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破局 の商品レビュー

3.2

241件のお客様レビュー

  1. 5つ

    14

  2. 4つ

    72

  3. 3つ

    90

  4. 2つ

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  5. 1つ

    7

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2020/08/13

人間には本能が備わっていて、理性はその後からついてくる。当たり前の事実は意外にも受け入れ難く、社会は2次元的で融通の効かない様相を呈している。その二つの乖離が人間を内側から破壊するのだけれど、他人から見るとその人間の行動や心理に理由があるような錯覚を抱く。理性を否定することは、文...

人間には本能が備わっていて、理性はその後からついてくる。当たり前の事実は意外にも受け入れ難く、社会は2次元的で融通の効かない様相を呈している。その二つの乖離が人間を内側から破壊するのだけれど、他人から見るとその人間の行動や心理に理由があるような錯覚を抱く。理性を否定することは、文明が許さないだろう。本能を否定することは、その肉体が許さないだろう。だから人間の精神はその狭間でただ「分からない」と呟きながら非存在的に存在していることしかできない。その無常感は昔からよく描かれているけれど、この作品は上手く時代性を捉えて更新させることができたのだろう。

Posted byブクログ

2020/08/12

常識と規範のあやつり人形のような主人公 (後半ネタバレあり) 前半に提示される主人公のキャラクターには、共感できる人と出来ない人がいる筈だ。 体を鍛え、規則正しく生活し、汗の匂いに気を使い、オナニーの後の痕跡はきちんと処理する。主人公は、常識から逸脱しないこと、をある種信条にし...

常識と規範のあやつり人形のような主人公 (後半ネタバレあり) 前半に提示される主人公のキャラクターには、共感できる人と出来ない人がいる筈だ。 体を鍛え、規則正しく生活し、汗の匂いに気を使い、オナニーの後の痕跡はきちんと処理する。主人公は、常識から逸脱しないこと、をある種信条にしており、それを人に押し付けこそしないものの、逸脱する人間に共感できない。 と言うより、主人公は、例えばお笑いに傾倒して酒で我を忘れるような友人に共感できないのでなく、できない事に気づいてすらいず、常識を破らない自分が正しいのであって世の中の不明瞭なこと、自分の想像に届かないようなグレーな部分について放任している。 その放任は徹底して何度も描かれる。それは分からないことだ、考えても仕方ない、というフレーズが繰り返される。 お笑いを目指す友人はこの主人公を引き立たせるキャラクターとして的確に描かれており、それで余計に、主人公を嫌いになる人が多いのではないかと推察する。ひとことで言えば、つまんなくてみみっちい男、である。 そんな魅力のない(と思うのが自然だと思うが、どうか?)主人公に対して、麻衣子と灯、という女性ふたりはある種の魔力を感じさせる。 灯のかくれんぼ、そして麻衣子の追いかけっこ、という魔術的な、シュールレアリステイックな、そしてホラーな描写は読みどころだ。 この作者の文体は簡潔、悪く言えば無味乾燥で、濡れ場のシーンさえ取り扱い説明書みたいに書いてしまうので前半はほんとにつまんなくてみみっちい小説だなあと思うが、読み進めると面白くなる。 (文体については作者自身の受賞インタビューで夏目漱石を模倣したと言っているが、いかにも高学歴の勉強できちゃう人が上手に真似した感があってそれが悪いわけでもなく効果的だと思った) そして、作者自身が1番読んで欲しいと言及した、灯との旅行のシーンから一気に、物語が破滅的になっていく。 ただ、主人公があんまりに無愛想なので私としてはもっと破滅して欲しかった。 灯に飲み物を買ってあげられず、その小さな出来事から不意に泣いてしまうシーンはとても印象的だった。 "私は灯に飲み物を買ってやれなかったことを、ひどく残念に思った。すると、突然涙があふれ、止まらなくなった。 なにやら、悲しくて仕方がなかった。しかし、彼女に飲み物を買ってやれなかったくらいで、成人した男が泣き出すのはおかしい。私は自動販売機の前でわけもわからず涙を流し続け、やがてひとつの仮説に辿りついた。それはもしかしたら私が、いつからなのかは見当もつかないけれど、ずっと前から悲しかったのではないかという仮説だ。だが、これも正しくないように思えた。私には灯がいた。灯がまだいなかったときは麻衣子がいたし、その前だって、アオイだとかミサキだとかユミコだとか、とにかく別の女がいて、みんな私によくしてくれた。その上、私は自分が稼いだわけではない金で私立のいい大学に通い、筋肉の鎧に覆われた健康な肉体を持っていた。悲しむ理由がなかった。悲しむ理由がないということはつまり、悲しくなどないということだ。" (とても良いシーンだけど、模範的でルールを疑わない公務員と言うのは私はどちらかというと嫌いで、日々話題になる政治家や官僚の汚職も嫌いなので個人的にはラストに人を殴って警察に取り巻かれる位で終わらずにもっと叩きのめされて欲しかった。ただ、そういう感情はこの小説を読むのに持ち込まない方が楽しめる) 昨今、マスク警察、自粛警察なるものがニュースになる程だが、そういう風に常識と規範の操り人形にされることがグロテスクに見え、シュールに見えてしまう。 コロナ時代のそういう事とも重なる現代的人なテーマの作品であり、選評にあったカミュとのダブりは私も感じた。カミュよりはもっとマイルドだとは思うが…。

