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琥珀のまたたき の商品レビュー

3.8

83件のお客様レビュー

  1. 5つ

    15

  2. 4つ

    36

  3. 3つ

    18

  4. 2つ

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2022/03/21

「読書の愉しみ」を思う存分味わえる作品。 文字を目で追っていくうちに、頭の中に想起されてくるイメージの数々。その濃密さ、細やかさ。言葉から紡ぎ出されるイメージは既視感のあるものではなく、この作家の手によって初めて掘り出されたと感じられる全く新しいもの。見たことがない世界が広がって...

「読書の愉しみ」を思う存分味わえる作品。 文字を目で追っていくうちに、頭の中に想起されてくるイメージの数々。その濃密さ、細やかさ。言葉から紡ぎ出されるイメージは既視感のあるものではなく、この作家の手によって初めて掘り出されたと感じられる全く新しいもの。見たことがない世界が広がっていく。 一方で母性の持つ残酷さや狂気を抉り出してはいるものの、そんな言葉では表現しきれない美をたたえている。 読み進めるのが怖くて、予告されている崩壊がどんな形で訪れるのか、息を呑むような気持ちで読み終えました。

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2022/03/08

ちょっと不気味で ちょっと悲しくて ちょっと切ないけれど 小川洋子先生の文体は 常に品があって とても好きなのです

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2022/03/02

世間的には虐待である。 それを、こんなに静かで柔らかくて、外から壊してはいけない優しい世界に描きあげるなんて。 強固に護られた壁の中が、琥珀にとってのすべてた。欠けたもの、足りないものは、姉弟のたちが作るお話や歌や絵で補填され、それ以上の充実をもたらす。ママの狂気が生んだ忌むべき...

世間的には虐待である。 それを、こんなに静かで柔らかくて、外から壊してはいけない優しい世界に描きあげるなんて。 強固に護られた壁の中が、琥珀にとってのすべてた。欠けたもの、足りないものは、姉弟のたちが作るお話や歌や絵で補填され、それ以上の充実をもたらす。ママの狂気が生んだ忌むべき空間のはずなのに、紛れ込んで囁きながらひっそりと暮らしたくなる。

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2022/02/23

怖いお話でした。でも風景が目に浮かぶようでした。ワンオペ育児と最近は言うそうですが、やはり育児を一人で行うのは良くないですね。父親や先生やご近所さんなど色んな人が関わっていかないと、母親ひとりの偏った考えに子供もなってしまうだろうし、母親も責任が大きくて追い詰められてしまうでしょ...

怖いお話でした。でも風景が目に浮かぶようでした。ワンオペ育児と最近は言うそうですが、やはり育児を一人で行うのは良くないですね。父親や先生やご近所さんなど色んな人が関わっていかないと、母親ひとりの偏った考えに子供もなってしまうだろうし、母親も責任が大きくて追い詰められてしまうでしょう。また緊急事態宣言が出ていた頃のことを思い出しました。今でも学校行事ができなかったり、大きな声で合唱やおしゃべりしながら給食を食べたりができなかったり、分散登校やオンライン授業なんてこともあるそうですが、お子さんたちの心に悪い影響がないかと心配してしまいます。

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2022/03/07

読み始めた場所が、たまたま 〈大きな声を出してはいけないよ〉という高円寺の読書館だった事もあり、読み進めるうちに自分も5人目の兄弟のような気持ちで、ひそひそと確実に他の兄弟と絆を深めていった感覚でした。 読み終わってしばらく経つのに、ふと 物語の中の情景や空気感が頭の中に流れ始...

