灯台からの響き の商品レビュー
主人公(牧野康平)は、高校を中退し家業の中華そば屋の跡継ぎをしていたところ近所に住む幼馴染のカンちゃん(倉木寛治)から衝撃的なことを言われた。それは『お前と話してるとおもしろくなくて、腹がたってくるんだ。お前が知っているのはラーメンのことだけなんだ。じゃあ職人と呼ばれる職業の人...
主人公(牧野康平)は、高校を中退し家業の中華そば屋の跡継ぎをしていたところ近所に住む幼馴染のカンちゃん(倉木寛治)から衝撃的なことを言われた。それは『お前と話してるとおもしろくなくて、腹がたってくるんだ。お前が知っているのはラーメンのことだけなんだ。じゃあ職人と呼ばれる職業の人間はみんなおもしろくないのか、そうじゃないよ。牧野康平という人間がおもしろくないんだ。それはなぁ、お前に『雑学』てものがみについてないからさ。(以下省略)』 そのカンちゃんは、就職先の転勤で大阪へ行ってしまった。 「牧野康平という人間がおもしろくない」と言われて気分が良くないが、どうしていいのかわからない。ある日、店の常連客(清瀬五郎・元高校の数学教師)に、本を読みたいのだが、なにを読めばいいのかわからないと言った。でも、ちゃんとした本を読みたい、と。清瀬から紹介された何冊かの本の中に、森鴎外の『渋江抽斎』があった。実在の人物で江戸時代の学者、周りにいた人々の履歴等が書かれている史伝がおもしろくない。(宮本輝さんの愛読書)。 何回その本を放り出そうとしたかしれない。以下抜粋『だが最後の数ページにさしかかったとき、康平は、一人の人間が生まれてから死ぬまでには、これほど多くの他者の無償の愛情や労苦や運命までもがかかわっているのかと、粛然と身をただすようになっていた』。宮本先生の「灯台からの響き」のメインテーマはそのことであろうと思う。 康平は、妻(蘭子)が亡くなって二年、彼の書斎で本に挟んでいた一枚の灯台の絵が描かれた葉書が見つかったところから物語が始まる。宛名は蘭子で、三十年前に届いていた。差出人は、「小坂真砂雄」と書いていた。当時、蘭子に尋ねてみても知らない人だという。蘭子は見知らぬ相手に返事を書いたが、宛先不明で戻ってくることはなかった。 蘭子との四十年の夫婦関係は充実していた。蘭子には何の不満もない。娘一人、息子二人を立派に育て上げ大学にまで行かせたのだ。しかも親父から引継いだ店の手伝いは妻なくしては語れない。 一枚の絵葉書がきっかけで、灯台に興味を持った康平は、亡き妻の過去を追い地方の灯台巡りの旅に出る。幾多の事情で閉店していた中華そば屋を再開店する障壁はあったものの実現するまでの過程で、いくつもの小さな幸福を感じた。そして納得できる言葉が随所に輝いていた。 実におもしろい。
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板橋の商店街で祖父の代から営んでいる中華そば屋「まきの」の店主・康平は、2年前突然妻に先立たれて以来、店を閉め、何をする気も起きない日々を過ごしていた。ある日、本の間から見つかった一枚の古い葉書。それは30年前ある大学生から妻宛に送られてきたもので、そこに描かれていたのはどこかの...
板橋の商店街で祖父の代から営んでいる中華そば屋「まきの」の店主・康平は、2年前突然妻に先立たれて以来、店を閉め、何をする気も起きない日々を過ごしていた。ある日、本の間から見つかった一枚の古い葉書。それは30年前ある大学生から妻宛に送られてきたもので、そこに描かれていたのはどこかの海岸線と灯台と思われる線画だった。 亡き妻は何故、その葉書を本に挟んでいたのか?灯台に惹かれた康平は、一人、灯台を巡る旅に出る……。 人と人との繋がり、人生の機微、親子の情、ささやかな日常にこそ感じられる幸せなどを描かせたらピカイチの輝さんらしい物語。いい人ばかりが登場する輝さん作品だけに、読んでいる間の安心感は盤石。 欲を言うなら、上下巻にしてもいいから妻・蘭子の生前をもう少し描いて人物造形して欲しかったのと、カンちゃんの隠し子・新之介と康平たちが急に仲良くなりすぎた感があるので、その辺をもっと丁寧に描いて欲しかった(←要はもっと読んでいたかった)かな〜。 全国の灯台がたくさん出てくるので、あそこにもここにも行きたくなります。
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中華そば店主の康平の亡くなった妻が残した1枚のハガキから物語が始まる。 そのハガキには灯台の絵が書かれている。 中華そば店のある商店街の人々の人生模様も絡めて、最後の最後に明かされる灯台を舞台にした慈愛。 灯台が船の行き先を照らすとすれば、船を人生に例えると人生を照らすのは人の慈...
