息吹 の商品レビュー
SFな感じの近未来の話やタイムトラベルなど、興味深い内容だったが、途中でついて行けず、P150ほどでギブアップ。 2024/1/4 追記 やはり気になり再チャレンジすることにした。 間違いなく秀逸なSFだった。内容を完全に理解できなくとも、とても良い刺激が山盛りの作品でした。
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※このレビューにはネタバレを含みます
目次 ・商人と錬金術師の門 ・息吹 ・予期される未来 ・ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル ・デイシー式全自動ナニー ・偽りのない事実、偽りのない気持ち ・大いなる沈黙 ・オムファロス ・不安は自由のめまい 期待通り面白かった。 最初の『承認と錬金術師の門』からして、ぐいぐい引きこまれてしまう。 SFって、現実と少しずれたレイヤー上の哲学なんじゃないかしら、と思った作品集。 表題作『息吹』は、解剖学者が、自分の脳を解剖しながら記憶のシステムを解明し、そこから生命とは、宇宙とはと思いをはせる物語。 解剖学者の語りに最初非常に違和感を覚える。 そして彼の姿を思い描けたとき、その世界が大きく変わって見える。 私の住む世界だけが世界ではないのだ。 ”願わくは、あなたがたの探検の動機が、たんに貯蔵槽として使える他の宇宙を探すことだけではなく、知識への欲求、宇宙の息吹からなにが生まれるかを知りたいという切望であってほしい。” 『偽りのない事実、偽りのない気持ち』 文字を持たず口伝で過去のできごとを遺すアフリカの部族のもとに、文字を携えてヨーロッパの宣教師が訪れ、本質が事実にとってかわられていく話と、生活のすべてをライフログとして記録する近未来の社会が交互に語られる。 最近、自身の生活をYouTubeにあげている人が多いが、ライフログというのはすべての人たちが自分の記録を残すということ。 思い違いによる水掛け論はなくなるが、事実がすべて明らかになるのは逆に救いがなくなるような気がして怖い。 ”回想の回数を重ねるたびに、すこしずつ、楽しい気持ちを自分で作り上げてきたのだ。” 子育て中の楽しい出来事なんて、まさにそう。 『不安は自由のめまい』 さらに現実より高位の次元に話は進んで、平行世界(パラレルワールド)に住む自分(パラセルフ)と対話ができる機械・プリズムが普及した世界。 無限にある人生の選択で悩んだとき、あっちを選んだ自分やこっちを選んだ自分と対話し、自分や人生に折り合いをつけていくことが大切になる。 何をどう選んでも後悔はあるし、自分らしくない選択は選択肢の中にはない(らしい)。 ”たとえタイムトラベルが実現しても、過去を書き換えることはできないが、過去を深く知ることはできる。” 『承認と錬金術師の門』の中に出て来る一節だが、『偽りのない事実、偽りのない気持ち』『不安は自由のめまい』にも繰り返されているテーマ。 タイムパラドックスはなく、タイムトラベルも怖くなくなる。 一番好きなのは、『ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル』 要は、AI育成の話なのだけど、心の交流などというものは促成栽培ではできない、というところから話は始まる。 最初は仮想空間の中で成長するAI(ディジエント)が、ただただかわいいのだけど、心を持つ(ように見える)AIを、流行りじゃなくなったからと言ってポイっと捨てられる? 捨てられるか。 ペットを捨てる人もいるもんね。 でも主人公たち(アナとデレク)は、できる限り彼らのディジエントを守るために社会に働きかけるのだ。 AIと人間はどこが違うのか。 無機物か有機物かの違いだけなのかもしれない。 AIの活動原理が電気エネルギーによるものだとしたら、人間の行動も心理も、ただの化学反応ということができるだろう。 だからこそ、ディジエントと人間の交流が美しいのさ。 そして、別れはいつもせつない。
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テッド・チャンの作品は自分に向けられたわけでは無い、大きな柔らかな流れの様な優しさが感じられて好きですね
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会社の読書会で薦められた本。 話によって読み易さは違ったが、今まで読んだことがない感覚だった。 お気に入りの話は 「偽りのない事実、偽りのない気持ち」 記憶が映像として記録される世界へ感じる不安感は、口頭伝承が当たり前の人々が、文字での記録へ感じるそれと同じだと気付いたとき、...