読み始めた場所が、たまたま 〈大きな声を出してはいけないよ〉という高円寺の読書館だった事もあり、読み進めるうちに自分も5人目の兄弟のような気持ちで、ひそひそと確実に他の兄弟と絆を深めていった感覚でした。 読み終わってしばらく経つのに、ふと 物語の中の情景や空気感が頭の中に流れ始めて、過去の出来事がふわっと突然蘇る感覚に近く、実際に目で見た景色ではない想像に過ぎない頭の中の景色なのに、なぜ?と不思議な感覚になります。 忘れられない本になりました。 ーー以下ネタバレ含みますーー それがどういうことなのか疑問も持たずただただ、兄弟達と壁の中の暮らしを楽しみ、新しい遊びにわくわくして、思い出が増えてきた感覚になっていた時、現在を描いているであろうアンバー氏の部分、最初に出てくる〈救出〉の文字を見てから、心 がざわつきました。 この暮らしを続けていきたい気持ち(見守っていきたい気持ち)と、 壁の外では未来の私たち兄弟はどうなっていけるのか、今の状況ってどういう状況?という疑問が湧いてくるなど、 この兄弟達と近い感覚で読み進められる不思議な作品でした。 最初に、瑪瑙がいない。となった時の何かを予感させるどうしようもない不安が衝撃的で、 初めは美しく感じていた庭の様子は、読み進めるうちにどことなく不穏な空気が漂い始め、 散髪の後髪の毛を捨てに行った時の様子は 何かの終わりを感じて少し寂しく恐ろしく感じました。 救出された時の、壁の外の人から見た 子供らの様子は明らかに異常で、歪んでいるのに、 母親を悪として見れないのは、壁の中での暮らしが 3人、4人、5人にとって、大切な時間でもあったからなのかなと。複雑な気持ちです。 兄弟達の秘密を読んでいる時、 私自身の妹との秘密や、幼少期の2人にしかわからない遊びを思い出したました。 兄弟にしかわからない世界観てありますよね。 琥珀が最後図鑑を抱いて1人になる瞬間は とてつもなく寂しい気持ちになりました。

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2022/02/14

今村夏子さんの「星の子」の対談の中にこの本についての話が出てきて気になっていた1冊 最初は読み進めるのが難しくて、頭に入ってこないというかそんな感覚だった。 中盤から後半にかけて、ママと3人の子供たちとの均衡が保たれなくなってきた感じとか、徐々に崩れ始めてきたあたりから続きが気に...

今村夏子さんの「星の子」の対談の中にこの本についての話が出てきて気になっていた1冊 最初は読み進めるのが難しくて、頭に入ってこないというかそんな感覚だった。 中盤から後半にかけて、ママと3人の子供たちとの均衡が保たれなくなってきた感じとか、徐々に崩れ始めてきたあたりから続きが気になってくる。 壮大な物語を読んだような、読み終わった後に何か報われるかと言われたらそういう訳ではない、かと言って後味が悪いのかと言われると難しい。 とにかく琥珀が一途にずっと、壁の内側で生きていた時間を瞬きの中に刻んで、図鑑の中で皆んなを見つめているような、そんな気がした。誰よりもママの禁止事項を守りながら、皆んなと一緒にいる時間が誰よりも好きだったのは、このままずっと変わりなく過ごしていたいと思っていたのは琥珀だったのかな

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2022/01/16

美麗な銅版画で綴られた絵本を読んでいるような気分で読み進めた。美しく残酷な童話。 末の娘を亡くしたことで心のバランスを欠いてしまった母親(けれど、そもそもアンバランスな精神の持ち主であったことが終盤で明かされる)のファンタジー(の形を借りた狂気)の虜となった子どもたちの、それぞれ...

美麗な銅版画で綴られた絵本を読んでいるような気分で読み進めた。美しく残酷な童話。 末の娘を亡くしたことで心のバランスを欠いてしまった母親(けれど、そもそもアンバランスな精神の持ち主であったことが終盤で明かされる)のファンタジー(の形を借りた狂気)の虜となった子どもたちの、それぞれに無垢な有様が描かれるが、ディテールの美しさがやはり小川洋子さんの真骨頂。なぜ泥炭の沼(本物はめちゃくちゃ汚い)やボロ切れで作られた死体のマネキンに詩情が生まれるのか、もう、読んでいて不思議で仕方ない。語り手の目に映るものを描写しながら語り手自身を描きこんでいく筆力に、どんどん引っ張られて物語世界にはまり込んでいく。 もちろん、ディテールだけが良さでは無い。読みどころはたくさんあるが、私に刺さったのは主人公の琥珀以上に、長女オパールと母親との相剋。母親は、無意識のうちに長女オパールを自身の形代にしながら、末っ子を一番の宝物にして自分の身のうちに閉じ込めたがる。けれども、長女は母親の病巣や魔法に従順であるかに見せかけて、実はすでに手の内(嘘と自分達を去勢するための王冠や羽根やしっぽといった装置。そして自分たちが閉じ込められているのは、自分たちを守るためでなく、母親が末っ子を失った現実を拒絶するためであること)を見切っている。だから、ジョーという破瓜の使者の訪れとともに、最後はパッと母親の束縛を断ち切れる。あー、よくわかる。そして、自分もきっと繰り返すんだ。

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2022/01/09

久しぶりに小川洋子さんの長編を読んだ気がする。 壁の内側に匿われて過ごす子ども時代と、現在が入り混じって書かれていて、めちゃくちゃ不穏なのだけどママときょうだいだけで穏やかに完成された世界観がとても良かった。めちゃくちゃ不穏だったけど。

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2021/12/24

壁の内側で暮らした3きょうだいの話。 ため息が出るような美しさ、 身動ぎひとつで台無しにしてしまうほどの静けさ、 うすら寒い不気味さ、喪失後の生の残酷さ…… 彼らの全てになった閉じた世界は、 どこか狂っている。 壁の内側ではママの言いつけが法律だ。 でも、彼らは少しずつ ママ...

