は無いし、自分の存在意義すらもあやふやになってしまう、恐ろしいことだから。 夏子がたどり着いた彼女自身の選択、ラストシーンはもう目が離せませんでした。 川上さんの作品を初めて読みました。 情景描写がとてもとても美しく、切なく、人物の想いが鏡のように反映されて、ひとつひとつのシーンが忘れられません。 わかりやすい励ましの物語なんかじゃなく、 読者ひとりひとりが、まさにわたし自身が問いかけられているのだと感じる迫真の物語。 川上さんが物語終盤から仙川を降ろした意味や、善百合子のこれからの人生。 この小説を読んだのは今この瞬間の自分だけれど、『夏物語』で語られなかった人物のそれぞれの人生を、また夏子たちの今後を、これからを生きるわたしは考え続けていくに違いない。 そこに正解は無いが、この小説がわたしの、ひとつの道標になる。
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途中で読むのをやめようかと思ったが だんだん良くなって最後まで一気に読んだ。人工授精、精子提供 貧乏で苦労した子、虐待を受けた子。生まれてきたくなかった子。子供だけが欲しいと思う女の人。 よく考えると世の中はどんどん神の領域を侵してきた。悩んでいるのはわかるけど自然でない受精が当...
途中で読むのをやめようかと思ったが だんだん良くなって最後まで一気に読んだ。人工授精、精子提供 貧乏で苦労した子、虐待を受けた子。生まれてきたくなかった子。子供だけが欲しいと思う女の人。 よく考えると世の中はどんどん神の領域を侵してきた。悩んでいるのはわかるけど自然でない受精が当たり前になってきている。卵子凍結も。それがこの先どこまで進んで どこまで許されて どこまでか当たり前になるのかとら考えたら少し怖い。
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大作。 精子提供を受けて子どもを持つことを希望し、考えていく夏子 感想を書くのがなかなか難しい 答えを見つけだすのが重要なのではなく、自分の意思で前進することが大事
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善百合子の言葉にはショックを受けた。 『自分の子どもを苦しませない唯一の方法は、その子を存在させないこと』 逢沢が本当の父をさがしているのは、『父に、僕を育ててくれた父に、ぼくの父はあなたなんだと言えなかったこと』
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まるで自分のことのように痛いくらい読むのが辛かった。しかし読み止めることもできず苦しい気持ちのまま一気読み。いろんな感情で気持ちぐしゃぐしゃになる。ただ不器用な生き様に希望を感じたりで、たくさんの気づきがあって大切な一冊になった。もっと早くに出会いたかった。
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離婚して10年以上がたち、いま「もうひとりこどもを産みたい」と思うようになった39歳のわたしが夏の終わりに読むには完璧な物語だった
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子どもを産むことを、こんな視点で考えることもできるんだなと思った。 最後の方の話がすきだった。 この話を映像で見たい。
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「全世界が認める至高の物語」 そんなにかな、って思いました。 子どもを作ることは、完全に親のエゴだと私も思います。それがいいとか悪いとかわかりません。 お話の終わり方、まあそうなるんだろうけど…なんか違う展開を期待していました。
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人それぞれの人生があって だから人それぞれの幸せがあるから、 色んな考え方があって当たり前だと思うが、 善百合子の自分が生まれてきたことを 肯定したら、生きていけないって言葉は 悲しかった。 自分の周りにこんなふうに思う人が いないことを願うばかり。
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