会社の読書会で薦められた本。 話によって読み易さは違ったが、今まで読んだことがない感覚だった。 お気に入りの話は 「偽りのない事実、偽りのない気持ち」 記憶が映像として記録される世界へ感じる不安感は、口頭伝承が当たり前の人々が、文字での記録へ感じるそれと同じだと気付いたとき、視界がひらけた感覚があった。
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どの物語も確かに面白い いくつかテーマがあって コアに人がいる 選択、または決断、も大きなテーマであるかな その向こうに未来がある
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9編の短編を収めたSF短編集。どれをとっても、面白い。世間の評価も非常に高いが、私も傑作短編集だと思う。 SFを多く読み始めたのは最近になってからのことであるが、とても好きになりつつある。SFにも色々な種類があるが、その面白さの一つだと私が感じるのは、現在から見れば荒唐無稽な現実...
9編の短編を収めたSF短編集。どれをとっても、面白い。世間の評価も非常に高いが、私も傑作短編集だと思う。 SFを多く読み始めたのは最近になってからのことであるが、とても好きになりつつある。SFにも色々な種類があるが、その面白さの一つだと私が感じるのは、現在から見れば荒唐無稽な現実を持つ未来を置き(例えば、タイムマシンが存在するとか)、それを前提に、緻密に話を進めていくと、何故だか分からないけれども、人間や人間の暮らしの本質が見えるような気がすることがあり得ることだ。 最後に掲載されている「不安は自由のめまい」では、プリズムという、世界を分岐させることが出来る装置が登場する。パラレルワールドという考え方があり、この世界は、私たちが現実に存在する現在の姿と、少しずつシチュエーションの違うパラレルワールドが無限に存在しているという考え方である(本書の解説によれば「量子世界の他世界解釈と呼ぶらしい)。このプリズムという装置は、それを使うことにより、人為的にその多重世界の分岐点をつくる(装置を起動させるとその瞬間に今の世界とは別のパラレルワールドが生成される)ことができ、かつ、その世界と連絡がとれるという設定で物語が進行する。仮定自体、荒唐無稽ではあるが、本当にそのような装置があり、そのような世界があるとすれば、色々と疑問が湧いてくる。今この世界で生きている自分とパラレルに別の可能性を持った自分が無限に存在するとすれば、マクロでみると、自分とは何なのか?一瞬一瞬の意思決定が分岐を生み出しているとすれば、すなわち、どんな道を選ぼうと、それに対応する自分が存在するとすれば、人間の意思とは何なのか、本当の自由意思は存在するのか(すなわち、自分の意思決定とは別の意思決定をした自分が存在し得るのであれば、すなわち、取り得るすべての選択肢に対応する自分が存在するとすれば、選択に何の意味があるのか)。そういったことを考えてしまう。
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過去と未来は同じものであり、わたしたちはどちらも変えられず、ただ、もっとよく知ることができるだけなのです。 誰しも聖人じゃない。でも、もっといい人間になろうとすることはできる。なにかいいことをするたびに、次にまた、もっと高い確率でいいことをする人間へと自分をかたちづくっている。...
過去と未来は同じものであり、わたしたちはどちらも変えられず、ただ、もっとよく知ることができるだけなのです。 誰しも聖人じゃない。でも、もっといい人間になろうとすることはできる。なにかいいことをするたびに、次にまた、もっと高い確率でいいことをする人間へと自分をかたちづくっている。 他人にやさしくすることがなんの苦労もなく楽にできる人が世の中にはいっぱいいるからです。彼らにとってそうすることが楽なのは、いままでの人生で、他人にやさしくする小さな決断をたくさんしてきているからです。わたしにとってむずかしいのは、いままでの人生で、小さな利己的な決断をたくさんしてきているからです。ということは、他人にやさしくするのがむずかしい理由は、このわたし。
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210812*読了 SFはあまり読んでこなかったのだけれど、これを機にもっとSFを読みたい!と思えるほど、おもしろかったです。 こんなにもおもしろい小説を書かれる方なのに、作品を出すスピードが遅いので、ファンはいつも、出版を今か今かと待ち構えているんだろうな。 SFや宇宙論、量...