壁の内側で暮らした3きょうだいの話。 ため息が出るような美しさ、 身動ぎひとつで台無しにしてしまうほどの静けさ、 うすら寒い不気味さ、喪失後の生の残酷さ…… 彼らの全てになった閉じた世界は、 どこか狂っている。 壁の内側ではママの言いつけが法律だ。 でも、彼らは少しずつ ママへの内緒事を作ってしまう。 閉じた世界も少しずつ崩壊していく。 内緒ごとと崩壊の理は、 超個人的な経験を持って痛感していて、 豊富ではない恋愛経験の中のひとつが そうだったなと思い出す。 保身のための小さな嘘を守るために 内緒ごとが増えて、 そうなってからは長くは続かなかったんだっけ。 嘘をついてまで守りたかった関係だったんだと、 風化した切なさと共に思い出した。 閉じた世界が崩れ去ったあとも、生は続いていく。 残酷だ。 鉄が酸化して錆びるみたいな不可逆の変化を経て、 消えない傷を抱えてなお、 死ぬまでは生きるしかない。 琥珀が描く一瞬の芸術には 彼が失った大切な人達が登場するけど、 彼はそうすることで思い出に浸っている、 というわけではないと感じた。 そういう短絡的な発想ではなくて、 心を世界に置いてきてしまったから、 それしか描けなかったんじゃないかなあ。 主人公が3きょうだいの真ん中の男の子というのも 上手く機能している。 姉ほど利口で毅然としてなくて、 弟ほど奔放で純粋ではなくて、 基本的には観客とか同伴者という立ち位置だ。 だからこそ1番全体を俯瞰できたのだろうし、 実は彼が1番変化を恐れる頑固者だ。 彼の頑固さを感じていちばん怖かったのは、 行方知れずになったオパールを 「ママが殺して沼に埋めた」と証言したこと。 よろず屋というヨソ者が 彼女を連れ去ったというのは 受け入れがたかったのだと思う。 彼の世界はとびきり厳重に閉じられていたのだ。 客観的に見れば、閉じた世界はおかしい“悪”で、 ママは“悪者”で、3きょうだいは“被害者”だ。 でも、当事者である琥珀はそうは思っていない。 真実は、それが世界の捉え方によるものなら、 人の数だけあるものだ。 救いのない苦しい話とも言えるし、 実際そういう側面もあると思うけど、 残酷で美しい、各々の目で歪んだ世界を 淡々と語る作風が好きだし、 個人的にはそれって、 本当の世界に近いんじゃないかな、と思う。

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2021/12/12

私は、何を求めて、この本を読んだのだろうか。 ひとつ言えることは、美しくて繊細でとても静かな物語だということ。 極めて特殊な環境で育ち、その分特殊な感性をそれぞれに養っていった3人の子どもたちの過ごした時間は、外から見ればそこに虐待の影のある抑圧的な暗い色付けをついしてしまいがち...

私は、何を求めて、この本を読んだのだろうか。 ひとつ言えることは、美しくて繊細でとても静かな物語だということ。 極めて特殊な環境で育ち、その分特殊な感性をそれぞれに養っていった3人の子どもたちの過ごした時間は、外から見ればそこに虐待の影のある抑圧的な暗い色付けをついしてしまいがちだが、ところが実際は、それに反して極めて静謐かつ美しく幻想的な色合いただそれのみを有している。その世界はたしかに豊かだ。しかしただ美しく静謐に始まった物語は、美しく静謐なまま終わりを迎える。 一筋縄では決して捕えられない、あまりに特殊なセッティングだが、にもかかわらず物語のテンションは微動だにせぬほど静かなままで、そこに何か色々なものを回収できなかったような気持ちを覚えるのは、果たして私の俗な部分がざわつくからだろうか。 そこになにかの意味はおそらく求められない。 アンバー氏に会いたくなったら、あるいは琥珀の左眼の奥に広がる宇宙を感じたくなったら、おそらくこの本をまた開くのだろう。

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