独ソ戦 の商品レビュー
独裁者と独裁者がぶつかりあう悲惨な戦争、という程度の認識しか持ち合わせていなかったが、その認識が覆った。 本書では個人に責任を帰する単純化ではなく、冷戦後明らかになった資料などをもとにファクトを積み重ねた解説がなされている。 論理的な部分が戦局の進展とともに隅へ追いやられ、思想が...
独裁者と独裁者がぶつかりあう悲惨な戦争、という程度の認識しか持ち合わせていなかったが、その認識が覆った。 本書では個人に責任を帰する単純化ではなく、冷戦後明らかになった資料などをもとにファクトを積み重ねた解説がなされている。 論理的な部分が戦局の進展とともに隅へ追いやられ、思想が先行する不合理な破局へと転落してゆく。 悲惨な戦争であるだけに、学ぶべきところは多い。
Posted by
ソ連崩壊から独ソ戦についての研究が進んでいるのに、日本では未だにその成果に基づいた本がないじゃんというところから書かれた本。なのでなんとなくしか独ソ戦を知らなかったおれには衝撃的な事情がいっぱいだった。 例えばその惨たらしさ。世界観戦争という名の絶対戦争で、何千万に及ぶ人々が死ん...
ソ連崩壊から独ソ戦についての研究が進んでいるのに、日本では未だにその成果に基づいた本がないじゃんというところから書かれた本。なのでなんとなくしか独ソ戦を知らなかったおれには衝撃的な事情がいっぱいだった。 例えばその惨たらしさ。世界観戦争という名の絶対戦争で、何千万に及ぶ人々が死んでいる。ドイツ国防軍は残虐行為に加担していないというのがウソであることも暴かれているし、ヒトラーのマイクロマネジメントがなければ勝っていたというのもウソで、ソ連軍の作戦の組み合わせで戦略を動かす手法は今の西側にも取り入れられている。スターリンが事前にドイツの意図に関する情報を得ていたにもかかわらず無視したために完全な奇襲になった。ソ連軍の政治委員を捕虜とせず殺害せよとのコミッサール指令のために徹底抗戦を生み、国防軍から撤回の要求があった。人肉食が横行するほどの包囲されたレニングラードの飢餓。スターリングラードの戦いの推移。日伊を含む同盟国の独ソ和平への勧奨。ドイツ国民が絶望的な状況でも抗戦を続けた理由に被占領国からの収奪で得た特権を手放せないしその報復を恐れた共犯者意識にあったのではないかという分析。そしてドイツ人にとっての独ソ戦に対する意識は日本人にとっての満州や日中戦争への意識と重なっているのではという指摘。 わかりやすくまとまっているし、とにかく面白い本だった。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
第二次世界大戦におけるドイツとソ連の戦いについて、専門家ではなく一般向けに分かり易く、近年の研究成果も踏まえて解説してれる一冊。単に戦闘を追うだけでなく、ドイツとソ連の当時の状況などの解説も加えられていて、日本人には馴染みの薄い当時のヨーロッパの状況についても理解できます。昨今、ロシアとウクライナの間で起きている紛争の背景だとか、クリミア半島のこととか、その辺の地理のこととか、ロシア人とフィンランドや東欧の人々の間にどのような思いがあるのかなど、非常に理解しやすくなる一冊だった。 日本では第2次世界大戦=太平洋戦争。”戦争”といえば当然、日本とアメリカとの戦いの話しになってしまう。そしてヨーロッパの戦争の話しとなると、ナチス・ドイツ、ヒトラーのユダヤ人迫害、虐殺のイメージや、イギリス・フランスとの戦いや、ドイツが追い詰められた終盤の戦いぐらい。しかし、第二次世界大戦の最も激しい戦闘は、ドイツとソ連との戦いにあったようだ。しかもその戦争は単に国家間の利益のぶつかりあいによる通常戦争ではなく、相手を殲滅させること自体が目的の絶滅戦争だった。スターリンによる内部粛清による軍隊の弱体なども影響して、最初はドイツがかなりソ連を追い詰めたが、やがて物量も戦略も上手のソ連に押し返されていく様子だとか、相手を悪魔化して殺戮していう様子だとか、敗戦後はナチスに全て責任を負わせたが、実は国民も大部分は戦争に積極的に加担していたとか、いろいろと日米戦争と重なる部分も多いのも興味深かった。
Posted by
第二次大戦の独ソ戦について考察した本。 この戦争は、それまでの戦争の常識を覆すような絶滅を目的とした戦いだった。双方の独裁者が「相手を徹底的に根絶したい」という欲求に基づき、市民への配慮や講和による解決も一切想定していない。容赦ない戦争で、計り知れない数の死傷者を出したようだ。 ...
