海をあげる の商品レビュー
本土に出るには飛行機に乗らないといけなかったり、好きなアーティストのグッズを買うのに高い送料を払ったり、本土の人と明らかに経験できることが違ったりで、正直沖縄で生まれ育ったことに対してそこまでいいなと思ったことはなかった。 だけどこの本を読んで、沖縄に生まれたというアイデンティテ...
本土に出るには飛行機に乗らないといけなかったり、好きなアーティストのグッズを買うのに高い送料を払ったり、本土の人と明らかに経験できることが違ったりで、正直沖縄で生まれ育ったことに対してそこまでいいなと思ったことはなかった。 だけどこの本を読んで、沖縄に生まれたというアイデンティティを大切にするべきだと思ったし、せっかく沖縄に生まれたんだから地元のことをより知ろうと思えた。
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上間陽子(1972年~)氏は、沖縄県コザ市生まれ、東京都立大学博士課程退学後、未成年少女たちの支援と調査に携わり、2015年からは引き続き沖縄県で、風俗調査、沖縄階層調査、若年出産女性調査等を続ける。琉球大学教育学部研究科教授。本書『海をあげる』で、「Yahoo!ニュース/本屋大...
上間陽子(1972年~)氏は、沖縄県コザ市生まれ、東京都立大学博士課程退学後、未成年少女たちの支援と調査に携わり、2015年からは引き続き沖縄県で、風俗調査、沖縄階層調査、若年出産女性調査等を続ける。琉球大学教育学部研究科教授。本書『海をあげる』で、「Yahoo!ニュース/本屋大賞ノンフィクション本大賞」(2021年)、「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」(2021年)を受賞。 本書は、「webちくま」に2019年4月~2020年3月に連載されたものを中心に、「新潮」への掲載作と書きおろしを加えた、12編のエッセイをまとめたもの(一部加筆修正)である。 私はノンフィクション物を好んで読み、本書も発刊当時に書店の平台に並んでいるのを目にはしつつ買いそびれ、今般新古書店で入手して読んでみた。 また、私は通常、最初に目次とあとがきを見て本の概要を掴むのだが(それでつまらなそうなら読まない)、本書については偶々それをすることなく、いきなり読み始めたところ、文体は平易で読み易いものの、内容はなかなか硬質なエッセイ集であった。 取り上げられるテーマは、若年出産をした女性や風俗業界で働く女性であり、著者本人が若いときに配偶者と友人に裏切られた経験であり。沖縄の米軍基地問題、とりわけ、普天間基地と辺野古の埋め立てについての現状であり、言わば、力を持たず、時に差別さえされるものの声なき声である。 著者は、「聞く耳を持つものの前でしか言葉は紡がれない」と書き、「言葉以前のうめき声や沈黙のなかで産まれた言葉は、受けとめる側にも時間がいる」とも書く。自らがそちら側にいた、いや、いる人だからこそ受け取ることができ、書くことができる言葉には重みがある。 そして、本書を他書と画する最大の特徴は、食べることが大好きな著者の娘・風花の存在である。著者が悩み、怒り、泣いている間にも、娘は一日一日成長していく。端々に登場するその様子が、ややもすれば重く暗くなりがちな全体に、希望の明かりを灯しているように思われる。 本質的にはかなり硬い内容といえる本書が本屋大賞を取ったというのは、少々驚きではあるが、それだけ多くの人々(特に若者)がエンパシーを感じたのだとすれば、我々の将来についても悲観的にばかりなる必要はないのかも知れない。 (2024年11月了)
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ほんとうに、これは読むことのバトンを渡したいと思う本だ。 沖縄で小さな娘の成長を見守りながら描かれたエッセイ、という形で届けられた、優れたノンフィクション。 柔らかな感受性の中に、きちんとした芯が感じられて、言葉がすーっと入ってくる。 生活と人柄のぬくもりが伝わる、いいエッセイだ...