中華そば店主の康平の亡くなった妻が残した1枚のハガキから物語が始まる。 そのハガキには灯台の絵が書かれている。 中華そば店のある商店街の人々の人生模様も絡めて、最後の最後に明かされる灯台を舞台にした慈愛。 灯台が船の行き先を照らすとすれば、船を人生に例えると人生を照らすのは人の慈愛と思わせる小説でした。 印象に残った文章 ⒈ 優れた書物を読みつづける以外に人間が成長する方法はないぞ。 ⒉ 灯台も、あと三、四年で役目を終えるんじゃないかって言われています。 ⒊ 宇宙の一瞬は、地球では百年。 ⒋ 離れたところから見るのがいちばんだって言ったろ? ⒌ 見ろ。これが人間であり人生だと灯台は語りかけているが、誰もそれに気づかない。
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牧野康平、62歳、東京板橋でラーメン屋を経営するがずっと一緒にいた妻蘭子に先立たれやる気を失っていた・・・本の中からこぼれ落ちたのは30年以上前の葉書。妻あてのもので、大学生小坂が灯台巡りをしたとある。しかし妻は小坂など知らないと言っていた・・・近所に住む友達カンちゃんの突然死。...
牧野康平、62歳、東京板橋でラーメン屋を経営するがずっと一緒にいた妻蘭子に先立たれやる気を失っていた・・・本の中からこぼれ落ちたのは30年以上前の葉書。妻あてのもので、大学生小坂が灯台巡りをしたとある。しかし妻は小坂など知らないと言っていた・・・近所に住む友達カンちゃんの突然死。灯台を見ようと旅する康平に、何が待っているのか・・・ 読後放心状態に。もし輪廻転生というものが本当にあり、たまたま今は自分がニンゲンであるのだとすれば、ニンゲンで良かった、本当にそう思った。(最近物凄く嫌な事が立て続けであったけど全て霧散するほど) 全編に炸裂するは宮本輝節。基本的にニンゲンは良いものだというスタンス。嫌な奴は出て来るけれど、結局許せてしまう。我々が生きる小さな生活範囲でも、ギスギス怒れば、怒るのが当たり前の空間になるし、怒らなければ怒らなくてもいい空間になる。 言わば、読む「マインドフルネス」だったり、読む「瞑想」なのかも知れない。読後、全てが許せる気持ちになったから。 ※ネタバレ 蘭子は、出雲に住んでいたことを隠していた。当時小学生で近所に住んでいた小坂が大家から一万円札を盗んだのを言わず、蘭子が罪をかぶっていた。ラーメン屋のおばさんかと思っていたけれど、何と素晴らしい女性なのか。
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4.5 じ〜んわりと、 ほっこり優しい気持ちに満たされた 野に咲く 名も知らない花に美しさを感じるような… 突然襲ったくも膜下出血で妻・蘭子を喪った康平は、創業者の父の死後、妻と二人でその味守り通して来た中華そば屋「まきの」を閉め、ダラダラと読書三昧の日々を送っていた。 ...