第二次大戦の独ソ戦について考察した本。 この戦争は、それまでの戦争の常識を覆すような絶滅を目的とした戦いだった。双方の独裁者が「相手を徹底的に根絶したい」という欲求に基づき、市民への配慮や講和による解決も一切想定していない。容赦ない戦争で、計り知れない数の死傷者を出したようだ。 読んでみて、東欧やソ連の地理に疎いこと、第二次大戦の欧州戦線についての知識も不足していたので、ドイツとソ連の攻防戦の説明を読んでも、今一つ判りにくい感じがあった。 できれば太平洋戦争の史実に例えて解説したほうが判り易かったと思う。
Posted by
ヒトラーの公共事業など失業対策について以前からずっとひっかかっていたのだが、本書第3章第1節のうち「大砲もバターも」という小見出し(p.85)以降の経済政策上の議論を読んで腑に落ちたところがあった。つまり、ヒトラーの経済政策は、「平和を維持する経済成長」ではなく、その後の初期帝国...
ヒトラーの公共事業など失業対策について以前からずっとひっかかっていたのだが、本書第3章第1節のうち「大砲もバターも」という小見出し(p.85)以降の経済政策上の議論を読んで腑に落ちたところがあった。つまり、ヒトラーの経済政策は、「平和を維持する経済成長」ではなく、その後の初期帝国主義的な、国外からの収奪を安定の肝とするような sustainable でない政策になっていた、ということが示されている。 このくだりを読むことで、「ヒトラーは邪悪だが、経済政策には見るべきところもあったのではないか」というような観点をほとんど捨て去ることができた。時代遅れの、自国民への富国強兵的な甘やかし(大砲もバターも)が、WW2ドイツ末期の「特権の停止、収奪への報復」(p.212)を恐れる国民の醜悪さをその帰結として生み出したのだとしたら、他者や他国を虐げない経済政策を市民ないし国民の手で考えることは、より平和な国際秩序を目指す上で、とても大事なことになるのだろう。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
最大でソ連側2,700万人、ドイツ側800万人が死んだ大戦争に関しては、世間一般的な話を通り表面的に信じていたけど、各国機密文書の開示など、綿密な資料に基づいて書かれたこの書によって、大きく覆ったことだろう。 戦略と戦術の間にある作戦術という思想が赤軍にあったことも斬新で、考察に値する。
Posted by
第1章 偽りの握手から激突へ 第2章 敗北に向かう勝利 第3章 絶滅戦争 第4章 潮流の逆転 第5章 理性なき絶対戦争 終章 「絶滅戦争」の長い影 著者:大木毅(1961-、著述業)
Posted by
大平洋戦争におけるどこかの国と重なるところが多くて、興味深かったです。 戦後70年以上経っているのにまだその影響はたくさん残っていて、たった70年しか経っていないと認識させられました。
Posted by
独ソ戦といわれても、不勉強な自分は特にピンと来るものもなく、話題作だからということで読み始めたのですが、これはかなりの力作だと感じました。 軍事、戦術面の解説はもちろんのこと、当時の指導者のイデオロギー、独ソそれぞれの国内、国外政治や経済状況、戦後の戦史の語られ方と、様々な...
