THIS IS JAPAN ―英国保育士が見た日本― の商品レビュー
本屋大賞のノンフィクション部門で大賞を取られた事で一気に有名になりました。僕も前から知っているわけではなく、去年「子どもたちの階級闘争-ブロークン・ブリテンの無料託児所から」を読んで、非常に感銘を受けたのが最初でした。 地べたからビルの隙間に覗く青空を指し示すような本で、硬派なが...
本屋大賞のノンフィクション部門で大賞を取られた事で一気に有名になりました。僕も前から知っているわけではなく、去年「子どもたちの階級闘争-ブロークン・ブリテンの無料託児所から」を読んで、非常に感銘を受けたのが最初でした。 地べたからビルの隙間に覗く青空を指し示すような本で、硬派ながら母親の強さと優しさが感じられる名著でした。 大賞を取った「ぼくはイエローで~」はエッセイに近いくらい読みやすい本で、感動的かつユーモアあふれる本です。 そして本書は日本にスポットを当てた貧困、子育て、労働闘争への思いを綴っています。自身の考えだけではなく、実際に取材をして落とし込んでいるのですが、やはり英国と比べて日本の貧困層のおとなしさが特に気にかかるようです。 本書を読んでいて思ったのは、日本は国民自体が「自己責任」の名の元に弱者を排斥しがちではないかという所です。 貧しいのは怠けているからだ、という古来の思想が根深く残っていて、西洋のように生きていること自体が貴いという発想にならないのは思い当たります。 同じ日本に居て、庶民として生きているものの、階級闘争というようなことをまず目にすることがありません。西洋ではミュージシャンが政治的な考え方をオープンにすることが沢山ありますが、現代の日本でミュージシャンが政治的発言をするとファンから叩かれる為黙り込まなければならない状況です。これはパンクを生み出した米国、パンクを発展させた英国では考え得られない事でしょう。 民族のカラーがあるので何もかも他国と比べる必要はありませんが、日本人は自己規制的に自らを縛り上げる傾向がありますよね。 日本人であることを自覚させられる本です。
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英国と日本。両者を比較した視点で見ることで見えてくる日本社会の実態。日本人の総中流意識を真っ向から否定した屈指のルポルタージュ。 海外経験の長い人による日本論はたいてい自慢はなしでありつまらない。おそ松くんのイヤミのような。そんな自分の定説が良い意味で裏切られる。 筆者は英国...
英国と日本。両者を比較した視点で見ることで見えてくる日本社会の実態。日本人の総中流意識を真っ向から否定した屈指のルポルタージュ。 海外経験の長い人による日本論はたいてい自慢はなしでありつまらない。おそ松くんのイヤミのような。そんな自分の定説が良い意味で裏切られる。 筆者は英国で保育士として働き20年。日本に長期に帰国して日本社会の生の姿を見る。 何より筆者に英国と日本、どちらを賛美するでもなくバランスの取れた立ち位置が素晴らしい。歴史的背景や文化こそ大きく異なれど両国を比較することで見えてくるものがある。 一番印象に残ったフレーズ。 「新自由主義とグローバル資本主義の結果として、もはや世界は『右』と『左』ではなく、『上』と『下』に分かれてしまった。」 本書を読んで、イギリスのEU 離脱、トランプ現象、ヨーロッパを揺るがす移民問題など、その背景と今の日本の現状が一本のスジてつながった。 「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」が大ヒットしている中、他の作品も素晴らしいように思う。ライター歴はさほど長くは内容だが凄い実力派のルポライターが現れたものである。 今後の作品にも大いに期待したい。
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イギリスの労働者階級の視点から見た日本の現状に関するルポ。比較の方法により、日本の状況が鮮明に描き出される。分断が進む中でも、人に寄り添い、少しでも改善へと働いている人たちの姿が尊い。
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新型コロナウィルスへの対応を巡って、連邦政府を批判した州知事に対して、大統領が同知事に対して「仕事しろ」とツイートしたと聞いた。ちょうど本書の「キャバクラユニオンとネオリベ」読んでいる時で、たまたまの偶然とは思うし、本書の内容とニュースは少し筋違いかもしれないが、ネオリベ信仰者の...