Posted byブクログ

2020/08/12
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主人公が自販機の前で突然泣き出すシーン、あれが全てだと思った。 静と動をごく淡々と書いていて、感情やらどうでもいい興味やら食欲やら性欲やら、全部が一色のペンで平たい紙に描かれたようだった。 たしかに人間って、大事な局面で関係のないものに気が散って観察してしまったり、生活の中に溢れる疑問をそのままにしていたり、するよなぁ。 「写実主義」と呼ぶのはたぶん違うんだけど、脳みそのスクリーンをそのまま写しとったような小説だった。 果てしない虚無は自分の根源にあって、具体的に理由が「在る」から感じるわけではない。悲しいことに理由なんていらない。デフォルトが幸せだなんて誰が決めたんだ。 私は悲しいのを愉しむ方だけど、この物語の主人公はそれが本能的にものすごく嫌いらしい。頭で無いことにしていても、本質的に抱えている虚しさから逃げる事はできないみたいだ。

Posted byブクログ

2021/06/13
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

芥川賞! 主人公・陽介の中味がなさすぎて、感情の移入のしようがなく… とんでもないものを読んでしまった、という感想。 陽介は(おそらく)慶大生で公務員目指してるのだけど、こういう人が官僚になるのかな? 出来の良い頭、ラグビーで鍛えて健康な身体、親の言いつけを守る素直な心、自分を厳しく律することができる。女性にもモテる。でもとっても空っぽ。 ー 私はもともと、セックスをするのが好きだ。なぜなら、セックスをすると気持ちがいいからだ。 ー 悲しむ理由がないということはつまり、悲しくなどないということだ。 ヤバくないですか? 一人称でこんな浅いことが語られている小説って… 読み進めながら、違和感がどんどん大きくなり、不安になっていった。 だから、結末はタイトルどおり破局なんだけど、逆になんだかほっとした。 【2020.11.2追記】 作者の遠野遥さんは、ロックバンドBUCK-TICKのボーカル・櫻井敦司さんの息子だそうです。

Posted byブクログ

2020/08/09

装丁のインパクトに惹かれて購入しました。 陽介が抱いてる虚無みたいなものは私自身日常の中で感じることがあったので通ずるものがあり、理解することができました。ただ陽介の自分の考えを全て肯定して、弱みに向き合っていない姿が印象に残りました。作者さんはこの本を通して何を言いたかったのか...

装丁のインパクトに惹かれて購入しました。 陽介が抱いてる虚無みたいなものは私自身日常の中で感じることがあったので通ずるものがあり、理解することができました。ただ陽介の自分の考えを全て肯定して、弱みに向き合っていない姿が印象に残りました。作者さんはこの本を通して何を言いたかったのか、私にはまだ見えていません。多分人によって解釈が違うのであえて答えを提示してないのかなとも思いました。もう少し時間をあけて読み直したいです。

Posted byブクログ

2020/08/09
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芥川賞受賞作、という事と、友人が読んでいたので気になって手に取りました。 体を鍛え、ラグビーのコーチをしながら、公務員試験の勉強をしている、普通にその辺にいそうな慶應生、という印象の主人公の日常でした。タイトルにある破局も、まあ予想できる展開という感じの運びでした。 文体は読みやすく、さらっと一気に読み切れます。 「悲しむ理由がなかった。悲しむ理由がないということはつまり、悲しくなどないということだ。」

Posted byブクログ

2020/08/09

ハードポイルド調の文体、しかも小泉進次郎構文のような文章、これは新しい表現のチャレンジなのか。しかし文体にはどうも明確な嫌悪感を感じる。 途中からちょっとした出来事の積み重ねから主人公の立ち位置が反転する。(タイトルからして予測はつくが)前半の流れとの対照で描かれてる感じでまぁ...

