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希望のゆくえ の商品レビュー

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57件のお客様レビュー

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2020/05/30

ある日突然姿を消した弟・希望(のぞむ)。母から頼まれ彼の行方を探すことになった兄・誠実(まさみ)だが、知れば知るほど弟の本当の姿がわからなくなっていく……。これまで読んだ寺地作品とはだいぶ異なる印象だが、ミステリアスでおもしろい。本書の読みどころは希望がどこにいるかではなく、彼と...

ある日突然姿を消した弟・希望(のぞむ)。母から頼まれ彼の行方を探すことになった兄・誠実(まさみ)だが、知れば知るほど弟の本当の姿がわからなくなっていく……。これまで読んだ寺地作品とはだいぶ異なる印象だが、ミステリアスでおもしろい。本書の読みどころは希望がどこにいるかではなく、彼と関わった人々の姿にあると思う。希望という名を持つ男に、自分の希望を投影しているのではないか。そんなことを思った。

Posted byブクログ

2020/05/24

静謐な暴力のような小説。 まるで音もなく痕も残らない拳で打たれたように、そこかしらに痛みが残っている。 写真に写ればのっぺらぼうで。 人に語らせれば、その人の理想の男となる。 希望の名をもつその人は、誰にでも寄り添ってくれるのに、誰にもそのカタチを掴めない。 心は空っぽで、...

静謐な暴力のような小説。 まるで音もなく痕も残らない拳で打たれたように、そこかしらに痛みが残っている。 写真に写ればのっぺらぼうで。 人に語らせれば、その人の理想の男となる。 希望の名をもつその人は、誰にでも寄り添ってくれるのに、誰にもそのカタチを掴めない。 心は空っぽで、ある人には妖怪とまで言わしめる彼に残されたあの箱に、いまはなにかが入っているのだろうか。 空っぽの箱にはこれからなんでも詰められることに気がついてくれただろうか。 あの空っぽの箱の中身こそが、「希望のゆくえ」なのではないかと思えてならない。 今回の寺地さんの筆はとても破壊的だ。 でも壊すべきものを素手で血を流しながら壊しているようにおもえる。その手は誰よりも痛むのではないだろうか。 希望と誠実。 とてもお行儀の良い砂糖菓子のようなそれは、口に入ればひどく苦く、饐えた匂いすらして、それこそ吐き出すことも飲み込むこともできずいつまでも口に残るような。 人の理想や欲求を際限なく受け止める人も、際限なく押しつける人も、どちらにも恐怖を覚えました。 誰もが誰かを既製品の型にはめようとするし、はまりたがるけれど、いちからその型を作るのもまた茨の道で、いったいなにが正しいのか、なにが間違いなのか、君はその口で言えるのかと真正面から問い詰められているような気がする。 ちなみに、わたしはまだその答えから逃げているところだ。

Posted byブクログ

2020/05/22

弟と放火犯?と思われる女が失踪してしまった。 兄は、行方を捜そうと様々な人に会いにいきます。調べれば調べるほど、自分の思っていた弟像とは異なっていきます。そこで、見えてきた自分自身とは?自問自答の先に見えてきたものとは? ミステリーのような始まり方ですが、結果的にはヒューマンド...

弟と放火犯?と思われる女が失踪してしまった。 兄は、行方を捜そうと様々な人に会いにいきます。調べれば調べるほど、自分の思っていた弟像とは異なっていきます。そこで、見えてきた自分自身とは?自問自答の先に見えてきたものとは? ミステリーのような始まり方ですが、結果的にはヒューマンドラマでした。色んな人が、弟についてどんな人だったのか見えてくることによって、次々と見えてくる弟の実態。 結局見えてきたのは、ほんの一部分だけしか見えていなかったことに気がつきます。大きな盛り上がりはありませんが、一人一人の心理描写が、的を得ているかのように心に刺さる部分もあって、深い話だなと思いました。 現実世界でも自分に対する印象は違うかと思います。仕事での自分、友人と会う時の自分、色んな自分が無意識のうちに出てくるかと思います。本を通して、改めて「他人とは何か?」「自分とは何か?」を考えてしまいました。 寺地さんの作品は初めてでしたが、人との距離感が近すぎず遠すぎない、ちょうど良いという印象でした。どこかドライな気持ちで、登場人物同士では、あまり他人に関与したくないという印象も、文章から伝わる感じがしました。 個人的には、最後に弟の視点も書いて欲しかったです。他人から見る弟だけでなく、弟自身はどう思っていたのか気になりました。