210812*読了 SFはあまり読んでこなかったのだけれど、これを機にもっとSFを読みたい!と思えるほど、おもしろかったです。 こんなにもおもしろい小説を書かれる方なのに、作品を出すスピードが遅いので、ファンはいつも、出版を今か今かと待ち構えているんだろうな。 SFや宇宙論、量子論なんかをまるで分からなくても、こんな未来になりそう…、こんな未来になったらどうなるのだろう…、と不安やドキドキを抱きながら、ストーリーを楽しめました。 一つ一つの作品の感想を端的に書きます。 「商人と錬金術師の門」 過去と未来にいける扉があったら、自分は未来を見たいと思うだろうか…。 こういう話で多いパラレルワールドを許さない、現実は変わらないという設定もおもしろかったです。 「息吹」 タイトルになっているものの、短いお話、かつ不思議。 ロボット化されてしまった人間が、自分の体の仕組みを垣間見る光景が頭に浮かびました。 「予期される未来」 未来がすべて予測できてしまったら、人はやる気をなくすのだろうか。考えさせられる作品。 「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」 中編。仮想現実内で生き物を育てるって、10年後には当たり前になっていそう。 ソフトウェアの隆盛がリアルで、実際もこうなっていきそうな気がしてしまいます。 好きな作品。 「デイシー式全自動ナニー」 機械に育てられたからといって悪い影響が出るわけではない、って確かにそうかもしれん! 「偽りのない事実、偽りのない気持ち」 これも未来にこうなってしまうのでは、と思える内容。 過去の出来事が全部記録され、取り出せてしまう世界。絶対もめる。 人の記憶のなんて曖昧なことよ…。 自分も絶対に「こうだ」と思っている過去が、事実と異なることってあるんだろうな。 「大いなる沈黙」 オウムの話。オウムは確かに賢い。 なのに、ペットとして愛でるくらいしかできていなくて、オウム的にはどう思っているのでしょうか…。 「オムファロス」 神が世界を創造したのが前提という世界。 神という概念がアメリカ的だなぁ、と思いました。 日本だとこの概念は浸透しないかも。 「不安は自由のめまい」 収録作の中で一番心に残っています。 違う未来を生きている自分と話せるなんて、ドキドキする。 このお話を読んでから、あの時、違う選択をした自分は今どんな風に過ごしているのかな、とときたま想像するようになりました。 それでも現実を変えることはできないので、気持ちに折り合いをつけるという役立て方しかないのだけれど。 これが現実になったら、私はやっぱりホログラムを買っちゃうんだろうな。
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どの作品もとても面白かったのですが、ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクルが最も印象的でした。巻末に書いてあったことかもしれないのですが、大切なのはたとえAIであっても敬意と愛をもって接することなのかなと思いました。単純に読み書き計算、未来の推論を目的とするなら単純に座学のよ...
どの作品もとても面白かったのですが、ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクルが最も印象的でした。巻末に書いてあったことかもしれないのですが、大切なのはたとえAIであっても敬意と愛をもって接することなのかなと思いました。単純に読み書き計算、未来の推論を目的とするなら単純に座学のような繰り返し学習で済むと思うのですが、生活の中で誰かと共存するとなると、それだけでは難しいですね。自分と近しい人の感情にどのように寄り添うのか、自分の意思や権利は如何にしたら他者に認められるのか…。教育や学びというものの意味や意義について、あらためて考えさせられました(その学びとは、かならずしも美しいものとは限りませんが)。 何が起こるかわからないドキドキ感を味わうというよりも、精神にじんわりと染み入る感じの作品を読みたいときにオススメです。
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色々と頭がこんがらがりつつ、理系科目が苦手な私でも面白く読めました。どれもSF作品という枠を借りたヒューマンドラマな印象。 未来は改変できない、運命を受け入れる姿勢にとても共感。 『商人と錬金術師の門』の一文、“この世にはもとにもどせないものが四つある。口から出た言葉、放たれた...
色々と頭がこんがらがりつつ、理系科目が苦手な私でも面白く読めました。どれもSF作品という枠を借りたヒューマンドラマな印象。 未来は改変できない、運命を受け入れる姿勢にとても共感。 『商人と錬金術師の門』の一文、“この世にはもとにもどせないものが四つある。口から出た言葉、放たれた矢、過ぎた人生、失った機会だ”は私の脳に彫刻刀で深く深く刻みたい。すぐ口から思った事が出てしまい後悔する回数を減らすために。
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