息吹 の商品レビュー
特別あたたかい話はないのに、読むとちょっと元気になれるSFでした。環境も、運命も、結末も変えられないかもしれないけれど、それを捉える自分や過程を納得できるものにできるかもしれないという希望を持てる短編集だった。 表題の「息吹」はもちろん素晴らしかった。あとは「オムファロス」がと...
特別あたたかい話はないのに、読むとちょっと元気になれるSFでした。環境も、運命も、結末も変えられないかもしれないけれど、それを捉える自分や過程を納得できるものにできるかもしれないという希望を持てる短編集だった。 表題の「息吹」はもちろん素晴らしかった。あとは「オムファロス」がとても好き。神が世界を作ったことが科学的に証明された世界で、科学者は何を思い行動するのか。ぐっと物語に引き込まれた。
Posted by
SFは「ありうる未来」を描く側面があるから好きなんですが、そんな「ありうる未来」と「人間の泥臭い感情」が見事に調和している話もあってとてもよかった。 個人的にはソフトウェアオブジェクトのライフサイクル、予期される未来、不安は自由のめまいのラストが好き。
Posted by
テッド・チャン 「息吹」の感想 サイエンスフィクションの短編集。自分は全くSFの優秀な読み手(量的にも資質的にも)でないので、ちゃんとした感想を書くのも難しい。 この短編集で作者は未来的(未来を舞台としていない作品も数点含まれる)な進化の途上で、科学的進化が仮にあってもやはり原...
テッド・チャン 「息吹」の感想 サイエンスフィクションの短編集。自分は全くSFの優秀な読み手(量的にも資質的にも)でないので、ちゃんとした感想を書くのも難しい。 この短編集で作者は未来的(未来を舞台としていない作品も数点含まれる)な進化の途上で、科学的進化が仮にあってもやはり原始〜現在的な人間倫理からヒトは逃れられないと言うことを貫いて語っている。 人工知能を持って成長するペットのようなアバターとの関係性を描いた「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」と自分のセルフィーを莫大に記録してそれに栞のような機能でパラセルフとして分岐さえもパラレルワールド的な仮想化してしまう世界の問題点を描いた「不安は自由のめまい」がとりわけ自分には印象深かった。SNS的な現代の延長線を描く形で興味深かったので。進化は色々なエンターテイメントを産むけど、問題も包括して行くし、それは人間の倫理観を苦しめることを描けていて。 絶妙の未来感がテッド・チャンうまいんだよなあ。手の届きそうな感じ。 セルフィーを映像化し記録して行くのに、何処からでも検索可能にする上でパラレルワールドが現出してく設定もうまいし、AI化したアバターの絶妙な進化っぷりも良い。インターネット社会のもつ問題点を炙り出して。 オバマ元大統領は話題の「三体」など、SFを嗜好してるとこがある本の読み手みたいですが、これもお気に入りなのがわかる気がした。 #ブクログ
Posted by
SFに馴染みがあまりない自分にとって、なるほどこれがサイエンスフィクションかと納得する本でした。 表題にもなっている『息吹』が一番面白かった。というかぞくぞくした。エントロピーを増大させながら生きている人間。世界の終わりを想像させます。 設定こそ奇想天外ですが、人物描写はとて...
SFに馴染みがあまりない自分にとって、なるほどこれがサイエンスフィクションかと納得する本でした。 表題にもなっている『息吹』が一番面白かった。というかぞくぞくした。エントロピーを増大させながら生きている人間。世界の終わりを想像させます。 設定こそ奇想天外ですが、人物描写はとても現代的。友人関係や親子関係、もし過去に戻れたら…等の身近なテーマで地に足がついたSFでした。 前作も読んでみたいと思います。
Posted by
わたしの一番のお気に入りは、表題にもなっている「息吹」だ。 ロボットが、自分の頭を自分で解剖することで、自らの記憶の構造、そして世界の成り立ちについて考察を深めていく。 ロボットがいる孤立系の世界の中では「気圧差」によってエネルギーが生じており、全ての生命活動の源になっている...
わたしの一番のお気に入りは、表題にもなっている「息吹」だ。 ロボットが、自分の頭を自分で解剖することで、自らの記憶の構造、そして世界の成り立ちについて考察を深めていく。 ロボットがいる孤立系の世界の中では「気圧差」によってエネルギーが生じており、全ての生命活動の源になっている。空気を使えば使うほどエントロピーが増大していき、やがて系内部の気圧差が均一になり、全ての生命の活動が止まってしまう。 設定こそSFながら、現実世界における物理法則を取り入れており、設定のリアリティさはピカイチだ。 そして、本編では世界の真実を解き明かしただけにとどまらず、いずれ終わってしまう世界の中でなんとか希望を見出そうと、世界の外に存在するであろう生命に発話を試みている。 ロボットが、自身では認知しえぬ存在にまで思いを巡らせ行動を起こすというのは、何とも奇妙で美しい話ではないだろうか。 SF作品の面白さは、読者を取り巻く現実と虚構世界の間にいかに上手くブリッジを架けるか、にかかっていると思う。 世界観はまるっきり違うものの、そこに息づいている人間達の感情や生活様式は、現実世界の感覚でおおかた類推することができる。2021年の地球における倫理観を持ったままSF世界にダイブすることで、2つの世界の類似性や差異を楽しみながら小説を読み進めていく。そんな遊び方ができるのがSF小説の楽しいところであり、本書にもその「ブリッジ」が存分に架けられていたと感じた。
Posted by
商人と錬金術師の門、タイムトラベル。息吹、種の死に向かう宇宙。予期される未来、予言機。ソフトウェアオブジェクトのライフサイクル、仮想世界の生物。デイシー式全自動ナニー、育児機械。偽りのない事実、偽りのない気持ち、口述文明と文字文化、全ライフログ記録と検索。大いなる沈黙、人間に解読...