新型コロナウィルスへの対応を巡って、連邦政府を批判した州知事に対して、大統領が同知事に対して「仕事しろ」とツイートしたと聞いた。ちょうど本書の「キャバクラユニオンとネオリベ」読んでいる時で、たまたまの偶然とは思うし、本書の内容とニュースは少し筋違いかもしれないが、ネオリベ信仰者の常套句なのだろう。分断であることには変わりはない。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
英国から見たら、日本の労働組合は後退している。何故、こんなにも交代したのか。それは自己責任論の蔓延だ。社会は個人の努力だけでもどうすることもできない部分がある。貧困は個人の努力と言うより社会システムによる発生する。英国はまだ労働者が政治に対して意見を言う人が多いということだろう。
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「イギリスではこうなんです、それに比べて日本はなんてひどい」が読みたいわけではない。でも日本のことだけ見ていたら見えないことがある。そんなワガママな要望にピッタリのブレイディみかこ。今私が読んでも面白いし、たぶん、20年後30年後に子供が読んでもTHIS IS JAPAN in ...
「イギリスではこうなんです、それに比べて日本はなんてひどい」が読みたいわけではない。でも日本のことだけ見ていたら見えないことがある。そんなワガママな要望にピッタリのブレイディみかこ。今私が読んでも面白いし、たぶん、20年後30年後に子供が読んでもTHIS IS JAPAN in 2010’sとして読んで面白い本になっている。 終わりのほうに日本の「人権」意識に対する違和感と、代わりに(?)違う形の人と人との接し方に触れる記載があって、どちらもグッとくる内容ではあるんだけど、前者のほうが少し消化不良だった。それがこちらの記事を読んだらすっとわかったので合わせて紹介。 「人権」と「思いやり」は違う…日本の教育が教えない重要な視点 「道徳」で「差別」に挑んではならない https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71170 人権とは「心がけ」「思いやり」ではない、社会に異議申し立てして社会の構造を変えていくことなのだ、という記事。道徳の授業と比較してくれたおかげで、子供の時に大好きだった(勧善懲悪だから)けど大人になってから大嫌いになったあれのことかと腑に落ちた。
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イギリスで保育士として働く筆者が日本の幼児教育や貧困の現場を取材し、多くの日本人が気づいていないもしくは目を背けている実情を書いている。 彼女曰く、一億総中流というのはすでに過去のものとなっており、格差が広がっているにも関わらずまだその幻想に浸っているのは、中流の定義が変わってい...
イギリスで保育士として働く筆者が日本の幼児教育や貧困の現場を取材し、多くの日本人が気づいていないもしくは目を背けている実情を書いている。 彼女曰く、一億総中流というのはすでに過去のものとなっており、格差が広がっているにも関わらずまだその幻想に浸っているのは、中流の定義が変わっていることに気がつかないからなのではないかと。以前の中流は現在の中流より生活レベルは上だった。しかしバブル崩壊やリーマンショックなどでずるずると生活レベルが下がってしまった人が大発生したため、とくに自分たちだけが貧困だという意識はない。それゆえ立ち上がることもしない。 政治家にとっては操縦しやすい国民性であることは間違いない。 とは言えこの本は、だからこうすべきとか立ち上がれとか言ってあるわけではなく、筆者が取材して感じたことを淡々と書いている。これが今の日本なんだと突きつけるのみ。これを知って動くのか動かないのかは読み手に委ねられている。 全体的には、へーという感じで知らなかったことを教えてもらった感じ。
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日本のNPOは、マクロに考えることをしない。NPOだけではなく、医療や保育や教育や介護など、社会課題を扱う現場ではそういう傾向が強いのではないか? 例えば貧困問題。貧困問題に関わる方たちは、個別の、特定の貧困者を助けることに全力を、誠実に尽くす。 しかし、世の中から貧困そのものを...