独ソ戦といわれても、不勉強な自分は特にピンと来るものもなく、話題作だからということで読み始めたのですが、これはかなりの力作だと感じました。 軍事、戦術面の解説はもちろんのこと、当時の指導者のイデオロギー、独ソそれぞれの国内、国外政治や経済状況、戦後の戦史の語られ方と、様々な観点から独ソ戦の全体像を描き出します。 戦争での上層部の失策でその割を喰らうのは、兵士と市民だと常々思っているのですが、この本でも改めてそれを感じました。 敵を過小評価し補給を考えず、進撃を続けたドイツ。優秀な指揮官を次々粛清し、重要な情報から目を背けたソ連。 結果、互いに決め手を欠き、いたずらに戦火は広がり、戦況は泥沼化。それでも撤退命令を出さないドイツに対し、反撃するソ連、そして犠牲者は増え続けて……。 この本で語られる三つの戦争観の概念は、個人的に新鮮でした。軍事的合理性にもとづき、敵の戦闘継続の意思をくじき、戦争の終結を目的とする「通常戦争」 しかし独ソ戦はその「通常戦争」が徐々に「収奪戦争」そして「絶滅戦争」の色合いが濃くなったと、著者はしています。 資源不足に悩んでいたドイツは、食料などの資源、さらには奴隷による労働力も戦争に勝利し、占領によって獲得しようします。これが「収奪戦争」 そして、国内の分断の回避、政治の安定化のため、ナショナリズムを高め、他の人種や国家を絶対的悪とするイデオロギーを、戦争に埋め込んでいきます。これが「絶滅戦争」 敵や劣等人種であれば何をしても構わない、そうした高慢さが「収奪」に拍車をかけ、また過剰なナショナリズムが戦況を見誤り、結果、戦争は泥沼化の一途を辿ったのか、と個人的には思います。 ヒトラーをはじめとしたドイツの上層部も、国民を操るためのナショナリズムに、自分たちも知らぬ間に囚われてしまったんじゃないかなあ。 アメリカの参戦で潮流が変わり、ソ連もドイツへの報復心から防戦から「絶滅戦争」的なイデオロギーを、打ち出すようになります。そして、戦後の占領地の拡大「収奪」目的で、ドイツ侵攻も積極的に行い……。そして結果ドイツは東西に分かれ、戦後の冷戦につながっていくわけですね。 著者によると独ソ戦は、歪められた視点で語られることが多かったそうです。戦後ドイツ、ソ連はともに、国威の維持などの政治利用のため、戦争被害を過少に報告したり、ヒトラーなど一部の指導者に、責任をなすりつけたりしました。 ソ連解体によって徐々に情報公開が進み、ようやく全体像が明らかになりつつあるそうです。 人種差別、ナショナリズムによるイデオロギーの危険性は、日本を含めて今も世界で燻り続けているように思います。だからこそこうした戦争の悲惨さから学ぶことは、重要だと思います。 軍事的な読み物としても、大変読み応えがあったのですが、願わくばその先にある、平和のための一冊にこの本がなってほしいな、と思います。
Posted by
人物名があまり頭に入ってこなかったけど、戦前の地図が都度都度はいってたので、軍の動きは分かりやすかった。 ヒトラーとスターリンってなんとなく同族=同じチームって感じでしたが、確かに連合国と枢軸国という敵の間柄。そして、狂人同士が戦った独ソ戦が歴史上悲惨な結果になったということは、...
人物名があまり頭に入ってこなかったけど、戦前の地図が都度都度はいってたので、軍の動きは分かりやすかった。 ヒトラーとスターリンってなんとなく同族=同じチームって感じでしたが、確かに連合国と枢軸国という敵の間柄。そして、狂人同士が戦った独ソ戦が歴史上悲惨な結果になったということは、よく分かる。 そしてその狂人同士の戦いが、戦後の秩序を作るためのスケープゴートになったというのは、この本を読むまでは知らなかった。やはり歴史は残ったものによって作られる。現代史であってもそうなのね。
Posted by