密やかな結晶 新装版 の商品レビュー
長濱ねるちゃんのエッセイを読んで、購入。「糸」ぶり2作目。 一週間という、十分すぎる時間をかけて読みました。 洋画を観ているかのような小川洋子さんの文体。 ページをめくる度に物語に傷をつけてしまわないか…と不安になるほどの繊細すぎる本作。 しばらくは、「言葉」がわたしにとって...
長濱ねるちゃんのエッセイを読んで、購入。「糸」ぶり2作目。 一週間という、十分すぎる時間をかけて読みました。 洋画を観ているかのような小川洋子さんの文体。 ページをめくる度に物語に傷をつけてしまわないか…と不安になるほどの繊細すぎる本作。 しばらくは、「言葉」がわたしにとって一番消滅してほしくないもの、と思いながら読んでいました。 でも毎日少しずつ読み進め、考えるうちに 「やさしくてあたたかくて安心できる、わたしがわたしでおさまることのできる場所」になりました。 (長くてまどろっこしいですね…) その場所のさす意味が具体的な場所(例えばお店とか)なのか、虚構の世界(本の中)なのか、ひとなのか、 少し目を閉じるだけでもポンポンと浮かんできます。 自分の都合でその場所に訪れ、癒してもらっているなんて図々しいことだけど 絶対に消滅させたくない、わたしの確かな結晶たちでした。
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存在と消失ってなんだろ…って考えてた そこにあっても認識できなかったら存在してるとはいえないのかもしれないし、そこになくても想いを馳せることができたら消失と言わなくてもいいのかもしれない
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物に対する記憶が消滅し、覚えてしまっている者は秘密警察に取り締まられる。 人のざわめきと空虚が描かれていて、失うことにより島全体が静けさを内包している。 言葉を失っても文字は残る。では自分がいなくなったら? 暖かく面倒見の良いおじいさんと3人で仲良く暮らして欲しかった。そもそもR氏は奥さんと子どもについては消滅したかのように反応が薄く見える。
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p.265、266 「消滅の度に記憶は消えてゆくものだと思ってるかもしれないけど、本当はそうじゃないんだ。ただ、光の届かない水の底を漂っているだけなんだ。だから、思い切って手を深く沈めれば、きっと何かが触れるはずだよ。」というR氏の言葉が響きました。エメラルド、香水、ラムネ、バラ... いろいろなものの存在が消えてしまう島で存在を覚えたままでいられる人は狩られてしまいます。小説家の“私”はそんな存在を覚えていられる人々の一人である担当編集のR氏を家にかくまいますが、“私”の家で見つからぬよう狭い部屋で暮らすことになり弱っていくR氏とお世話をする“私”の構図は物語終盤で遂に“私”の存在までもがなくなっていくにつれて逆転していきます。 存在を忘れる人々と忘れない人々の間にあるどうしても越えられない溝がもどかしくて悲しい。けれどもR氏の言葉は物語の枠を超えて、忘れてしまった幼少期の大切な思い出や感覚も失ったことを悲しまなくてもよく、思い出そうとすることに意味があるのではないかと思わせてくれました。
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抗いようのない力と、奪われること。 この2つを例えたのがこの島の「消滅」である。 大きな流れのなかで抗い踏みとどまるのか、そのまま流れに身を任せるのか。 小説の消滅後、それを燃やす火を食い止めようとしていた女性がいたが、そう言うことだったんだなあ…。 確かに記憶狩り、連行の様子などはナチスを思い起こさせる。 食べ物が枯渇していく様子が切ない。 記憶が消えていく私と、どうにかそれを留めておこうとするR氏の、もう埋まりようのない隔たりがひしひしと感じられた。 暗示しているものに気づくのが遅れたので、それを踏まえて読むと受け取り方も大分違うだろう。 再読しよう。
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とても面白かったです。 SF的な要素ももちろん面白かったですが、小川洋子さんの、今まで聞いたことないけどとてもしっくりくる文章表現みたいなものに感動しました。 まだ深くは分からない文章もあったのでまた読み直したいと思います。 好きなキャラクターはフェリーのおじいさんです。
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わたしは無意識のうちに、ハッピーエンドを望んでいた。主人公であるわたしの、おじいさんの、R氏の、そしてR氏の家族の、島全体の。でもそうではなかった。きっとR氏の待っていた世界はこんなものではない。読み終えた瞬間、悲しいという感情に埋め尽くされた。 わたしたちは言葉と意味を持って物...
