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檸檬先生 の商品レビュー

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71件のお客様レビュー

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2021/05/27
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珠川こおりが破裂させた檸檬は、こなごなになって私の胸に深々と突き刺さった。突き刺ささったかけらは棘となり鈍い痛みと共に残り続けるのだろう、私の中で。 共感覚を持つ8歳の少年と15歳の少女。 誰からも受け入れられず、存在さえ認められない二人。けれど、少年は少女のことを檸檬先生と呼び慕う。 檸檬先生は、少しだけオトナであるがゆえに、共感覚を飼いならす術を知っている。それを少年にと教えていく。 二人が自分たちにしかわからない世界、音を色で表現し、「絵」という形で作り上げていく、その過程に自分もそこに参加しているような気がしてくる。言葉で伝わるものはしょせん言葉でしかない。感じることを目で見える形にする、それでしか分かり合えないもどかしさも同時に体験している気がしてくる。文化祭での少年のプレゼン。この素晴らしさよ。 檸檬先生のおかげで少年と周りの壁が少しずつ低くなっていく。友だちができ共感覚も制御できるようになっていく。少年の成長を、その変化を、檸檬先生はどう思って見ていたのか。彼女の孤独を思う。 檸檬先生の高校進学を機に疎遠になった二人。そして十年後。 19歳と25歳で再会する二人。芸大に進学する少年、親の言うがままに進学し就職し、結婚まで仕切られていくであろう檸檬先生。そして冒頭の衝撃的な瞬間へとつながる。 檸檬先生は少年に何を託したのか。少年から何を得たかったのか。少年の目に何を焼き付けたかったのか。 会わなかった十年間。そこにどんな時間が流れていたのか、少年はもう知ることはない。 濃密で鮮やかな色に染められた一年間。空白で透明な十年間。少年はずっと後悔し続けるのだろう。答えの出せない問いを投げ続けるのだろう。届かない檸檬先生への思いを描き続けるのだろう。いつか、あの日の赤から檸檬色の光を見つけるまで。

Posted byブクログ