商人と錬金術師の門、タイムトラベル。息吹、種の死に向かう宇宙。予期される未来、予言機。ソフトウェアオブジェクトのライフサイクル、仮想世界の生物。デイシー式全自動ナニー、育児機械。偽りのない事実、偽りのない気持ち、口述文明と文字文化、全ライフログ記録と検索。大いなる沈黙、人間に解読できない言語と種の消滅。オムファロス、神により創造された世界の中心ではない。不安は自由のめまい、別の選択肢世界間通信。 哲学的な思索で、現実世界のパラメータを少し変えてみた、というのでしょうか、人間性について深く書かれていると思いました。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」、幼時に『ニンテンドッグス』の果てなきヴァーチャル愛犬愛猫との漠然と息苦しい日々を味わったからか、とくに印象に残った。
Posted by
図書館で探したら、あったあった。ピッカピッカで誰も借りたことがないような感じ。「SFが読みたい!」の2021年版ランキング1位なのに。超寡作だし、名前だけ聞いていて大物ということで、私も恐る恐る借りて読んでみたら、晦渋どころか物語性豊かで、非常に面白く読みごたえがあった。短編が9...
図書館で探したら、あったあった。ピッカピッカで誰も借りたことがないような感じ。「SFが読みたい!」の2021年版ランキング1位なのに。超寡作だし、名前だけ聞いていて大物ということで、私も恐る恐る借りて読んでみたら、晦渋どころか物語性豊かで、非常に面白く読みごたえがあった。短編が9編、それぞれテーマが明快で、なるほどSFというのは奇想天外な設定でありながら、しっかりと考えさせるものだと納得した。作者の思考はひねくれていなくて、えらく真っ当だ。前向きな人なんだと思う。自分の過去や未来を知る意味、AIの未来、人類の存在意味、自由意思の問題、親子関係などテーマは極めて現代的だ。
Posted by
天才による17年振り?二冊目の短編集。天才。 SFと呼ぶとスペースオペラ的なものを想起してしまうお子様なのですが、身近な、いつでもちょっと妄想してしまう事もありそうな部分について物凄い設定を当たり前のように捻じ込んで一本の日常系ドラマに仕立ててあるという感じ(とても乱暴な表現で...
天才による17年振り?二冊目の短編集。天才。 SFと呼ぶとスペースオペラ的なものを想起してしまうお子様なのですが、身近な、いつでもちょっと妄想してしまう事もありそうな部分について物凄い設定を当たり前のように捻じ込んで一本の日常系ドラマに仕立ててあるという感じ(とても乱暴な表現ですw) どれもこれも、マーカーを引きながら読みたい程、素敵な言葉もたくさん出てきてしまうので、これはSF小説なのか、哲学なのか、宗教なのか、教育なのか考えさせられ、1本読んだ後再び最初のページに戻って読み直すという事をしてしまった…。 かっちりとしたハードカバーなので保存向き。ですが手軽にひらける文庫化も待ち遠しいです。 ワクワク感が堪らない!「商人と錬金術師の門」 書く事、記憶する事、感じる事、残す事について色々考えてしまう「偽りのない事実、偽りのない気持ち」 ホントに短い掌編ですが一番ポロッと泣いてしまった「大いなる沈黙」 「地獄とは神の不在なり」に次ぐものの希望という印象が残る「オムファロス」 読了後のコーヒーが滅茶苦茶美味しくなります!「不安は自由のめまい」 あたりは個人的に何周も読みたい(読んだ)です。
Posted by
テッド・チャンは、SF界最大の文学賞であるヒューゴー賞を4度受賞する現代SF界を代表する作家。ハリウッド映画「メッセージ」の原作としてその名を世界に轟かせた。 本書は17年振り2冊目の著書。タイムトラベル、AI、多世界、知的生命などを題材に9本の短中編をおさめる。 冒頭の三...
テッド・チャンは、SF界最大の文学賞であるヒューゴー賞を4度受賞する現代SF界を代表する作家。ハリウッド映画「メッセージ」の原作としてその名を世界に轟かせた。 本書は17年振り2冊目の著書。タイムトラベル、AI、多世界、知的生命などを題材に9本の短中編をおさめる。 冒頭の三編である「商人と錬金術師の物語」「息吹」「予期される未来」では、困難多き一生涯をどう生きていくべきかを示唆してくれる。 私たちの人生が予め運命づけられているとしたら。私たちには自由意志すらないとしたら。決められた筋道を辿ることしかできないとしても、絶望することはない。 予め決められた人生かも知れないが、その一生涯を豊かに味わうことは可能だ。ひとつひとつの出来事について真剣に向き合い、その意味について考えを巡らせ、より感受性を高めることはできる。 変えることができないとしても、もがくこと、苦しむことで、自分の生を深く受けとめることができるようになる。 そうすることで人生の解像度はより鮮明に、より価値のある一生を送ることができるようになる。 人生という物語をパラパラとめくるだけで終わらせるのか、それとも一頁一頁を噛みしめながら読み進めるのか。自分の物語に対して考えを巡らせ、どのような解釈を与えるのか。それが重要である。
Posted by