わたしは無意識のうちに、ハッピーエンドを望んでいた。主人公であるわたしの、おじいさんの、R氏の、そしてR氏の家族の、島全体の。でもそうではなかった。きっとR氏の待っていた世界はこんなものではない。読み終えた瞬間、悲しいという感情に埋め尽くされた。 わたしたちは言葉と意味を持って物の輪郭を理解して、そのものの印象や性質で説明されても、意外に何にも思い起こすことができない。言葉は便利なようで大事なものを隠す。言葉を感性を大事にしたい、切実にそう思った。
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最近やっと「小説」ではなく「小川洋子さん」の楽しみ方の入り口に立てた気がします。まだスタートラインの真上ぐらいでしょうが。 基本、食は「不味くなければ何でもOK」本は「つまらなくなければ何でもOK」のように拘りを探し歩くなんて冒険みたいなことは面倒くさい…(美味しい、面白いに越したことはないけれど)派だったんですが、これからは「あ、小川洋子さんの」とついつい手が伸びるだろうな、というそんな感じです。はまったんだと思います。とは言え読み終わったのはまだ2冊。2冊だけです。 遠すぎず近すぎず、家の真隣にあるけれど自分の家が昼間なら隣の家は夜の中にあるような世界観。 私いま、その風景を見てる?と知らない内に本の中にいるような描写。 鼓動と息づかいと挙動が見えてしまう登場人物。 容量少なめな(自分の)頭がパンクする情報量はないのに、密度が濃い。濃密。「本の形した世界じゃん」なんて本当に今更なことを思いました。 感想を書くのが得意ではないので、言葉に出来そうな幾つかだけ。 いなくなった母、乾一家、トラックの幌に押し込まれて連れ去られた人たち、秘密警察、島の消滅。 彼らがどうなったのか、秘密警察の正体は、なんて言うものが出るのかと思ったのですが、最後まで明言されることはありませんでした。でもよく考えれば、これはヒーローものではなくある1人の日常なので当然でした。いなくなった人を探すため秘密警察の庁舎に忍び込むとか、消滅の理由を探るとか、そんなの一般人はやらないのです。ただ粛々と日々起こることに手を焼いて何とかかんとか生きていく、日常の風景でした。 最後に声が残った者と遠ざかる者、最初に声を失った者と近付く者。ああ、最後の最後まで全く違う遠いもののようで近い、それでもひとつながりではない距離感に読後ふと気付きました。まるで現実とこの島との距離みたいだ、と、それを小説の中に落とし込む小川洋子さんとんでもないな、と思いました。 解説は普段ほとんど読まないのですが、読後の流れのまま読んでしまいました。別に「良い」という事前情報があった訳でも何でもないんですが。 「人間があらゆるものを奪われたとしても、大事な手のひらに握りしめた、他の誰にも見せる必要のない、ひとかけらの結晶があつまって、それは何者にも奪えない」 この言葉が印象的でした。
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読後感が最高、好き。 消滅の原理は最後まで不明だが、小説の中の小説でも、本編でも、"声"が最も自由を握る存在であり、その声も無くなり、島の人々が薄々恐れていた人間の消失が成立してしまった。 この後の世界は、隠し部屋から出ていったR氏は、どんな世界を見ることになるのだろうか? おじいさんはやっぱり死んでしまった…
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最初から最後まで、ずっと息を潜めて読みました。静かな、でも惹きつけられる物語。消滅は悲しいことのはずなのに、悲壮さを感じさせない言葉の連なり。 主人公と、R氏やおじいさんとのやりとりは、時に温かく、でも切なくて、美しく。 小川洋子さんの物語は、読んだあと不思議と心が落ち着きます。...
最初から最後まで、ずっと息を潜めて読みました。静かな、でも惹きつけられる物語。消滅は悲しいことのはずなのに、悲壮さを感じさせない言葉の連なり。 主人公と、R氏やおじいさんとのやりとりは、時に温かく、でも切なくて、美しく。 小川洋子さんの物語は、読んだあと不思議と心が落ち着きます。
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