ほんとうに、これは読むことのバトンを渡したいと思う本だ。 沖縄で小さな娘の成長を見守りながら描かれたエッセイ、という形で届けられた、優れたノンフィクション。 柔らかな感受性の中に、きちんとした芯が感じられて、言葉がすーっと入ってくる。 生活と人柄のぬくもりが伝わる、いいエッセイだなと思う。 上間さんが抱えた傷、娘である風花ちゃんへの愛情は、舞台が沖縄でなくても普遍的に共感できる。 でも、沖縄に住むからこそ伝えたい現実があるのだと知るほど、深く言葉が刺さってくる。 沖縄での出口が見えない問題に押しつぶされそうな呻き声が散りばめられている。 差し出された海を、土砂で濁った海を拒絶するわけにはいかない。 耳を塞ぐわけにはいかない。 ここからは私見。 沖縄については、「ファクト」を知ってほしいと思う。 基地建設のための埋め立て工事が、資金投下しても見通しが立たない難事業であること。 米軍側が、軍事的には利用価値が低い政治の妥協点だとみなしていること。 結局、普天間の解決につながってないこと。 これらは「隠された不都合な真実」なんかじゃない。全国紙にたびたび掲載された、誰でも接するはずのオープンな情報だ。 基地の県内移設を決めたときの橋本龍太郎首相や沖縄県内の関係者の方々には苦渋の思いがあったと、想像する。 問題は、いま現実としてここまで継続が難しい案件をなぜ中止できないかということ。 いったん、始めてしまったことを止められないことが、政治でも身の回りでも、余りに多いのではないか。 すでに決まったことに反対するな、という思考停止した声を聞くたびに、情けなく思う。 辺野古が唯一の解決策だと繰り返す政府の思う壺なのが悔しい。 いや、いつだって最適な答えを探していくことが一番大事だろう。
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真っ直ぐに響いてくる言葉に胸を突き刺される想いだった。沖縄が凝縮されている本。穏やかな救いもあるけど、自分の能天気さ無自覚さを突きつけられもした。
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今度沖縄に旅行に久しぶりに行こうと思い、それに先立ち本を何冊か読むことにする。沖縄県立図書館の「沖縄を知るための10冊」(https://opl.okinawan-migration.com/books_okinawa/)というサイトがとても良くて、その中から何冊かピックアップしつつ、友人にも何かおすすめがあればと聞いてみたところ、本作があげられたので手に取る。 面白かったのであっという間に読んでしまったのだが、同時に時々身を切られるような言葉に息を呑み、私に泣く資格?があるとは思えないのにと思いながら涙が出てしまうところがあった、そんな本だった。これは私も間違いなく人に勧める一冊となる。 ハンガーストライキのことなど知らず、基地問題もいつも当事者意識を持たないまま生きているなと改めて突きつけられる。そういった沖縄全体のともいうべきイシューと、上間さんが職業として向き合っているイシュー、個人として向き合ってる家族のこと・娘を育てることについてのイシュー、と色々なレイヤーのものが混ざっていて読みやすかったのはある。個人的な話も混ぜなければ、読むのを離脱する人も多くいるだろうから… それでも最後の話であり、表題にもなっている「海をあげる」というのがどういう意味なのか明かされた時は、本当にきつかった。自分自身に対して。 …沖縄のひとたちが、何度やめてと頼んでも、青い海に今日も土砂がいれられる。これが差別でなくてなんなんだろう?差別をやめる責任は、差別される側ではなく差別する側のほうにある。…そして私は目を閉じる。それから、土砂が豆乳される前の、生き生きと生き物が宿るコックリとした、あの青の海のことを考える。 ここは海だ。青い海だ。珊瑚礁のなかで、色とりどりの魚やカメが行き交う交差点、ひょっとしたらまだどこかに人魚も潜んでいる。 私は静かな部屋でこれを読んでいるあなたにあげる。私は電車でこれを読んでいるあなたにあげる。私は川のほとりでこれを読んでいるあなたにあげる。 この海を一人で抱えることはもうできない。だからあなたに、海をあげる。
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私にも筆者と同じ年頃の娘がいる。 最近、歴史上の人物の伝記を短くまとめた本をよく読み聞かせてほしいと持ってくる。 その中で少しずつ歴史に興味を持つようになった娘に質問をされる。 今も戦争をしている国はあるの? 私は、日本の戦争は終わったけれど、まだ戦争をしている国はあるよと答えた...
