密やかな結晶 新装版 の商品レビュー
この小説と、作中の小説が付かず離れず進むところが、夢の中のような浮遊感を感じた。絶望的な結末に感じられるのに、ある種の爽快感のようなものも(あきらめ?)感じたのは主人公の存在が思い出として生き続けていくことになったからなのか?
Posted by
絶対に文庫で読んでほしい。解説があったから救われた。 とても恐ろしい話だった。 ミステリーではなく、作者からの警告文である。 人に流され、世に流され、大切なことも手放してしまうならば、どんな結末が待っているだろうか、というファンタジーだ。 どんどん大切なものが失われていく物語の...
絶対に文庫で読んでほしい。解説があったから救われた。 とても恐ろしい話だった。 ミステリーではなく、作者からの警告文である。 人に流され、世に流され、大切なことも手放してしまうならば、どんな結末が待っているだろうか、というファンタジーだ。 どんどん大切なものが失われていく物語の展開を、どう受け止めたらいいかわからない。 少し変わった話やを世間を批判したような物語を読みたいときにすすめたい。
Posted by
静かでひんやりした物語。 全体的に灰色と薄いブルーが混ざったような色合いの世界観だなと感じました。 派手な騒ぎはないんだけど、少しずつ周りのモノが失われていく様子がとても寂しい。 いや、モノじゃなくてモノと一緒に思い出や感情も消えてしまう事が1番怖くて苦しい。 私は最後にも光...
静かでひんやりした物語。 全体的に灰色と薄いブルーが混ざったような色合いの世界観だなと感じました。 派手な騒ぎはないんだけど、少しずつ周りのモノが失われていく様子がとても寂しい。 いや、モノじゃなくてモノと一緒に思い出や感情も消えてしまう事が1番怖くて苦しい。 私は最後にも光を感じられなくて、ただただどんよりした気分だったのでもう一度読むのはちょっとしんどい。 ただ文章や言葉選びはとても好きだし、この世界観に浸るのは心地いいなと感じました。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
言葉のひとつひとつが美しく、慎ましやかだった。 小川洋子の文章って本当に砂糖水みたいに甘くて、透明で、ひとたび読んでしまえば、もっと、もっとと読みたくなって止まらなくなる。『密やかな結晶』も、暗くて救いようのない話だけど、ページをめくる手が止まることはなかった。 ものがどんどん「消滅」していってしまう島という設定は、なかなか想像するのが難しかった。「消滅」なんて、私達の世界では体験しようもできないことだから。だけど、さすがの文章力で、島の人々の感覚が書き表されていて、なんとなくは想像することができた。 「消滅」することは悲しいことなのに、それが多数派であると、「消滅」せず、記憶を持ったままであることのほうが残念で悲しく感じてしまうことが印象的だった。自分だけが何も失わず、記憶を保持し続ける世界はどのように感じるだろう。 物語の所々で、懐かしいような気持ちにさせられた。そして、私もいつのまにか知らないうちに、なにか大切な記憶を失ってしまっているのではないかと思った。大人に爪切ってもらったことみたいな、些細な幼少期の記憶を忘れてしまっているのではないか。 だけど、R氏の言うように、幸い私達の世界には「消滅」はなくて、一度忘れたとしてもそれは完全に失くならない。少し水を撒けば、小さな芽が出てくるように記憶は蘇る。だから、そんなふうにたまには心の深いところに眠った記憶に水をやって、大切な思い出を抱きしめたい。 それと、『薬指の標本』を読んだときにも思ったけど、小川洋子の、身体の描写は本当に細かくて甘美でうっとりとする。おじいさんの手や、「消滅」してしまった腕や足を容易く想像できる。そんなところもこの本の魅力の一つだと思う。 最後は「わたし」もどんどんと「消滅」してしまい、隠れ部屋に保管している"品物"のように、「わたし」を隠れ部屋に保管してしまうところが印象深かった。 梯子を上っていったR氏は、このあとどうするのだろう。彼と同じように、秘密警察に捕まらずに身を隠し通すことができた人たちがいたら、彼らと新しく世界をつくっていくのかな。どうにか、彼が幸せに暮らせたらいいな。最後は涙が溢れました。 ところで、『密やかな結晶』はハリウッド映画化されるそうで、どんな具合に完成するのかはわからないけど、とても楽しみです!