日本のNPOは、マクロに考えることをしない。NPOだけではなく、医療や保育や教育や介護など、社会課題を扱う現場ではそういう傾向が強いのではないか? 例えば貧困問題。貧困問題に関わる方たちは、個別の、特定の貧困者を助けることに全力を、誠実に尽くす。 しかし、世の中から貧困そのものをなくしてしまおうというような、マクロの思考には至らず、従って、そのための社会的な行動も運動もない。 社会課題を扱う現場だけではない気がする。目の前のことを一生懸命に誠実にこなすことが大事、まずは目の前のことを今のシステムの中で解決しようよ、みたいな感じがないか?あらゆるところで。結果として、今のシステムを変えることに思いが至らない。 「が、これがもし、ソーシャルワークの業務と政治がどう繋がっているかについて学んでいない学生たちだったらどうだろう。彼らは緊縮財政という定められた政策の枠組みのなかでの制度を使っていかに有効に人助けをするかということに傾注し、緊縮という政府が定めた政策には疑問を抱かないのではないか」 筆者は、それを「ミクロの現場からマクロの政治を見上げる習慣」と書いている。 筆者は、イギリス在住の保育士。久しぶりに日本に里帰りをした際に、そのような「ミクロの現場」を、数多く見るチャンスを得る。 もう一つ印象的なのは、日本の社会運動について、書中のある登場人物が「運動体同士が学び合わないのが特徴」と述べ、それに筆者も強く同意しているところ。「実は右も左も、地域社会も、上意下達がはびこっている」「考える、学び合う、という習慣が、実は運動のなかにない」などという主張も出てくる。 「今のシステムを前提に物事をかんがえてしまうこと」「仕組みそのものに遡ること、すなわち、物事のそもそもの目的を考えるという習慣を持たないこと」「学び合わないこと」。 これらは、社会運動の中での特徴であるばかりではない。 私は、企業に勤務している者であるが、同じことを、会社で仕事をしている中で、よく感じる。何か制度や取引慣行みたいなものがあった時に、その枠組みの中でモノを考える。それが不合理なものであったとしても、枠組み自体を変えてしまうことに思いが至らない。 「自分の責任」を果たすことに精一杯。結果的に、部分最適の集合体になってしまっている。横の人、横の職場が何をやっているのかに、もう少し関心を持てればな、と感じることも多い。 このあたり、日本の、特に古くて大きな成功している会社の弱点だなぁ、と思っていた。 全く別のことについて、同じような印象を筆者が持たれていることは小さなサプライズだった。
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格差とは?人権とは?階級とは?人と人の差を考えるきっかけに。多様性とは?一言で言い表せない感覚を評論家的ではなく、一当事者として書いている。
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2020/3/1 内容がかなり濃いけど、日本の貧困に対する現状とイギリスの貧困に対する現状を比較して、日本全体として考えなくてはいけない貧困に関する、あるいはそれがきっかけで生じてくる危機意識をしっかりと認識しなくてはいけないなと思わされる内容です。 イギリスで暮らす著者だからこ...
2020/3/1 内容がかなり濃いけど、日本の貧困に対する現状とイギリスの貧困に対する現状を比較して、日本全体として考えなくてはいけない貧困に関する、あるいはそれがきっかけで生じてくる危機意識をしっかりと認識しなくてはいけないなと思わされる内容です。 イギリスで暮らす著者だからこそ…と言う部分もあると思いますが、だいぶ日本で表には出てこないようなアングラの部分にスポットを当てて実際に取材も行なっているので、現実味があります、というか現実です。 かなりコアな部分を扱ってるなーと読み進めて思いつつ、日本にはたしかに、権利を主張する前に義務を果たせ!みたいな考え方がすごく浸透している、それが当たり前だと思っていた自分がいましたが、イギリスをはじめとするヨーロッパの国々、外国ではそうではないのだと言うこと。 外国では権利を主張することが当たり前で、リターンに対して不十分だと怒り出す人もいるというのは意外でした。 また、日本ではセーフティネットについての説明をしても決定権を他人に委ねるまでに弱った、考えることをやめてしまった人たちが多く存在するのだと言うことも意外でした。 よく、貧困においては自己責任論が展開させることが多いですが、本当にそうなのか、社会全体で人権を尊重するとはこういうセーフティネットに引っかかる人々に対してどうしなくてはいけないのか、どう支えて行かなくてはいけないのかなど難しい問いを投げかけられたような気がします。
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