私にも筆者と同じ年頃の娘がいる。 最近、歴史上の人物の伝記を短くまとめた本をよく読み聞かせてほしいと持ってくる。 その中で少しずつ歴史に興味を持つようになった娘に質問をされる。 今も戦争をしている国はあるの? 私は、日本の戦争は終わったけれど、まだ戦争をしている国はあるよと答えた。 でも、この本を読んで、ああ、まだ日本の戦争は終わっていなかったんだと思った。 あんなにも美しい海を眺めながら、汚染された水に、軍機の爆音に悩まされている沖縄の人たちがいると知った。 手渡された海はあまりにも重い。
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ノンフィクション大賞受賞作品だったのですね。でも本書はエッセイですよね。ノンフィクションといえば確かに内容的にもそう言えますがエッセイ要素のほうが大きい。 たくさんのレビューがすでにあるので気後れしますがみなさんとはちょっとズレたところで少し感想を。 本書通読でまず思ったのは、食べられることが生きる力であるということ。それは私自身がいつも思っていることでもありますが本書を読んで改めて痛感。 まず最初の章は著者自身がご飯が食べられなくなった話から始まります。 そしてその後の章では娘さんや調査で関わった人たちや母、祖母などの話が出てきますが、著書が娘さんの食欲に気持ちを支えられていると感じられる箇所が随所に出てきます。 本書の中でもおばあちゃんのことを書かれた「空に駆ける」が一番好きでしたが、その中でも手術したあとのおばあちゃんがご飯を食べなくなり眠れなくなってぼんやりするようになった話が出てきます。その後対策を講じた著者の母が介護計画を立て一緒にご飯を食べるようにしたらたくさん食べられるようになり眠れるようにもなったとのこと。 きちんと食べられること、人と関わることの大切さをつくづく感じます。 娘さんのキャラクターが本書の力強さ、清涼剤にもなっていて読んでいるこちらも力をもらえます。それにしても「おせんべいがもらえるから誘拐される」には大笑いしてしまいました。いや、親御さんにしたら笑い事には済まされないとはわかるのですが、子供ってすごいなと素直に思わされるエピソードでした。 沖縄に住まない人間にとって沖縄の真実についての無知さ加減には埋めがたい断絶があるのだなと理解しました。 「富士五湖」や「湘南の海」に土砂を入れられるといえば吐き気を催すような気持ちは伝わるだろうか?という著者の言葉には怒りはもちろん感じるけれど伝わらなさをもどかしく感じる悲しみのようなものも感じました。 生活の日々の中で感じている、そこに住む人にとって黙らざるを得ない真実というものは、他所に住む人間にこうして伝えられても血肉として体感するようにはやはり理解はできないことだと思います。こういうと冷たく感じられるかもしれないけど冷たいかそうでないかではなくそれは現実だと思います。 けれどそういう中から「本当には理解はできないと思うけれど知らないことにはしない、知ろうとする努力はしていく」こと、「今は黙るしかなくても上げられる声は上げていかなくてはいけない」ということを、他所に住む人間として頭に置いてこれからはしていかなくてはならないだろうと思いました。 そう思ったのはこれを読んだ私たちは著者から「海をもらった」からでしょう。
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本屋大賞2021 ノンフィクション本大賞作品。 まず感じたのが、これってノンフィクションなの?エッセイじゃないの? タイトルや受賞スピーチから沖縄の基地問題に関する話しなのかと思ったが、それだけでなく筆者が関わっている様々な種類の社会問題について書かれていた。 筆者自身の家族や娘...
