Iの悲劇 の商品レビュー
市の目玉政策として打ち出されたIターンプロジェクトは、人のいなくなった集落「蓑石」に再び人を呼び寄せるというものだった。このプロジェクトのために「甦り課」が組織され、三人の職員がプロジェクトの成功のために尽力するのだが、蓑石には次々にトラブルが起こり…… そんな物語は、ひとりひと...
市の目玉政策として打ち出されたIターンプロジェクトは、人のいなくなった集落「蓑石」に再び人を呼び寄せるというものだった。このプロジェクトのために「甦り課」が組織され、三人の職員がプロジェクトの成功のために尽力するのだが、蓑石には次々にトラブルが起こり…… そんな物語は、ひとりひとりのささやかな夢や希望を含めていきながらも、きわめてシニカルに収束していきます。 その収束のさせ方こそ作者の真骨頂、ではあるのですが…、主人公に肩入れしたわけでもないですが、ただ「それでは彼らがあんまりだ」とやるせなく思ったのは事実でした。 なるほどという着地点ではありますし、現代日本の事情を考えれば有り得るリアルさがある。それぞれのエピソードの読み応えも意外性もあって、話としてとても面白い。けれど、主人公のようにひとりひとりの居住者のことを思いやると、なんとも切ない、むなしいばかりだな、と感じてしまうのです。 誰が悪い、という悪を見つける爽快感や勧善懲悪の醍醐味がある物語ではなく、ただ「そうせざるをえなかった」という巨大な事情がのっぺりと横たわる話、というか。 そのために、ひとりの力では抗えない無力さがじわじわとつらくなってくる話だと感じたのでした。
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なるほど、Iターンの意味が最後にもう一つ付け加わるような気がした。最後の甦り課が瓦解していくようなあのシーンがより際立つためには、もっと三人の濃密な人間的繋がりが描かれているべきだと感じた。心の繋がりがあってこそ、裏切りのショックは大きいはず。緩やかに心が繋がっていき、緩やかに離れていく感じが、ちょっと物足りなかった。ただ、読み手を楽しませるための工夫は満載で、今はなんかその気概だけで満足してしまう。「あ、お気遣いありがとうございます」みたいな。多分、タイミングの問題ですね。バイオリズム。
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限界集落に移住を促す自治体職員が主人公の連作ミステリー小説。単なるサクセスストーリーではなく、限界集落を多く抱える自治体で実際にありそうなこと、職員が内心で考えていそうなことが、ミステリー仕立てで語られる。 この本に書かれているケースは、実際に起こっていそうな気がするのも、ある意...
限界集落に移住を促す自治体職員が主人公の連作ミステリー小説。単なるサクセスストーリーではなく、限界集落を多く抱える自治体で実際にありそうなこと、職員が内心で考えていそうなことが、ミステリー仕立てで語られる。 この本に書かれているケースは、実際に起こっていそうな気がするのも、ある意味で恐怖であり、ミステリーだ。
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軽快なミステリ。ところどころホラーっぽい香りもあるけれど、難解な文章ではないので軽やかに読めた。 無人になってしまった蓑石(みのいし)村の再復興を目指す、通称「甦り課」に配属された公務員の主人公。愛嬌はないものの至って真面目に業務にあたる。そんな彼をサポートするのは、定時退社...
軽快なミステリ。ところどころホラーっぽい香りもあるけれど、難解な文章ではないので軽やかに読めた。 無人になってしまった蓑石(みのいし)村の再復興を目指す、通称「甦り課」に配属された公務員の主人公。愛嬌はないものの至って真面目に業務にあたる。そんな彼をサポートするのは、定時退社に命を懸けているかのような上司と、学生気分の抜けない明るい部下。どこにでもいそうなキャラクターながらどこか掴みどころがなく、何か裏がありそうな二人・・・と思っていたら、ラストきたこれ。さすが米澤穂信さん。スーンと読み進めてきたけれど、最終章で全てが明らかになって、あぁそういうことねとなって、少しぞくりとした。 物語は短編集のようになっていて、移住してきた世帯ごとに章が分かれている。一つ一つの章はさほど長くないものの、その中できちんと伏線回収がなされ、物語が完結しているので、気持ちよく読むことができた。
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+++ 一度死んだ村に、人を呼び戻す。それが「甦り課」の使命だ。人当たりがよく、さばけた新人、観山遊香。出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺邦和。とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣。日々舞い込んでくる移住者たちのトラブルを、最終的に解決するのはいつも―。徐々に明らか...