Posted byブクログ

2020/04/12

自分が知っている誰かって一面にしか過ぎない。みんな人に求めてそれを見ようとするけど、されるがままではなく、自分で空っぽの箱を埋めていくことが大切。寺地さんの紡ぐ言葉、描く主人公が好きです。

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2020/04/06

弟は一体どんな人間でしたか? 放火した女性と逃亡し行方がわからなくなった弟を、兄が探す物語。 弟と繋がりがあった人たちを尋ねていく。 様々な人の視点で話が進んでいく連作短編。 一見、人探しの物語なのかなという印象だったけど、弟のことがどんな人間だったのか? 自分はどうなのか...

弟は一体どんな人間でしたか? 放火した女性と逃亡し行方がわからなくなった弟を、兄が探す物語。 弟と繋がりがあった人たちを尋ねていく。 様々な人の視点で話が進んでいく連作短編。 一見、人探しの物語なのかなという印象だったけど、弟のことがどんな人間だったのか? 自分はどうなのか? 他人から見た自分の印象は人それぞれで、自分自身は、自分に核があることを気づいているのだろうか?面倒なことから目をそらしていないだろうか。 自分のことを見つめ直した先に希望があるのでは?と思わせてくれる作品。 今までの寺地さんの作品とはひと味違う雰囲気の作品でしたが、「人とは何か」「自分とは何か」を考えせられる作品でした。

Posted byブクログ

2020/03/30

最近、寺地はるなさんにハマって次々と読んでいる中、新刊発売。期待して読みました。 今までの寺地さんの作品とはちょっと手触りのようなものが違うな、というのが第一印象です。 でも、寺地作品に繰り返し出てくる、親から抑圧されて育った子ども、というモチーフは、今回もパターンを変えながら幾...

最近、寺地はるなさんにハマって次々と読んでいる中、新刊発売。期待して読みました。 今までの寺地さんの作品とはちょっと手触りのようなものが違うな、というのが第一印象です。 でも、寺地作品に繰り返し出てくる、親から抑圧されて育った子ども、というモチーフは、今回もパターンを変えながら幾人もが登場します。 かつて私に、過去はフィクションだ、と言った人がいました。 過去にあった出来事は一つでも、その記憶は体験した人の思いによって、それぞれ全く別々の意味を持つ物語として記憶されることがあると。 読んでいて、そんな話が思い出されました。 親子、恋人、夫婦。それぞれにとっての過去が、相手の印象が、自分にとって都合よく作り変えられていく。 「すごいなあ」の一言が、賞賛の意味で発せられても、皮肉として受け取られることもある。 わかりやすく救いのある物語とは言えませんが、それでも最後にかすかな希望があるので、読後感は決して悪くないです。 『自己肯定できない人にとって 僕はかっこうの生贄だったの?』という帯文が、物語の中軸をみごとに捉えていると思います。

Posted byブクログ

2020/03/26

希望は消え、誠実が残った。 マンションの管理会社に勤める弟がある日さえない住人女性と一緒に消えた。母親に頼まれて弟の行方を捜す兄。知らなかった弟の人生、そして素顔。弟に何があったのか。なぜ突然失踪したのか。 と、あらすじだけ書くとなんとなくもう詳しく読まなくていいやという気にな...

希望は消え、誠実が残った。 マンションの管理会社に勤める弟がある日さえない住人女性と一緒に消えた。母親に頼まれて弟の行方を捜す兄。知らなかった弟の人生、そして素顔。弟に何があったのか。なぜ突然失踪したのか。 と、あらすじだけ書くとなんとなくもう詳しく読まなくていいやという気になる。「なにか消えたくなるようなことがあったんだろうね、きっと」とうわべの共感で流せそうなくらいの。 でも、このあらすじの行間に、そしてあらすじから透けて見える向こう側に、自分の今までの人生それぞれに残っているちいさな不安の影がちらちらと見える。 どうしようもないくらい追い詰められている人生と、ある日突然消し去りたくなる人生。そして消したいけど消す勇気のない人生。それぞれの根本にあるのは家族という名の足かせ。 兄の名前は誠実。弟の名前は希望。もしかすると希望なんて最初からいなかったのかもしれない。すべて誠実の中に取り込まれていたひとつの影なのかも…そんな気になってぞわりとした。

Posted byブクログ