本屋大賞2021 ノンフィクション本大賞作品。 まず感じたのが、これってノンフィクションなの?エッセイじゃないの? タイトルや受賞スピーチから沖縄の基地問題に関する話しなのかと思ったが、それだけでなく筆者が関わっている様々な種類の社会問題について書かれていた。 筆者自身の家族や娘の話しなどプライベートなことから、若年出産の問題で関わる若者たち、大学の教え子とのやりとりなど話題は多岐にわたる。 文章自体は平易で読みやすい一方、内容は濃い。 でもさくさく読めて、数時間で一気に読み切ってしまった。 ただ、色々な問題がどれも途中までで終わるというか、問題が投げかけられてハイおしまい。 しんどいまま終わるので、こちらの精神が安定しているときに読まないと受け止めきれなくてこちらがしんどくなってしまう。 他人事じゃない、一人ひとりの問題だから目を背けず考えろっていう、それこそが筆者の狙い、読み手への問いかけなのかもしれないけど。 彼女自身の思いを全て詰め込んだ一冊なんだろうが、もっと一つひとつの問題にしっかり向き合いたいというか、分からないままだったり取り残されている感じがしたりで、宙ぶらりんなところも。 あとがきを読み誰かに伝えたかったという筆者の強い思いを感じ、知ることができただけでも、それで筆者が救われるなら、私がこの本を手に取った意味が少しはあったのかなとは思えた。
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ブクログのおすすめにあり気になったので読んでみた。 沖縄出身で沖縄に住む著者が描くエッセイ。夫が自分の友人と浮気していた話、娘の成長についての話、普天間や辺野古などの基地の話、ハンストをする青年の話、虐待や風俗で働く若い女性たちの話、彼女を風俗で働かせていたホストの話など。 ...
ブクログのおすすめにあり気になったので読んでみた。 沖縄出身で沖縄に住む著者が描くエッセイ。夫が自分の友人と浮気していた話、娘の成長についての話、普天間や辺野古などの基地の話、ハンストをする青年の話、虐待や風俗で働く若い女性たちの話、彼女を風俗で働かせていたホストの話など。 正直、話題が色々ありすぎて、何かを伝えるための事前調査の記録を読んでいるようだった。 ただ、これを読むまで、恥ずかしながら、沖縄の米軍基地問題について深く考えたことがなかったことに気付いた。ひめゆりの塔など平和について過去を悼むことはあれど、現在の沖縄で何が行われているのか知ろうとしてこなかった。寧ろ、基地ができるのが自分に関係のない場所で良かった、このままどこか遠い知らない所でなんとか上手くやってくれ、とまで思っていた。本当は沖縄はどこか知らない遠い所ではないし、そこで穏やかに生活することを奪われている人がいて、美しい海は埋め立てられている。米兵による悲惨なレイプ事件が誰かの生活のすぐそばで起きている。それらの問題を見ないふり、聞こえないふりをし、想像力が欠如していた自分の浅はかさ、幼稚さに気付かされた。基地問題をはじめ、もっと沖縄についての関心を持ち、平和のために、日本のために何をすべきなのかを今一度考え直すきっかけをもらえた。
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何気なく手にとって読み始めたが、心に突き刺さるような本だった。人に言えないような家庭内での辛い生い立ちを背負って、必死に生きる若者たち。 平和を維持するため沖縄に負担を押し付けて、知らんぷりする本土の人間たち。 ところどころに挿入されている、著者の娘の風花ちゃんとのやりとりが微笑...
何気なく手にとって読み始めたが、心に突き刺さるような本だった。人に言えないような家庭内での辛い生い立ちを背負って、必死に生きる若者たち。 平和を維持するため沖縄に負担を押し付けて、知らんぷりする本土の人間たち。 ところどころに挿入されている、著者の娘の風花ちゃんとのやりとりが微笑ましい。 もっともっとこの著者の本を読んでみたい。
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