+++ 一度死んだ村に、人を呼び戻す。それが「甦り課」の使命だ。人当たりがよく、さばけた新人、観山遊香。出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺邦和。とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣。日々舞い込んでくる移住者たちのトラブルを、最終的に解決するのはいつも―。徐々に明らかになる、限界集落の「現実」!そして静かに待ち受ける「衝撃」。これこそ、本当に読みたかった連作短篇集だ。 +++ 限界を超えて人がいなくなった集落に、定住者を募り、村を活性化させるという市長肝いりのプロジェクト「甦り課」に配属された万願寺の視点で描かれる物語である。予想以上の応募者があり、何とか移住者がやってきて、村の体裁が整いつつある蓑石村だったが、住民間に次々と問題が発生し、万願寺が新人の観山とともに奔走するが、その甲斐空しく、次々に転居者が出てしまう。どうする万願寺、どうする甦り課、というところだが、途中から、ふとある人物の行動の怪しさに気づいてしまう。それがどういう理由によるものかが空かされるのは最後の最後なのだが、そういうことだったのかと腑に落ちる思いと、そんな七面倒くさいことを、とあきれる思いとが相半ばする。ともかく、駆け引きのあれこれが興味深い一冊である。
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前半ののんびりした感じから 最終章のブラック展開。 でも意外性もあまり感じられず 期待はずれだった。
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地方再生のIターンプロジェクトを担った3人の公務員が一癖も二癖もある移住者とそこで発生するご近所トラブルめいた謎を解決するミステリ。 まず驚いたのは一人称の巧さで「僕」「私」をほぼ使わずに進行する万願寺の語り口の妙味に感服してしまった。語り手である万願寺は至って普通の面白みのない皆がイメージするところの公務員でありながら、凡庸ではなく、さりとて優秀すぎるということもない絶妙な塩梅であり、読者の目線に非常に近く感じるため非常に読みやすかった。余談だが、一人称における「僕」「私」の自己主張は自意識の強さや幼さとも受け取れるため、そこの部分で古典部シリーズや季節限定シリーズなどと差別化を図っている点が上手い。自分を過度に意識しない語りこそが観察力のある公務員らしさであるとも言える。 また本作の上手い点は明確な探偵役の不在であり、直感と洞察で物事を見抜く観山と、安楽椅子探偵である西野課長、そして現場百遍と足で稼ぐ刑事タイプの万願寺と、それぞれが自分の立場を生かして謎を解くというのが面白く、従来のミステリにありがちな配役に囚われすぎると逆に一本取られてしまうだろう。また、主人公の万願寺と弟との電話での会話シーンに、作者にしては珍しく公務員に対する考え方が随所に見え隠れしていながらも、それが強固な強い主張というわけではなく、あくまで公務員と地方再生という本書のテーマの範囲を逸脱しない点に非常に好感を持ってしまった。 連作短編集ではあるが、最後の謎とそのトリックはあらかた読めていたため最後のネタばらしはあまり驚かなかったが、西野課長が一枚噛んでたことまでは読めなかった。確かに揉め事を軟着陸させる天才なら、もともと無理のあったプロジェクトを移住者の住民の自主的な形で失敗に終わらせるというのは理にかなっており、その手足となって動いた観山も含め、その構図自体がミステリにおける「あやつり」の構図になっているのは舌を巻いた。そして米澤ミステリのお家芸である動機重視のホワイダニットへと収束していくのも非常に巧みである。 久しぶりの米澤穂信作品だったが、現代作家とは思えない昔語りの雰囲気の出る筆致と、うらぶれた地方都市のどんよりした空気感が最高にマッチしており、誰もいなくなってしまったというフィニッシングストロークも効いている。苦い結末と主人公の抱える青臭さ。これこそが米澤穂信作品の最大の魅力の一つだろう。
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タイトルから受けるイメージとは違って、「県庁おもてなし課」のような展開 しかし、これは米澤さんの作品、シニカルでブラックなエピソードが続きます 連作短編集で、ややつながりの悪い部分はありますが、そうだよねと思わされるお話です そしてラストは・・・
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この方の作品は初めて読みました 面白かったー! いつも前評判やあらすじを読まずに 作品を読み始めるので なかなか最初は進まなかったが 1章が終わると あとはさらさら読めました なかなか味のある登場人物に なんとも言えない事件の数々 そして考えさせられるラスト Iターンで街が蘇るのが 本当にいいことなのか、 蘇って万々歳って話じゃないところが またよかった 違う作品も読みたいなとおもいました
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山あいの小さな集落、簑石。六年前に人がいなくなってしまったこの場所でIターン支援プロジェクトが実施されることになった。「移住者」達は一癖ある者が多く、業務にあたる市役所の「甦り課」三人は振り回されることの連続で、誰も定住する者がいない。都会で暮らしていた者が田舎に住むというのはな...
山あいの小さな集落、簑石。六年前に人がいなくなってしまったこの場所でIターン支援プロジェクトが実施されることになった。「移住者」達は一癖ある者が多く、業務にあたる市役所の「甦り課」三人は振り回されることの連続で、誰も定住する者がいない。都会で暮らしていた者が田舎に住むというのはなかなかハードルが高いとは思うが、なぜここまでトラブルが続発するのか。最終章でそれがわかるのですが、何ともやりきれなく後味が少々悪く感じられる。
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