ハードポイルド調の文体、しかも小泉進次郎構文のような文章、これは新しい表現のチャレンジなのか。しかし文体にはどうも明確な嫌悪感を感じる。 途中からちょっとした出来事の積み重ねから主人公の立ち位置が反転する。(タイトルからして予測はつくが)前半の流れとの対照で描かれてる感じでまぁ鮮やかと言えばそうなのかもしれないが、あくまでも主人公の主観から見ての対照であり外からは変わりのない状態と思われるので、大きなインパクトがあるわけでもない。 主人公は「こうあるべきが強い」「融通が極端に効かない」というタイプで、そういう人は最近多い気はするが、そういう世代を象徴した文学という感じでもない。また、いくつかのエピソードが出てくるが本筋との関係をどう考えればいいのかもよく分からない。 というわけで、この作品の魅力をどこに感じればいいのかよく分からない。ここ数年の芥川賞はほぼ読んでると思うが、本当に初めて何故これで受賞作なのかが全くわからないと思った作品。選評をまだ読んでいないので今から文藝春秋買いに行こうと思う。 まぁそういう意味ではインパクトはあったのか…新しいものを受け止めきれない自分がいるのかも知れない。 (追記) 文藝春秋で選評読んだ。大好きな小川洋子さんが絶賛だった…選評読んでるとなるほど、とも。読書力アップしなければ。そもそもハードポイルド文体が苦手なのでその時点で内容が読めてなかったかな。

Posted byブクログ

2020/08/09

帯にある「新時代の虚無」が正にピッタリ。 難しくて訳わかんなくて何書いてんだろって感じだけど、この虚無って中身は違えど僕の普段の日常にもたくさんあって、何してんだろ、とか何のために生きてんだろ、とか。みんな色々折り合いつけながら生きてるんだろーと。 こういう心情を吐き出せる小説書...

帯にある「新時代の虚無」が正にピッタリ。 難しくて訳わかんなくて何書いてんだろって感じだけど、この虚無って中身は違えど僕の普段の日常にもたくさんあって、何してんだろ、とか何のために生きてんだろ、とか。みんな色々折り合いつけながら生きてるんだろーと。 こういう心情を吐き出せる小説書くってホントすごいと思う。 白石一文さんの小説に似てる感じ。

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2020/08/08

「破局」 遠野遥(著) 2020 7/3初版発行 (株)河出書房新社 2020 8/15 8刷発行 2020 8/8 読了 自意識過剰な人が ナルシストを主人公の小説を書いたんだろう。 でもきっとこの自意識過剰な作者は 「破局」もいくつか経験したんだろう。 大きな帯に自...

「破局」 遠野遥(著) 2020 7/3初版発行 (株)河出書房新社 2020 8/15 8刷発行 2020 8/8 読了 自意識過剰な人が ナルシストを主人公の小説を書いたんだろう。 でもきっとこの自意識過剰な作者は 「破局」もいくつか経験したんだろう。 大きな帯に自身の写真を載せたのは さすがに不本意だと思っていると信じたい。 芥川龍之介賞を受賞するに相応しい作者 作品でした。 まあそもそも 作家なんてみんな自意識過剰だろうしねー。

Posted byブクログ

2020/08/06

自意識というものは果たして思考が先行するのか、或いは感情が先行するのか。 丁度先月(というのは2020年の7月)にこの問題に対して友人のアーティストと議論していた。その中で彼(ないしは彼女)はこの問題の答えを「生じた感情を思考が表立って判断している」或いは「潜在的な感情を顕在的な...

自意識というものは果たして思考が先行するのか、或いは感情が先行するのか。 丁度先月(というのは2020年の7月)にこの問題に対して友人のアーティストと議論していた。その中で彼(ないしは彼女)はこの問題の答えを「生じた感情を思考が表立って判断している」或いは「潜在的な感情を顕在的な思考が判断している」と話していた。 個人的に今作はこの話に通じるところがあるのではないかと感じた(この話をしていた影響があるということは間違い無いとして)。 『改良』において主人公である語り手は「マナー」や「こうすべき」という思考に囚われ、自分はもちろん他人にもその「あるべき姿」を理性的に求めていた。地の文にあった「?」の象徴的な用い方が、その表れであるように思う。あれは一種、「今この状態の自分はこの感情を得ていなければおかしいのではないか」という語り手自身の疑問ではないか。そう考えた時、この作品が自分には語り手が自分自身を真に獲得していく物語に思えた。 が、もちろん作品はそれだけではなくて、サークル内で浮いた存在だと描かれていた「膝」が段々と周囲に同化していく様と、公務員というある種の「普通の将来」を目指しながらもラストに向けて変化していった語り手の対比。誰かから「何かをしてもらう」ばかりだった語り手が、唯一他者に対して行った「ラグビーの指導」という行為の決着など、多くのテーマ性に富んだ作品であったように思う。 面白い作品だったが妙に肌に合わない感じがしてしまった。そのため星3つ。

Posted byブクログ