4.5 じ〜んわりと、 ほっこり優しい気持ちに満たされた 野に咲く 名も知らない花に美しさを感じるような… 突然襲ったくも膜下出血で妻・蘭子を喪った康平は、創業者の父の死後、妻と二人でその味守り通して来た中華そば屋「まきの」を閉め、ダラダラと読書三昧の日々を送っていた。 そんなある日「神の歴史」という本から、 30年前、蘭子宛に小坂真砂男という大学生から届いた一枚の葉書が出てくる。 来春の大学卒業前に、灯台巡りの旅をしているという内容と、灯台のある海岸線と思しき地図が書かれていた。 当時、全く知らない人で覚えが無いと言い張った蘭子が、わざわざその旨を記し返信を書き、康平に投函させたので記憶に残っていたのだった。 その日の夕刻、幼馴染のトシオの営む惣菜屋で全国の灯台のカレンダーを見た康平は、一人灯台巡りの旅に出ようと思いつくが… つい先刻、行き掛けに雑談した幼馴染のカンちゃんが心筋梗塞で急逝してしまう。 彼によって誘われた書物の世界に身を委ねるうちに、灯台巡りの旅への思いは確かなものとなる。 手始めに房総半島の灯台を見て回った康平は、旅先で髪を切り、上京していた息子・賢策を誘い同行二人… 康平の中で何かが少しずつ変化してゆく。 車中、橋梁工学への転向と大学院進学を望んでいることを聞かされ、迷いや不安の中賢策の為に「まきの」の再会を決意するのだった。 そして…賢策から、例の葉書は蘭子が意図的に「神の歴史」に挟んでいたことを聞かされる… カンちゃんと外の女との間に出来ていた息子・新之助の存在 長男・雄太から聞かされた蘭子の新たな秘密… 出雲時代 そして次第に灯台巡りの旅は蘭子との人生を巡る旅へと変化して行く 果たして 蘭子の封印した真実とは… 百千万億那由他阿僧祇劫 地球の百年は宇宙の一瞬 ならば… 一瞬の中の永遠… ◯牧野康平…62才の主人公。 ◯牧野蘭子…康平の妻。 数々の謎を残し2年前に急逝。 ◯牧野朱美…康平の長女。 証券会社勤務。 ◯牧野雄太…康平の長男。 重機メーカー勤務。康平は店にかまけて父子の時間を持てなかったと思って負い目を感じているが…。蘭子の出雲時代を… ◯牧野賢策…康平の末っ子。 京都の大学で橋梁工学を学ぶ為、大学院進学を希望。 ◯山下トシオ…康平の幼馴染。惣菜屋の店主。康平は見縊っているが実は見識家。 折々に的確なアドバイスをくれる。 ◯倉木寛治…康平の幼馴染。 康平を読書虫へと誘った。 自宅ビルで急逝。 会社員時代に付き合っていた女・多岐川志穂が…。 ◯多岐川新之助…志穂の息子。18才で二人の子持ち。母への反発からグレていたが、康平・トシオのおかげで改心。例の葉書の場所探しに貢献。
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積読本の間にはさまれた1枚のハガキの謎を手がかりに、妻を亡くした60代の男が再生していく姿を描く。読み始める前はロード・ノベルかと思ったが全然違うし、ミステリーっぽい“ハガキの謎”も比重はさほど高くはない。特にメリハリがあるわけでもない初老の男の日常が描かれているだけなのに、40...
積読本の間にはさまれた1枚のハガキの謎を手がかりに、妻を亡くした60代の男が再生していく姿を描く。読み始める前はロード・ノベルかと思ったが全然違うし、ミステリーっぽい“ハガキの謎”も比重はさほど高くはない。特にメリハリがあるわけでもない初老の男の日常が描かれているだけなのに、400ページを飽きずに読ませてしまうのはさすがだなあ。読み終わっての結論。これは究極の恋愛小説である。
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うーん、読みにくかった。 良い物語だった思うんだけど、なんか人間関係が唐突すぎてイマイチのめり込めなかった。
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毎日少しずつ、慈しむように読み進めてきましたが、今日ついに読み終えてしまいました。 こうやってまた新たな作品に出会えたことを、僥倖と言わずになんと言おうか、という心境ですね。
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思いもしなかった結末に、 読了後も、感動にひたり、ぼーっと してしまっている。 ストーリーの中に生きる人たちは、 自分の人生にも現れたような気がする 特別ではない、けれど、 特別な人たち。 読み進めていくと、 忘れられない家族や友人、 それに 忘れてしまった人たちも含めて、 ...
思いもしなかった結末に、 読了後も、感動にひたり、ぼーっと してしまっている。 ストーリーの中に生きる人たちは、 自分の人生にも現れたような気がする 特別ではない、けれど、 特別な人たち。 読み進めていくと、 忘れられない家族や友人、 それに 忘れてしまった人たちも含めて、 自分はたくさんの人たちの 想いや愛情や友情の中で生きてきたことに 気づかされる。 感謝の思いが溢れてきて、 また誰かを守り、見つめて 生きていくのだ。生きていきたい。 そう思わされた。
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