Posted by
繊細な美しい話ではあったが、あまりに暗く絶望感の漂う話でもあった。ただひたすらに失い続けるお話。 正直なところ、気持ちが滅入ってしまった。今読むべきではなかったかな、、
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
消滅のある島での出来事。 小川洋子ワールドという感じ、設定に入り込めないとぜんぜん意味がわからないと思う。静かな世界観。 どう終わるのかと思ったら体の消滅から、目、最後に声。そして自分が消えて、R氏が解き放たれる。 言葉の美しさとか、心の静かな炎を感じるよね、小川洋子の小説は。 ここで好きな綺麗な言葉たちを。 p55 重苦しい地下室の中で、彼の手袋だけ平和な匂いがした。 p56 そう言い終わると、奥さんの目から涙がこぼれた。でも彼女は泣いているわけではなかった。涙を流しているのに泣いていないなんて、おかしな話だけれど、わたしにはそう思えた。彼女はただ、泣くこともできないくらい深く哀しんで、透明な体液を一粒あふれさせただけだ。 p390 わたしとR氏を包んでいる世界の材質は、あまりにも違いすぎる。庭に転がっている石ころを、糊で折紙にくっつけようとしているようなものだ。 1月から読んでたから3ヶ月もかかったな。 一気読みするものじゃないんだよなあ、小川洋子。 結晶の意味は、誰にでも、小さな誰にも奪うことのできない結晶がある、というニュアンスらしい。あとがきより。
Posted by
小川洋子さんのユニークで素敵な世界観が詰まっている本! この島に生きる人々はある朝「何か」を失くしてしまう。 例えば香水、宝石、鳥…それに纏わる思い出や、愛情や感情が全て薄れてゆき、数日もたてば忘れてしまったことも忘れてしまう。 そんな「消滅」が少しずつ進み、人々の心の空白が増...
小川洋子さんのユニークで素敵な世界観が詰まっている本! この島に生きる人々はある朝「何か」を失くしてしまう。 例えば香水、宝石、鳥…それに纏わる思い出や、愛情や感情が全て薄れてゆき、数日もたてば忘れてしまったことも忘れてしまう。 そんな「消滅」が少しずつ進み、人々の心の空白が増えていく世界の話。 小川洋子さんの風味豊かな表現がゆっくり楽しめてとてもよかった。 登場人物の感性が素敵だな〜。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
美しい文章で描かれる、静かで淡々とした「消滅」の物語。 こちらが期待するようなどんでん返しは起こらず、いつまでも降り止まない雪とともに、ただ静かに物事が進んでいく。 現在、自分自身が育児と仕事に追われ、自分が大切にしてきたものを後回しにするしかない状況下にいるため、どこか共感を覚える部分もあった。 大切だったものを忘れてしまっても、毎日は進み、「どうにかやっていく」ことができるのだ。 しかし読んでいるうちに、『なぜこんなに従順に「消滅」を受け入れてしまうんだろう?なぜ抵抗しないんだろう?』とモヤモヤした気持ちにもなる。 けれど、そういう思いを抱かせることも狙いなのかもしれない、と気付く。 声を上げなければ、権力を持った者にどんどん奪われてしまう……そういうことはいまこの瞬間も身の回りで起こっているのでは?と。 読み進めていくうちに、自分の身体のあちこちがじわじわと重くなっていく感覚を覚えた。 同じように自由を奪われていく劇中小説が示唆的だった。 「わたし」が消えてしまった後、R氏は外の世界に出て行った。 従順な人々が「消滅」した後、他にもR氏のような記憶を持った人々が外に出ただろうが、その後の「島」はいったいどうなるんだろうか。
Posted by
不倫関係にモヤりとしつつも、儚く切ない結末が好みでした。 小川洋子さんの書く男性の穏やかな話し方がとても好きです。 表現があたたかくて文章に品があり、読んだあとに残るもの寂しさも含めて、好きな一冊。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ある日気がつけば、何かが失われてしまう島。 それが何に使われていたのか、どんな価値があったのか、思い出すら失われる。それを覚えている人々は犯罪者扱いされ、連れ去られる。 組織の人間については、ミヒャエル・エンデの『モモ』における時間泥棒も思わせたし、解説のとおり、ナチスのゲシュタポも連想させた。 本来なら、匿っているR氏が希望の光にもなりそうなのに、主人公は結局忘れる側でしかなく、どんな希望を抱くこともない。R氏と親密な関係であるはずなのに、心の距離はどこまでも埋まらない。 忘れない、失わない人々を主観とした方が、きっと物語は劇的になるだろうにそうはしない。 いかにも作者らしい、淡々とした虚ろな物語だ。読み終わったあとに覚える、埋まりそうにない心の隙間が味わい深かった。
Posted by